2020.01.20
現代人のための“菌活”/腸内環境を整えるキーワード、乳酸菌と食物繊維【教えて、ドクター!】
健康状態にも、また肌などの美しさにも影響を与える腸内細菌。よく耳にする腸内環境とどう関連し、どうしたらよりよい働きをするのか。引き続き明治大学農学部教授の中島春紫先生に伺います。
腸内を整える乳酸菌の数は、 年齢とともに減っていく・・・
人間の腸内にはおよそ300種、100兆個というたくさんの微生物がいます。これらの微生物の集まりを"腸内フローラ"と言いますが、この腸内フローラがその人の健康状態に大きな影響を与えることがわかってきました。しかも、微生物の種類と割合は人によって、年齢によって、また民族によって大きく異なるのです。
一般的に"善玉菌""悪玉菌"の言葉は、よく知られていますよね。乳酸菌やビフィズス菌などが善玉菌とされていますが、善玉菌は腸内フローラのバランスを整えたり、腸の運動を活発にして、便秘や下痢を防ぐ効果があります。免疫力を高めて、ビタミンを合成してくれるなど、腸内環境をよくするためには、善玉菌を増やすことが重要だとされています。
一方、ウェルシュ菌やブドウ球菌などの悪玉菌は、アンモニアなどの腐敗物質や発がん性物質をつくったり、腸の運動を阻害し、便秘の原因となったり、からだの免疫力を弱めてしまう働きがあります。
善玉菌の代表格でもある乳酸菌の数は、残念ながら年齢とともに減ってしまうのが現状。生まれたての赤ちゃんの腸内は、乳酸菌が圧倒的に多く、腸内細菌全体の70~80%を占めるほどです。それが年齢とともに割合が減り、大学生の時点で20〜30%くらい、40〜50代になると20%を切ってしまうのが平均的で、さらに70代以降になると10%を下回るという報告もあります。このように年齢とともに減ってしまう乳酸菌ですが、日本人は比較的乳酸菌の数が多いと言われています。
さて、乳酸菌を増やし、腸内環境を整えることは、言い換えればいかにして赤ちゃんの腸に近づけるか、ということでもあります。そこで、優秀な発酵食品の登場です。多くの発酵食品には、乳酸菌が含まれており、納豆を別にすると乳酸菌のない発酵食品を探すほうが大変なくらいです。
そして、この乳酸菌を喜ばせ、乳酸菌を増殖させ、活性化させるのがプレバイオティクスという成分です。これをよく含んでいるのが食物繊維。食物繊維を積極的にとることは大事ですが、このとき、食物繊維が豊富だからといって、どれかひとつの食材だけをとるのは間違い。1種類だけ取っていれば大丈夫なんて素材はないですよ。きのこや海藻、野菜...いろいろありますのでバランスが大事です。
ちなみに「プロバイオティクス」というよく似た言葉がありますが、こちらは乳酸菌やビフィズス菌など腸にとって有益な菌そのものをたくさん含む食品をさします。
脂もののとりすぎは要注意。腸内が酸素不足状態に!?
現在、日本に限らず先進国でもっとも多いがんは、胃がんを抜いて大腸がんです。その原因のひとつに、食物繊維が少なく、脂肪分の多い食生活が考えられます。
脂肪分を分解するには、酸素が多く必要になります。たとえば、砂糖は1グラムあたり4キロカロリーですが、脂肪は1グラム9キロカロリー。消化するためにはより多くの酸素を必要とするわけですね。腸のなかは、外から酸素が供給されないので、脂ものを多くとればとるほど、腸内は酸素不足の状態に。
食物繊維が足りず便通が悪いと、腸内は酸素不足のままとなり、その環境は、悪玉菌にとって居ごこちのよい、非常に都合のいい状態となります。脂肪分を必要以上にとることは、悪玉菌の好きな環境に偏ってしまう可能性が高まるということ。確かに脂が乗った食べ物はおいしいのですが、とりすぎは腸内環境にとってはよくないと覚えておきましょう。
食物繊維は、消化されずにそのまま大腸に届くのが特徴です。大腸は繊維など"中身"がないと働きが悪くなります。その上、食物繊維は腸内で脂や水分を吸収し、便通を促してくれるので、腸内環境を整えるにも有効。積極的にとりましょう。
ーついつい食べすぎてしまう脂の多い食事は、腸内環境にこれほど影響を与えていたとは。発酵食品の力を借りて、食生活を見直して、腸内を整えたいですね。
中島春紫
1960年東京生まれ。1989年東京大学大学院農学系研究科農芸化学専攻博士課程修了。農学博士。東京工業大学工学部助手、同生命理工学部助手、東京大学大学院農学生命科学研究科助教授、明治大学農学部農芸化学科助教授を経て2007年同教授。現在は、麹菌のタンパク質を研究。発酵食品と酒類をこよなく愛している。著書に『微生物の科学』(日刊工業新聞社)など。新刊書『日本の伝統 発酵の科学』(講談社ブルーバックス)も好評発売中。
取材・文/大庭典子
イラスト/はまだなぎさ
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提供元:腸内環境を整えるキーワード、乳酸菌と食物繊維ー特集/現代人のための“菌活”|ワコール ボディブック