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2018.10.09

認知症を受け入れ生きる人が見つける居場所|何もかもおしまいではなく他者も支えられる


この事実から目をそらすのではなく、うまくつき合うことが求められる(デザイン:杉山 未記)

この事実から目をそらすのではなく、うまくつき合うことが求められる(デザイン:杉山 未記)

団塊の世代全員が、75歳以上の後期高齢者となる2025年。厚生労働省の推計によれば、認知症の高齢者(65歳以上)は約700万人になる。認知症予備軍に当たる軽度認知障害(MCI)の人は2012年時点で約400万人。この予備軍まで含めると、確実に1000万人は超えるとみられ、高齢者の3人に1人となる。

80代後半の2人に1人が認知症と推計されることからわかるとおり、認知症の最大の原因は加齢だ。年齢を重ねるほど発症リスクは高まるため、すでに超高齢社会の日本では、誰もがなりうると考えたほうがいい。

『週刊東洋経済』は10月6日発売号(10月13日号)で、「認知症とつき合う」を特集。最新の治療や予防の動向から、認知症の人を支えるさまざまな取り組みまで、その最前線を取り上げている。

『週刊東洋経済』は10月6日発売号(10月13日号)で、「認知症とつき合う」を特集。 ※外部サイトに遷移します

「認知症になったら何もかもおしまいだとは思わないでほしい」

3年前、63歳で若年性アルツハイマー型認知症と診断された神矢努さんは話す。「なっても人生は終わらないし、支えてくれる仲間もたくさんいる。認知症になっても私は私。自分のことは自分で決めたい」。神矢さんのような認知症の本人が体験や思いを語れるようになったのはここ数年のことだ。

2014年には本人たちが集まり、日本認知症ワーキンググループ(現・一般社団法人日本認知症本人ワーキンググループ)を結成。メンバーの意見を集約し、厚労省に提案したことで、認知症に関する国家戦略「新オレンジプラン(認知症施策推進総合戦略)」に、本人の意思の尊重、本人の視点の重視が明記された。これを受けて、自治体による施策の立案や評価への本人の参画を進める計画が打ち出されるようになった。慶応義塾大学の堀田聰子教授は「本人の視点を柱としたことは前進で、たゆまぬ協同に期待したい」と評価する。

医療や介護の現場でも本人の視点を重視する動きが出始めている。「地域の病院や施設などからの紹介ベースで見ると、がん末期が3割で、残り7割が主に高齢者。その高齢者の8割に認知症の診断が下りており、うち半分が中等度以上。利用者のかなりの部分を認知症の人が占めている」。そう語るのは、首都圏で在宅医療専門のクリニックを展開する医療法人悠翔会の佐々木淳理事長だ。

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『週刊東洋経済』10月6日発売号(10月13日号)の特集は「認知症とつき合う」です。 クリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

現在、悠翔会のクリニックは東京都を中心に11カ所。常時4000人の患者を診療している。緊急事態に備え365日24時間対応の体制も構築、法人外のクリニックとの連携も進めている。認知症の人を含め高齢者のケアには、地域全体の介護力の向上が必要不可欠だ。

悠翔会は医療、介護など他職種の人たちを集めた「ケアカフェ」を定期的に各クリニックで開催。ケースカンファレンスやグループディスカッションなどを通じて緊密な関係づくりを行っている。

2014年に東京都三鷹市で認知症の専門クリニックを開業したのが、のぞみメモリークリニックの木之下徹院長だ。木之下氏は2001年に東京都品川区でクリニックを開院。主に認知症に関する在宅医療を長年にわたって行ってきた。

周囲から何らかのサポートを受けるばかりではない(写真:【IWJ】Image Works Japan / PIXTA)

周囲から何らかのサポートを受けるばかりではない(写真:【IWJ】Image Works Japan / PIXTA)

