2023.03.27
「情報を集めても行動しない人」に欠けている視点|「分析好き」はいいけど「やってる感」だけでは…
情報を「持ってるだけ」では尊敬されないのだが……(写真:polkadot/PIXTA)
今や誰もがほとんどタダでスマホやパソコンから世界中のありとあらゆる情報を手に入れられるにもかかわらず、好奇心旺盛でまじめな人ほど1日中スマホやパソコンの画面をにらみながら、ムダな時間を過ごしてしまっている。
情報があふれるネットから必要なことが手に入らず、情報に振り回されて終わってしまう……。情報通なのはいいけれど、結局、情報を集めただけで満足してしまう……。こういったパラドックスにおちいってしまうのは、「取捨選択の軸」を持っていないからだ。
世界のビッグカンパニーで生産性が高まる仕事のやり方を指導するティアゴ・フォーテ氏は、近著『SECOND BRAIN(セカンドブレイン)時間に追われない「知的生産術」』で、効率的で創造性に富む情報の集め方を解説している。
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書類を探す時間は年間でなんと76時間
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『ニューヨーク・タイムズ』紙によると、一般の人が1日に消費する情報量はなんと34ギガバイト。同紙に掲載された別の研究では、私たちは毎日、新聞にすると174ページ分もの情報を消費しており、これは1986年の5倍に相当します。
現代人は情報が多すぎることに疲労困憊し、メンタルに負担がかかり、その結果、常に何かを忘れている気がするのです。
世界中の知識に即座にアクセスできるインターネットは、すべての人たちに教育の機会と情報を授けるはずでしたが、代わりに注意力の欠落をもたらしました。アメリカの経済学者で認知心理学者のハーバート・サイモンはこう記しています。
「情報が何を消費するかは明確だ。受け手側の注意力を消費するのだ。よって豊かな情報は注意力の欠落を引き起こす……」
マイクロソフト社の研究では、アメリカの平均的な社員は、行方不明のメモやアイテム、ファイル探しに年間76時間を費やしています。
また、インターナショナルデーターコーポレイションのレポートでは、典型的な知的労働者(ナレッジ・ワーカー)は、1日の労働時間のうち26パーセントを、さまざまなシステムに分散された情報を探して一元化するのに使っているというのです。
しかも、彼らが仕事に必要な情報を見つけられる確率は、たったの56パーセントでしかありません。つまり、週に5日出社しても、そのうち1日以上を必要な情報を探すためだけに費やして、しかも2回に1回は情報を見つけることすらできないということです。
「いる/いらない」を直感で決めてしまう
SNS、ウェブサイト、動画、本、ポッドキャスト……と、アクセスできる情報が増え、われわれはとうてい消化しきれない量の知識を日々摂取しています。ひらめいたり、出会ったりした素晴らしいアイデアのうち、実行に移す機会もなく忘れてしまうものがどれほどあるでしょう?
