2022.06.28
「腸は第2の脳」汚れた腸が「うつ病」「不眠」を招く|サプリより効果あり?腸活+脳活に効く食べ物
「キレイな腸」を手に入れるにはどうしたらいいのでしょうか?(写真:チリーズ/PIXTA)
「緊張すると下痢をする」「知らない土地で便秘する」など、ストレスがかかるとお腹の調子が悪化する、という人は多い。だが、近年の研究によって、その“逆の矢印”も明らかになってきた。
つまり、腸内環境が劣悪な人は、それが脳に伝わり、精神や全身状態にマイナス影響が及んでしまう。気分の落ち込みや睡眠障害で困っているなら、自身のお腹の調子や食生活にも目を向けてみてはいかがだろう。
善玉菌少ない人は「うつ病」リスクが上がる
精神的な負担がお腹に来てしまう【脳⇒腸】現象の代表例は、「過敏性腸症候群」だ。
ストレスなど心の不調が腸の神経を過剰に刺激して、慢性的な腹痛や下痢、便秘などをひき起こす。一般的な検査だと「異常なし」とされてしまうが、日本消化器病学会は、国民の10人に1人が該当する「よくある」疾患としている。
だが近年、医学の世界で熱視線を浴びているのは、逆方向の【腸⇒脳】神経ルートだ。わかりやすい例が、うつ病と睡眠だ。
2016年、うつ病患者の腸内は善玉菌の数が少ないことが、世界で初めて明らかとなった。国立精神・神経医療研究センター神経研究所と株式会社ヤクルトの共同研究だ。
うつ病の患者43人と健常者57人の便から腸内細菌を採取し、善玉菌として知られるビフィズス菌と乳酸桿菌の菌数を比較した。うつ病患者群は健常者群と比べてビフィズス菌が少なく、ビフィズス菌・乳酸桿菌ともに一定数以下の人が多かった。
これだけでは、うつ病が先か、腸内細菌の違いが先かはわからない。ただ、複数の動物実験で、無菌状態にしたマウスの腸内にうつ病の人の腸内細菌をそっくり移植したところ、マウスもうつ状態になった。
複数の動物実験 ※外部サイトに遷移します
また、一般に細菌感染症の治療薬として使われる抗生物質は、病原体を殺すだけでなく、腸内の善玉菌も殺してしまう。
1993~2013年に15〜65歳のうつ病患者20万人超を対象に行われた英国の大規模研究では、1年以上前に抗生物質による治療を1回受けた人は、うつ病のリスクが23~25%高くなっていた。2~4回では40%増、5回以上では56%増と、治療回数とともにうつ病リスクは高まった。
英国の大規模研究 ※外部サイトに遷移します
「睡眠障害」「生活習慣病」「コロナ」も
うつ病と脳腸相関に関する研究をまとめた論文では、「抗生物質、慢性ストレス、貧しい食生活」は、いずれもうつ病の発生率を高めるとしている。腸内細菌のバランスを乱し、うつ病に典型的なパターンに変えてしまうためだ。
論文 ※外部サイトに遷移します
腸内細菌バランスを回復させるとうつ症状が軽減することも、観察されている。
睡眠障害も同様だ。
2019年には、腸内細菌に偏りがなく多様性に富む人では、睡眠の質と睡眠時間が向上し、途中覚醒が減少するという研究が発表された。腸内細菌の種類が多いほど、「インターロイキン6」という分泌物の濃度が高かった。
研究 ※外部サイトに遷移します
インターロイキン6は、さまざまな免疫反応を活性化させる作用のあるサイトカイン(生理活性たんぱく質)の一種だ。睡眠障害やうつ病の人ではインターロイキン6の血中濃度が低いことが、以前から指摘されていた。
このほか、さまざまな神経障害や肥満、メタボリックシンドローム、心血管疾患、がんなどの生活習慣病にも、腸内細菌バランスの乱れが潜んでいるとの研究がある。
研究 ※外部サイトに遷移します
さらには新型コロナまでも、その影響を免れない。
新型コロナ患者では、2割の患者に胃腸症状が報告されている。感染すると特定の腸内細菌が増え、結腸の細胞の働きが変化し、ひいては腸内細菌バランスを崩してしまう。
その影響が脳に伝わり、新型コロナによる脳のダメージを深刻にする、という悪循環の可能性が指摘されている。
報告されている ※外部サイトに遷移します
ここまで読んできて、「腸内で起きていることの影響が、どうやって脳に伝わるの?」と不思議に思われたのではないだろうか。