「これは将来の自分だ」

「自分の中で大きな転機となったのは、認知症の人を診ているうちに『これは将来の自分だ』と痛切に思うようになったこと。介護する家族が大変なのは理解しているが、あらためて認知症をその人自身の問題としてとらえ、本人のためになる医療を提供したいと考えた」

木之下氏は認知症の人と直接出会い、認知症になった後の人生を本人とともに考えていく場として、専門外来クリニックに思い至った。「自分が認知症になったらどうしよう」と思い悩む人の受け皿を医療側がきちんと用意していないとの現状認識もあった。のぞみメモリークリニックでは予診、問診、血圧などのバイタルチェック、神経心理検査、MRI検査など多角的な検査によって認知症かどうかを診断する。家族が連れてくるケースがまだまだ多いが、認知症の人が自ら訪れる割合は着実に増えているという。

ヒノキの無垢のフローリング上では、近所の子どもたち10人以上が宿題をしたり、ゲームに熱中したりと、それぞれ自由に時間を過ごしている。千葉県浦安市にある、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)の「銀木犀」で、毎日のように繰り広げられている光景だ。子どもたちの目当ては、1階フロアで開店している駄菓子屋で、1カ月で50万円近く売り上げたこともあるという。店番を務めているのは、認知症の入居者たちだ。

子どもたちだけではない。1階フロアは地域の人が自由に利用でき、お昼時には入居者用の健康的なランチメニューを提供している。母親向けのダンススクールを開いたり、近所の大学生が寺子屋式に子どもたちに勉強を教えたりもする。「同じ場所にいると自然と入居者も地域の住民として溶け込んでいく」。銀木犀を運営するシルバーウッド代表の下河原忠道氏は狙いを話す。

銀木犀の入居者は、程度の差はあるがたいてい認知症を抱えている。リスク回避で出入りを制限する通常の施設とは異なり、鍵はかけず入居者の出入りは自由だ。時には道に迷って戻ってこない入居者もいるが、駄菓子屋に来ている子どもたちが気づいて一緒に帰ってきたこともあり、近くのコンビニからも連絡が入る。「普段から交わっていることで、認知症の人を地域が自然に受け止めてくれている」(下河原氏)。

世話されるだけでなく役割を持つことは自立支援にもつながる。認知症の人が積極的に地域に出て仕事をしているのが、東京都町田市のデイサービス「DAYS BLG!(デイズビーエルジー)」(BLG)だ。取材当日は雨だったが、BLGのメンバー(利用者)4人は、近隣のホンダの販売店で展示用車の洗車作業を行っていた。

「やっぱり働かないと」

ほかのメンバーにコツを教えるなど、中心となっている村山明夫さん(66)は、メンバーとなってすでに5年。子どもは独立し、今は妻と2人暮らしだ。BLGには週3~4回通い、ほぼ毎回、洗車やポスティングを担っている。認知症と診断された当初はほかのデイサービスも試してみたが、「のんびり遊ぶだけではつまらない。やっぱり働かないと」(村山さん)と思い、BLGを選ぶようになった。洗車作業のほか、業務用のタマネギの皮むきやチラシ折りなど地元企業から仕事を受け、有償ボランティアとして報酬を得る。

BLGを運営するNPO「町田市つながりの開」理事長の前田隆行氏が、全国に先駆けて、十数年前にこうした活動を始めた。前田氏は、就労ありきではないと強調する。「地域とのつながり、やりたいことを実現するための仕事であり、やりたくもない作業を強いられるのは本末転倒だ」。実際、BLGでは毎朝のミーティングでメンバー一人ひとりに、その日に取り組みたいことを聞いて、当日の作業を決めている。

取り上げた医療や介護の最前線では、認知症の本人にとって居心地がよい場を提供しようと取り組んだ結果、地域との一体化が進み新たな役割が生まれてくる。周囲から何らかのサポートを受けながらも、別の側面では他者の生活を支える。少子高齢化が進む地域社会の中で、認知症の人は居場所を見つけている。

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提供元:認知症を受け入れ生きる人が見つける居場所|東洋経済オンライン

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