2025.03.07
医師が指南「食後の血糖値急上昇」防ぐ5つのコツ|毎食後「3分間」イスから立ち上がるだけでもOK
血糖値の安定化のためには、“食後30分以内に座っている時間を減らす”ことも有効です(写真:shimi/PIXTA)
成人の5人に1人は糖尿病かその予備群といわれ、健康診断などで高血糖を指摘される人が少なくありません。糖尿病はさまざまな理由で血糖コントロールがうまくいかずに“血糖値が高くなる病気”ですが、誤った知識によって治療に結びつかないケースも。
SNSで筋肉博士として人気の糖尿病専門医・大坂貴史氏がこのたび、『血糖値は食べながら下げるのが正解』を上梓。本書から一部抜粋・再構成してお届けします。
“隠れ糖尿病”にご用心
糖尿病は慢性的に血中のブドウ糖が増えて“血糖値が高くなる病気”ですが、たとえ一日中高いわけでなくても、食後の短時間の血糖値が急激に上がってなかなか下がらないケースが多々あります。一般の健康診断で空腹時血糖値だけを測定していると見逃されがちなので、「隠れ糖尿病」と呼ばれます。
血糖値は、食事をすれば誰でも上がりますが、通常はすい臓からインスリンというホルモンが分泌されてゆるやかに変動します。ところが、インスリンの分泌が不十分だったり、インスリンの効きがよくなかったりすると、食後の血糖値が急上昇したまま、下がりにくい状態が続くことがあります。これを「血糖値スパイク」といいます。
血糖値スパイクがあると、食事のあとに眠くなったり、だるくなったりすると思っている人がいますが、誤解です。ほとんど自覚症状はありません。
しかし、食事のたびに繰り返される「血糖値スパイク」を放置すれば、血管が損傷し、動脈硬化や糖尿病の合併症が進みやすくなるリスクが高まります。健診で空腹時血糖値が正常でも、血糖値の長期的な傾向を判断できるヘモグロビンA1cが6%を超えるときは、一度医療機関で調べてもらうようにしましょう。
血糖値スパイクを避けるためには、糖質の過剰な摂取を控えることも必要です。だから血糖値コントロールにはガマンが必要と思っている人も多いですが、それも誤解です。
やみくもに糖質を避けることはかえってキケンです。
ご飯やパン、麺といった穀類には糖質が多く含まれますが、こうした主食をゼロにするような極端な食事はおすすめできません。ご飯ならお茶碗1杯程度、パンなら6枚切りを1枚半までなら、むしろ食べたほうが健康的です。
米や麦などの穀類は食物繊維のほか、体に必要なミネラルなどのさまざまな栄養素を含みます。
また、極端な糖質制限を続けることで、すい臓からインスリンを出す力にさぼり癖がついて弱まってしまい、かえって糖尿病の引き金になることもあるのです。
一方で血糖値に影響の大きい、ジュースやスポーツドリンク、エナジードリンクなどの甘い飲み物はやめましょう。
甘い飲み物を飲むと、一気に糖質ばかりが吸収されて、血糖値が短時間で跳ね上がります。それが「血糖値スパイク」の温床です。
食後30分以内に立ち歩けば「血糖値スパイク」予防に
血糖値の安定化のためには、“食後30分以内に座っている時間を減らす”ことも有効です。室内でもかまいません。立ち歩くだけで、筋肉が糖をエネルギーとして使い始め、高血糖予防につながります。30分間ずっと立ち歩く必要はなく、食べたら3分間、とにかくイスから立ち上がると覚えておくとよいでしょう。
自宅であろうと職場などの出先であろうと同様です。
例外を設けないことが、継続のカギ。職場でのランチ後、フロアや廊下を少し歩くようにしてみてください。
「たったそれだけ?」と思うでしょうが、「それだけの積み重ね」こそが、将来にわたる健康の下支え。血糖値の安定化は、糖尿病だけでなく脂肪肝やメタボリック症候群をはじめ、あらゆる病気のリスクを低下させる有効な手段なのです。
とはいえ、毎食後となると億劫にも思いますよね。そこで、食後の座りっぱなしを避ける小さな工夫を紹介しましょう。
1 食後、すぐに食器を洗う
自宅にいる場合は、食後にすぐ食器を洗うのがおすすめです。食器を洗いながらかかとを上げ下げする動きを追加すれば、身体活動量もアップ。食後にゆっくり休んでしまうと食器の片付けも億劫になりやすいので、「ごちそうさま」の声を合図に食器を持ち、キッチンへ向かう習慣をつけるといいでしょう。
