2024.02.28
「肝臓に脂肪をためない」お酒のつまみ"神セブン"|飲酒と脂肪肝の「罪深い関係」を専門医が解説
脂肪肝や肝硬変にならない、上手なお酒との付き合い方を医師に聞いてみました(写真:Luce/PIXTA)
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働き盛りの世代にとって身近な肝臓の病気である脂肪肝。近年、国民1人当たりのアルコール摂取量は減り続けているにもかかわらず、アルコール性の脂肪肝の人はむしろ増加しているという。
では、脂肪肝や肝硬変にならない、上手なお酒との付き合い方はあるのだろうか。これまで多くの脂肪肝患者を治療してきた長野県佐久市立国保浅間総合病院スマート外来担当医の尾形哲さんに聞いてみた。
飲む人・飲まない人の二極化
昨今は若年男性を中心に習慣的にお酒を飲まない人が増えており、国民1人当たりのアルコール摂取量は減り続けている。それにもかかわらず、アルコール性の脂肪肝の人はむしろ増加している。なぜだろうか。
「『お酒を飲まない人はまったく飲まないが、飲む人は大いに飲む』という二極化が進んでいるのでは」と尾形さん。
5年以上にわたって過剰飲酒を続け、脂肪肝や肝炎、肝硬変などを生じた場合に「アルコール性の肝障害」とされる。
過剰飲酒とは、1日のアルコール摂取量が純アルコール量で60gを超えるものを指す。
日本酒なら3合(510mL)、ビールならジョッキ3杯(1500mL)に当たる。尾形さんが診ているスマート外来では、習慣的にこの飲酒量を超えて飲酒をしている人の9割に脂肪肝が見られるという。
酒で肝臓に脂肪がたまるワケ
なぜ、お酒の飲みすぎによって肝臓に脂肪がたまるのか。実は、アルコールに含まれる糖質だけが原因ではないようだ。
「アルコールには、『肝細胞での中性脂肪の合成を促して、肝臓への脂肪の蓄積を加速させる作用』と、『脂肪をエネルギーとして使う機能を低下させる作用』の2つがあります。つまり、お酒を飲むということは、『肝臓の脂肪を増やして、脂肪をエネルギーとして使わせない』という薬を飲んでいるようなものです」(尾形さん)
さらにアルコールの作用として、飲酒後には糖質がほしくなる、というのもある。
酒のつまみに脂質が多くカロリーの高い唐揚げなどの揚げ物を食べ、飲酒後にラーメンなどの高カロリーな糖質を摂るようであれば、脂肪肝リスクはより高まる。
糖質の摂りすぎで脂肪が蓄積した肝臓にアルコールによる悪い作用が加わると、肝障害はより重くなりやすく、肝硬変の入り口でもある「肝臓の線維化」も急速に進みやすい。
肝臓では、蓄積した脂肪の毒性によって肝細胞の炎症や壊死(えし)が生じる。それが修復されたときに生じる“傷跡”のことを線維化という。修復が繰り返されて肝臓内の線維化が進むと、肝硬変になっていく。
「正直に言うと、お酒を飲みながら脂肪肝を治すのは難しい」と尾形さん。だが、酒好きが脂肪肝ぐらいでお酒をキッパリやめられるかといえば、それもまた難しいだろう。
そこで、尾形さんが勧めているのが、“減酒”だ。「まずは1日に飲む量から、純アルコール量で20gを減らしてみる。加えて、週1回は休肝日を設けます」。
自分が普段飲んでいるお酒の純アルコール量がどれくらいなのかわからないという人もいるかもしれない。飲んだお酒から簡単に純アルコール量が示されるスマホアプリもある。日頃から飲みすぎている自覚がある人は、まずは、飲酒量を知るところから始めよう。
もし、過剰飲酒に当たる純アルコール量60gを超えた量を毎日のように飲んでいる場合は、超えないように減酒を目指す。
また、お酒を飲んで顔が赤くなる人、つまり、アルコールが分解される際の有害物質・アセトアルデヒドの分解能力が低い人の場合は1日あたり40gが上限となる。
純アルコール量60g(1日あたり、以下同)の上限を守れるようになったら、今度は1日の飲酒量から20g分を減らすようにするのが次なる目標だ。例えば、習慣的に60gを飲んでいた人なら、40gまでにする。
純アルコール量20gは日本酒換算で1合(170mL)、ビールジョッキで1杯分(500mL)だ。つまり、それまで日本酒3合を飲んでいたなら2合に、ビールジョッキ3杯を飲んでいたなら2杯にする。
肝臓によいつまみ「神セブン」
つまみも肝臓によいものにしたい。
