2019.04.18
「風通し」がいい会社と悪い会社の根本的な差│「うちは風通しがいい」という会社ほど程遠い
「ウチは風通しがいい」と豪語する上司は会社にいないでしょうか。風通しのよい会社とよくない会社の違いはどこにあるのでしょうか?(写真:Fast&Slow/PIXTA)
「風通しのいい職場です」「活発な議論が私たちの活力です」――就活生向けのパンフレットにありそうな言葉です。
「誰もが自由にものが言える職場ですか?」と経営者や管理職に聞けば、おそらく大多数が「もちろんそうです」と答えることでしょう。しかし、では彼らの下位にいる人たちにこっそり「実際のところ、どうなの?」と聞けば、「いや、まあ……」と言葉を濁すのではないでしょうか。自称「風通しのいい職場」になってしまっているのです。
組織が「場当たり的」になっていないか
誰もが「風通しのいい職場」がいいとわかっている。それなのに、実現できていないとすれば、どこに問題があるのでしょう。3月に上梓した拙著『「場当たり的」が会社を潰す』では、組織が「場当たり的」になっているかどうかを判別するための10の質問をチェック項目として挙げました。その中で「風通し」ととくに関係が深いのは、次の4項目です。
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(1)お互い言いたいことが言い合えるようになっていますか。
(2)言いたいことを言うに当たり、相手を論破するのではなく、ちゃんと議論できていますか。
(3)そのうえで、共感を生んだり、納得させたりしてちゃんと相手を動かしていますか。
(4)組織に所属する人たちがお互いのことを本当の意味でよく知っていますか。
(1)はまさに「風通しのよさ」を問うた質問ですが、(2)~(4)はその前提条件ともいうべき質問です。4つともイエスならば、自称ではなく「風通しのいい職場」でしょう。しかし、これがなかなか難しいわけです。
大前提として、(1)にイエスと皆が言えるには、「言いたいことを言っても、相手が許容してくれる。もし、否定されたとしても、それはその意見に対しての否定であって、人格を否定するわけではない」という認識が共有されていなくてはなりません。
実際の職場や人間関係では意見の否定イコール人格の否定になりがちで、そうならないためにはお互いが信頼し合う必要があります。その信頼関係が構築されてこそ、思い切った発言もできるというものです。
続く(2)(3)(4)はいずれもその信頼関係を築くうえで大切な条件です。(2)と(3)は、しっかりした対話をする習慣が根付いているかどうかを問うています。
上司のみが「うちは自由に発言できる」と思い込んでいるような職場は、往々にして会議でこそいろいろな意見が出ても、最終的には上司などが言いたいことを言い、押し切ってしまうものです。上司に限らず、我の強い人や言葉巧みな人が相手を論破して幅を利かせているような組織もあるかと思います。
でも、いい組織というのは、力のある人が、いつも声なき声を聞く努力をしている組織なのです。偉い人だけが「うちは自由だ」では、独裁国家と大差ありません。
なぜ話が通じないのか
少し話がそれますが、会議など議論の場で、言いたいことが伝わらない場合、上の人にのみ問題があるとは限りません。話す側に問題があることも珍しくないのです。そういう人のチェックすべき点についてもご説明しておきましょう。ポイントは2つあります。
1つは、話していることの「課題感」が皆とズレていないかです。
会議などでの議論では、文脈というものが存在しています。Aというテーマについて議論する会議であっても、(a)、(b)、(c)……と議題が次々変わっていくのは普通のことでしょう。(c)について皆が話しているときに、(a)について話せば、話が伝わらない可能性は当然高くなります。
実はこういう人は少なからず存在しています。本人の頭の中ではずっと(a)のことが引っかかっていたので、それを持ち出したのかもしれません。しかしほかの人たちにとっては唐突で、何が言いたいのかわからない、ということになります。
もしも自分が文脈をきちんと読めているかどうか不安なまま発言するときは、「このことについて話しますが、いいでしょうか」と断り、ほかの人と課題についての認識を共有するように心がけてください。
もう1つは、話の中身が論理的に構築されていないかです。こちらは論理的か否かというのは説明を要さないでしょう。論理的ではない話は、理解してもらえないリスクが高いのです。
そういう話し方が苦手だという人は、話したい内容を事前に整理して、順番を考えておく必要があります。同じ内容であっても、発言が許される時間の長さによって、変えるというのも1つのやり方です。
例えば発言時間が短いときには「結論→根拠→背景→方法」という具合に結論を先に言う順番がベストです。一方で、時間があって文脈を皆で共有したいときなどは、背景や根拠から先に述べていき、方法を解説し、結論を最後に述べるのも有効でしょう。
風通しのよい会社かどうか判断する質問の「(4)組織に所属する人たちがお互いのことを本当の意味でよく知っていますか」が、問うているのは、毎日言葉を交わすとか、付き合いが長いといった表面的な関係性のことではありません。
その人がどんな生い立ちで、何を目指してこの会社に入ってきて、何をしようとしているのか。将来は、どんな夢を持ち、そのためにどんなことを学び、努力をし続けているのか。今、彼(彼女)にはどんなトピックスがあり、それに対してどんな気持ちを持っているのか――こういう奥の深いところまで理解して初めて、「よく知っている」と言える。そう私は考えています。
重要なのは皆の話を聞くこと
近年、そういう個人の事情について聞くことが困難になっているのは事実です。立ち入ったことを聞くと、たとえ善意でもハラスメントだと受け取られかねません。そんなこともあり、職場における人間関係の希薄化が進んでいます。
私からすれば、こうした状況を放置していることが、「場当たり的」組織運営だと言わざるをえません。放っておけば、今後ますますこの傾向は強まっていくでしょう。
しかし、それでは仕事上いいパスが出し合えるとは思えません。
「彼ならこのことに興味があるはずだから彼にやらせてみよう」「彼はあの件で今は手がいっぱいに違いないので、頼むのははばかれる」「彼女は今までこんなことに頑張ってきて得意だ」などなど。
その人の経歴、実績、性格などがわかっていて、初めていいパスが出せるのです。少なくとも上司の立場にいる人は、こうした個々の事情を把握するために、全員に取材をさせてもらうくらいの努力はしてもらいたいものです。
「そのへんは、部会で飲みに行くという形でやっています。若い人も意外と飲み会を嫌がらなくて仲良くやっていますよ」
そう言う方もいることでしょう。もちろんそうした親睦会的なコミュニケーションの効用は否定しません。ただし、冷静に実態を見た場合に、上司が言いたいことを言って、気分をよくするだけの飲み会になっていないかは気をつけたほうがいいでしょう。飲み会をセットしただけで関係性の構築、向上につながると安易に考えてはいないでしょうか。
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もしも飲み会の開催そのものが何らかの決め手になると考えているのならば、考えを改めてみてはいかがでしょうか。少なくとも上司としては飲み会に当たって、それぞれの部下に話を事前に聞いたうえで、飲み会の場で誰に何を話してもらえばいいかといったことまで周到に準備するくらいの工夫は必要です。
家であれば、窓を開ければ風は通ることでしょう。しかし、職場など組織における「風通しのよさ」は、成り行きまかせにしていて自然につくれるものではありません。組織を構成する人全員、とりわけ上に立つ人たちが努力をし続けてこそ成立するのです。
歓送迎会などが多いこの季節、飲み会に出席する部長さんたちは、「無礼講だ」などと浮かれて、言いたいことを言って悦に入るのではなく、皆の話を聞くことを心がけていただきたいと思います。
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提供元:「風通し」がいい会社と悪い会社の根本的な差│東洋経済オンライン