2019.06.27
睡眠負債のメカニズムとは?|睡眠不足を解消する5つの方法
最近よく耳にする「睡眠負債」とは、睡眠不足が少しずつ積み重なっている状態のことをいいます。忙しい日々の中、1〜2時間程度の睡眠不足は仕方がないものと考え、そのままにしていると、睡眠負債はどんどんたまってしまいます。その結果、身体へ大きなダメージをもたらすのです。
今回は、睡眠負債がたまると起こるデメリットや、睡眠負債を上手に解消するテクニックを説明します。
目次
-睡眠負債とは
-睡眠負債がたまると起こるデメリット
-睡眠負債を解消する方法
-睡眠負債を増やすNG行動
睡眠負債とは
脳内で作られる「睡眠物質」には、眠気を引き起こす作用があります。睡眠物質は、起きている間に少しずつ脳内にたまっていきますが、眠ることで分解されて、量が減ると自然に目が覚めます。しかし、睡眠時間が足りないと、本来分解されるべき睡眠物質が残ったままになり、翌朝すっきりと目覚めることができません。
一時的に睡眠が足りない状態はただの睡眠不足ですが、この睡眠不足を解消しないままでいると、分解されていない睡眠物質が脳にどんどん蓄積していきます。このように、睡眠不足が積み重なっている状態を「睡眠負債」といいます。
睡眠負債のチェックリスト
日常生活において以下の症状に当てはまる項目がある人は、睡眠不足が常習化して、睡眠負債がたまっている状態かもしれません。
(1)日中に我慢できないほど眠くなる
(2)布団に入ってすぐに眠れる
(3)足を机の角などにぶつける
(4)アメや氷をかんでしまう
(5)机や部屋が散らかる
(6)夜中に甘いものが食べたくなる
(7)忘れっぽくなる
寝だめは効果なし
眠気を引き起こす睡眠物質は起きて活動をしているとたまっていくため、いくら寝だめをしても睡眠の貯金にはなりません。つまり、一般的に言われている寝だめは、睡眠の貯金ではなく、それまでの寝不足の借金(睡眠負債)を返済しているだけなのです。
睡眠負債がたまると起こるデメリット
睡眠負債がたまると、病気にかかりやすくなったり、仕事のミスにつながりやすくなったりなどの悪影響があります。自分では睡眠負債によって引き起こされていると気付きにくいものもありますので、注意してください。
免疫力が低下する
眠っている間に、細胞の修復機能を持つ成長ホルモンや、細菌などから身体を守るリンパ球などが分泌され、病気への抵抗力を高めています。睡眠負債がたまると、これらの生成が滞ることで免疫力が下がり、風邪などの感染症にかかりやすくなるだけでなく、がんや脳卒中などのリスクも高まります。
太りやすくなる
睡眠が不足すると、脳がエネルギーを補おうとして、食欲を刺激するホルモン「グレリン」の分泌を促し、抑制するホルモン「レプチン」の分泌を抑えます。睡眠負債がたまればたまるほど、グレリンの分泌が多くなるため食欲が旺盛になり、肥満になりやすくなります。
精神疾患にかかりやすくなる
睡眠中、脳は嫌な記憶を整理することで、ストレスを軽減しています。加えて、感情や記憶をつかさどる脳の「扁桃体」が正常に働きにくくなって、イライラや憂鬱を感じやすくなります。そのため睡眠負債がたまると脳がストレスを解消しきれなくなり、抑うつ症状などの精神疾患にかかりやすくなります。
また、ストレスを抱えると自律神経のバランスが崩れ、交感神経が活発になります。するとリラックスできず眠りにつきにくくなり、さらにストレスがたまるという悪循環に陥ってしまうおそれがあります。
集中力や思考力、記憶力などの脳機能が落ちる
睡眠負債が脳に与える影響は大きく、6時間睡眠を2週間続けると、脳の機能レベルは丸2日徹夜した場合と同じくらいまで低下し、これが5時間睡眠であれば、缶酎ハイを数本飲んだ酩酊状態と同等まで下がります。このような状態では、集中力や思考力、記憶力などが落ちて、日常生活や仕事でのミスやトラブルにつながりやすくなります。
認知症になるリスクが高まる
睡眠は睡眠物質を分解するだけでなく、脳にたまった様々な物質を分解したり、排出したりしています。その一つがアミロイドベータ(βアミロイド)です。アミロイドベータは蓄積すると脳の神経細胞を破壊してしまうため、アルツハイマー型認知症を発症してしまう仮説の中で最も有力とされています。実際に睡眠不足や質の悪い睡眠は認知症のリスクを高める研究結果が多数報告されています。
睡眠負債を解消する方法
睡眠不足が重なり、睡眠負債がたまってしまった場合はどうすればよいのでしょうか。ここでは、効率よく睡眠負債を解消する方法を紹介します。
睡眠時間を増やす
睡眠負債は眠ることで解消するしかありません。しかし、睡眠のリズムや夜の睡眠を考えずダラダラと長く寝てしまうと、逆効果になってしまうこともあります。そのため、正しい方法で睡眠時間を増やすことが大切です。
●午前中に二度寝をする
不足した睡眠時間を補うために二度寝をすることは、睡眠負債の解消に効果があります。しかし、朝いつもの時間に目が覚め、そのまま目を閉じて昼過ぎまで寝てしまうと、睡眠のリズムを作り出している体内時計が乱れて眠りにくくなってしまい、睡眠負債をためてしまうことにもつながります。
