2025.02.26
コロナ禍で激増「足をめぐる」深刻症状の後始末|気づかぬうちに「テレワーク足」になっている
コロナ禍によるテレワークの普及で、足の筋力が衰えている人が多いという(写真:asaya/PIXTA)
私たちの生活を大きく変えたコロナ禍ですが、「足のクリニック表参道」 院長の桑原靖先生によれば、じつはその影響を大きく受けているのが「足」なのだそうです。
そこで本稿では、足や脚に悪い生活習慣と合わせて、テレワークの普及によって弱った足を鍛え直す方法を解説します。
※本稿は、桑原靖氏の著書『外反母趾と足底腱膜炎 自力でできるリセット法』から、一部を抜粋・編集してお届けします。
足や脚に優しくない習慣にサヨナラしよう
足に負担をかける動作や習慣を避けることも、足を守ることになります。足のために「やらないほうがいいこと」「やってはいけないこと」を知ってください。
無意識のうちに、足に余分な負担をかけていることがあります。その代表例が、椅子に腰をかけているときに無意識にやりがちな、「脚を組む」という動作です。
骨盤は水平に保つことが理想です。ところが、脚を組むと骨盤が傾いてしまいます。そうなると股関節の動きが悪くなり、ひいては腰や膝や足の動きも悪くなります。
すでに体に歪みがあるせいで、脚を組むほうが楽な人もいます。そのため無意識に脚を組んでいる人も多いと思います。
よく「いつも同じ側だけで組むのがいけないのであって、逆脚でも組んで、左右の時間を均等にすればいい」と勘違いしている人がいるのですが、それは違います。
脚を組む癖のある人は、自分が脚を組んでいることに気づくたびに、脚を戻しましょう。骨盤を立たせる姿勢を意識して、座り直してください。
無意識にやっている癖なので、組まずにいることはなかなか難しいのですが、「気づいたときにやめる」という習慣をつければだいじょうぶ。少しずつでも脚を組む時間を減らしていきましょう。
(出所:『外反母趾と足底腱膜炎 自力でできるリセット法』より)
「テレワーク足」になっていないか?
「歩く」という動作にも、人それぞれにできる限界があります。
「平らな道はいいんだけど、階段を上るのがつらい」「10分や20分ならなんともないけど、1時間歩くと膝が痛くなる」といったように、足にかかる「負荷の量」と「負荷のかかる時間」が増えれば増えるほど、それぞれの限界に近づくことになります。
そして限界を超えると、足に不調が出るのです。
かりに都会で平均的に暮らしている人が、いきなり30キロの道のりを歩けば、健康な人でも膝や脚がダメージを受けて痛みが出るはずです。
それが、負荷が限界を超えたということです。個人差はありますが、誰にでもそういう活動限界値(ボーダーライン)があります。
運動不足になって、脚や足の筋肉と関節を動かさないでいると、このボーダーラインが下がってきます。それは、少し運動しただけでも限界を超えてしまうということです。
そうなると、それほど動いたわけでもないのに、痛みが出てくるのです。
コロナ禍でステイホームが叫ばれた時期に、立つとふらついたり、足に痛みが出たりする人が増えました。原因はテレワーク(在宅勤務)による足の機能低下です。
自宅に引きこもっていたことで、足の筋肉や関節を動かさなくなり、ボーダーラインが下がってしまったのです。
たとえば、かつては1日に1万歩も歩いていた人が2000歩くらいしか歩かない生活になれば、知らず知らずのうちにボーダーラインは下がっています。
これは足のトラブルを引き起こす危ない状況です。私はこれを「テレワーク足」と呼ぶことにしました。
自分のボーダーラインが知らず知らずのうちに下がっていたことに気づくのは、ステイホームが少し緩くなり、みなさんが週に1回ぐらい出社するようになったときでした。
前と同じように通勤しただけなのに、帰宅すると足が痛くなっていて、異変に気づく。それで私のクリニックに駆け込んでこられたのです。
コロナ禍によるテレワークだけではありません。歳をとって筋力量が少しずつ落ちていっても、同じことになります。また、寝たきりの入院生活が長いなど、狭い空間に長く閉じこもっていれば同じことが起こります。