アメリカ・ジョンズホプキンス大学によれば、食道から直腸までの消化管は、1億個を超える神経細胞から成る2層の薄い膜で覆われている。この「腸管神経」は、情報伝達物質(ホルモン、サイトカイン等)や免疫系など複数の経路を介して、脳と双方向ネットワークを形成し、密接に影響しあっているという。
ジョンズホプキンス大学 ※外部サイトに遷移します
腸からは以下のような情報伝達物質等が放出されている。
●脳内で不足するとうつ病を発症するとされている「セロトニン」
●やる気ホルモン・幸せホルモンとも称される「ドーパミン」
●ストレスを減らすアミノ酸として注目されている「GABA」
●免疫システムに働きかけて炎症を抑える「酪酸」などの「短鎖脂肪酸」 (短鎖脂肪酸には悪玉菌を減らす働きも)
つまり腸は、単なる食べ物の消化器官にとどまらず、脳と同じように電気信号を発し、やり取りする、神経系の重要な臓器でもある。まさに「第二の脳」だ。
こうした【脳⇔腸】双方向のやり取りは「脳腸相関」「脳腸軸」と呼ばれ、この5~10年で大いに注目されてきた。精神障害や神経障害、生活習慣病等の予防・治療につなげようという動きもある。
この脳腸相関に必須のプレーヤーが腸内細菌だ。というのも、先に挙げた情報伝達物質等の作り手こそ、腸内の善玉菌なのである。
脳腸相関を生み出す「腸内細菌叢」という臓器
脳腸相関がわかってきた背景には、「メタゲノム解析」の発展がある。従来のゲノム解析では、細菌を1つひとつ分離・培養して個々のゲノム(DNAに含まれるすべての遺伝情報)を調べ、特徴を把握するしかなかった。
しかし、ヒトの腸内は、500~1000種類の腸内細菌が100兆個もひしめき合って「腸内細菌叢」(腸内フローラ)を形成している。ゲノム解析の積み重ねによって腸内細菌叢の全体像をつかむことなど、到底現実的ではなかった。
技術革新により実現したメタゲノム解析では、腸内細菌叢のDNA配列を網羅的に決定する。ゲノムがどの微生物由来かはわからないが、腸内細菌叢全体でどのような機能を持つのかは調べられるようになった。
そうして見えてきたのが、【脳⇒腸】方向の情報伝達を含む脳腸相関という現象だ。そして、集合体としての腸内細菌叢が、それ自体“臓器”と言っていいくらいヒトの生命活動に重要な役割を果たしている、という事実だ。
健康な人の腸内細菌叢では、善玉菌:悪玉菌:日和見菌=2:1:7くらいの割合が保たれていることもわかった。
「日和見」菌はその名のとおり、環境によって良くも悪くも働く菌の総称だ(そもそも「善玉」菌とか「悪玉」菌とかいうのも、単にヒトにとって都合がいいかどうかで決まる俗称にすぎない)。
この三者のバランスが崩れると、悪玉菌優勢となって分泌物質のバランスも崩れ、脳腸相関を通じて脳や全身に悪影響を及ぼすことになる。
「汚れた腸」が決して大袈裟じゃないワケ
悪玉菌優勢のサインは、便を見れば一目瞭然だ。
大腸で水分を吸収しきれないうちに排泄されると、「軟便」や「下痢」となる。逆に、大腸での滞在時間が長すぎて水分が過度に奪われるのが「便秘」で、色の濃い、コロコロした硬い便になっていく。
どちらの場合でも、硬さの問題だけでなく、においも明らかにキツくなる。悪玉菌がタンパク質や脂肪分をエサに、腐敗物質を作り出すからだ。腐敗物質は体にとって毒素であり、腸の壁から吸収されて全身に悪影響を及ぼす。
お腹が痛かったり、張ったり、ゴロゴロしたりする。臭いおならが出たり、ひどいと吐き気がしてきたり……想像しただけで、なんだか気分が悪くなってきた(脳腸相関)。
さて、もうおわかりだろうが、「汚れた腸」とは「腸内細菌バランスが乱れ悪玉菌優勢となった腸」のことだ。便の状態とイコールと考えれば、「汚れた」という表現も決して大袈裟ではないと思う。
腸内細菌叢の状態が良好なら、便は茶色く、臭いも強過すぎない。バナナ型で水分は8割くらい、かたすぎずユルすぎず、いきまなくてもスッキリ2~3本出る。健康な便は「キレイな腸」の証しだ。
では、そんな「キレイな腸」を手に入れるにはどうしたらいいのか?
