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2017.07.15

寝ないと人はどうなるの?“寝ない”に潜む意外なリスク【医師コラム】


しっかり眠ることが健康維持の大事な要素であることは、今では誰もが知っていることです。しかし、寝ないと人はどうなるのでしょうか? 仕事のパフォーマンスが落ちたり、居眠り運転をしそうになったり、といったことは想像しやすいのですが、実はそれだけではありません。ここでは、意外と知られていない「寝ないこと」のリスクをご紹介します。

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「寝ない」でどのくらい過ごせる? 断眠世界最長記録

動物実験では、寝ない時間が長くなると、全ての動物が死んでしまいました。人間では命の危険があるため、そこまでの実験はできませんが、断眠の記録は残っています。

1964年に米国サンディエゴの高校生ランディー・ガードナー君が、クリスマス休暇の自由研究のために、それまでのギネスブックの断眠記録260時間に挑戦することを思い立ちました。もともと彼は、1日平均7時間弱の睡眠をとる普通の高校生でしたが、挑戦の結果、264時間12分の断眠記録を打ち立てて、ギネスブックに新記録と認定されました。

この挑戦に立ち会った睡眠の専門家ウィリアム・C・デメント博士によると、ガードナー君は3日目の夜からウトウトしかけて、ラジオを聴いたり、バスケットボールやドライブをしたりして眠気をまぎらわせました。日を追うごとに、深夜から早朝の時間帯、特に午前3時から7時の眠気が強くなり、起こしておくのに苦労したそうです。断眠中は次第に分析力や記憶力、知覚、運動能力、熱意が低下し、足し算や車の運転が難しくなりました。また、誇大妄想や被害妄想も生じています。

断眠マラソンが終了したあと、ガードナー君は14時間40分眠り続けました。そのあとも数日間は通常よりも長い睡眠時間をとっていましたが、次第にもとの生活パターンに戻って高校生活を続けました。身体的にも精神的にも、全く後遺症は残りませんでした。

これ以降も断眠記録に挑戦する人はいましたが、「寝ないこと」が明らかに人体に危険であることから、ギネスブックでは断眠記録を載せなくなりました。

寝ないと人はどうなるか:大人の場合

寝ないとどうなるか、想像しやすい1つは「昼間の眠気」です。例えば、自動車を運転中に眠気をこらえていると、いろいろ危険なことが起きます。次にあげることが起これば、早めに自動車を安全な場所に停めて、眠気を覚ますか仮眠をとりましょう。

【運転中の眠気のリスク】

-運転に集中できなくなる
-自分がぼんやりしていることに気づく
-信号や交通標識、高速道路の出口を見落とす
-最後の数キロのことが思い出せない
-頭が重くなる、下がる
-まばたきの回数が増える
-たびたびあくびをする
-まっすぐ走れず、車がフラフラする
-知らないうちに路肩を走っている
-車間距離が詰まる
-隣の車線や後方の車両に気づくのが遅れる
-イライラしたり、落ち着きがなくなったりする

気づかぬうちにうつ病リスクが高まる

睡眠障害の一つに、「睡眠不足症候群」という病気があります。この睡眠不足症候群は、慢性的に睡眠が不足しているのに、そのことに本人が気づかず、およそ3カ月以上も深刻な眠気に悩んでいる状態のことです。日本では、慢性的に日中の強い眠気を訴えて医療機関を受診する人のうち、7%がこの病気と診断されています。しかし、本当の患者さんはこの数倍いるのではないかと考えられています。

睡眠不足症候群では、睡眠不足のために脳の働きが低下して、あまり眠気を訴えないことがあります。その代わり、強い疲労感や倦怠(けんたい)感、無気力、意欲低下、落ち着きのなさ、注意力散漫、協調性の欠如、攻撃性の高まりなどに悩まされます。また、食欲不振や胃腸障害、筋肉痛を訴えることもあります。睡眠不足の状態が長く続くと、次第に不安が強くなり、うつ状態に陥ることもあります。

寿命への影響も

長い間、きちんと寝ないで生活していると、免疫が落ちて風邪やインフルエンザなどの感染症にかかりやすくなります。また、肥満や高血圧症、脂質異常症、糖尿病などの生活習慣病にもなりやすく、いったん発症すると進行が速くなります。うつ病などの精神病の発症リスクも高まります。そして最後には、寿命が短くなってしまいます。

運動能力が十分に発揮できない

寝ないでいると、自分の持つ運動能力も十分に発揮できなくなります。米国スタンフォード大学のバスケットボール・クラブの選手に、シーズン中の5~7週間、毎日10時間眠るように指示して、運動能力がどのように変化するかが調べられました。

睡眠時間は、自分で書き込む睡眠日誌と、腕時計型の活動計を使って記録しました。実験前の睡眠時間は、睡眠日誌で7.8時間、活動計では6.7時間でした。これは、日本の大学生とほぼ同じ長さです。実験が始まってからの睡眠時間は、睡眠日誌で10.4時間、活動計では8.5時間になりました。毎日2時間~2時間半ほど、長く眠るようになったということです。

睡眠延長実験の前後を比べると、運動能力と意欲は明らかに良くなりました。

【睡眠時間を長くした後の能力変化】

-282フィートダッシュ 16.2秒→15.5秒
-フリースロー成功数(10回中) 7.9回→8.8回
-3ポイントシュート成功数(15回中) 10.2回→11.6回
-練習中のやる気(10点満点) 6.9点→8.8点
-試合中のやる気(10点満点) 7.8点→8.8点