肥満や脂肪肝の患者の多くは、野菜の摂取量が目標値の半分以下という研究結果がある。
脂肪肝の改善と減量の成功に向けて、食物繊維(野菜)とタンパク質の摂取も欠かせない。これらが足りていないと食事の満足感が得にくくなる。摂取することによって過食が防げるという。
日本人の成人の食物繊維の目標値は1日20g、野菜に換算すると350gになる。タンパク質の必要量は1日60~90gだ。
尾形さんのおすすめは、コンビニでも入手でき、手軽に食べられる「納豆」「豆腐」「ゆで卵」「サラダチキン」「ツナ缶」「さば缶」「チーズ」だ。常備しておきたいタンパク質の“神セブン”だという。
タンパク質は数回に分けてとったほうが吸収にいいため、1食あたりで20~30gのタンパク質摂取が望ましい。
サラダチキン1本分(100g)はちょうどタンパク質20gだ。納豆1パック、ゆで卵1個はいずれもタンパク質7g。タンパク質に加えて食物繊維も同時に摂れる納豆は、脂肪肝の人はぜひ摂りたい食品といえる。
神セブンのうちの3つ納豆、豆腐、さば缶(写真左:freeangle、右:kari/PIXTA)
AST<ALTは脂肪肝の疑い
脂肪肝は自覚症状のないまま進行するが、脂肪肝が進行した脂肪肝炎、さらに肝硬変でも、より重症化するまで自覚症状はほとんど出ない。肝臓がまさに“沈黙の臓器”といわれるゆえんだ。
肝臓に脂肪が蓄積すると肝臓の炎症が進む。炎症と修復が繰り返され、線維化が進んで、やわらかかった肝臓は硬く、ゴツゴツとした石のようになっていく。肝硬変は線維化が進むほど発がんリスクも高くなる。
「ただし、線維化も初期の段階であれば、肝臓をもとの正常な状態に回復させることが可能です。なるべく早い段階、できれば脂肪肝のうちに発見して改善することが大切です」(尾形さん)
脂肪肝は肥満の人だけがなるとはかぎらない。
日本人は遺伝的に“やせの脂肪肝”が多く、肥満体ではないからと安心はできないのだ。脂肪肝の人の約3割はBMI※25以下で、肥満体ではない“かくれ脂肪肝”だという。遺伝的素因を持つ人、または筋肉量の少ない人、高齢者などに多く見られる。
※BMI(ボディ・マス・インデックス:体重を身長の2乗で割った指数。標準値は22)
脂肪肝は、腹部超音波検査(腹部エコー検査)やCT、MRIなどの画像検査で診断できるが、画像検査のような特別な検査を受けずに簡単に脂肪肝を見つける方法がある。
血液検査の肝機能検査値で、「ALTの数値がASTよりも高い」場合は、脂肪肝の疑いがあるという。
では、脂肪肝をそのまま放置するとどうなるのだろうか。
まず、脂肪肝炎、肝硬変、肝がんといった重篤な肝障害を引き起こすリスクが高まる。
さらに脂肪肝は、肥満や食後高血糖、高血圧、脂質異常症などの生活習慣病発病の上流にある病気だ。放置すれば、次々とドミノが倒れるように負の連鎖が進み、最終的には、心不全や腎不全などの命にかかわるような病気に連鎖していく。
脂肪肝は糖尿病の「前触れ」?
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特に糖尿病は脂肪肝を経て発症するといわれている。
「脂肪肝はあらゆる生活習慣病のもとになる病気です。お酒をほどほどの量で楽しむことができれば、脂肪肝や肝硬変になりにくく、糖尿病などの生活習慣病のリスクも低くなります」(尾形さん)
楽しくお酒を飲む時間は、豊かな人生には欠かせない時間ともいえる。お酒と上手に付き合って、防げるリスクは回避していきたいところだ。
(取材・文/石川美香子)
長野県佐久市立国保浅間総合病院外科部長、同院「スマート外来」担当医
尾形 哲 医師
1995年、神戸大学医学部医学科卒業、 2003年、医学部大学院博士課程修了。パリ、ソウルの病院で多くの肝移植手術を経験したのち、2009年から日本赤十字社医療センター肝胆膵・移植外科で生体肝移植チーフを務める。東京女子医科大学消化器病センター勤務を経て、2016年より長野県に移住。一般社団法人日本NASH研究所代表理事。「スマート外来」は脂肪肝・糖尿病改善のための専門外来。『肝臓から脂肪を落とす食事術』(KADOKAWA)はオーディブル版も発売中。
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提供元:「肝臓に脂肪をためない」お酒のつまみ"神セブン"|東洋経済オンライン