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2018.12.27

「勘と経験」バカにする人が見逃す仕事の本質|デキる人は「論理」だけでは動かない


「ロジック」だけによる意思決定には、おのずと限界があるといいます(写真:bee / PIXTA)

「ロジック」だけによる意思決定には、おのずと限界があるといいます(写真:bee / PIXTA)

累計20万部を突破している『仮説思考』『論点思考』の著者、内田和成氏。現在は早稲田大学ビジネススクールの教授で競争戦略論やリーダーシップ論を教えるが、20年以上ボストン コンサルティング グループに在籍し、日本代表を務めた経験もある。経営コンサルタントの仕事を通じて優れた経営者から学んだのは、彼らは経験や直感を大切にしているということである。
大改革を成し遂げた経営者、ユニークな戦略で自社を飛躍させた経営者に、「なぜ、そのような意思決定をしたのか」と尋ねると、「勘です」とか、「答えは誰もわからない、やってみるしかない」という回答をもらうことが多いという。
内田氏の新著『右脳思考』では、優れたビジネスマンが意外にも、感覚・感情、直感、勘など、論理(ロジック)では説明できない「右脳」的なものを重視していると述べている。本稿では、右脳の使い方、鍛え方を解説してもらった。

『右脳思考』 ※外部サイトに遷移します

「勘はダメ、ロジカルシンキングが大切」は本当か

社会人になったばかりで、まだ学生気分が抜けきらない頃に、「仕事は遊びじゃないのだから、『好き』『嫌い』で仕事をするな」とか、「経験や勘で仕事をするな」と言われた記憶はないだろうか。

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仕事をするうえで、何よりも大事なことはデータや数字に基づいて物事を論理的に考えることであって、間違っても勘を頼りに判断してはいけないと教わったりもする。いわゆるロジカルシンキング(論理的思考)の大切さを、説かれるわけである。

本当であろうか?

人間は私生活では、相当、勘や感覚を頼りにしている。

たとえば、冷蔵庫に残っている食品を食べられるかどうか考えるときに、料理や食材の購入経験の少ない私と息子は消費期限を見て、期限内であれば安心できると判断し、食べる。

一方で、料理経験が豊富でしょっちゅうスーパーなどで買い物をしている妻や娘たちはどうかというと、基本的に五感を大切にする。まず見た目で大丈夫かどうか判断し、次ににおいを嗅いだり、目を凝らして表面を見たり、表面を少し強く押してみたりする。場合によっては実際に口に入れて、大丈夫だとか、やっぱりダメだとか判断する。一見、非合理的で危ない判断の仕方に見える。

しかし、よく考えてみると実は合理的である。

なぜかと言えば、私や息子のやり方は安全で正しいかもしれないが、そこには学習や進化はない。リスクは少ないかもしれないが、消費期限という判断基準がはっきり示されている以上、さらに踏み込んで考えたり、試してみたりすることはない。もっと言えば、「思考停止」が起きている。

それに対して、妻や娘のやり方は、非合理的に見えるかもしれないが、そこには学習があり、たとえ消費期限が切れていても大丈夫なことが多いとか、これ以上はやはり「危ない」「まずい」とか身をもって体験する。経験、あるいは体験を基にした勘で判断したりしている。

もちろん、時には痛い目に遭って、おなかを壊すことがあるかもしれない。しかし、自分なりの判断基準をもつことができるし、消費期限が書いていない場合や、書いてある部分を捨ててしまったという場合にも、対応できるだろう。

私や息子のやり方では、未知のものと遭遇した場合に、自分自身の物差し、すなわち判断基準をもたないために対応しようがないのである。どうも仕事でも同じことが言えるのではないか。

教科書に書かれている知識では不十分

企業で仕事をしていて、よいアイデアを思いついたとき、そのアイデアをそのまま口にすると「何を根拠にそんなことを言うのだ」と詰められたり、逆にある企画に対して「なんかおかしいな」と感じても理屈が立たずに声を上げられなかったりという経験があるだろう。

こうした状況に陥ったときに、推奨されている解決策は次のようなことである。

大事なことは物事を論理的に考え、できれば数字などのデータで証拠を見せたうえで、筋道立てて説明する。特にコンサルティングの仕事をしていると、論理的な見方・考え方、そしてデータや統計などの数字を示す説得の方法を徹底的にたたき込まれる。

20年以上、ボストン コンサルティング グループ(BCG)に在籍し、日本代表を務めた経験もある私は「たたき込まれた側」でもあるし、「たたき込んだ側」でもあるので、このことは身に染みてわかっている。