この結果は、長く眠ることで運動能力が良くなったというより、十分な睡眠をとることで蓄積された睡眠不足が少しずつ解消し、もともと持っていた能力が十分に発揮されたのだと考えられます。寝ないでいると、本来持っている運動能力を、活かすチャンスを逃がしてしまうのです。

経済的にも損をする

寝ないでいると、お金も損をします。日本大学精神科の内山真教授は、日本での睡眠障害による経済的損失を推計しています。ある企業での調査結果を日本全体に当てはめた場合、眠気が原因で作業効率が低下することからくる経済損失が3兆665億円と最も多くを占め、眠気による欠勤が731億円、遅刻が810億円、早退が75億円、交通事故が2413億円と試算されました。あわせると日本での睡眠障害による経済的損失は、年間3兆4694億にも達していると考えられました。寝ないでいると男性で年間26万円、女性で14万円も損していることになります。

寝ないと人はどうなるか:子どもの場合

思春期前の小さな子どもでは、寝ないでいても眠気を訴えないことがあります。代わりに、不機嫌や注意力散漫、食欲不振など、眠気が原因と思われる行動異常が見られます。ですから、子どもが夜遅くなっても寝ないのは、眠くないからではなく、眠気を感じることもできなくなっていると考え、親のしつけとして早く寝かせなくてはいけません。

成長や発達へも影響

夜間の睡眠不足のため、幼稚園などの昼寝のときに起こさないと目覚めない子どもほど、指差しが遅く、話せる言葉の数が少ないことが分かっています。また、就寝時刻が遅い12カ月児は、言語理解とバイバイができず、起床時刻が遅い20カ月児は、積み木2個を積むことができません。就寝時刻が遅い5歳児は、知能発達の指標である三角形をうまく描けなくなります。これらのことは、寝ない乳幼児は、精神運動の発達が遅れることを示しています。

イライラや“キレる”原因に

睡眠不足は、いわゆる「キレやすい子ども」の増加の原因でもあります。穏やかな心を保つためには、セロトニンという物質が重要です。攻撃性や衝動的な行動が目立つ人では、脳脊髄液の中のセロトニン関連物質が少ないことが知られています。

セロトニンはリズムがある運動をすると増えるのですが、夜遅くまで寝ないと、日中に時差ぼけ状態であまり運動せず、脳の中のセロトニンが減ってしまいます。そのため寝ない子どもは、攻撃性が増したりイライラ感が強まったりしてキレやすくなるのです。

学力UPや自主性にもブレーキがかかる

睡眠習慣と子どもの学力の関係を調べると、成績が上位の子どもほど、早い時刻に寝ています。小学3~6年生の主要4科目のテストで、平均95点以上をとる成績上位者の41%は午後9時より前に寝ついていて、12時以降まで寝ない子どもはいません。逆に70点未満の成績下位者では、9時前に眠る子どもはおらず、20%が12時過ぎまで寝ないで起きていました。

算数では、睡眠時間と成績の関係も明らかです。成績上位者では9時間以上眠っている子どもが多いのに対して、成績下位者の多くは7時間未満しか寝ないことが分かっています。また、国語や算数の応用問題が得意な子どもは、夜更かししないことも事実です。

早く寝ついてグッスリ眠ると、朝は自分でスッキリ目覚めます。胃腸の調子も良いので朝食をしっかりとって、排便してから登校します。日中も体調がよく、勉強に集中ができて思考力もアップします。身体も頭も活動的に過ごすので、夜になると早めに眠くなります。

逆に睡眠不足だと、朝は自分で起きることができず、自主性が育ちません。朝食を食べられないので、日中の集中力や思考力が鈍り、学業成績が上がりません。体温も十分上がらず活動量が少ないため、糖質代謝のパターンが変わってエネルギーをためやすい身体になり、太ってしまいます。家の中での遊びを好むようになり、テレビやゲーム、インターネットを夜までしていると、光の影響で眠気が減り、夜更かしする悪循環に落ち込みます。

まとめ

頭では大事とわかっていても、つい、おろそかにしがちなのが睡眠です。しかし、良い睡眠が翌日の活力を生むことを再認識しないといけません。「寝ない」自慢には良いことはありません。寝苦しい季節に向かう今、むしろいつもよりぐっすり眠れるように、快眠環境を工夫して良い眠りを目指しましょう。

photo:Getty Images

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坪田聡

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医師、医学博士。医療法人社団 明寿会 雨晴クリニック副院長。医師として睡眠障害の予防・治療に携わる一方で、睡眠改善に特化したビジネス・コーチとしても活躍中。「快適で健康な生活を送ろう」というコンセプトのもと、医学と行動計画の両面から睡眠の質を向上させるための指導や普及に尽力。総合情報サイトAll about 睡眠ガイド。 「睡眠専門医が教える! 一瞬で眠りにつく方法」(TJMOOK 宝島社)、「パワーナップ仮眠法」(フォレスト出版)他、監修・著書多数。

提供元:寝ないと人はどうなるの?“寝ない”に潜む意外なリスク【医師コラム】|Fuminners

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