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2020.12.24

あと50年で「平均寿命」が33年も延びる理由|健康長寿を可能にする科学とテクノロジー


「老いなき世界」を社会はどう迎え、ビジネスはどうシフトし、私たちはどう生きるべきか(写真:Sergey Nivens/PIXTA)

「老いなき世界」を社会はどう迎え、ビジネスはどうシフトし、私たちはどう生きるべきか(写真:Sergey Nivens/PIXTA)

人生100年時代とも言われるように、人類はかつてないほど長生きするようになった。しかし、その結果として不自由な体を抱え、病気に苦しめられながら、長くつらい晩年を過ごすのであれば、私たちはよりよく生きるようになったと言えるのだろうか?

だが、もし若く健康でいられる時期を長くできたらどうだろうか? いくつになっても若い体や心のままで生きることが可能となったとき、社会、ビジネス、あなたの人生はどう変わるのだろうか?

全米ベストセラー『LIFESPAN(ライフスパン):老いなき世界』で、老化研究の第一人者であるデビッド・A・シンクレア氏(ハーバード大学医学大学院遺伝学教授)は、老化は治療できる病であると主張する。本書から一部を抜粋・編集してお届けする。

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健康寿命はどこまで延びるのか

健康寿命がどこまで延びるのか計算してみよう。

『LIFESPAN(ライフスパン):老いなき世界』

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それも、だいぶ控えめな計算だ。今後50年の間にこうした多種多様なテクノロジーが産声を上げていったとして、それぞれが健康な寿命を延ばすことにどれくらい貢献するかを考えてみたい。

DNAをモニターすることで、医師は病気が顕在化するずっと前に気づけるようになる。がんについても、何年も早い段階から見つけて闘うことができる。感染症にかかったら、その正体はものの数分で突き止められる。

心拍に乱れがあれば、車の座席が知らせてくれる。呼気を分析すれば、免疫疾患を発症しつつあることがわかる。キーボードの打ち方からは、パーキンソン病や多発性硬化症が早期に発見できる。

医師は自分の患者について、今とは比べ物にならないほど豊富な情報を手にすることになり、しかも患者が実際に病院に来るかなり前からそのデータにアクセスできる。医療ミスや診断ミスは大幅に減る。このうちどれか1つでも実現すれば、健康な寿命が数十年分追加されてもおかしくない。

しかしここでは控えめに見積もって、これらを全部合わせた結果として健康寿命が10年延びると仮定しよう。

また、老化が「避けて通れない人生の一部」などではないことが受け入れられれば、皆もっと自分の体に気をつけるようになるのではないだろうか。少なくとも私はそうだし、友人や家族のほとんども同様のようだ。

私自身、バイオモニタリングなどのテクノロジーを試すことに決めた時点で、すでに自分の変化をはっきりと感じ取っていた。食事のカロリーを前より抑え、動物性アミノ酸を減らし、もっと運動し、暑さや寒さの中で活動することで褐色細胞を増やそうとするようになったのである。

こうした対策は、社会的・経済的な地位がどうあれ、ほとんどの人が実行できるものだ。しかも、それで活力が増すことには十分な研究の裏付けがある。食事に気をつけながら活動的に暮らせば、健康寿命が10年延びると期待しても決して無謀ではない。

だが、念のためにそれを半分にして、こうした自己管理から得られる健康寿命を5年としよう。これで合わせて15年だ。

控えめに見積もっても113歳

さらに、サバイバル回路を活性化して、長寿遺伝子を働かせるような分子を摂取すると、動物実験では健康寿命が10〜40%延びることが確認されている。しかし、ここでも大事をとって10%と考え、私たちの人生に8年が追加されるとする。ここまでの合計は23年だ。

分子の摂取や、私の教え子が現在マウスで試しているような遺伝子の改変を通して、自分のエピゲノムをリセットできる時代はあとどれくらいで来るだろうか。薬やワクチンで老化細胞を除去できるようになるには、あと何年かかるだろう。