たとえば、ある事業の戦略を立てる場合には、まず市場を見て、そこにどのような事業機会(チャンス)と脅威(リスク)があるのかをできるだけ定量化する。次に競争相手が誰で、その実力、あるいは脅威がどの程度のものかをできるだけ定量的に、少なくとも必要な項目を評価する。最後に自社の経営資源を評価し、これらを総合的に判断して、事業戦略を策定するということになる。

こうした分析を行う際には、たとえばビジネススクールで学ぶようなマーケティング分析手法、財務分析、人材活用・組織改革の方法論などが必要とされる。

こうした手法を否定するわけではない。しかし、長年のビジネス経験から言えるのは、ビジネススクールの教科書に書かれている知識だけでは不十分であるということだ。

優れた経営者は成功確率が低い道でも選ぶ

経営コンサルタントという仕事柄、実にたくさんの経営者、あるいは経営幹部と接してきた。その数は優に1000人を超える。そうした中で、成功している経営者、とりわけオーナー企業の経営者に特徴的な行動パターンがある。

それは一見、思いつきにしか見えない意思決定や行動をとっており、もし私がコンサルタントとして事前にアドバイスを求められたら、理屈から考えてうまくいかないからやめたほうがよいとアドバイスするようなことに挑戦している。別の言い方をすれば、ロジカルシンキングで考えると成功確率が低いのでやめたほうがいいという道を選んでいる。

ユニ・チャームの「紙おむつ」

たとえば、ユニ・チャームの創業者である高原慶一朗氏は、まだ会社の規模が小さく女性向けの生理用品が主力事業の時代に、その何倍もの市場と考えられる子ども用の紙おむつの市場に後発で参入した。体力以上の新規投資を必要とする事業は失敗すれば会社が潰れる。当然、経営幹部のほとんどが反対したそうであるが、彼は絶対成功するからと言って幹部の反対を押し切って参入したと聞く。

そのとき、彼の頭の中には女性用生理用品だけでは市場は頭打ちになる、紙おむつは当時の日本ではまだ新しい市場で、P&Gがほぼ市場を独占していたが、今ならまだユニ・チャームでも間に合う、と考えたそうだ。

しかし、冷静に考えれば数百倍の規模があるグローバル企業P&Gに知名度・資本力・開発力……など多くの面で劣るユニ・チャームが勝てる可能性は高くはない。もし、私がそのとき助言を求められたら「そんな無謀な戦いはやめたほうがいい」とアドバイスしたに違いない。

しかし、彼は挑戦した。失敗のリスクは考えなかったのかという問いかけには、「まったく考えなかったわけではないが、それよりチャンスにかけてみたいと思った」と答えたそうだ。

結果は知ってのとおり、国内ではP&Gというグローバル企業や花王というエクセレントカンパニーを相手にして勝利を収め、紙おむつはユニ・チャームの主力事業に育った。

それではユニ・チャームの紙おむつ事業参入は本当に無謀な挑戦だったのであろうか。

実は、よくよく聞いてみると「なるほど」という話が耳に入ってくる。というのも、当時ユニ・チャームは次の成長の柱を考えていて、新規事業を必要としていた。その中で、主力の生理用品のユーザーが女性であることから、女性を軸にすれば、紙おむつの事業も企業の事業領域としてはまとまりがある。

生理用品もおむつも女性が購買の意思決定者である、あるいは、両製品とも「不快」を「快」に変えるという共通項がある。もちろん、これらは後づけの理屈かもしれないが、社長の「これはいける」という直感が、後から考えると理にかなっていたということになる。

サイクルベースあさひのSPAモデル

私がよく事例で取り上げる自転車販売店のサイクルベースあさひも、後から振り返ると、ファッション業界でGAPやユニクロが導入して成功した製造小売り(SPA)というビジネスモデルを自転車業界に持ち込んだのが、成功のカギになっている。

というのは、それまでの自転車販売店は売るのが専門で、アフターサービスに力を入れていなかったし、ましてや自社でプライベートブランド(PB)を製造して販売するというのは一部の大型量販店を除けば例がなかった。そうした中で、あさひは顧客接点を軸として、アフターサービスを充実させていった。

あさひは「故障したら買い替えしてしまう」という風潮があったバブル時代でも修理に力を入れ、他の店で購入した自転車の修理も受け入れていた。現在のあさひのホームページは、メンテナンスやカスタマイズの方法の解説が充実している。出張修理をしているほどの力の入れようである。

