メニュー閉じる

リンククロス シル

リンククロス シルロゴ

2021.10.07

心筋梗塞の原因にも!?日本人が気を付けたい脂(あぶら)とは?


記事画像

2006年から米国で加工食品のトランス脂肪酸含有量の表示が義務化された際に、日本でも話題になった ”トランス脂肪酸問題”。メディアでも度々取り上げられ、マーガリンやショートニングに対するイメージが大きく変化したのは、まだ記憶に新しいところではないでしょうか。しかし、当時から15年ほど経った今、実はトランス脂肪酸の現状が変わってきています。

そもそも “トランス脂肪酸”って?

“トランス脂肪酸”は、植物油などからマーガリンやショートニングなどを製造する際や植物油を高温にして脱臭する工程で生じる脂肪酸の一種です。天然にも存在し、牛などの反すう動物に由来する乳製品や肉に含まれています[1]。

なぜ、悪者にされているの?

記事画像

これまでの研究により、 “トランス脂肪酸”を多くとり続けると、心筋梗塞などの心血管系疾患のリスクが高まることが明らかにされています。そのため、世界保健機関(WHO)は、心血管系疾患リスクを低減し、健康を増進するための勧告(目標)基準として “トランス脂肪酸”の摂取を総エネルギー摂取量の1%未満に抑えるよう提示しました。総エネルギーの1%のトランス脂肪酸の量は、年齢、性別などにより異なりますが、1日当たり約2グラムに相当します[2, 3]。

諸外国では、“トランス脂肪酸”に関して規制をかけている国もありますが、日本では特に制限されていません。その理由はご存知でしょうか?

“トランス脂肪酸”、日本人は必要以上に気にしすぎている!?

皆さんは、普段の食生活のなかで “トランス脂肪酸”を意識していますか?一時期、日本でも欧米に倣い、制限をするべきだという論争が生じていましたが、特に国をあげた対策をしていない理由は、平成24年3月に食品安全委員会が取りまとめた食品健康影響評価の結果、日本人の通常の食生活では健康への影響は小さいと考えられているからです。

この調査で、日本人のトランス脂肪酸の摂取量は、平均値で総エネルギー摂取量の0.3%とWHOの基準を大きく下回っていることが明らかにされました。トランス脂肪酸の摂取が特に多い上位5%の人についても、0.70%(男性)、0.75%(女性)とWHOの勧告(目標)基準を下回っています。トランス脂肪酸だけを必要以上に心配せず、脂質全体の摂取量に十分配慮し、バランスの良い食事を心がけることが大切です[1]。

日本の食品市場での “トランス脂肪酸”の現状

消費者イメージが悪化したことから、メーカー側が必死で開発を進めた結果、トランス脂肪酸フリー(含有量ゼロ)のマーガリンやショートニングが普及し、ここ15年の間で多くの加工食品ではトランス脂肪酸の含有量が大きく低減している傾向があります[4]。

もっと意識を向けるべき “◯◯脂肪酸”がある!

記事画像

しかしながら、これで一件落着というわけにはいかないのが困ったところなのです。食品中の“トランス脂肪酸”を低減すると、“飽和脂肪酸”の含有量が増加する傾向があることが明らかにされています。”飽和脂肪酸”は、生活習慣病に深く関連することが知られている栄養素で、脂質異常症の一つである高LDLコレステロール血症の主なリスク要因の一つであり、心筋梗塞を始めとする循環器疾患の危険因子でもあります。

日本人において、近年の食生活の変化による “飽和脂肪酸”の摂取過剰が問題視されています。 今や私たちの健康を脅かす脅威となっているのは、 “トランス脂肪酸”よりも “飽和脂肪酸”であると言えるでしょう[5]。

“飽和脂肪酸”のとりすぎに気をつけるには?

