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2020.01.17

交通事故死よりも多い「ヒートショック」の恐怖|「住宅リフォーム」でできることは何か?


「ヒートショック」でとくにリスクが高いのは冬の入浴時。ヒートショックを防ぐための対策とは? (写真:Ushico/PIXTA)

「ヒートショック」でとくにリスクが高いのは冬の入浴時。ヒートショックを防ぐための対策とは? (写真:Ushico/PIXTA)

本格的な冬の訪れで気をつけたいのが、「ヒートショック」だ。ヒートショックは、急激な寒暖差で血圧が乱高下することによって、さまざまな健康被害を引き起こすもの。血圧の変動は心臓に負担をかけるので、心筋梗塞や脳卒中につながりかねない。

ヒートショックでとくにリスクが高いのは、冬の入浴時だ。暖房をしていない脱衣所や浴室は室温が低く、そこで衣服を脱いで全身を露出すると、急速に体表面から体温が奪われて血管が収縮し、血圧が急激に上がる。温かい湯船につかると今度は血管が拡張して、急上昇した血圧が一気に下がり、失神を起こして浴槽で溺れて亡くなるということが多く発生する。

東京都健康長寿医療センター研究所では、「2011年の1年間で約1万7000人がヒートショックに関連した入浴中の急死と推計され、その死亡者数は交通事故による死亡者数(4611人)をはるかに上回る」と報告している。

あなたはヒートショック予備軍?

さて、リンナイが「ヒートショック危険度 簡易チェックシート」(入浴科学者・早坂信哉氏監修)を提供しているので、挑戦してほしい。

■ヒートショック危険度 簡易チェックシート

□メタボ、肥満、糖尿病、高血圧、高脂血症、心臓・肺や気管が悪いなどと言われたことがある
□自宅の浴室に暖房設備がない
□自宅の脱衣室に暖房設備がない
□1番風呂に入ることが多いほうだ
□42度以上の熱い風呂が大好きだ
□飲酒後に入浴することがある
□浴槽に入る前のかけ湯をしない、または簡単にすませる
□シャワーやかけ湯は肩や体の中心からかける
□入浴前に水やお茶など水分をとらない
□一人暮らしである、または家族に何も言わずにお風呂に入る

チェック数が5個以上あると「ヒートショック予備軍」だという。あなたは、どうだっただろうか?

では、入浴中のヒートショックを防ぐために、どのような点に注意したらよいのだろうか。全国健康保険協会では、「入浴方法の注意点」を紹介している。

(1)入浴前に脱衣場と浴室を暖かくしておく
(2)湯船につかる前に、シャワーやかけ湯で体を徐々に温める
(3)湯船の温度はぬるめ(41度以下)とし、長湯を避ける(目安は10分以内)
(4)入浴前後には、コップ1杯の水分補給を
(5)入浴前のアルコール・食後すぐの入浴は控える
(6)血圧が高いときには、入浴を控える
(7)家庭内で「見守り体制」をつくる(とくに高齢者や持病のある人)

根本的な解決策は断熱リフォーム

リンナイの「ヒートショック危険度 チェックシート」調査によると、自宅の脱衣所や浴室に暖房設備がない人は半数程度いたという。入浴方法に注意を払うことはもちろんだが、住宅の室内環境を改善することがヒートショックの基本的な予防策だろう。

ヒートショックの危険性は入浴時だけに限らない。暖房の効いていない寝室の場合、起きてすぐに布団から出ると体が冷気にさらされるため、血圧が一気に上昇してしまう。北側に設置することが多いトイレはほかの部屋に比べて室温が低いので、暖房器具のあるリビングダイニングからトイレに移動して衣類の上げ下ろしをする場合も、冷気を肌に感じてヒートショックを引き起こす可能性が高くなる。

