2025.04.15
【医師監修】糖尿病だと心筋梗塞や脳梗塞になりやすいのはなぜ?~症状も解説~
当記事は、Dクリニック東京 ウェルネス 医師・医学博士の相良郁子先生にご監修いただきました。 ※外部サイトへ遷移します。
執筆はライター 前間弘美(管理栄養士)が担当しました。 ※外部サイトへ遷移します。
40代・50代になって、急に糖尿病の診断を受ける方は少なくありません。また、血圧やコレステロール値が高めといわれることも増えます。
そんな中「若い頃は食事や運動に気を遣わなくても健康だったのに…」と感じる方も多いのではないでしょうか。
糖尿病や高血圧、脂質異常症といった生活習慣病は、若い頃からの生活習慣の積み重ねで引き起こされます。つまり急に病気になったのではなく、徐々に病気が進行・発症しているのです。
なお糖尿病の方で血圧やコレステロール値が高いと、糖尿病のない方と比べて更に心筋梗塞や脳梗塞になりやすいことがわかっています。今回は、その理由や心筋梗塞・脳梗塞の症状についてお伝えいたします。
糖尿病が心筋梗塞や脳梗塞を引き起こしやすいメカニズム
糖尿病で高血糖が続いたり血糖値が乱降下したりすると、体の太い血管で動脈硬化が加速します。動脈硬化とは、動脈の内側に様々な物質が沈着して厚く硬くなり、隆起(プラーク)ができ硬くなった状態です。プラークが破裂したり詰まったりすると、心筋梗塞や脳梗塞になります。
また、高血圧や肥満も動脈硬化を進行させる要因です。糖尿病を持つ方が高血圧や肥満、高コレステロール血症を合わせて発症すると、心筋梗塞や脳梗塞のリスクが更に高まります。
これらを予防するためには、生活習慣の乱れを改善することが大切なのです。
関連記事 脂質異常症と動脈硬化の関係~メカニズムや予防方法についても解説~ ※外部サイトへ遷移します。
生活習慣の乱れとは
生活習慣の乱れとは食事や運動、睡眠などの内容やリズムが崩れてしまうことです。
食事の場合は、
・食べすぎ
・偏った食事内容
・欠食
・夜遅くの食事
が当てはまります。
食事内容において理想的なのは、主食・主菜・副菜のそろったものです。主食はパンやごはん、主菜は魚や肉、副菜は野菜や海藻を主に使った料理です。パンやおにぎりだけといった炭水化物に偏った食事や、朝食を食べないなどの欠食が続くと生活習慣の乱れにつながります。
運動では運動不足が挙げられます。
睡眠の場合は、
・睡眠不足
・昼夜逆転生活
などが、生活習慣の乱れといえるでしょう。
関連記事【医師監修】糖尿病は生活習慣の改善で予防〜今から食事・運動・生活を見直そう〜 ※外部サイトへ遷移します。
メタボリックドミノについて
糖尿病の方はある日突然、心筋梗塞や脳梗塞になるわけではありません。
食事の摂り過ぎや運動不足などの生活習慣の乱れから、肥満やインスリン抵抗性(※1)が生じ、高血圧や脂質異常、耐糖能異常(※2)となります。
(※1)インスリンが効きにくい状態
(※2)糖尿病の手前にあたる段階
生活習慣の乱れが高血圧や脂質異常症、糖尿病を引き起こし、後に脳や心臓といった命にかかわる疾患へとつながる流れがまるでドミノ倒しのようだ、と2003年に慶応義塾大学の伊藤裕先生がメタボリックドミノという概念を提唱されています。
日本内科学会雑誌107巻9号1913頁 伊藤 裕 慶応義塾大学教授「メタボリックドミノと先制医療」から引用
どのぐらい心筋梗塞や脳梗塞になりやすいの?
ある研究によると、糖尿病や耐糖能異常がある場合、健康な方と比べて心筋梗塞や脳梗塞といった心血管イベントの発症率が2-3倍高いという報告があります。
関連記事 【医師監修】糖尿病とはどんな病気?症状・原因・治療などをわかりやすく解説 ※外部サイトへ遷移します。
高血圧はリスクを高める
血圧が高いと心血管イベントの発生リスクが高まります。そして耐糖能異常があれば、さらに発症リスクが高くなることもわかっているのです。
【耐糖能異常のある方において血圧レベル別にみた心血管死亡の相対危険度】
荻田学/代田浩之(2016)日本臨休74巻増刊号2 慢性合併症 冠動脈疾患 糖尿病に起因する冠動脈疾患の治療 内科的治療315を参考に作成
血圧と心血管イベントでの死亡危険度を追った研究によると、収縮期血圧(上の血圧)120mmHg未満(※)の耐糖能正常の方と比べて、140-159mmHgの方は10.8倍も危険度が高いという結果があります。さらに160mmHg以上で且つ耐糖能異常のある方は、14.3倍も危険度が高くなるのです。
(※)正常血圧は収縮期血圧120mmHg未満かつ拡張期血圧80mmHg未満
なお糖尿病の方において、拡張期血圧80mmHg以下を目標としたグループでは心血管イベントの発症率が有意に低かったという報告もあります。収縮期血圧を約10mmHg低下させることで、心筋梗塞を12%抑制することも知られています。
血中脂質と心筋梗塞の関係
血中脂質とは、コレステロールや中性脂肪のことです。そして、心血管イベントと大きくかかわるのはLDLコレステロールです。LDLコレステロールとはいわゆる悪玉コレステロールのことで、血液中に増えすぎると動脈硬化を進行させる原因となります。
LDLコレステロール値160mg/dLまでの高LDLコレステロール血症(※)で糖尿病の方を対象とした研究によると、LDLコレステロール値を80mg/dLまで低下させることで、心血管イベントが37%低下したとされています(4年間)。
(※)LDLコレステロール値140mg/dL以上で高LDLコレステロール血症と診断される
心筋梗塞とは
心筋梗塞は心筋を養う血管が突然閉塞することにより、その下流にある心筋へ血液が行き届かず壊死する疾患です。
ほとんどの場合、血管内の動脈硬化が進行した部位の隆起(プラーク)が崩壊することが原因となります。プラークが崩壊してもそのまま修復されれば、問題ありません。しかしプラークが崩壊したあとにできた血栓が、血管を塞いでしまうと心筋梗塞を引き起こすのです。
どんな症状が起こるのか
心筋梗塞は胸部の
・激痛
・しめつけられる感覚
・圧迫感
といった症状が突然起こります。
胸部の痛みは30分以上続き、冷や汗を伴うことが多いです。
ほかにも、めまいや失神、呼吸困難などが初期症状として起こることがあります。
気付かないことがあるって本当?
