2023.02.27
上手な文章をスラスラ書く人「メモを重視する」訳|「気になったことは書き留める」が文章上達の鍵
「メモを取る」。このひと手間が、あとあと文章を書くときに大きな差を生みます(写真:Graphs/PIXTA)
雑誌や書籍、Webメディアなどで健筆をふるう一方で、著者に代わって本を書くブックライターとしても活躍する上阪徹さん。20年以上のキャリアの中で担当した書籍は100冊超、多いときで1日2万字を書くといいます。
ところが意外なことに「20代の頃は書くことが苦手だった」とか。なぜ、苦手を克服できたのでしょうか。どうすれば、スラスラと文章を書けるのでしょうか。本稿では、上阪さんの実体験から生まれた新刊『メモする・選ぶ・並べ替える 文章がすぐにうまく書ける技術』の一部を抜粋し、ちょっとした発想転換で誰でも実践できるコツを3回にわたって紹介します。2回目は「メモ力」がテーマです。
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新聞記者のメモの中身は「素材」
文章は「素材」でできています。「素材」とは、事実、数字、エピソードのこと。必要なのは、起きたこと、得た数字、エピソードやコメント、感想などの「素材」をしっかりメモしておくことです。
「素材」さえあれば、文章は書けます。逆に書けないのは、「素材」が揃えられていないから。実は「書き方」に問題があるのではなく、「素材」が集められていないことにこそ、問題があるのです。
実際、「書き方」の本を何冊も読んだのに、文章が書けない、という人から相談を受けたことがあります。それは当たり前です。「素材」がないのに書こうとしたら、私自身が20代に苦しんだように、言葉を探したり、見つけたり、創り出そうとして悪戦苦闘することになってしまいかねないからです。
書くのが苦手という人は、「素材」に目を向ければいいのです。それこそ、LINEのコミュニケーションには困っていないことに気づいてほしい。LINEは「素材」をやりとりしているだけだからです。
そして文章が書ける人も、実はちゃんと「素材」を意識している、というわかりやすい事例を紹介しておきましょう。それは、記者です。そして記者が必ずやっていることがあります。「メモ」です。
新聞記者しかり、雑誌記者しかり、彼らは必ずメモ帳を手にしています(いまはICレコーダーも多い)。なぜ、記者はメモ帳を手にしているのか。そこに「素材」をメモしていくためです。
そうなのです。文章の「素材」というのは、実はあちこちに転がっているのですが、ぜひ知っておいてほしいのは、すぐに忘れてしまう、ということなのです。だから、「メモ」が重要になる。「メモ」をしておかなければ、「素材」を忘れてしまうのです。
だから、記者は「メモ」を取るのです。
書く仕事をしている私も、メモを取ります。しかも、膨大な量のメモを取ります。もしくは、ICレコーダーで録音する。なぜなら、忘れてしまうからです。
「メモ」なんて面倒だ、と思う人もいるかもしれません。しかし、「メモ」というひと手間が、あとあと文章を書くときに、大きな差を生みます。
たとえば社内報のエッセイのようなものは、パソコンの前に座ったからといって「素材」が出てくるものではありません。
むしろ、駅までの道を歩いているときに、ひょいと思い出したり、「あ、これも書けるな」と浮かんだりするものなのです。しかし、注意しなければいけないのは、すぐに忘れてしまうこと。だから、すぐに「メモ」するのです。
これは取材で聞いた話ですが、人間の脳というのはおもしろいもので、指令を出しておくと、勝手に考えてくれているのだそうです。しかし、それを取り出すことが難しい。アイデアも同様です。
ある放送作家は、こんなことを言っていました。「脳が油断したときに、そういうものがパッと思い浮かぶ。だから、それを捉えてメモをするのだ」と。
皆さんも経験があるのではないでしょうか。シャンプーをしているときに、突然、仕事のアイデアが浮かんできたり、車の運転をしているときに課題の解決方法が浮かんできたり。
運動をするのも、いい方法だそうです。つまり、何か別のことをして脳が油断したときに、投げかけていた問いの答えが出てくるというのです。逆に、パソコンの前でウンウンうなったところで、アイデアや「素材」は出てくるものではない。アイデア出しはデスクに向かっては、むしろしないほうがいいのです。
