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2018.10.01

「オーバースペック上司」に苦しむ部下の悲鳴|同じ部門にずっといる上司が「無双」に


経験が豊富で正しすぎる指導ではあるが…(写真:hinooto/PIXTA)

経験が豊富で正しすぎる指導ではあるが…(写真:hinooto/PIXTA)

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みなさんは「無双(むそう)」という言葉を使いますか? 筆者は麻雀の役としての国士無双として知っているくらい。口にした記憶はありません。

ところが最近、さまざまな場面で使われるようになってきました。たとえば、ゲームで圧倒的な強さを発揮して、大勢をなぎ倒すキャラクターが登場したとき。芸人が何度も爆笑をさらった様子を見たとき。あるいはインスタ映えする写真をアップした友人に対して「無双すぎる!」とコメントする……などなど。日常会話で普通に使われる言葉になりつつあるのです。

仕事の場面でも「無双」を耳にすることが出てきました。ある人気ブランドのお菓子を製造するメーカーを取材していたときのこと。新規事業担当の若手社員がコンビニとコラボして新商品をつくり、大ヒットになったという成果を語る場面で、

「それって、“無双状態”っていっても過言ではないですよね」

と言い出しました。社内で営業成績が長年トップクラスの先輩に対して後輩が「まさに無双ですね」と称えている姿に遭遇したことも。

「無双な上司」は部下にとって困った存在

ちなみに無双とは、世の中に肩を並べるものがないほど優れた状態を長く続けている人や物事のこと。褒め言葉として使われることも多いようです。

中には、褒め言葉ではない意味で使う人もいます。どちらかというと困った存在を示すもの。具体的には、たとえば上司に対して「うちの無双な上司が……」と嘆くのです。さて、どんな上司のことなのでしょうか?

広告代理店に勤めるSさんは、上司と一緒にあるクライアントを担当しているのですが、その上司が事細かに指示をしてくることに困惑しています。上司は、Sさんがやり切れなかった仕事を見つけると、

「自分が担当すれば、もっと細やかな対応をするはず。それができないのはどうして?」

と理由を問い詰めてきます。実は、Sさんはそのクライアントを担当してまだ1年。一方、上司は担当して15年以上で、先方の歴代担当者を5代以上もさかのぼれるくらいに精通しています。

ですから提案書に使うべき言葉づかいから、接待における担当部長の嗜好や気配りポイントまで知り尽くしています。その知見をもって「もっときめ細かい配慮をしなさい」とか「提案書の言葉づかいが間違っている」と指摘してくるのです。Sさんは、

「おっしゃることはもっともなのですが、それができないから困っているのです」

という本音をぐっと飲みこんでいるといいます。

そんな上司をSさんは「無双な存在」と表現してくれました。褒めているのでないのは明らかです。

そんな“無双な上司”に遭遇したことはありますか? 経験に裏付けられた正しすぎる指導ではあるものの、正しすぎて、困惑させられる存在。上司の立場からすれば経験が豊富で、

・自分の指導に間違いはない(なぜなら、自分ならできるから)

・できない部下が問題である

と考えているのでしょう。でも、部下が上司が期待するほどの水準で仕事をするのは無理と感じているとしたら、その「正しすぎる指導」は適切とは言えません。野球の指導で例えるなら、プロ野球選手が少年野球で150kmを打ち返す見本をみせて、それを選手に「やってみて」と打たせたところ、当然打てない。そこで、

「どうして打てないの、見本をみせたよね」

と選手を責める感じでしょうか?