多く含んでいる食品は、バターや生クリームといった高脂肪の乳製品や、牛脂やラード、脂身の多い牛肉や豚肉、やし油(ココナッツオイル)(※)、パーム核油(※)、パーム油、マーガリン、ショートニングなどです。肉食寄りの食生活をされている方は、魚料理を取り入れたり、野菜、果物、芋類、穀物、豆類、きのこ類、海藻類、種実類のような植物性の食品を積極的に選ぶようにしましょう [4]。

(※)やし油(ココナッツオイル)、パーム核油は、中鎖脂肪酸(MCT)が多く含まれているため、他の飽和脂肪酸が豊富な食品とは、健康への影響が異なる可能性があると議論されていますが、最新の研究報告(メタアナリシス、系統的レビュー)を参照してもまだ結論が出ていません。どちらにせよ、脂質の高い食品であるには違いありませんので、過剰摂取は控えましょう[6,7]。

世の中の情報にふりまわされないよう、冷静に捉えましょう。

今回の “トランス脂肪酸”のように、「◯◯が体に悪い」という情報は人々の恐怖心を煽るため拡散されやすく、記憶に強く残る傾向があるように感じます。中には、根拠が不明なものも少なくありません。「本当にその情報は自分にとって気にすべきことなのか?」と一度冷静になり、厚生労働省や消費者庁など中立的な組織が発信している情報を確認することが大切です。また、栄養学の分野は日進月歩。変化も大きく、日々新たなことが明らかにされていくので、知識を常にアップデートしていきましょう。

【参考文献】(すべて2021年9月17日閲覧)

[1] 厚生労働省「トランス脂肪酸に関するQ&A」 ※外部サイトに遷移します

[2] WHO「REPLACE Trans Fat-Free by 2023」 ※外部サイトに遷移します

[3] D Mozaffarian, et al. Health effects of trans-fatty acids: experimental and observational evidence. Eur J Clin Nutr. 2009 May;63 Suppl 2:S5-21 ※外部サイトに遷移します

[4] 文部科学省「日本食品標準成分表2020年版(八訂)」 ※外部サイトに遷移します

[5] 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」 ※外部サイトに遷移します

[6] Neelakantan N, et al.The Effect of Coconut Oil Consumption on Cardiovascular Risk Factors: A Systematic Review and Meta-Analysis of Clinical Trials.Circulation. 2020 Mar 10;141(10):803-814. ※外部サイトに遷移します

[7] Teng M, et al. Impact of coconut oil consumption on cardiovascular health: a systematic review and meta-analysis.Nutr Rev. 2020 Mar 1;78(3):249-259. ※外部サイトに遷移します

【プロフィール】管理栄養士 藤橋ひとみ

記事画像

I’s Food & Health LABO. (アイズフードヘルスラボ)代表
毎日の食事で心身のトラブルを予防・改善できる社会の実現を目指し、フリーランスの管理栄養士として活動中。 東京大学大学院、医学博士課程在籍。EBN(科学的根拠に基づく栄養学)の考え方を大切に、コラム執筆・監修、メディア出演等、健康情報を伝える活動や、食と健康の専門家のスキルアップ支援を行う。大の大豆・発酵好きで、国内外にてその魅力を発信している。著書「おいしく食べてキレイになる!おから美腸レシピ」

記事提供:リンクアンドコミュニケーション

リンクアンドコミュニケーションは、最新の健康情報の発信や健康課題を解決するサービスを提供します。最新の健康情報を医療・健康分野の専門家が評価し、コメント付きで紹介するサービス「HEALTH NUDGE」もチェックしてみてください。

【あわせて読みたい】

それ、NGな使い方かも?! 油(オイル)の使い分け、ちゃんとできている?

“塩分”にだけ注意している方必見!高血圧を招くNG習慣

アンケート企画:あなたの悩みに専門家が答えます(5)動脈硬化を予防する食事って?

おすすめコンテンツ

関連記事

【新連載】国がすすめる健康づくり対策とは?~健康日本21(第三次)を優しく解説

【新連載】国がすすめる健康づくり対策とは?~健康日本21(第三次)を優しく解説

視力と聴力が低下、軽視される「帯状疱疹」の恐怖|新年度の疲れに要注意、子どもも無縁ではない

視力と聴力が低下、軽視される「帯状疱疹」の恐怖|新年度の疲れに要注意、子どもも無縁ではない

「歳をとれば脳の働きは弱まる」と思う人の大誤解|新しい情報を入れれば一生に渡り変化し続ける

「歳をとれば脳の働きは弱まる」と思う人の大誤解|新しい情報を入れれば一生に渡り変化し続ける

カロリー削れば太らないと頑張る人を裏切る真実|エネルギーが過剰だから体脂肪が蓄積するのではない

カロリー削れば太らないと頑張る人を裏切る真実|エネルギーが過剰だから体脂肪が蓄積するのではない

戻る