2018.11.22
「能力のピーク」が40代以降に来る人の思考法| 「若いほどいい」は思い込みだ
もう自分は学ぶには遅すぎる…などとあきらめないでください(写真:muu / PIXTA)
もう若くないから、学ぼうとしても効果が薄い……そんな方に朗報です。
学ぶ能力というと一般的には年齢が若い時にピークを迎えると思われています。筆者が身を置いていたIT業界でも、「エンジニア35歳定年説」というのがまことしやかに言われています。35歳を過ぎると日進月歩のテクノロジーを覚えていくのが難しくなるからというのがその理由です。しかし、以下のデータを見ると、学ぶことが必ずしも若い方だけに有利というわけではないことが見えてきます。
人間の能力のピーク年齢は能力ごとに異なる(図:筆者作成)
学びのピークはこれからやってくる
図はマサチューセッツ工科大学(MIT)の認知科学研究者で、加齢に伴う知能の変化に関する研究を率いるジョシュア・ハーツホーン氏の研究結果によるもの。人間の能力のピーク年齢は、能力ごとに違っているということを示しています。
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情報処理力や記憶力などは10〜20代でピークを迎えます。大量の知識を覚える受験勉強などは確かに若いほうが有利ということでしょう。しかしすべての能力のピークがこの年齢ではないのです。
たとえば、集中力は40歳を超えてからがピークです。私個人を振り返ってみると、確かに40歳前後は電車の中でも周りの音がまったく気にならず短時間で資料を作っていました。そして人の感情を読み取る力も48歳がピークです。いろいろな立場や経験がなければ相手の感情を理解することは難しいでしょうから、頷ける分析結果です。
さらに見ていくと、基本的な計算能力、歴史的な出来事や政治的な思想といった一般的な情報を学び、理解する能力は50歳がピークということです。
アラフィフ年代である筆者はこの分析結果を知り、もっと学ばなければと気を引き締めました。いずれの能力も鍛えておかなければピークの年齢がきても満喫できません。
数値が得意なほうではないので、計算能力がこれでピークと言われるとガックリするところもありますが、理解力はできるだけピークを高めておきたいと思ったりしたわけです。
では、能力のピークを高めるためにどうすればよいのでしょうか? 学びのメカニズムを知ることでより効果的な学びが得られるようになります。特に理解力を高めるにために有効な学びの3つの視点をご紹介します。
それは「生物学視点」「段階的視点」「社会的視点」という3つの視点です。
筆者は外資系コンサルティング会社で人材育成部門で数々の研修を開発し、社内講師の育成にかかわってきました。この3つの視点は研修開発手法の中にあるもので、受講生の学びを最大化するために知っておかなくてはならないものです。これを知ることで自分自身の学び方も大きく変わりましたので、皆さんも参考にしていただけるとうれしいです。
生物学的視点:短期記憶と長期記憶
まず1つ目の生物学的視点ですが、これは記憶のメカニズムの話です。人の記憶には短期記憶と長期記憶の2種類があります。
短期記憶というのは、長期記憶に情報を保存したり、逆に長期記憶から情報を引き出したりするための一時的な保管場所のようなものです。 短期記憶は時間の経過や新たな情報が入ってくることですぐに忘れられてしまいます。
対して、脳が本格的に情報を記憶するときに使うのが長期記憶。つまり脳のハードディスクですが、容量は限られていますから、脳は仕分けを行い、必要と判断された情報だけが、大脳皮質に送られて長期保管されます。コンピュータに例えると短期記憶はバッファ、長期記憶はハードディスクのようなものというと、わかりやすいでしょうか。
では、短期記憶に蓄えられた情報はどのくらいの時間維持されると思いますか? 実は数十秒ととても短いのです。短期記憶にとどめるために必要なのは「繰り返し」です。たとえば電話番号などを覚えようとする時には何度か繰り返すことで覚えられますが、時間が経つと忘れてしまいます。これはその情報が長期記憶に転送されていないからです。
長期記憶に転送するためには、すでに持っている情報と新しい情報を組み合わせて、重要なものと認識させることが必要になります。たとえば、電話番号を語呂合わせで覚えたりしますが、これはすでに持っている情報と統合しているわけです。