遺伝子改変を施した家畜の体内で臓器を丸ごと育てたり、3Dプリンターで臓器を印刷したりして、それを私たちが移植できるようになるのはどれだけ先だろうか。

おそらくは20年といったところではないかと思われる。30年かもしれない。いずれにせよ、今いるほとんどの人間の寿命が延びて、長くなった人生が終わるまでには、このうちのどれか、もしくはすべてが実現していることが十分に期待できる。

実際にそういう時代になったら、寿命はどれだけ延長されるだろうか。最大で数百年が追加されてもおかしくはないが、ここではたったの10年ということにしておきたい。それで合計33年である。

現時点で、先進諸国の平均寿命は80歳を少し上回るくらいだ。そこに33年を足してみよう。答えは113歳である。こういった変革を拒む人が大多数を占めたりしない限り、それが控えめに見積もった未来の平均寿命だ。

「平均」というからには、人口の半分はその数字を上回ることを意味する。確かに、さまざまな科学技術の進歩がすべて足し算になるとは限らないし、食事に気をつけて運動する人ばかりでもないだろう。

しかし、忘れないでほしいのだが、私たちが長く生きれば生きるほど、まだ予見できない医療の画期的な進歩の恩恵を受ける確率は高まる。

しかも、すでに成し遂げられた進歩が消えるわけではない。だからこそ、『スター・トレック』の世界がどんどん近づくにつれて、私たちが1カ月生きるごとに寿命が1週間延びるのだ。今から40年もすれば、それが2週間になっていてもおかしくない。

80年たったら3週間だ。今世紀が幕を閉じる頃には、なんとも面白いことになっていそうだ。1カ月間死なずにいるだけで、新たな寿命が4週間つけ足されるのである。

未来の数字への心の準備

人類で最も長く生きたとされるジャンヌ・カルマンも、いずれは史上最高齢のトップ10から外れるだろう。それは、こうした理由があるからだ。さらにはその後20年もしないうちに、トップ100のリストからも滑り落ちるに違いない。そのあとはトップ100万にすら入らなくなる。

かつて110歳を超えるまで生涯を送った人たちが、こうした科学技術の恩恵をすべて受けることができていたらどうなっただろうか。120歳や130歳にまで達していた? その可能性はある。

人前でそういうのんきな数字を語るのはいかがなものかと、私はよくほかの科学者からたしなめられる。「よしたほうがいいよ」。最近も研究仲間の1人が善意からそう忠告してくれた。

「どうして?」「だって、世間はまだそういう数字に心の準備ができていないからね」

私はそうは思わない。10年前の私は、医療を改革して患者のためになるものにしようと話しただけで、同業者の間で浮いた存在になっていた。

ある科学者などはこう返したものである。研究者としての私たちの本分は「ただ何かの分子がマウスの寿命を延ばすことを示すだけでいい。それを受けてどうするかは市民が決めてくれるだろう」と。本当にそうならどんなにいいか。

今では、同じ分野の大勢の研究者が、私と同じくらい未来に明るい見通しを抱いている。表立って認めていないとしても、心の内ではそうなのだ。3人に1人くらいは、NAD増強分子かメトホルミンを間違いなく飲んでいるし、少量のラパマイシンを断続的に服用している者だって何人かはいる。

最近では、寿命を延ばすための医学的介入だけをテーマにして、国際会議が数週間に1回のペースで開かれるようになった。しかも、参加者はうさん臭い連中などではない。世界中の一流大学や一流研究機関から集まってくる。

この種の会議では、人間の平均寿命が10年長くなるだけでも世界がどれほど変わるかが、当たり前のように話題にされる。念のためにいっておくが、そういう未来が来るかどうかはもはや議論に上らない。そうなったときに私たちが何をすべきかが話し合われる。

私は最近、政界や実業界、あるいは宗教界のリーダーたちと会う機会が増えている。その際、新しいテクノロジーのことはもちろん、それがどんな影響を及ぼすかについても話すわけだが、そういう場面でも状況は同じだ。

彼ら(国会議員、国家の長、CEO、ソートリーダーなど)は、老化研究が世界を変える力を秘めていることに、ゆっくりながらも確実に気づき始めている。そして、後れをとりたくないと考えているのだ。彼らは間違っているかもしれない。私も間違っているかもしれない。でも私は、それを確かめるまで生きるつもりでいる。

