2018.07.20
熟年パパの「健康リテラシー」が超重要なワケ|健康診断の数値を「見るだけ」では意味なし
熟年パパが健康リスクを避けるために必要な考え方とは?(写真:プラナ/PIXTA)
まだ幼い子を抱えている熟年パパ世代は、「子どもが成人するまで、しっかり働いて稼がねば」と考えているもの。働き盛りの40代は毎日忙しく、毎年の健康診断で良くない数字が出ても、「今は仕事が大事だし、まだ大丈夫だろう」と放置するケースも少なくはないでしょう。
しかし、生活習慣病をはじめとする、数々の病気の兆しが見えてくるのは、この世代からなのです。厚生労働省が2015年に発表した「国民健康・栄養調査」の結果によれば、『「糖尿病が強く疑われる者」の割合』は、20〜30代までは全体の1.8%と低い数字ですが、40代では7.3%に急増し、50代で一気に18.8%へと増加。60代以降では20%超となり、実に5人に1人が、糖尿病を疑われています。
40代は体調に変化が訪れる境目の時期。しかし、ここでしっかりケアをしておけば、病気の予防や早期発見につなげることができるのです。今回は、生活習慣病の研究を続けている東京大学高齢社会総合研究機構の飯島勝矢教授に「熟年パパが健康リスクを避けるために必要な考え方」についてお伺いしました。
薬ではなく、“健康リテラシー”が生活習慣病のカギ
『東大が調べてわかった 衰えない人の生活習慣』の著者であり、新概念「フレイル」を軸とした予防施策の提唱者でもある飯島勝矢教授。東大の老年病科外来に加え、一般クリニックの外来受診も手がけ、30代から40代の患者も数多く受診してきた飯島教授は、「生活習慣病になる人には、一つの傾向がある」と話します。
『東大が調べてわかった 衰えない人の生活習慣』 ※外部サイトに遷移します
「30代、40代でも健康診断の結果を気にして病院を訪れる人はそれなりにいます。医師によっては、早期から血圧やコレステロールの数値を改善する薬を処方し、様子を見るケースもありますが、よくあるのは、『薬で数値が下がった』と安心し、自らの生活は何も改善しないパターンです。数値が下がったのは、あくまで薬で抑えているから。飲むことをやめれば当然元に戻りますし、飲み続けても、以前と同じ不摂生な生活を続ければやがて抑えきれなくなり、さらに薬を増やすことになってしまいます。問題は本人のマインドにあり、改善のためにセルフリミッターをかけられるかどうかが重要なのです」(飯島教授)
加えて言えば、薬をゼロから1にしたときには劇的に数値が下がりますが、1を2倍に増やしたからといって、効果が2倍になるわけではなく、1.2~1.4倍程度の効果しか期待できないそうです。「薬があるから」と、自分の生活習慣を見直さずに脂っこい食事や運動ゼロ、お酒をたくさん飲むなどの生活を続ければ、どんどん薬が効かない体になっていくのです。
「また、一時的に生活を改善しても、それを続けることができなければ意味がありません。40代前半は、人生のまだ半分しか生きていないと言えますが、この先、年齢の階段を上っていくにつれ、体は衰えます。自分の努力で数値が下がっても、『やることをやって頑張ったからOK』で終わらせず、『来年も再来年も、継続性を持ってその習慣を続けていけるかどうか』が大事です。たとえば、食べすぎたり、飲みすぎたりした翌日は、食事やお酒をセーブする、1駅手前で降りて歩くなどのセルフリミッターをかける。それが“健康リテラシー”であり、生活習慣病をはじめとする病気の予防において最も大切なことなのです」(飯島教授)
リテラシーとは、「ある特定分野の事象や情報を正しく理解・分析・整理し、それを自分の言葉で表現したり、判断したりする能力」とされ、近年では、ITリテラシーという言葉が定着しました。しかし、ITだけでなく、実は健康においてもリテラシーは最重要。そして、この健康リテラシーが、「若くしてがんなどで死亡するリスクも左右する」と飯島教授は語ります。