電話番号という単純な情報の記憶について説明しましたが、物事を理解するということもこれと似ています。自分の中にある経験や知識と統合することで理解が進むのです。つまり、経験豊富なアラフォー&アラフィフは、新しい知識と統合できる過去の経験などをたくさん蓄積しているので、若い人より有利な面があるわけです。
余談ですが、今私の娘は受験生なのですが、その受験勉強を見ていると以前より興味を持っている自分に気がつきます。物理や数学など学生の頃はそれほど興味がなかった科目でも、さまざまな経験をしている分、「そういうことだったのか!」と面白く感じるのです。経験が少ないままの受験勉強は苦痛かもしれませんが、これも大人になるといろいろな経験と結び付くのだよ、とあの頃の自分に教えてあげたいと思う今日この頃です。
段階的視点:学びは段階的に質が深まる
学びは一度に起きるわけではなく、段階的に起きます。これをモデル化したものがASAPモデルです。
学びは一度に起きるわけではなく、段階的に起きる(図:筆者作成)
第1段階のAcquireは、覚える段階でここでは短期記憶から長期記憶に転送するために複数の感覚を使ったり、経験したりします。
第2段階のStructureでは、構造化します。自分の中で情報を体系的に整理したり、人に話せるようなストーリーや比喩などにします。
第3段階のAttemptでは、実践し、それを見直すことで試します。
第4段階のPerformでは、本質を理解して応用したり、新しいことを発見します。
ポイントは、学習は段階的に起こるということです。各段階を経て学びの質が深まっていきます。どれかの段階が完了できていないと、次の段階での学びを成功させる可能性は低くなります。
多くの方々を指導してきた経験から、学びを自分の仕事で活かせていない方は単に覚えたり、知ったというだけで、自分の中で構造化していないので、「つまり……こういうこと」という整理ができていないのです。知っていること、理解していること、できることには大きな差があります。自分の学びが今どこにあるのか、ASAPモデルで考えてみましょう。
社会的視点:教えることこそが最高の学び
3つ目のデータは、どんなことをすると学んだ内容を体得しやすいかということの調査結果です。音声を聞いたり、本を読んだり、動画や講義などよりも、他者と学習したことを話し合ったり、ほかの人に教えるということで学ぶ内容が最大化しやすいということがわかると思います。
人は社会的な生き物ですから、他者の存在から受ける刺激はとても大きいものです。私は人材開発部門で優秀な社員の方を社内研修の講師としてスカウトしてきましたが、講師をした方から言われたのは、「受講生よりも誰よりも自分がいちばん勉強になった」という言葉です。
人に教えようとするとその何倍も準備が必要です。1時間の講義をするとした場合、単に1時間分の情報や知識を準備すればいいということはありません。これは研究結果から出た数値ではありませんが、講義するならその10倍の語れる内容が必要だと言われていました。自分の中で知っていることを構造化して、いろいろな状況を仮定して話すということはASAPモデルがおのずと深まっていくということになります。
どんなことをすると学んだ内容を体得しやすいか(図:筆者作成)
私はリアルな研修や講演以外でも、オンライン学習プラットフォームなどでも講義をさせていただいていますが、生放送中のチャットのやり取りは受講者の皆さんはとても前向きで熱心で感心させられることしきりです。一方通行で講義を受けるだけでなく、自分の言葉でアウトプットし、それに対してフィードバックが得られることでますます学びが深まっていきます。「一人で闇練」を抜け出して学びの仲間を見つけてみましょう。
アラフォー&アラフィフの皆さん、もう自分は学ぶには遅すぎる……などとあきらめないでください。これから学びのピークがやってきます。新しい情報が皆さんのこれまでの経験や知識と統合されることで深い学びになっていくと思います。
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提供元:「能力のピーク」が40代以降に来る人の思考法|東洋経済オンライン