孫の孫にも会える社会へ

「よかったよ、そんなことになる日まで生きていなくって」

こうした言葉をよく耳にする。たいていは、すでに引退した人や、間もなく定年退職を迎える人から聞こえてくるようだ。そういう人たちは、自分の人生があと20年くらいで終わるものと決めている。

当然ながらその間は健康でいたいし、できればそれよりもう何年かは余生を楽しみたくはある。だが、それを超えてずっと長く生きるとは考えていない。彼らにとっては、今世紀の半ばも次の千年紀も同じこと。完全に視界の外にある。

これこそが世界最大の問題だ。未来をひとごとだと思っているのである。

その理由の一端は、私たちが過去とどうつながっているかを見ればわかる。自分の曾祖父や曾祖母をじかに知る機会に恵まれた者はごくわずかしかいない。その名前すら知らない人も多いはずだ。

曾祖父母との関係は概念上のものである。それと同じで、自分のひ孫のことを考えるときも、ほとんどの人は具体性のないおぼろげな存在としか捉えられない。もちろん、自分の子どもたちの生きる世界がどうなっていくのか、心配ではある。彼らを愛しているからだ。

だが、老化や死というものを今の常識に照らして考えれば、自分が世を去って何十年かすれば子どもたちもまたいなくなる。孫のことだって、気にかけていないわけではない。

しかし、そういう存在がこの世に登場する頃には、私たちは往々にして出口のかなり手前まで行っている。しょせん、その子の未来のために自分にたいしたことができるとは思えない。

私はこれを変えたい――ほかの何にも増して。自分の孫はもちろん、その子どもにも孫にも間違いなく会うのだと、すべての人が思えるようにしたい。いくつもの世代が共に暮らし、共に働き、共に決断を下す。私たちは今の生に対して責任を負うのだ。

なぜなら、過去に下した決断が未来に影響を与えていくからである。私たちには、家族の、友人の、そして隣人の目をまっすぐに見て、彼らが生を享(う)ける前に自分たちがどう生きてきたかを説明する務めがある。

よりよい未来を築くという責任

老化が治療されて必然的に健康寿命が延びたとき、それこそが何より世界を大きく変える力になるはずだ。私たちは、先送りにしている問題と否応なく向き合わざるをえなくなる。今現在だけでなく、100年後の人類のためになる研究に投資し、200年後の地球の生態系と気候を心配するのだ。

そして寿命が長くなった結果として、富める者だけがますますぜいたくな暮らしを謳歌し、中流階級が貧困へと転がり始めることのないように、対策も講じなくてはならない。新しい指導者が、公正かつ合法的に古い指導者と入れ替われる仕組みもつくる必要がある。

私たちが消費して廃棄するものの量と、世界が耐えうる量とのバランスもとる。それも、今だけでなくこれから何世紀にもわたって。簡単なことではない。とてつもない挑戦だ。政治があえて触らずにいる問題(社会保障)に触れるだけでなく、水をかぶってからその高圧電線の上に寝そべろうというのだ。

さらには仕事や定年退職について、あるいは誰がいつ何を受け取るべきかについて、これまでの期待を改めていかなくてもいけない。偏見の目を向けてくる人間がいても、以前ならそいつが死ぬのを待てばよかった。でも、もうそうはいかなくなる。これからは正面から向き合って相手の心を解きほぐし、考えを変えてもらう努力をするしかない。

また、人新世(人間の活動が自然界に大きな影響を及ぼすようになった今の地質時代)には、生物の絶滅が自然状態の数千倍のペースで進行している。だが、それもこれ以上見過ごすわけにはいかない。絶滅のペースを著しく遅らせ、できれば完全に止めるのだ。

次の世紀を築くには、皆がどこに住み、どのように暮らし、どういった規則のもとに生きていくかも考えなくてはいけない。健康寿命が延びれば、社会や経済は大きな利益を受け取ることになる。それが必ず賢く使われるような、仕組みづくりも求められるだろう。

今以上に共感と思いやりの心をもち、人を許し、より公正になる。友よ、私たちはもっと人間らしくならねばならないのだ。

(翻訳:梶山あゆみ)

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