2 別の作業と紐づけて動く
例えば、食後はすぐに洗面所に行って歯磨きをする。日によっては、リビングや台所をフロアワイパーで拭きながら立ち歩く。気分がスッキリすることと紐づければ、一石二鳥です。ささいなことでいいので、何らかの行動や作業を紐づけることで、わざわざ運動をするという負担感は減らせます。
3 ゆっくりスクワット
立ち歩くのが難しければ、机やイスに手をかけた状態でゆっくり立ったり座ったりを繰り返す「スクワット運動」をするのもOK。下半身の大きな筋肉を刺激して、糖をエネルギーとして効率よく使うことができます。たった1分でもかまいません。毎日の効果は大きいです。
4 職場や出先なら、トイレは別の階へ
ランチ後に用を足したり、身だしなみを整えたりするためにトイレに向かうこともあるでしょう。その移動は絶好のチャンス。ぜひ、1つ上の階や下の階など、階段で別のフロアのトイレを使いましょう。もちろん自宅のトイレも階が分かれている場合は、このような工夫ができます。
5 外食ついでに散歩
勤務中の外食ランチでは、休憩時間をお店でフルに満喫せずに会計を済ませ、帰社する前に少し散歩するのもいいでしょう。気分も新たに午後の仕事に取り組めますよ。
これらの工夫のすべてをやる必要はありません。そのときどきで自身の生活に合わせて実践しやすいものを選びながら、「食後の座りっぱなし」から抜け出して、血糖値の安定化につなげましょう。
目標を2段階にして“ゼロにしない”
さらに、食後の立ち歩きは3分以上できればベストですが、それが難しいときは、できる範囲でかまいません。とにかく、“ゼロにしないこと”がコツです。
このために有効なのがメモに残すこと。
3分以上できたときには◎、1〜3分のときは◯、まったくできなかったら×というように、簡単な記号を記録するだけOK。◎が並んでいれば、「次も◎にしたい!」と取り組みやすく、モチベーションにもつながります。
できるだけ「×」がつかないように、基本の目標とそれが難しいときの小さな目標の2段階を用意しておくこともポイントです。ゼロか100かの2択ではなく、できないときには負担が少ない目標を選んで行うようにすれば運動がゼロにならず、継続しやすくなります。
そもそも、満点を目指すと減点方式になりがちです。そうではなくて、「今日もクリア」と“加点方式”でいきましょう。2段階の目標設定なら、小さな成功を積み重ねられて、結果的に血糖値をコントロールしやすい体になっています。
いつもの活動の“置き換え”でプラス10分の運動を確保
食後の立ち歩きが継続したら、次は“運動の量”を増やしましょう。
“プラス10”といって、いつもより10分運動する時間を増やす取り組みは、これまで運動習慣がなかった人でも始めやすい方法です。この10分は連続した時間でなくてかまいません。1日のうちでトータルの活動時間を10分増やせばよく、家事でもOKです。
何をしたらいいか迷うなら、エスカレーターやエレベーターでの移動を階段に変えてみてはどうでしょう。1つ前の駅やバス停で降りて歩くのもおすすめです。
新しいことを始めようと意気込んでも、3日坊主で続かないのが普通です。それよりも、いつもの動作をもうちょっと運動量のあるものに“置き換える”ところから始めませんか。
運動によって筋肉量が増えれば糖を効率よく使うことができます。筋肉は血糖値コントロールの重要なサポーターです。筋肉を味方につけて血糖値スパイクを防ぎ、血糖コントロールができる体を維持していきましょう。
最後に厚生労働省が紹介している“プラス10”の効果を示しておきます。
体重70kgの男性が10分間早歩きに変えると、35kcal分多くエネルギーを消費。1年365日で12,775kcal消費できるので、脂肪組織を1年で1.9kg減らす効果があります。
脂肪が減ればインスリンの効きがよくなるので、血糖コントロールにも有効です。
まさに、“置き換え活動”のチリツモが高血糖を防ぐと言えますね。
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提供元:医師が指南「食後の血糖値急上昇」防ぐ5つのコツ|東洋経済オンライン