アフターサービスに力を入れ、商品販売時の顧客ニーズを吸い上げて商品開発に生かした。さらには、中国の高級自転車製造工場に直に乗り込んで、デザインの指導や品質管理まで行う。まさに、GAPやユニクロがファッション業界で行ったSPAモデルを自転車販売店で実践した点で実に理にかなっている。

しかしながら、同社の創業者、下田進氏が最初からこのSPAモデルを志向していたかと言えば、それはありえない。SPAの実現にはかなりの売上規模が必要だからだ。自転車小売店を始めたもののなかなか顧客がつかない段階で、仕方がなく、他の販売店では力を入れていなかった修理やアフターサービスを充実させた。そこで満足した顧客にやがて新車を買ってもらえるようになったというのが真実であろう。

そうこうしているうちに、多店舗展開するようになり、結果として効率的な店舗経営のためのノウハウもたまった。やがてPBを製造できるような規模にまで大きくなっていった。すべて下田氏やスタッフが日々の仕事の中で苦労して見つけたり、つくり上げてきたりしたノウハウだ。

そのように考えると、最初は下田氏が日々、その場その場で悩んだ末に試行錯誤の結果、考え出した方法が、振り返ってみると理にかなっていたと見るほうが適切であろう。

直感や思いつきを後から理論武装

これらの2つの例は、もともとロジカルに徹底的に分析し尽くしたうえで実行に移したわけではない事業やオペレーションが、気がついたら理論的にも正しい事業へ変身していたということである。

別の言い方をすれば、直感や経験から気づいたこと、感じたこと、つまり右脳的なことを、後からきちんと理屈づけた、すなわち左脳で理論武装したとも言える。実はサラリーマン経営者や経営幹部にもこうした人がそれなりの割合でいる。

私の経験から見れば、仕事ができるビジネスパーソンは多かれ少なかれ、勘を上手に使っている。

もちろん、成功したから、何を言ってもよいという見方もあり、成功した経営者と同じように勘で判断して失敗し、舞台から消え去った経営者の数のほうが実は多いだろう。だから、やはり勘に頼るよりは、ロジカルに考えるべきなのであろうという考え方もありうる。

それでも、私は「勘はダメ」とは思わない。

先に20年以上コンサルティングファームに在籍し、「論理的思考をたたき込まれた」「たたき込んだ」と述べたが、実は、分析よりもひらめきやワクワク感に重きを置くタイプであった。

直感・ひらめきとロジック、使い分けのコツは?

感覚・感情、直感、勘など、論理(ロジック)では説明できないひらめき・思いつき・考えを総称して右脳とする。

それに対して、左脳とはロジック(論理)そのもの、あるいはロジックで説明できるものを指すことにする。

私が伝えたいのは、ロジカルシンキングの否定ではない。ロジックだけでなく感情や勘、すなわち右脳を働かせることで仕事をより効率的に進める、あるいは、成果を上げることができるということである。

もちろん、やみくもに右脳で仕事をすることを勧めるわけではない。

12月に上梓した『右脳思考』の中では、主に3つのポイントから右脳の活用を紹介している。

1つ目は、左脳と右脳には使う順番と場所がある。

2つ目は、左脳と右脳は独立して別々に使うものではなく、両者の間ではキャッチボールが必要である。これを思考のキャッチボールと呼ぶ。

3つ目は、ビジネスで役に立つ右脳をどう鍛えるかである。

つねにロジカルシンキングを徹底することでうまくいっている人や、その逆で、いつも経験と勘で乗り切っている人には本書は必要ないかもしれないが、そうした人はビジネスの経験が少ないか、自分がうまくいっていないことに気づいていないだけだと思う。

「ロジカルシンキングでやっているのだが、結果が出ない、うまくいかない。人がついてこない、動いてくれない」

「経験や勘でやってきたが、時々不安になる、当たり外れが大きい。人に信用されない、限界を感じる」

「ロジカルシンキングと経験・勘のどちらをどのように使い分けたらよいか悩んでいる」

ビジネスをやっていくうち、こうした悩みに行き当たるのが普通だと思う。こうした悩みを解決するには、右脳思考、つまり右脳を使う順番と場所を理解し、右脳と左脳のキャッチボールを行うことがカギになる。

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提供元:「勘と経験」バカにする人が見逃す仕事の本質|東洋経済オンライン

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