テレワークなどの弊害は、足に限りません。体全体に影響が及びます。そして足の土台がもともと弱い人は、そのマイナスがより顕著に出やすいのです。
(出所:『外反母趾と足底腱膜炎 自力でできるリセット法』より)
「いきなりランニング」は百害あって一利なし
コロナ禍のせいで自分が「テレワーク足」になっていることに気づき、焦って「毎日1時間散歩しよう」「走ろう」などと急にやり始める人は少なくありませんでした。
その結果、前述の通り、私のクリニックに「足が痛くなった」と訴えて来るようになった方が増えました。その数は、なんと毎月50人。
自分のボーダーラインが下がっていることに気づかずに、以前と同じつもりで運動を始めたところ、ボーダーラインを超えてしまい、足を痛めてしまったのです。
診察していた側の私も、自分自身、「自粛」の足への影響が大きいことを痛感しました。
「運動不足だ! これはまずい!」と気づいて運動不足を解消しようという意気込みはいいのですが、一度下がったボーダーラインはすぐには上がりません。少しずつ上げていかないと、足への負荷が大きくなってしまいます。
活動のボーダーラインが下がった状態で、いきなり運動を始めるのは危険です。運動不足を補うつもりが、足に限界以上の負担をかけることになり、痛みが生じることになります。
このボーダーラインは、下がるのは早いのですが、上げていくには時間がかかるのです。
ランニングは気軽に始めがちですが、けっこう危険です。運動不足の方は、まずは散歩から始め、慣れたら少し早足で走って……、などと少しずつ運動量を上げていってください。そうでないと、膝なども痛めてしまいます。
大きなメリットがある「宅トレ」の注意点
「宅トレ」という言葉をご存じでしょうか。家の中での体操・運動を指す略語ですが、コロナ禍の2020年頃から使われ出しました。室内で運動する様子を映した動画は、インターネットにあふれています。
宅トレには大きなメリットがあります。有酸素運動でも、筋トレでも、ストレッチでも、自宅にいながらできるのですから、雨の日でも、猛暑・極寒の季節でも関係ありません。好きな時間にできて、たいてい費用もかかりません。
ところが、室内でマットなどを敷かずに裸足で運動すると、衝撃が足を直撃します。裸足での運動は足に大きな負荷を与え、それだけでボーダーラインを超えやすくなります。裸足で縄跳びなどをすれば、疲労骨折のおそれもあります。
骨は硬くて安定しているように思えますが、骨の中には骨を作る骨芽細胞と、骨を壊す破骨細胞があって、骨を作り出すことと壊すことが同時におこなわれています。
ところが小さな負荷を与えすぎると、壊すほうが多くなってしまうのです。そうなると、骨を「作る・壊す」のバランスが崩れ、疲労骨折が起きてしまうことがあります。
初期の疲労骨折は、MRI(磁気共鳴画像法)検査でもしないことにはわかりません。普通のレントゲン検査では写らないので、整形外科で痛みを訴えても「何ともありません」と言われてしまうことが多いのです。
2週間ぐらいたっても痛みが続くので再度レントゲンを撮ってもらい、初見時との変化をみて疲労骨折が初めてわかることになります。
「裸足=健康にいい」わけではない
自宅で運動するときには、体への衝撃を和らげるためにマットを敷きましょう(近所への騒音対策にもなります)。
マットを敷いたうえで、室内用の運動靴もはくことで、足へのダメージが減らせます。家の床は地面ほど硬くないので、スニーカーよりも軽い靴でだいじょうぶです。
靴下だけよりもスリッパ、スリッパよりも室内シューズがより安心です。靴は足を守るためのツールですから、使用用途によってかえてください。
「ベアフット」という言葉をご存じでしょうか。直訳すると「裸足」です。近年は「ベアフットシューズ」などと言われて、裸足のような感覚で走れる靴も出ています。
けれども、「裸足=健康にいい」わけではありません。足の骨格構造が弱い人が裸足で生活すると、親指の付け根、甲、かかとに負担がかかって、痛み出す可能性があります。ずっと裸足で過ごすのは、足にけっしていいことではありません。
『外反母趾と足底腱膜炎 自力でできるリセット法』(アスコム)
【あわせて読みたい】※外部サイトへ遷移します。
提供元:コロナ禍で激増「足をめぐる」深刻症状の後始末|東洋経済オンライン