スマホやコンピューターを起動するたび、コンテンツがあふれ出し、たちまち情報の渦にのみ込まれる――。確かに、その多くは有益で興味深い情報でしょう。
それらの情報はつながることなく散らばったままではないでしょうか。さらには「やみくも」に情報収集していないでしょうか。
情報の激流から少し離れ、観察者の視点で、脳内をどの情報で満たしたいか、意識的に決め、本当に注目すべきアイデアや知識のみを集めるべきです。
好奇心旺盛で学ぶことが好きな人は、「情報をどんどん集めるばかりで、次のステップへ進んでそれを実践することがない」という落とし穴にはまりやすいのです。
調査結果をごまんと集めながら、自分は提案ひとつしない……。
ビジネスの事例集を大量に収集しながら、潜在的なクライアントに売り込みひとつかけない……。
ありとあらゆる人づきあいのアドバイスを学んだのに、誰ひとり食事へ誘ったことがない……。
経験は人生を豊かにしてくれるものなのに、ついいつまでも先延ばしにしてしまう。まだ準備ができていない。今の自分ではダメだ。情報がほんの少し足りないせいで失敗するかもしれないと思うと耐えられない……。そんな生き方は今すぐやめましょう。
解決策は、決めた場所に「心に響くものだけをキープ」し、ほかは放っておくことです。心に響くものは、直感レベルで人を動かします。
しばしば心に響くアイデアとは、人生を変えてしまうほど役立つ可能性を秘めています。心に響く理由など考えず、シンプルにおもしろい、興味をそそられる、不思議、ワクワクする。そんな感覚が重要です。
テーマ別に情報を整理すべきでない理由
心に響くアイデアをメモとして収集し始めると、いずれそれらを整理する必要を感じるでしょう。そうなると、すべて保存できる完璧なフォルダをつくりたくなるものです。たとえ可能だとしても、このやり方はあまりにも時間と労力を要します。その情報を、どうやって「ここぞ」というベストなタイミングで思い出し、最大限活かすことができるのでしょうか。
また、多くの人は情報をテーマ別に整理しがちです。たとえば地元の図書館と同じように、本を探すときに、「建築」「ビジネス」「歴史」「地質学」など、大まかなカテゴリーで調べるあのやり方です。
もっと手軽な整理法があります。端的に言ってしまうと、「今、取り組んでいるプロジェクト」に使えるか、使えないかが基準です。
すぐに行動に移せるかどうかで判断すると、莫大な情報もすっきり整理でき、当てはまらない残りはすべて目に見えないところに除外することができます。
情報は活用してこそ、自分の血肉になります。「知っていることが実生活で役に立つ」と分かって初めて自分に自信がつくもの。
それまではただの「仮説」にしかすぎません。消費するよりつくり出すことへ、なるべく多くの時間と労力を注ぐほうがいいのはこのためです。
オンラインでの時間の過ごし方に不満を抱えている人たちのほとんどが、「多ければ多いほどよい」「いくらあっても不十分だ」「今すでにあるものでは足りない」と、情報に対して消費主義的です。「いちばんいいコンテンツ」を見つけようとする代わりに、何かをつくることに専念してはどうでしょうか。そのほうがより大きな満足感を得られるものです。
では、何をつくればいいのでしょう? 答えは、自身のスキル、関心、個性次第です。
分析することが好きなら、さまざまなキャンプ用品を比較しておすすめリストをつくり、友だちとシェアする。教えるのが好きなら、レシピをソーシャルメディアやブログに公開する。地域の役に立ちたいなら、市議会への陳情計画を策定する、など。
取り組む目的は1つ――。将来、簡単に見つけて作業できるようにすること。そう、情報を使えるようにするには、情報をパッケージし、未来の自分に手渡さなくてはなりません。
知性はビジネスにおける最も重要な資産
歴史上ほとんどすべての時代において、人々は情報をいかにして入手するかに苦心してきました。価値のある情報にアクセスできる者は限られていましたが、たいていの人にとってそれは問題ではありませんでした。市井の生活に情報はたいして必要なかったからです。食べていくのに必要なのはアイデアではなく、主に肉体労働でした。
ところが、この数十年ですべては一変しました。気づいたときには、データの膨大な流れに誰もが接続していて、生活のあらゆるシーンにスマートな機械が組み込まれ、情報は絶え間なくアップデートされています。それだけでなく、労働の性質そのものが変わりました。
価値は人の筋肉が生み出すものから、脳が生み出すものへと変化。今や人の知性はもっとも重要な資産ですし、ビジネスツールは抽象的で形のないもの――アイデア・洞察力・ファクト・フレームワーク・メンタルモデルといったことへと変化しました。
「もっと多く情報を手に入れなくては……」と苦労することはもうありません。苦労するのは、情報の流れを止めることのほうです。
情報は贅沢品ではありません。生きるための最低必需品です。体に取り入れる食べ物と同じく、摂取する情報を選ぶことは、われわれの義務であり権利です。自分のためになる情報、増やしたい情報、減らしたい情報、そして最終的にはその情報をどうするかを決められるのは自分だけ。
あなたの摂取するものがあなたをつくる――。これは食べ物にも情報にも言えることなのです。
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提供元:「情報を集めても行動しない人」に欠けている視点|東洋経済オンライン