2018.09.07
仕事を他人に振るのがヘタな人の悪い頼み方│「誰が何を」やるのか、細分化して伝えよう
「できるだけ早く」という視点も必要です(写真:ijeab/iStock)
ソフトバンクは「発表経営」だとよく言われます。新規事業の開始や他社との提携・買収などをマスコミの前で大々的に発表し、つねに世間の注目を集めてきたからです。
とはいえ、大変なのは周囲の人間です。孫正義社長が指定する期日は、いつも最短・最速でした。どう考えても、「とても間に合いません」と言いたくなるような締め切りを決めて、「この日までにやる!」と宣言してしまうのです。
そして、孫社長から振ってくる新しいプロジェクトのマネジメント(プロマネ)を任されたのが、かつてソフトバンクの社長室長を務めていた私でした。
ただ、孫社長の下で会社を急成長させるべくフル稼働していたソフトバンクの社員は、誰もが相当ハードに働いていました。そんな中で予定にない仕事を頼んだら、嫌がられるのは当然です。私だって、そんな人たちに仕事を割り振るのは気が引けました。
でも孫社長の締め切りは絶対です。引き受けてもらうほかありません。しかも、少しの遅れも許されませんから、「締め切りを守ってもらえない」「頼んだものとは違うアウトプットが出てしまう」といった事態は絶対避けなくてはいけませんでした。
「動詞」ではなく「名詞」で頼む
拙著『孫社長の締め切りをすべて守った 最速!「プロマネ」仕事術』でも詳しく解説していますが、私がメンバーに仕事を割り振る際、徹底して行ったのが「アウトプットを『名詞』で伝える」ということです。
『孫社長の締め切りをすべて守った 最速!「プロマネ」仕事術』 ※外部サイトに遷移します
ありがちな失敗パターンは、「動詞」でアウトプットを伝えてしまうことです。
「来週金曜日までに、競合他社の顧客満足度を調べてください」
そう伝えたのに、期日になってもアウトプットが上がってこないので本人に確認すると、
「はい、調べました。でも、まだリポートにはまとめていません」と言われてしまった……。そんな苦い経験をしたことがある人は多いはずです。
これでは納期までにタスクを確実に完了できません。「処理中」「検討中」などのステータスが並べば、そこでプロジェクトは止まってしまいます。
ですから仕事を頼むときは、
「来週金曜日までに『競合他社の顧客満足度調査報告書』をお願いします」
というように、出すべきアウトプットを名詞で明確に伝えることが大事です。そうすれば、依頼されたほうも逃げ道はありません。「調べはしたんですけど……」といった言い訳もできなくなります。
当たり前の話に思うかもしれませんが、これを徹底する否かで、スケジュールの遅れが発生する確率、つまりプロジェクトの進むスピードが劇的に変わってきます。
複数の部門がかかわるプロジェクトでは、「これは〇〇部門のタスク」というように、部門ごとにタスクの割り振りがされることがよくあります。しかしこの割り振り方は非常に危険です。
担当は「部署名」ではなく「個人名」で
一つひとつのタスクを着実に完了し、プロジェクト全体を前に進めていくためには、「個々のタスクについて誰が責任を負うのか」を明確にすることが不可欠です。
よって、タスクごとの担当者を必ず決めて、管理シートやガントチャートなどの紙に落とすこと。しかも、部署名ではなく、「個人名」で記載することが絶対条件です。自分に責任があるとわかれば、誰でも約束を守ろうとします。
「当たり前のことじゃないか!」と思うかもしれませんが、実際は「担当者」を決めることを嫌がる会社や組織が少なくありません。
私はこれまで、アドバイザーや顧問としてさまざまな企業や公的機関のプロジェクトに参加してきましたが、大きな組織ほど担当者を決めたがりません。プロジェクトの工程管理表であるガントチャートを作っても、タスクの横の担当者名は空欄のままということがよくあります。
書いてあったとしても、個人名ではなく部署名だけで終わっていることもしばしばです。「その部署の誰が担当なのか」を明らかにするのが嫌なのでしょう。私が担当者名を書類に明記するようアドバイスしても、激しい抵抗を受けます。
「個人として誰が責任を持つのか」をはっきりさせたくないという、日本的な組織の体質をひしひしと感じる瞬間です。しかし、これではプロジェクトを遅れなく回すことは、まずできません。
無理なくやれるサイズに細分化
もちろん、メンバーができるだけ約束を守りやすいよう配慮することも大切です。プロマネとしてタスクを割り振る際、実践すべきことは2つあります。1つは、その人が「無理なくやれるサイズに仕事を細分化する」ことです。
すべてのメンバーが、自分に与えられたタスクを期日までにやり遂げ、プロジェクトを進めていくためには、誰もが確実にできるサイズにまで仕事をブレークダウンすることが必要です。
大きな塊のまま仕事をドンと与えて、「1カ月でこれをやって」と言っても、うまく段取りやペース配分ができず、期日までに終わらない人が必ず出てきます。でも、その人が1週間でできるサイズにタスクを小さく分解して渡せば、たいていの人は期日までにやり遂げることができます。
経験が少ない新人や若手でも、1週間という枠の中でなら「この書類を来週月曜に提出するには、今週水曜までに資料を集めて、木曜中に下書きをして、金曜には仕上げないといけないな」と逆算して自分の仕事を進めることが可能です。
たとえるなら、親鳥がエサを小さくかみ砕いてからヒナの口に入れてあげるように、プロマネはメンバーが無理なく仕事を回せるよう、それぞれのスキルや経験のサイズに応じてタスクを小分けするのが大事な役目ということです。
ゴールから逆算して早めに依頼
プロマネとしてタスクを割り振る際にもう1つ大切なのは、当然ですが、とにかく「早めにタスクを割り振る」ことです。納期直前になって急な仕事を頼まれることほど、嫌なものはありません。「無理です」「できません」と断られても、致し方ないでしょう。
「そこを何とか」と無理に頼み込んで残業や休日出勤を強いることがあれば、それこそプロマネは信頼を失います。そうならないためにも、プロマネはゴールから逆算して、早めのタイミングでメンバーに仕事を割り振ることを心がけなければなりません。
たとえば、「プレゼン資料を作る」というゴールなら、それまでのプロセスで「競合他社の売り上げデータを集める」「営業部門に小売店での売り上げ動向についてヒアリングする」「資料の方向性について、プロマネとすり合わせる」「下書きと目次の段階で、一度プロマネがチェックする」といったタスクが発生します。
それらを逆算し、各タスクにどれだけ時間がかかるかを考えたうえで、早めに最初の「競合他社の売り上げデータを集めてください」というタスクを割り振る必要があります。
これは同時に、プロマネ自身の仕事を増やさないための方法でもあります。早めに仕事を割り振れば、相手もプロマネが目指す方向性を早い時点で把握できます。途中のプロセスでも方向性が合っているか確認しながら進めれば、最終的にプロマネが求めるアウトプットを確実に出してくれます。
締め切り直前になって、こちらの意図したものとまったく違う資料が上がってきたら、プロマネも作り直しの指示や再チェックなどの2度手間が発生します。最悪の場合、担当者だけでは締め切りに間に合わず、プロマネが手伝うことになったりもします。
メンバーのためにも、そしてプロマネ自身のためにも、「タスクの割り振りはできるだけ早く、小さいサイズで」が鉄則なのです。
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提供元:仕事を他人に振るのがヘタな人の悪い頼み方│東洋経済オンライン