2021.01.07
「病気になりやすい職場」「なりにくい職場」の差|上司の質で「心臓病になるリスク」まで変化する
「病気になりやすい職場」と「なりにくい職場」の違いとは?(写真:kouta/PIXTA)
人間は環境によって左右される生き物です。実は職場にも「病気になりやすい職場」と「なりづらい職場」があることをご存知でしょうか? 「職場環境」や「上司」が健康に与える影響を福島県立医科大学医学部の大平哲也疫学講座主任教授による新書『感情を“毒”にしないコツ』から一部抜粋・再構成してお届けします。
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その人が就いている仕事と病気には、何か関連性があるのでしょうか。職業ストレスと疾患の関係については、さまざまな調査があります。
「ストレスフルな仕事」の条件とは?
スウェーデンで産業ストレスを研究するロバート・カラセック氏が提唱するストレスモデルでは、職業ストレスを「仕事の要求度(仕事量、時間、内容)」と「仕事のコントロール度(裁量など)」の2つの軸から分析しています。
これをそれぞれの特性から、「要求度とコントロール度がともに低い仕事(消極的な仕事)」「要求度が高く、コントロール度が低い仕事(緊張を強いられる)」「要求度が低く、コントロール度が高い仕事(緊張性は低い)」「要求度とコントロール度がともに高い仕事(積極的な仕事)」の4つに分けます。
いちばんストレスが高いのは、「要求度が高く、コントロール度が低い仕事(緊張を強いられる)」でした。仕事の量など負担が大きいのに、コントロール度が低い、つまり自分の裁量でできない仕事です。
逆にストレスをためにくいのは、「要求度が低く、コントロール度が高い仕事(緊張性は低い)」でした。また「要求度とコントロール度がともに高い仕事(積極的な仕事)」は、仕事は大変ですが、自分の裁量でできるため、達成感も得られ、ストレスをためにくいといわれています。
「要求度とコントロール度がともに低い仕事(消極的な仕事)」は、ストレスは低いですが、やる気が削がれてしまうようです。職場などでストレスを改善するには、要求度を下げる、仕事のコントロール度を上げるなどの調整が必要ということになります。
また、仕事のストレスが高いと脳卒中になりやすいという日本のデータもあります。ストレスがもっとも低い「要求度が低く、コントロール度が高い仕事」を1とすると、ストレスがもっとも高い「要求度が高く、コントロール度が低い仕事」は、脳卒中になるリスクが2.73倍も高くなるという研究結果が得られました(図表11、日本人従業員6553人を11年間経過観察した研究:Tsutsumi A,et al.Arch Intern Med.2009)。
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「仕事のコントロール度」だけで比較した別の研究では、「仕事のコントロール度」が高い人を1とすると、「仕事のコントロール度」が低い人のほうが、自殺が4.1倍も高いことがわかりました(図表12、日本人従業員男性3125人を9年間経過観察した研究:Tsutsumi A, et al. Psychother Psychosom.2007)。
『感情を“毒”にしないコツ』(青春出版社)より
仕事を自分のペースでおこなえることも、ストレスを左右するということです。
ただ難しいのは、自分のペースではなく、決められた仕事をきちんとおこなったり、単純作業を繰り返したりするのが好きだという人も一定数いるということです。そういう人にとっては、自分の裁量でおこなうことがストレスになります。
仕事のストレスを緩和する方法
一方、「要求度が高く、コントロール度が低い仕事」に就いている人はどのように対処したらよいのでしょうか。
その1つは、ソーシャルサポートです。カラセック氏らの研究によれば、たとえ職業ストレスが高い仕事であっても、上司や同僚、そして家族のサポートがあると、ストレスの影響が緩衝されて弱くなることを報告しています。つまり、仕事のストレスが多い職場こそ、まわりの人のサポートが病気の予防のために重要なのです。
逆に上司のサポートがないどころか、上司がストレスになっているような職場だと、より病気になる可能性が高くなります。
私は大阪で勤務していたときに、教員のメンタルヘルスにかかわる仕事をしていました。小学校、中学校の教員は、子どもたちの教育や生活の指導のみならず、親との対応などで年々ストレスが増加しています。
忙しくてストレスが多い職場であっても、校長先生や教頭先生など上司がしっかりサポートしてくれる学校では、教員のモチベーションが高くメンタルヘルスが保たれている印象を受けました。逆にうつ状態になってしまった教員の多くは、上司からの理解や支援がないことを強く訴えていました。
ちなみに、職業によっても病気になるリスクに違いがあるという報告もあります。スウェーデンの研究で、バス運転手、タクシー運転手、トラック運転手の心筋梗塞のなりやすさをほかの職種と比べたところ、特にストックホルム市内のタクシー運転手とバス運転手のリスクがいちばん高いことがわかりました。
ほかの職種に比べてタクシー運転手で1.65倍、バス運転手で1.55倍も心筋梗塞のリスクが高かったのです。さらに、これらの関連は喫煙や体重などの因子とは関係なく見られました。これらの運転手の8割は職業ストレスが高いことが知られており、職業ストレスの影響だと考えられています(Gustavsson P, et al. Occp Environ Med.1996)。
上司の質で「心臓病になるリスク」が変わる
上司からのストレスに悩んでいる人は多いでしょう。実際、職場の上司との関係に悩み、うつになってしまう人があとを絶ちません。あなたの上司がどんな人かによって、うつどころか、心臓病になるリスクまで上げるかもしれないといったら、驚かれるでしょうか。
『感情を“毒”にしないコツ』(青春出版社)
『感情を“毒”にしないコツ』(青春出版社) ※外部サイトに遷移します
上司のリーダーシップと部下の虚血性心疾患の発症との関係を調べた研究があります。部下に以下のような質問を投げて回答してもらいました。
(1)私の上司は私が必要な情報を与えてくれる(情報提供)
(2)私の上司は仕事の目標を明確に示してくれる(目標提示)
(3)私の上司が私に何を期待しているのかを把握している(期待)
(4)私の上司は部下の育成と管理に十分な時間をかけてくれる(育成管理)
その回答結果から虚血性心疾患発症の相対危険度を調べました(図表13、年齢調整済み。スウェーデン人3122人を9.7年間追跡調査した研究)。
『感情を“毒”にしないコツ』(青春出版社)より
「情報提供」してくれる上司がいる部下のリスクは0.65倍、以下「目標提示」は0.61倍、「期待」は0.77倍、「育成管理」は0.69倍と、いずれも低かったのです。つまり優秀な上司のもとで働いている部下は、そうでない人に比べて心臓病になるリスクが23〜35%低いということになります。
上司は基本的に自分で選ぶことはできませんが、今、上司との関係でストレスを抱えている人は、自分の健康のためにも、部署の異動、あるいは転職を真剣に考えてもいいのではないでしょうか。
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提供元:「病気になりやすい職場」「なりにくい職場」の差|東洋経済オンライン