一定の人事異動が必要

こうした無双な上司の存在に関して、筆者は上司個人の資質というよりも、組織のあり方に問題があると考えます。できない部下の気持ちがわからないような環境に上司をおいたままにしている可能性が高いからです。

Sさんの上司は同じ職場に15年以上いることで、新たに仕事を覚える機会が失われている可能性があります。いわゆるタコツボ化した環境で視野が狭くなり、経験の浅い部下との協業が難しくなってしまうのです。

仕事の進め方がわからない部下に対して理解をうながす指導をすることが十分にできない状態でも、そこに問題意識を感じない。むしろ、できない部下を責めてしまう。

通常の組織であれば、人材が頻繁に入れ替わることも多いので、自分の仕事の進め方では理解されない可能性がある。あるいは部下のキャパシティに合わせて仕事を任せていかなければいけない……そう考えるものでしょう。しかし、長く同じ仕事をしていると、この発想ができなくなってしまうことがあるのです。

もし、無双と呼ばれるSさんの上司が、人事異動で別のクライアントを担当する部署に異動したら、どうでしょうか? 初めての仕事では、部下に対して「正しすぎる指導」まではできないはずです。

上司は適切な指導ができる立場であるべきですが、部下のキャパシティを超えた指導は避けるべきです。無双な上司に困る部下を生み出さないために、筆者は部下を指導する立場にある管理職については、一定の人事異動が必要ではないかと考えます。

人事異動があまりない状態になると、すべての管理職がそうとまでは言えませんが、指導法は独善的になりがちです。そこで人事異動を経験して新しい組織、新しい部下とのかかわりから新鮮な気づきを得ることが大切ではないでしょうか。ちなみに人事異動にもいくつかのパターンがあります。同じ部門で勤務地が変わる転勤、子会社などで勤務する出向。所属部署を変更する部署異動など。ちなみに人事異動により自分の能力が向上したと感じる人は7割以上との結果が出ています。

ぐったりした部下たちと誇らしげな所長

筆者が取材していて、その部門での勤務が10年以上などと長すぎると「無双状態」になっているのでは?と感じる管理職に遭遇する確率が高いと感じます。たとえば、ある医療機器商社で、同じ営業所に勤務して20年以上の所長が仕切る営業会議に参加したときのこと。

「この病院で購入している医療機器でリース切れになるものをすべてあげてみて」

と部下に問いただしている場面に遭遇しました。所長は10年以上担当しているので、すぐに回答できますが、部下は「わかりません」としか言えませんでした。その回答に対して、

「担当している病院の状況は十分に把握するように言っているじゃないか」

ときつい言葉を返します。ただ、あとで聞いたのですが、この営業担当は配属されて半年。担当している病院は50件にもなります。経験の長いあなたには当然わかっても、配属された半年の人にはわからないですよ……と弁護してあげたくなりましたが、その後も容赦なく厳しい指導が続きました。会議の終了後にはぐったりした部下たちと誇らしげな所長の姿が印象に残りました。ちなみに中小企業だと人事異動は簡単にはできないかもしれません。そんなときにはどうしたらいいのか? 経験豊富で自信満々ゆえの指導に潜んだ弊害に気づかせる質問を会社がぶつけることかもしれません。前提として、

「君の経験に裏付けられた指導力はすばらしい」

と称えつつも、同じ能力の管理職を育てることはできるのか?無理だとすれば、会社はどのような上司を育てるべきなのか?を無双な上司に問うていくのです。無双な存在とは会社にとって有益ではなくオーバースペックであることに気づく可能性が高いと思います。ちなみにオーバースペックとは過剰な性能と言う意味。正しすぎる指導はまさに過剰な性能=スキルであると認識させるのです。さて、このような無双な上司は部下にとって困った存在であり、部下が活躍しにくいという点で、会社全体にとっても悪い影響をもたらす可能性があります。もし、上司にあたる人が、こうした「困った無双」になってしまっている場合は、早めの人事異動で新たな気づきを提供するのがいいのではないでしょうか。

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【あわせて読みたい】 ※外部サイトに遷移します

なぜ日本の人事はこんなに「アナログ」なのか

「ダメ出し上司」の頭の中はこうなっている

こだまする「ロスジェネが怖い」という悲鳴

提供元:「オーバースペック上司」に苦しむ部下の悲鳴|東洋経済オンライン

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