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2017.12.25

達成感を支えに働く人の「突然死」リスク|頑張りすぎに気が付かない「隠れ疲労」の恐怖


自分の健康に自信を持っていて、かつ仕事が好きでバリバリこなすタイプの人ほど危険です(写真:Ushico / PIXTA)

自分の健康に自信を持っていて、かつ仕事が好きでバリバリこなすタイプの人ほど危険です(写真:Ushico / PIXTA)

歳末前の繁忙期、ちゃんと寝たのに朝からグッタリ。そんな読者も多いだろう。しかし本当に怖いのは「隠れ疲労」だと、東京疲労・睡眠クリニックの梶本修身氏院長は話す。

―まず、隠れ疲労とは。

疲れがたまっているのにそれを認識できない、疲労感なき疲労です。その先に潜む最悪のケースが過労死や突然死です。

皆さん運動とか体を使ったときの疲れは自覚しやすいけど、たとえばデスクワークしているだけだと疲れたという感覚を持たないことが多い。大きなプロジェクトを成し遂げたとか、成果を出して昇級したとかで意欲や達成感が高まり、興奮状態、幸福感や高揚感に包まれていると、脳は体からの警告を無視して疲れを疲労感に変換しないことがある。前頭葉が容易に疲労感を消してしまうんですね。

すべての疲れは自律神経に負担がかかって発生する

―「疲労感のマスキング」と呼ばれる、隠れ疲労の正体ですね。

脳の眼窩(がんか)前頭野という部分が送って来た疲労データが前頭葉に届く際、快感物質や興奮物質が分泌されているとそれらの警告をかき消してしまう。自分の健康に自信を持っていて、かつ仕事が好きでバリバリこなすタイプの人ほど危険ですね。老化が最も激しいのが自律神経。自律神経の働きを示す「パワー値」(体力)は、10代を100とすると60代は25まで落ちます。30代ガムシャラにやって成功体験を持つ人が、50代、60代で同じつもりでいたらいずれ破綻し、過労死や突然死の危険が生じる。

―やりがいや達成感を支えに働く人に、むしろリスクが高い。

疲労には、体における疲れと頭を使った際の疲れ、人間関係や仕事での精神的な疲れの、大きく3つの疲れがある。そのどれもすべて脳にある自律神経の中枢の疲れです。ここが全身を制御している。内臓、筋肉、呼吸、心拍、血圧、血管の拡張・収縮、体温調節などの司令塔なんですね。

つまり体、目、頭、精神すべての疲れは自律神経に負担がかかって発生する。それらの疲れは足し算で増えていきます。その合計がその人の1日の疲れを示す。ところが隠れ疲労のように自分で疲れを自覚できないと、うまく足し算できない。それが実は危険なことなんです。

―足が疲れた、目が疲れたと個別に疲れが生じるのではなくて、すべて脳の自律神経の疲れだと。

そう、だからきちんと足し算すべきなんです。ただ、根を詰めて仕事した、すごく頑張ったなど、テンションが高いときは、疲労感のマスキングで低めに見積もってしまう。そんな調子で会社帰りにリフレッシュしようとジムに寄るとか皇居の周りを一周走るなんて自殺行為です。サウナに行くのも激しい体温調節で自律神経を頑張らせてしまう。「飲んで疲れを吹き飛ばそう!」というのも肝臓に負担をかけ、新たな疲れを加えるだけの行為です。

疲労は質のよい睡眠でしか回復しない

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梶本修身(かじもと おさみ)/1962年生まれ。大阪大学大学院医学研究科博士課程修了(医学博士)。2003年から産官学連携「疲労定量化及び抗疲労食薬開発プロジェクト」統括責任者。大阪市立大学大学院疲労医学講座特任教授も務める。『すべての疲労は脳が原因』など著書多数(撮影:尾形文繁)

―疲れの足し算とは具体的にどうすればいいんですか?

主観でいいので偏差値的な考え方で普段を50としたとき、今日はいつもより頑張ったから60とか、上司に詰問されストレスを感じたから70とかイメージしてみる。会議で自分がプレゼンしている最中はテンションが高まっていて疲労を感じなくても、終了後は疲れているはずなんです。そうしたときは自律神経の負担を気遣って早く寝ようとか心掛けてもらいたい。

疲労を自覚していなくても、実際は疲労が起こっているはずだという感覚を持つことが大事です。疲労は質のよい睡眠でしか回復しない。肉体はもちろん、精神的なストレスが加わっているときほど自律神経を休めてあげてください。

―疲労は発熱、痛みとともに体からの「3大生体アラーム」だと。発熱や痛みには対処しても、疲労については軽視しがちですね。

そうですね。日本には「お疲れさま」という文化があって、疲れることを美徳化するフシがある。疲れないと仕事をしたことにならないとか、評価しないような風潮がありますよね。それがお疲れさまという言葉に表れている。今日はよく頑張ったなと疲れた自分を褒めたりするでしょ。海外にはお疲れさま文化などない。疲れたことを評価などしないでしょ。アメリカでは60%の力で働き70%の成果を出すよう求める。実際そのほうが効率的で、「グッドジョブ!」と結果を評価する文化ですよね。

―日本人が称賛する集中力神話も、隠れ疲労を招くリスクと。

1日のスパンで見たとき、作業効率を上げたいなら1つの物事に集中するのは逆効果。集中力は本来1時間から1時間半しか持続しません。その後の5〜6時間はパフォーマンスが極端に低下する。ではどうするか。1つのことに集中して脳の特定部位だけを酷使せず、脳全体をバランスよく使い負担を分担することです。オンとオフのバランス、上手な手抜きが脳の疲れを軽減する仕事術です。

今日やる仕事を書き出し、重要度のタグ付けをする。体調や疲れ具合に応じて、優先順位の低いものは明日に回す。1つの仕事に飽きたら、脳の違う場所を使う種類の仕事に移る。“飽きる”という感情自体が脳の疲労サインなのです。

疲労を自覚していなくても

―まずは疲れをため込まない習慣づけが必要ですね。

隠れ疲労の現象として最初に起きるのが体のだるさと眠気です。それと普段楽しめていたことに飽きやすくなる。これは、これ以上同じ箇所に負荷をかけないでくれ、という脳からの信号です。電車に乗ってすぐ眠り込んでしまったら、それは脳が本来備える公共の場での警戒を捨て、「今すぐ休息を」と強制的に意識をシャットダウンした状態。普段歩くところを今日はタクシーに乗ってしまおうか、とふと思ったりする。こうしたことは隠れ疲労の氷山の一角として出てくる症状です。疲労を自覚していなくても、自分の行動の中で、何かしら出てくるところは逃さないようにしてもらいたい。

―直感や衝動に耳を傾ける。

はい。疲れを自覚する前に何かで現れてくることが結構あります。疲れを自覚するのは意識に上ってくることだけど、衝動というのは意識に上っていないデータを整理したもの。だから衝動は、もっと膨大な情報を処理した結果出てくる情報なんです。その情報のほうが実は貴重だったりする。衝動を無視するのではなく、どうしてそんな衝動が生じたのかにちょっと意識を持っていくと、もしかしたら自分は疲れているんじゃないか、と気づけるのではないでしょうか。

『隠れ疲労 休んでも取れないグッタリ感の正体』 (朝日新書)

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提供元:達成感を支えに働く人の「突然死」リスク|頑張りすぎに気が付かない「隠れ疲労」の恐怖|東洋経済オンライン

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