これは私も大いに共感したのでした。ですから、「素材」もデスクで一度に出そうとしない。少しずつ出していく。そうすると、脳が油断したときに、「お、この話も書けるな」「この素材も使える」となるのです。
先の放送作家は毎朝のジムに行くとき、必ずメモ帳を持参していると言っていました。メモしなければ、忘れてしまうからです。
親が悩む小学校の授業参観の感想文
「素材」の重要性について、改めて強く実感した、わかりやすいエピソードがあります。私の娘がまだ小学生の頃、授業参観が行なわれたのでした。
あらかじめ聞いていたのが、「見学してくださった方は、翌週、授業参観の感想文を提出してください」という学校からのお願いでした。文章量は300文字ほど。とても少ないボリュームです。しかし、学校への提出です。おかしなことを書くわけにはいかない。これに保護者の皆さんは、大いに頭を悩まされていたのでした。
その後、子どもの父親が集まる会に参加していると、こんなことを問われました。
「文章を書く仕事をされているわけですから、あの感想文もさぞや速く書かれたんでしょうね」
聞けば、参観日のあった週の週末は、この感想文にかかりきりだったそうです。
何を書いていいのか頭を悩ませ、ああでもない、こうでもない、と何度も書き直し、奥さんからもダメ出しをされ、ほとほと嫌になった、と。なかには、どちらが感想文を書くか、夫婦でおおいに揉めて、ケンカになってしまった、なんて話もありました。
では、私はどうだったのか。申し訳ないので口にはしませんでしたが、5分もかからずに感想文を書いていたのでした。もうおわかりかもしれません。理由は簡単で、「素材」をしっかり「メモ」していたからです。
あとで感想文を求められることがわかっているのですから、「素材」を用意しておけばいい。そこで、学校の入口から手にしていたスマホにどんどんメモを入れていきました。
保護者の男女バランスはどうか、受付の対応は、子どもたちの下駄箱の様子、教室の壁には何が貼ってあるか、先生が放った気になる一言、印象的な子どもの行動……。それこそ、素材となる「事実」「数字」「エピソード・感想」を意識しながら、どんどんスマホにメモしていきました。
これだけですでに大変な量です。300文字を書くなど、なんでもありません。最も強く印象に残った「事実」を書き、そこに自分の感想をかぶせておしまい、でした。ささっと5分もかかりません。学校への提出物は手書きですので、清書を妻にお願いしました。
なぜ毎月1冊、本が書けるのか
小学校の授業参観といえば、それなりに非日常ですし、印象に残ることもたくさんありそうです。ところが、やはり忘れてしまう。だから、何を書けばいいのか、ということになる。改めて、「素材」を「メモ」することの重要性を、強く認識するようになったのでした。
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皆さんにもぜひ知ってほしいことは、「素材」がなければ書けない、ということです。そのためにも、どんどん「メモ」を取っていく。それを、文章の「素材」に活用していく。「素材」さえあれば、怖くはありません。どんなに長い文章でも、です。
著者に代わって本を書くブックライターという仕事もしている私がまったく困らないのは、本の内容、すなわち「素材」は著者へのインタビューで獲得することができるからです。
1冊につき、おおよそ10時間ほどインタビューをします。この内容こそ、すべて本の「素材」になります。これだけの量になると、さすがに「メモ」は取れないので、ICレコーダーで録音し、専門の業者さんにインタビュー内容をテキスト化してもらっています。
本の「素材」が詰まったテキストがすでにある、ということ。あとは、この「素材」を使って、本を構成していくのです。
月に1冊ずつ本を書けるのは、「素材」は著者が持っているから。それをインタビューで引き出せばいいから。
その意味では、書くこと以上に大事なことは、聞くことだったりします。いい「素材」を聞くことができなければ、本は作れないから。聞いていない話を勝手に創作することはできないからです。
それほどに「素材」は重要なのです。
発想転換 文章力とは実は「メモ力」であると知る
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提供元:上手な文章をスラスラ書く人「メモを重視する」訳|東洋経済オンライン