国土交通省では、ヒートショックを防ぐための住宅環境として、次のような温度条件を挙げている。

□部屋の温度:15度以上、28度以下に保たれている
□部屋の上下温度差:冬季で3度以内
□洗面所、浴室、トイレの温度:冬季で20度以上

この住宅環境を維持するためには、住宅の断熱リフォームが最も効果的だ。ただし、住宅全体の断熱リフォームは、かなり大掛かりな工事になるので、費用も高額になる。

小規模でも一定の効果があるものから、大掛かりなものまで、どういった予防策が考えられ、それぞれの費用(工事費用等を含む)はいくら程度になるかについて、一級建築士でオールアバウトの「リフォームにかかるお金」ガイドでもある大野光政さんに話をうかがった。

大野光政 ※外部サイトに遷移します

ヒートショック予防策:お手軽パターン(1)暖房設備機器の設置

まず、入浴時のヒートショックを防ぐために、浴室と脱衣室(洗面室)に暖房設備を設置する工事が考えられる。浴室には「浴室暖房乾燥機」を、脱衣室には「脱衣所暖房機」を設置するという方法だ。

浴室暖房乾燥機は、既存の換気扇と取り換えることができることが多い。暖房だけでなく梅雨・長雨のときの衣類乾燥、夏には涼風、湿気を取り除く換気の機能があり、ヒートショック以外の効果も期待できる。

脱衣所暖房機は、壁掛けタイプで、暖房と涼風の機能がある冬と夏に活用できるものがオススメだ。狭い脱衣室で着脱を行うと、床置きの暖房器具の場合は、つまづいたり倒したりする危険性があるが、壁掛けタイプなら省スペースになる。

また、機器を選んで電気工事をして取り付けるのでお手軽だし、いずれの費用も10万円前後~(浴室暖房乾燥機は電気式の場合)が目安というので、費用もお手軽といえそうだ。

窓のリフォームをする策

ヒートショック予防策:お手軽パターン(2)窓のリフォーム

部屋の温度を一定に保つには、外の冷気を中に取り込まず、室内の暖気を外に逃がさないことがポイントになる。それには、住宅の中で最も熱の出入りが大きい「窓」の断熱リフォームが効果的だ。

窓のリフォームには、サッシごと断熱性の高いものに変える「窓の交換」とサッシはそのままでガラスを断熱性の高いものに変える「ガラスの交換」、既存の窓の内側にもう1つ断熱性の窓を設置する「内窓の設置」の3つの方法がある。

大野さんのおススメは、「内窓の設置」だ。既存の窓の状態を問わず、管理規約で窓のリフォームが禁止されているマンションであっても設置が可能で、費用も抑えられるという理由だ。とくに、サッシの断熱性が低いとサッシ部分に結露が生じるなどの問題もあるので、サッシもガラスも断熱性の高い内窓を付けるのがよいという。

既存の窓サイズに合わせた内窓を室内側から取り付ける。比較的容易に設置でき、1カ所当たり1時間程度で作業は完了(写真:大野光政氏提供)

既存の窓サイズに合わせた内窓を室内側から取り付ける。比較的容易に設置でき、1カ所当たり1時間程度で作業は完了(写真:大野光政氏提供)

住宅のすべての窓をリフォームするのが理想的だが、費用が限られるなら、リビングダイニングや寝室など、居住している時間が長い部屋の窓を優先するのがいいという。

内窓の工事は1つ当たり1時間程度で終わり、窓のそばの荷物を片付ける程度で済むので、工事自体はお手軽だ。費用は窓の大きさによって変わってくるが、リビングの掃き出し窓のような大きなもので1カ所当たり10万円前後だという。

ヒートショック予防策:住宅の断熱リフォーム

断熱リフォームの基本は、住宅全体の「壁・床・天井」の断熱性を上げることだ。窓の断熱性を上げたり、暖房設備を設置したりしても、壁や床、天井(小屋裏)から暖気が逃げてしまえば、効果は薄くなる。住宅全体をしっかり断熱材で覆うことが重要だ。

(左)断熱リフォームの様子。天井に新しい断熱材を充填している。壁の既存の断熱材には劣化が見られるので交換が必要(右)壁に断熱材を充填している途中。隙間なくしっかりと施工する必要がある(写真:大野光政氏提供)