3人に1人ががんで死亡する日本
厚生労働省によれば、日本人の2人に1人が生涯でがんになり、3人に1人ががんで亡くなるとのこと(国立がん研究センターがん対策情報センターによる推計値(2007年)、2010年人口動態統計(確定数)の概況より)。今、ここに3人がいたとして、そのうちの誰ががんになり、がんで亡くなるのかは、ロシアンルーレットのようなものとも言えるかもしれません。しかし、飯島教授は、「発症を制御するがん抑制遺伝子に火がつくかどうかも関係するため、そこには運・不運はあるけれど、本人の努力も関係するもの」と話します。
「予防だけでなく、早期発見という面でも、がんで亡くなるリスクを左右するのが健康リテラシーです。毎年の健康診断をきちんと受けることはもちろんですが、その結果に対して、本人がどう動くかが重要。まず、数値が悪い臓器の検診を自ら受けに行くのかどうか。そして、微妙な数値が出たとき、医師に『半年後にまた検査しましょう』と言われても、そのまま放置するのかどうか。
さらに言えば、時が過ぎてから体調に不安を感じてようやく病院に行き、そこでがんが発見されても、全摘出などの手術を即座に決断できない人もいますし、民間療法に頼る人もいます。しかし、20代から40代のがんは、進行が非常に速いので、その時々の行動や決断が生死を分ける可能性が非常に高いのです」(飯島教授)
東京大学高齢社会総合研究機構の飯島勝矢教授。「一億総活躍国民会議」の有識者民間議員も務める。著書に、『東大が調べてわかった 衰えない人の生活習慣』(KADOKAWA)など(筆者撮影)
日本のがん検診受診率は、男性においては胃がん、肺がん、大腸がんは4割程度。女性においては、乳がん、子宮頸がん検診を含めた5つのがん検診の受診率は3〜4割台で、世界的に見ても最低レベルという調査結果も出ています(2013年「国民生活基礎調査」より)。
「特に前立腺がんや乳がんなどについては、『このフェーズでこの手術や治療を行えば5年生存率が90%以上になる』というエビデンスがあります。早期発見し、西洋医学のエビデンスに則った治療でレールに乗れば、確実に命は助かりますし、大腸がんや胃がんなども同様に死亡リスクを大きく下げることができるのです。私たち医師からすれば、『確実に生きられるレール』が目の前にあるときに、なぜ見送ってしまうのだろうと不思議に思う場面も時折あります」(飯島教授)
健康情報を自分に照らし合わせる
とはいえ、「早期発見が大事なのはわかるけれど、仕事が忙しくて」「検査の結果を見るのが怖い」といった人も少なくはないでしょう。飯島教授によれば、「市民の健康リテラシーは、一般的に4つの層に分けられる」そうです。
「まず、トップの層(第1層)にうっすらといるのが、健康リテラシーが高い集団、その中には『健康オタク』も入っているのでしょう。健康にかかわる情報を調べすぎたり、血圧が高いからと1日に何度も測ったりしてしまう。過敏に反応することがストレス状態を招くこともあるので、ほどほどにすべきだと思います。次の第2層は、『わかってはいるけど、できない』という集団で、全体の4割程度を占めています。情報収集もある程度していますが、行動につなげられません。さらに、第3層として『健康へのアンテナ感度が低い』集団が続き、最下層の第4層になると『自分の健康そのものに無関心』という集団がいますね」(飯島教授)
やはり多くの熟年パパは、「わかってはいるけど、できない」層にあたるのではないでしょうか。40代半ばの私自身、このお話を伺っている最中も耳が痛く、「わかる、わかります。でも、できなくて」と反省しきりでした。では、そんな私や熟年パパが健康リテラシーを高めるためには、どうすればいいのでしょうか。
「ポイントは、まず自分の健康に興味を持つことです。そして、健康にかかわる情報を意識的に収集し、それを今の自分自身に照らし合わせて考えることですね。たとえば、会社や自治体が行う毎年の健康診断は、浅く広い内容になっているので、一つひとつの臓器については、個別の深掘りされた検診を受けなければ異常も見えにくいものです。