多くの人は、「乳酸菌」「ビフィズス菌」など善玉菌の入った食品やサプリメントを思い浮かべるだろう。
たしかに、食べ物やサプリで善玉菌を外から補充しても整腸作用を得られることは、古くから経験的に知られている。
死菌でも効果はあるようだが、特に生きた善玉菌は「プロバイオティクス」とも呼ばれ、便秘や下痢、乳糖不耐症、過敏性症候群など、腸トラブルの改善が期待できる。
のみならず近年の研究から、炎症反応を抑え、免疫機能の正常化を助けて、糖尿病、皮膚炎、神経障害、睡眠障害等の症状の改善や、感染防御、アレルギーの抑制といった効果が得られることもわかってきた。
研究 ※外部サイトに遷移します
ただし、単一のプロバイオティクスをサプリで摂り続けることは、お勧めしない。有害でなくても、おそらくコストに見合う効果は得られないからだ。
アメリカの最新研究では、18~43歳の健康な男女30人を2グループに分け、単一種のプロバイオティクス(乳酸菌)と偽薬をそれぞれ30日間摂取した後、便を調べた。結果、両グループで腸内細菌叢の多様性には十分な差が見られなかった。
アメリカの最新研究 ※外部サイトに遷移します
外から入れたプロバイオティクスは、腸内に定着しないようだ。また、善玉菌の種類によっては、一時的に増えたものもあれば、減ったものもあった。しかも、摂取をやめて1カ月ほどで通常レベルに戻ってしまった。
「それだけ摂っていればキレイな腸を維持できる」サプリなどないのだ。
複数のプロバイオティクスを含むサプリもあるだろうが、それでも限られた種類を取り続けることになる。やはり自然界の多様性にはかなわない。
お金をかけず「腸活+脳活+楽しみ」を手に入れる
サプリにお金をかけなくても、プロバイオティクスを摂れるお手軽な方法がある。ヨーグルトや納豆、みそ、ぬか漬け、キムチなどの発酵食品(乳酸発酵)を、偏らずにいろいろと、適量ずつ毎日食べよう。
また、プロバイオティクスを増やし、腸内細菌叢の機能を高めるには、エサとなる「プレバイオティクス」が必要となる。プレバイオティクスの代表例は、食物繊維やオリゴ糖だ。
食物繊維は野菜、果物、豆類、キノコ類などに多く含まれる。特に、腸内細菌が分解しやすく短鎖脂肪酸を生み出しやすい「水溶性食物繊維」を意識して摂るといい。
水溶性食物繊維の豊富な食品としては、大麦(押麦等)、大豆(納豆、きな粉等)やいんげん豆などの豆類、らっきょう、ごぼうやかぼちゃなどの根菜類、いも類、海藻類、果物などがある。
オリゴ糖は、豆類、たまねぎ、ねぎ、ごぼう、アスパラガス、ブロッコリー、カリフラワー、アボカド、バナナなどの食品に多く含まれる。「特定保健用食品」として市販されてもいるので、食事の際に砂糖をオリゴ糖に置き換えて使うと効率的に摂取できる。
というわけで腸をキレイにする食べ物、私のイチ推しは「押麦ごはん+納豆」だ。どうしても外食ばかりという人も、ご飯には納豆を1品追加されたい。納豆が苦手なら、「ヨーグルト+オリゴ糖」をおやつにしよう。
嫌いなものを無理に食べ続けたり、サプリでお腹いっぱいにしたりする必要はない。正しい知識に基づいて、おいしく腸活をしていこう。食べる楽しみと脳活まで手に入る。私のような欲張りにはピッタリだ。
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提供元:「腸は第2の脳」汚れた腸が「うつ病」「不眠」を招く|東洋経済オンライン