2020.11.12
【連載】専門家が教える!絶対役立つダイエット基本のき 第10回 停滞期を乗り切るコツ<運動編:その2>
前回の記事、連載第9回「停滞期を乗り切るコツ<運動編:その1>」では、“停滞期”を乗り越えるためには、食習慣の見直しが大切であり、それでもうまくいかなければ運動を取り入れる必要があることをお話ししました。今回は、具体的に運動の質を高める方法について、お話しします。
【連載】専門家が教える!絶対役立つダイエット基本のき
第5回 1ヵ月で2kg減!ポイントは食事と運動の“負”のバランスにあり
運動強度と疲労度の関係
前回もお話ししたように、エネルギー消費量は“運動強度(メッツ)×時間(時)”で決まります。楽な運動は強度が低く、長い時間をかけないとエネルギー消費量は高まりません。もし長い時間をとれなければ、運動強度を高めて、短い時間でたくさんのエネルギーを消費することを考えます。ところが、運動強度を高めると、すぐに疲れてしまいます。効率よくエネルギーを消費するためには、運動強度を高めつつ、疲れ過ぎないように調整して、運動を継続する必要があるのです。
今回はまず、運動強度と疲労度の関係を説明します。下図に示したように、運動強度と疲労度の関係は直線関係ではなく曲線関係にあります。
例えば、立って家事をしている状態(2メッツ)を思い浮かべてください。座っている状態(1メッツ)と比べると、エネルギー消費量は2倍になりますが、それだけですぐに疲れることはないですよね。通学や通勤での歩行(4メッツ)はどうでしょうか?さらに2倍のエネルギーを消費しますが、疲労を感じる人はいても、疲労困憊になるような人はいないでしょう。ゆっくりとしたジョギング(8メッツ)だと、さらに2倍のエネルギーを消費します。このあたりで、「ややきつい」と感じる人、「きつい」と感じる人に分かれてくるでしょう。さらに2倍のエネルギーを消費するのは、時速18 kmでのランニングです(16メッツ)。このペースで走ることは、陸上長距離種目の経験者でないとなかなか難しく、普通の人はすぐに疲労困憊になるでしょう。
このように、運動強度が2倍になると疲労度も2倍になる、という直線関係は成り立ちません。「ややきつい」から「きつい」と感じるポイントで、急激に疲労度が高まるのです。大切なことは、この「ややきつい」から「きつい」と感じるポイントを見極めて、その前後で運動を継続することなのです。
「きつい」と感じるポイントで起こっていること
「ややきつい」から「きつい」と感じるポイントのことを、専門用語では“無酸素性代謝閾値(むさんそせいたいしゃいきち)”と言います。体を動かすにはエネルギーを必要としますが、そのエネルギーは、糖質・たんぱく質・脂質から作り出されます。このうちたんぱく質は、体を作る材料となるため、エネルギー源としては積極的に利用されません。普段、主に利用されるのは糖質と脂質になります。
糖質が生み出す発揮エネルギーは大きく、その代わり、エネルギーを作り出す過程で、疲労物質として知られる乳酸が産生されます。一方、脂質が生み出す発揮エネルギーは小さいですが、乳酸が産生されないため、長く運動を継続することができます。主に脂質を利用してエネルギーを産生する経路を有酸素性代謝と呼び、主に糖質を利用してエネルギーを産生する経路を無酸素性代謝と呼びます。運動強度が低いとき(楽だと感じるとき)は有酸素系(脂質が中心)、運動強度が高まってくると(きついと感じると)無酸素系(糖質が中心)に移行してくると理解してください。
運動の質を高めるポイント
ここで言う“運動の質”は、同じ時間でより多くのエネルギーを消費することです。いつも通勤で歩いている人にとって、通勤と同じペースのウォーキング(4メッツ)は楽な運動であり、乳酸はあまり産生されません。そこで、いつもより少し歩行速度を速めてみてください。そうすると、5メッツから7メッツくらいまで、運動強度を高めることができます。ただ、競歩のような早歩きは結構大変なので、軽いジョギング(8メッツ)のほうが楽に感じるかもしれません。オススメは、ウォーキングとジョギングの組み合せです(6メッツ)。ジョギングは10分未満と決めて、疲れたら歩く、楽になったら走る、を繰り返します。慣れてくれば、ジョギングを継続することもできるようになるでしょう。
ウォーキングやジョギング以外の運動強度については、「身体活動のメッツ(METs)表」を参照してください[1]。
「身体活動のメッツ(METs)表」はコチラ ※外部サイトに遷移します
どのような運動種目であっても、「きつい」と感じたときには乳酸が産生していることを理解してください。そして、その乳酸は、少し運動強度を下げると代謝されますので、また楽になります。「きつい」と感じたら無理をせず、運動強度を下げることによって、運動を継続できるのです。そして、楽になったらまた運動強度を上げる、これを繰り返すことによって、最も効率よく、エネルギーを消費することができるのです。
今回のまとめ
停滞期を乗り越えるためには、これまでとは違う“何か”を取り入れる必要があります。運動によるエネルギー消費量は必ずしも大きくはありませんが、運動強度を高めることによって、その効果は大きくなります。少しマニアックな話になってしまいましたが、エネルギー代謝を理解することによって、効率よく運動強度を高めながら、運動を継続的に実践することができるようになるのです。
【文献】
[1]国立健康・栄養研究所:改訂版「身体活動のメッツ(METs)表」 ※外部サイトに遷移します
(2020年10月22日閲覧)
☆痩せたい方は必見!これまでのおさらい↓
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【連載】手軽にできる運動のススメ(全7回)
【第1回】1日何歩あるきますか?たった「+10分」でも効果的!
著者:中田由夫 (筑波大学体育系 准教授 博士 体育科学)
2004年3月筑波大学大学院博士課程体育科学専攻修了。筑波大学大学院人間総合科学研究科助手、助教、筑波大学医学医療系助教、准教授を経て現職。食事と運動を中心とした行動変容が生活習慣病の予防および改善に及ぼす影響を明らかにする研究を進めている。
【主な論文】
Nakata Y et al. Web-based intervention to promote weight-loss maintenance using anactivity monitor: A randomized controlled trial. Preventive Medicine Reports 14:100839, 2019.
【主な書籍】
江口泰正, 中田由夫(編著). 産業保健スタッフ必携 職場における身体活動・運動指導の進め方. 大修館書店, 東京, 2018.
【主な所属学会】
日本運動疫学会(理事・編集委員長)、日本健康支援学会(理事長)、日本体力医学会(評議員・編集委員)、日本疫学会(代議員)など。
記事提供:リンクアンドコミュニケーション
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