●昼寝をする
昼食後の午後は眠気が強くなり、集中力や記憶力が低下する時間帯です。そこで、昼食後から15時までに15〜20分ほど昼寝をすると、蓄積した睡眠負債が解消でき、疲労も軽減されます。
睡眠の質を上げる
せっかく早くベッドに入っても、なかなか寝付けなかったり、眠りが浅く何度も目が覚めてしまったりすれば、十分な睡眠時間を確保できません。質の良い睡眠をとり、熟睡をすることが効率的な睡眠負債の解消につながります。そこで、次に熟睡のために必要な睡眠ホルモンと呼ばれるメラトニンの分泌を高める方法を紹介します。
●規則正しい睡眠をとる
メラトニンは、朝起きたときから脳内で分泌され始めるセロトニンという神経伝達物質を材料にして、目覚めから14〜16時間後に生成されます。
朝決まった時間に起きてセロトニンを作り始め、メラトニンが十分に脳に蓄積されている時刻に寝るというサイクルを作ると身体のリズムを一定に保つことができます。そこで、起床時間と就寝時間をなるべくいつも同じ時刻にして、規則正しい睡眠をとるように意識しましょう。
●朝日を浴びる
朝、起きたらカーテンを開けて朝日を浴びましょう。メラトニンを多く分泌させるには、セロトニンを十分に生成することが必要です。セロトニンは、光が目の網膜に入ると信号が脳に伝わり、分泌が活性化します。蛍光灯などの明るさではセロトニンを増やすには不十分なので、太陽の光を取り込むことが大切です。
●リプトファンが含まれる食材を摂る
メラトニンの生成をスムーズにするためには、セロトニンの原料となるアミノ酸の一種トリプトファンを体内に取り入れなければなりません。
このトリプトファンは、体内では作ることができないため、必ず食材から摂る必要があります。トリプトファンが多く含まれているのは、良質のたんぱく質が豊富な肉・魚・卵・大豆製品です。トリプトファンからセロトニン、メラトニンと合成されるまでには時間がかかるため、これらの食材を朝食に摂るとよいでしょう。
<寝つきが悪い人は、就寝1時間前の入浴をおすすめします>
人間は、深部体温(身体の内部の温度)が下がるときに眠くなります。そのため、入浴により深部体温を上げて、その後自然に体温が下がっていくタイミングで眠りにつくと寝つきがよくなります。深部体温が下がるには1時間ほどかかるので、就寝の1時間前に入浴するとよいでしょう。
睡眠負債を増やすNG行動
寝る前に何気なく行っている行動が睡眠の質を下げ、睡眠負債を増やしているかもしれません。次のような行動をしていないか、毎日の生活を振り返ってみてください。
寝る前のスマートフォンやテレビ
スマートフォンやテレビ、パソコンなどの画面からは青色の光(ブルーライト)が出ています。ブルーライトは睡眠ホルモンであるメラトニンの分泌を抑えてしまうので、寝つきが悪くなったり、睡眠の質を下げたりします。できれば眠る1時間前、少なくとも30分前には画面を見ないように意識しましょう。
就寝前の食事
寝る前に食事をすると、眠りに入ったあとも胃の中に食べ物が残ったままになります。すると身体が消化のために活動を続けるので、眠りが浅くなり、睡眠の質が下がってしまいます。食べ物が消化される時間を考えると、肉や脂っこいものは控え、炭水化物を中心とした和食を就寝時間の3時間前に食べ終わっていることが理想です。
飲酒
アルコールは脳の感覚中枢を麻痺させるため、お酒を飲むと眠気を感じやすくなります。しかし、体内でアルコールが分解されるときに発生するアセトアルデヒドという物質は、睡眠を妨げて眠りを浅くする性質があります。アルコールの摂取は就寝の3時間前までにしましょう。
喫煙
タバコの中に含まれるニコチンには、脳を覚醒させる作用があるため、寝る前にタバコを吸うと寝つきが悪くなり、睡眠中に目が覚めやすくなってしまいます。ニコチンが体内で分解され、半減するまでには約2時間かかるため、せめて睡眠の2時間前を目安に喫煙を控えるとよいでしょう。
カフェイン
覚醒作用があるカフェインには、3〜5時間の持続時間があります。少なくとも寝る前の4〜5時間以内にカフェインをとることを控えましょう。なお、コーヒーだけでなく紅茶や緑茶、栄養ドリンク、チョコレートなどにもカフェインが含まれているので注意が必要です。
睡眠負債をためてしまって心身に悪影響を与えないように、日々の生活を工夫してはいかがでしょうか。
Photo: Getty Images
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坪田 聡
医師として睡眠障害の予防・治療に携わる一方で、睡眠改善に特化したビジネス・コーチとしても活躍中。「快適で健康な生活を送ろう」というコンセプトのもと、医学と行動計画の両面から睡眠の質を向上させるための指導や普及に尽力。総合情報サイトAll about 睡眠ガイド。 「睡眠専門医が教える! 一瞬で眠りにつく方法」(TJMOOK 宝島社)、「パワーナップ仮眠法」(フォレスト出版)他、監修・著書多数。