痛みを感じないまま症状が進んだ場合、心筋梗塞の症状に気付かないことがあります。
無痛性心筋梗塞といい、検査で心筋梗塞と診断できるのに胸痛などの症状がない状態のことです。
とくに糖尿病の方は、糖尿病性神経障害を合併していると痛みに鈍くなるため、無痛性心筋梗塞を起こすことが少なくありません。
また、高齢や高血圧、慢性腎不全なども無痛性心筋梗塞を引き起こす要因として知られています。
検査項目について
心臓の検査は
・問診
・血液検査
・心電図
・心エコー図検査
・冠状動脈造影(カテーテル検査)
・胸部X線像
・冠動脈CT/MRI
などがあります。
心筋梗塞の代表的な症状である胸痛は、他の疾患でも症状としてあらわれます。また痛みの部位は個人差があるため、腹痛と感じることも。
心臓の機能検査を行うことで、心筋梗塞なのか違う疾患なのか判断するのです。
早期治療が大切
心筋梗塞の治療は、血の塊を溶かす薬を使った薬物治療・カテーテル治療・バイパス手術を組み合わせて行います。
なお発症後6時間以内であれば、バイパス手術によって梗塞範囲が小さくなると認められています。心筋梗塞は早期治療が大切です。
というのも、壊死してしまった細胞は元に戻らないからです。早く治療を始めれば、後遺症などの合併を防ぐことができます。なにか異変を感じたら、循環器内科を受診しましょう。
脳梗塞とは
脳梗塞とは、動脈硬化の進行によって脳血管の狭窄や閉塞が起こり、それより下流の脳組織に血液がまわらず壊死に至る疾患です。
原因によって、
・アテローム血栓性脳梗塞
・心原性脳塞栓症
・ラクナ梗塞
に分けられます。
症状はさまざま
アテローム血栓性脳梗塞の場合は無症状期を経て、一過性の脱力・片麻痺・しびれ・失語・黒内障が起こります。数分~数時間で改善するものの、症状がくり返すことも。
さらに進行すると、麻痺・感覚障害・失語などの症状が悪化していきます。
心原性脳塞栓症の場合は、日中の活動時に突然の片麻痺・感覚障害・失語・意識障害などが急に発症します。短時間で悪化するのが特徴です。
ラクナ梗塞の場合は、軽度の運動障害・しびれなどの感覚障害・構音障害が起こります。意識障害や失語などはみられません。
主な検査
脳の検査には
・頸動脈超音波
・頭部CT
・頭部MRI
などがあります。
治療はゴールデンタイムに開始が理想
脳梗塞の治療は、薬物療法とカテーテル治療を組み合わせて行います。
脳梗塞は原因によって治療のできるタイミングや方法が異なるものの、早く治療が開始できるに越したことはありません。
ゴールデンタイムと呼ばれる6時間以内に治療を開始できると、後遺症のリスクが減少するといわれています。
自分や身近な方に何か異変を感じたときは、迷わず病院へ行きましょう。
まとめ
糖尿病や高血圧、脂質異常症は動脈硬化を進行させる要因であり、心筋梗塞や脳梗塞を引き起こしやすいとわかりました。
糖尿病で血圧やLDLコレステロール値が高いと、心筋梗塞や脳梗塞といった心血管イベントの発症率が上昇します。
そして、心筋梗塞や脳梗塞を引き起こさないためには、食事・運動・睡眠のような生活習慣の見直しが大切です。日々の生活を見直すことで、心血管イベントの発症を防ぎましょう。
監修医師:Dクリニック東京 ウェルネス 医師・医学博士 相良郁子先生
福岡大学医学部医学科、長崎大学大学院 医歯薬学総合研究科 卒業、長崎大学病院 第一内科(内分泌代謝班)、長崎大学保健・医療医療推進センターに医師・医学博士・産業医として勤務、その後Dクリニック東京ウェルネスに勤務(長崎大学 保健センター客員研究員兼任)
記事提供:シンクヘルス株式会社
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