(左)断熱リフォームの様子。天井に新しい断熱材を充填している。壁の既存の断熱材には劣化が見られるので交換が必要(右)壁に断熱材を充填している途中。隙間なくしっかりと施工する必要がある(写真:大野光政氏提供)

ただし、大掛かりな工事になるため、工期や費用もそれなりにかかる。大野さんによると、延床面積100㎡、2階建ての都市部で標準的な一戸建てを断熱リフォームした場合、水回り(浴室、洗面室、トイレなど)の交換と合わせて、工期は3週間~1カ月、費用は700万~900万円が目安(住みながらリフォームした場合)だという。

ほかのリフォームも併せて行う

そのため、断熱リフォームだけでなく、耐震リフォームやバリアフリーリフォームと同時に行うのが効率的だという。

そこまで費用はかけられないという場合、水回りや居室の一部を諦めて、リビングダイニングだけは壁・床・天井の断熱リフォームをするという選択肢も考えられる。それであれば費用はかなり抑えられ、12畳の広さなら60万~100万円程度でも一定の断熱リフォームが可能ということだ。

断熱リフォームを実際に検討する場合、まずは「今、寒さをどこで強く感じているか」を洗い出すことが大切だ。窓際が寒いのか、浴室や脱衣室が寒いのか、寝室で起床時に感じるのか、部屋を移動するたびに感じるのか。それを防ぐにはどこを断熱したらよいのかで、断熱リフォームの内容を決める必要がある。

大野さんによれば、それぞれのリフォーム事業者で得意とする工事があるので、自分の得意な工事を提案しがちだという。どこの断熱性を上げたいのかは、しっかり要望すべきだ。

また、事業者を選ぶ際にも注意点がある。断熱材を入れる工事では、きちんと施工しないと効果が出ないうえ、建物の寿命を短くする場合もあるので、断熱工事のノウハウを持った実績のある事業者を選ぶことが大切だという。

信頼できる事業者は、きちんと現地調査をして、見積もりを出す際にも工事内容を具体的に記載するので、そうした事業者を選ぶようにしたい。

減税や補助金の制度も要チェック!

さて、断熱リフォーム=省エネリフォームには、減税や補助金の優遇制度が利用できる場合がある。少しでも費用を取り戻せる可能性があるので、あらかじめ利用条件を確認して、タイミングを失して利用できなかったということのないようにしたい。

まず、窓の改修を行った省エネリフォームの場合、ローンを使った場合でも自己資金で支払った場合でも、それぞれに減税制度が設けられている。ローンを利用した場合5年間で最大62.5万円、自己資金の場合は単年で最大25万円が所得税から控除される。

また、消費税10%の優遇制度として創設された「次世代住宅ポイント」の対象にもなる。工事内容に応じて定められたポイントがあり、工事箇所ごとに加算していく仕組みで、上限は30万ポイント。

ほかに、一定の水準の省エネ性能に達するリフォームであれば、国土交通省や経済産業省などの補助金制度が利用できるのだが、2019年度分については募集が終わっている。さらに、住んでいる自治体でも独自の補助金制度を設けている。例えば東京都であれば、「既存住宅における高断熱窓導入促進事業」があり、高断熱の窓にリフォームした場合に最大50万円補助金が出る制度などもある。

こうした制度は、それぞれに条件や期限があったりするうえ、予算に達した時点で募集を終了する制度もあるので、情報を幅広く収集した人が有利になる。「住宅リフォーム推進協議会」のサイトのリフォームの減税制度や補助金制度、地方公共団体における住宅リフォーム支援検索サイトなどを活用するとよいだろう。

ヒートショックは、このように、住まいの工夫で危険度を下げることができる。命に関わることなので、効果的なヒートショック予防策をぜひ検討してほしい。

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提供元:交通事故死よりも多い「ヒートショック」の恐怖|東洋経済オンライン

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