2021.06.09
アンケート企画:あなたの悩みに専門家が答えます(5)動脈硬化を予防する食事って?
私たちは、インターネットなどの多種多様なメディアからさまざまな健康情報を入手することができますが、それって確かな情報でしょうか?専門家に聞いてみたいお悩み、ありませんか?
本企画では、リンククロスシル編集部が、アンケートで募集した健康に関するお悩みについて、専門家に聞いてみました。
第5回目は、70歳代男性より動脈硬化を予防する食事について、管理栄養士・藤橋ひとみさんに回答していただきました。
Q. 脂質異常症で、動脈硬化を予防したいのですが、何をどう食べれば良いでしょうか?
脂質異常症は、動脈硬化、特に心筋梗塞や脳梗塞の原因となるため、予防のためには食習慣だけでなく、運動習慣、喫煙習慣など日頃の生活習慣全体を見直すことが重要になります。ご質問は「何をどう食べれば良いか」ということですが、特定の食品を挙げて
「これをこのように食べれば動脈硬化の予防に良い」とは言い難く、食事全体の量と栄養バランスに目を向ける必要があります。
食習慣の面で、はじめに気をつけたいのは、食べ過ぎ(エネルギーの過剰摂取)による体重増加、肥満です。「動脈硬化性疾患予防ガイドライン 2017 年版」では、肥満体型の人に対して「総エネルギー摂取量を制限して適正な体重を維持することは、血清脂質の改善に有効である」としています。
ただし、総エネルギー摂取量を減らすことだけで動脈硬化の発症を抑制するという直接的なエビデンスはありませんが、減量を含めた生活習慣の改善は、血清脂質を含む危険因子に有効であり、動脈硬化の発症を抑えられる可能性があると考えられています。
まずは、食事や間食の質や量に目を向けて、エネルギーの過剰摂取に気をつけましょう。
また、高血圧も動脈硬化の発症リスクを高める原因の一つです。濃い味付けが好みの方は、食塩(ナトリウム)をとりすぎていないか、改めて日頃の食生活を見直し、料理の味付けは薄味にする、麺類を食べる際には汁(スープ)を残すなど、減塩を心がけることも大切です。
脂質異常症には、主に高 LDLコレステロール血症、低 HDLコレステロール血症、高トリグリセライド血症の3つのタイプがあり、タイプによって意識を向けたいことが異なるため、ここからはタイプ別に回答していきます。
高 LDL コレステロール血症(高コレステロール血症)
高 LDL コレステロール血症(高コレステロール血症)とは、血液中のLDLコレステロール(いわゆる悪玉コレステロール)が基準値より高い(140mg/dL以上)状態のことをいいます。LDLコレステロールは、肝臓で作られたコレステロールを全身に運ぶ役割をもっています。
高 LDL コレステロール血症に関連する栄養素は数多く知られていますが、動脈硬化の予防のために特に注意したいのは、飽和脂肪酸やコレステロールの摂りすぎです。飽和脂肪酸とは、常温で固体の脂で、主にお肉の脂肪(牛脂、ラードなど)や乳脂(バターなど)のような動物性の食品に含まれています。コレステロールは、脂質異常症の重症化予防の観点からは、200 mg/日未満に留めることが望ましく、鶏卵や魚卵などコレステロールを多く含む食品はほどほどにしましょう。
逆に、予防に良い働きをしてくれる栄養素もあり、その代表的なものが多価不飽和脂肪酸です。多価不飽和脂肪酸は植物性の油や魚介類に含まれていますが、特に魚類由来のn-3系脂肪酸(オメガ3)の摂取は、冠動脈疾患の予防に好ましい影響があることが多数報告されています。
高トリグリセライド血症
高トリグリセライド血症とは、血中のトリグリセライド(中性脂肪)が基準値より高い(150mg/dL以上)状態のことをいいます。中性脂肪は私たちの体にとって大切なエネルギー源ですが、エネルギーとして使われなった分は脂肪として蓄えられ肥満を招きます。
糖質の摂りすぎは、血中のトリグリセライドの上昇をもたらすことが報告されています。炭水化物の一部を脂質に置き換えると、血中のトリグリセライドが減少することが明らかになっているため、ご飯やパン、麺類など主食類や甘いお菓子やジュースなどのとり過ぎに気をつけましょう。また、脂質の中でもn-3系脂肪酸の摂取量を増やすことは、トリグリセライドの低下に有効で、冠動脈疾患発症の予防にも繋がることが明らかになっています。
また、アルコールは適量であれば、動脈硬化の予防に効果的だとされていますが、過剰摂取は血圧を高め、高トリグリセライド血症の原因となるため、お酒の飲み過ぎにはくれぐれも気をつけ、上手に付き合いましょう。
低 HDL コレステロール血症
低 HDL コレステロール血症とは、血中の低 HDL コレステロール(いわゆる善玉コレステロール)が基準値より低い(40mg/dL未満)状態のことをいいます。HDL コレステロールは血中で余分になったコレステロールを回収し、肝臓に戻す役割をもっています。
低HDLコレステロール血症と栄養素摂取との関連は、まだ明らかになっていない部分が多く残っていますが、これまでの複数の研究で、工業的に生成されたトランス脂肪酸の摂取は他の脂肪酸と比較して、HDL コレステロールを低下させること、さらにはLDLコレステロールも上昇させることが報告されています。
日本人のトランス脂肪酸摂取量は、他国と比較しても低く、摂取量の平均値(1日1人あたり0.92〜0.96g、総エネルギー摂取量の0.44〜0.47%)は世界保健機関(WHO)が目標として掲げている「総エネルギー摂取量の 1%未満」を下回っており、通常の食生活では健康への影響は小さいと考えられています。
工業的に生成されたトランス脂肪酸は、マーガリン類およびショートニングなどに含まれており、できるだけそれらの摂取を避けるように心がけた方が冠動脈疾患の予防に有効であることが明らかにされていますが、近年の企業努力により、マーガリン類やショートニングのトランス脂肪酸の含有量は大幅に低減されている傾向があります。しかしながら、脂質の多い菓子類や食品の食べ過ぎなど偏った食事をしている場合は、平均値を上回る摂取量となる可能性があるので注意が必要です。
【参考文献】(すべて2021年5月18日閲覧)
[1] 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)|脂質異常症」 ※外部サイトに遷移します
[2] 日本動脈硬化学会「動脈硬化性疾患予防ガイドライン 2017年版」
[3] 文部科学省「日本食品標準成分表2020年版(八訂)」 ※外部サイトに遷移します
【回答者プロフィール】管理栄養士 藤橋ひとみ
I’s Food & Health LABO. (アイズフードヘルスラボ)代表
毎日の食事で心身のトラブルを予防・改善できる社会の実現を目指し、フリーランスの管理栄養士として活動中。 東京大学大学院、医学博士課程在籍。EBN(科学的根拠に基づく栄養学)の考え方を大切に、コラム執筆・監修、メディア出演等、健康情報を伝える活動や、食と健康の専門家のスキルアップ支援を行う。大の大豆・発酵好きで、国内外にてその魅力を発信している。著書「おいしく食べてキレイになる!おから美腸レシピ」
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