それぞれの数値をしっかり見つめ、変化や異常があったとき、今後の自分のために、生活習慣をセルフコントロールしようと思えるか、さらに、人間ドックなどのメンテナンスにおカネをかけようと思えるかが重要です。自分の健康にかかわる情報に触れたとき、そこでどう感じ、どう自分ごととしてとらえ、そこからどう動くのかが、今後を大きく左右するという意識を持ちましょう」(飯島教授)
また、病気のおそれがある臓器の検診については、毎年、定期的に受け続けることも大事だそう。
「医療の情報はつながっていることが大事で、経年的、定期的な数値観察によって、初めて読み解ける症状もあります。会社の健康診断をベースにしつつ、気になる数値や臓器があれば、身銭を切って同じ病院で継続的に検診を受け、時系列で数値を見てもらえるようにしましょう。自分の体や健康には、自分自身が責任を負うもの。節目節目で自分の体のデータを見つめていくことが大事であり、毎年続けていくことで、糖尿病のリスクは下がり、がんの早期発見にもつなげることもできます」(飯島教授)
毎年の健康診断の数値を見るだけで終わりにせず、どれだけ自分ごととしてとらえられるのか。改善のために向き合えるのかは、まさにその人の健康リテラシー次第なのです。
「あやしいレベル」だからこそ、健康を取り戻せる
自分の健康管理については、仕事のように外から期限を提示されることがないため、ついつい後回しにしがち。けれど、「子どもが20歳になったときにも、健康でいたい」と思うのなら、まず、自分自身の意識を変えることが大事なのです。
「病気には、必ず因果関係があるもの。医療においては、発症したときにどれだけ切れ味のいい治療ができるかどうかが重要であり、その手前で個々が健康リテラシーを高く持つことがリスクを低減します。熟年パパ世代の40代は、まだがんなどの発症リスクは低く、糖尿病も予備軍であることが多い。悪い数値が出ても『あやしいレベル』であり、だからこそ取り戻せるのです。
生活習慣の中で継続性のある努力を続け、検診結果で足跡を残し、落ちる手前でしっかりフォローアップしていけば、必ずその成果は実ります。また、結果が出ない場合には、改善方法が間違っているので、それを基に効果のある改善策につなげることもできます。いちばん怖いのは、結果から目を塞ぐことなのです」(飯島教授)
また、高齢化がどんどん進む今、国の社会保障の構造がどんどん変化していることにも目を塞がないことが大事です。飯島教授が研究を進めている老年医学を中心とした日本老年学会では、高齢者の定義も75歳に引き上げてもいいのではないかとの提言を出されたそうです。
「2018年には、政府が社会保障費用の債務が2040年度に190兆円になるとの推計を公表しました。一方、65〜74歳の前期高齢者は元気であり、10年前よりも身体的に若いということが判明しており、国の財政がますます逼迫する今後、彼らはサポートされる側ではなく、サポートする側に回ることになるでしょう。
これまで65歳以降の生活を守ってくれた国は、今後、その対象を70歳以上に引き上げる可能性が高く、熟年パパ世代が高齢者となる頃には、『生涯現役』を提唱する可能性もあります。そうなった場合にも、健康があってこそ、就労できます。高齢者となる一歩手前で腰を上げても遅い。熟年パパたちが健康であり続ける手を打つのなら、今しかないのです」(飯島教授)
子どものためにも、将来の自分のためにも、今、どれだけやれるかが勝負。熟年パパ世代の今後を左右するのは「健康リテラシー」であり、今、この瞬間からの行動にその明暗がかかっていると言えそうです。
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提供元:熟年パパの「健康リテラシー」が超重要なワケ|東洋経済オンライン