2024.11.28
知っておくと便利「つらい咳」を止めるツボと食材|漢方に詳しい薬剤師が紹介する咳止め漢方3種
急に出て止まらない咳。日常で使える技を紹介します(写真:buritora/PIXTA)
今の時期になると増える咳の相談ですが、今年は例年よりも相談が多く寄せられています。そこで今回は、咳がどうして起こるのか、咳の治療法、咳に用いられる漢方薬や養生について紹介します。
咳が出る理由
そもそも、なぜ咳が出るのでしょうか?
日本呼吸器学会の「咳嗽(がいそう)・喀痰(かくたん)の診療ガイドライン」には、咳嗽(咳のことです)とは、「気道内に貯留した分泌物や異物を気道外に排除するための生体防御反応である」と書かれてあります。
このように、咳は基本的に体内に異物が入らないよう防御する際に生じます。ほこりやハウスダスト、細菌やウイルスなどの異物が侵入すると、気道にある咳受容体が刺激され、咳が出るのです。また、貯留物である“たん”を出す際にも咳が出ます。
咳は体の防御反応なので、無理やり止めるのはおすすめできません。根本の原因が解決すれば自然と止まるはずです。
ただ、昨今は新型コロナウイルス感染症を経験して以来、多くの人が「咳」に対して過敏になっています。咳き込むと周りに迷惑をかけてしまうのではないかと不安になりますし、実際に周りの目が気になるという方もいるでしょう。
また、1回の咳で消費されるカロリーは約2キロカロリーですので、だらだらと続くことにより体が消耗してしまうという問題もあります。
今年、咳が多い背景
今の時期になると気温とともに湿度が下がり、空気が乾燥します。
乾燥した空気は気道や肺を刺激しやすく、咳の原因になりやすいです。それだけでなく、気道の防御機能を低下させ、ウイルスや細菌に対する抵抗力も弱まるため、咳が長引くこともあります。
今年は夏が暑く長かったため、体力を消耗し、免疫力が低下している方が目立ちます。漢方の見立てをすると、そういう方の多くは体が脱水傾向(陰虚:いんきょ)になっています。そのため、例年よりも乾燥ダメージを受けやすくなっているようです。
特に今年はマイコプラズマ肺炎という、たんの少ない頑固な咳が長引くのが特徴の感染症が流行していますし、インフルエンザでも咳がしつこく残るケースも増えているようです。さらに、寒暖差が原因で咳や鼻水が出る寒暖差アレルギーも、例年より多い印象です。
このように咳の原因はさまざまですので、原因に則した治療が必要です。
まず、原因となっている病気があれば、それを改善することになります。
例えば、マイコプラズマ肺炎やインフルエンザなどでは、原因となっている病原体やウイルスに対して、有効な抗ウイルス薬や抗菌薬を用います。
アレルギー症状やぜんそくなどで気道に炎症が生じて過敏になっている場合は、炎症を鎮める抗アレルギー薬や抗ヒスタミン薬、ステロイド吸入薬などで対処します。
また、胃食道逆流症という病気で咳が出ることもあります。
胃食道逆流症とは、胃の内容物が食道に逆流し、胃酸で食道が傷つく病気です。食べ過ぎや早食い、食べてすぐ横になる生活習慣などが悪化の原因とされています。日本では10人に1人以上の割合で存在し、増加傾向にあります。この場合、胃酸分泌を抑える治療をします。
西洋薬の鎮咳薬(ちんがいやく:咳止め)は、咳の症状が特にひどいときや、咳がひどく眠れない場合には就寝前に服用します。
脳の咳中枢に作用する成分は強い作用があるため、大量に服用すると危険です。濫用を防ぐために、購入本数が制限されている咳止めシロップもあるくらいです。購入時は薬剤師などに相談のうえ、適量を守って服用しましょう。
また、飲み合わせに注意を要するものもあります。
緑内障の目薬などにも併用禁忌のものがありますので、注意が必要です。ドリンク剤やサプリメントの併用にも注意しなければなりません。病院から処方されている薬がある場合、サプリメントも含め、必ず薬剤師などの専門家に相談してください。
咳止め効果のある漢方薬3種
標準的な西洋医学の治療でうまくいかない場合、漢方薬が有効なことが多くあります。
漢方薬のメリットは、まず使用することができない、いわゆる禁忌が少ないため、子どもから高齢者まで使用できるものが多いです。また、自分の体質に合わせて薬を選択できるため、場合によってはほかの症状もよくなることがあります。飲み合わせに注意するものも少ないので、併用しやすいです(麻黄が含まれるもの以外)。
一方、デメリットとしては、体質に合わなければ効果が出にくいことが挙げられます。そのため、薬の選択には“漢方的な視点”が必要とされます。
以下に、咳に対応している漢方薬をご紹介します。市販されているものもありますが、購入時には漢方薬に詳しい医師や薬剤師に相談することをおすすめします。
■咳の代表処方
筆者がすすめるのは、「麦門冬湯(ばくもんどうとう)」「半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)」「麻杏甘石湯(まきょうかんせきとう)」の3種類です。
空咳には「麦門冬湯」がよく、喉の詰まり感や違和感を伴う咳には「半夏厚朴湯」がおすすめです。この2つには麻黄という生薬が入っていません。一方、「麻杏甘石湯」はかなり激しい咳に使われますが、麻黄が配合されているので、購入時に薬剤師に相談してください。
漢方薬は食前(食事の1時間~30分ぐらい前)や食間(食後2時間経ってから)に飲むなど、飲み方に特徴があります。有効成分をしっかり効かせるためにも、正しく服用するようにしましょう。飲み方については、購入時に薬剤師に聞くといいでしょう。
続いて、生活のポイントです。
熱はないけれど乾いた咳が出るといったときは、まずは掃除をしてほこりやダニなどのアレルゲンを除去しましょう。掃除はできれば雑巾掛けが理想です(雑巾掛けするお掃除ロボットでももちろんOKです)。
また掃除中は必ず空気清浄機を使用し、掃除が終わったら、加湿器で部屋の湿度を40~50%に保ちます。
寝るとき咳が出るのは、寝室のほこりが原因と考えられます。寝室は長時間過ごす場所なので、こまめに掃除機をかけて、ほこりの少ない状態を保ちたいものです。
喉の乾燥が原因の場合、水分をこまめにとります。炎症を抑えたいのでお酒を控えたほうがよいでしょう。のど飴をなめて、唾液の量を増やすことも有効です。いうまでもなく喫煙は肺に悪影響を与えますので、禁煙を心がけてください。
咳き込んだら「咳を止めるツボ」
咳止めのツボ「定喘」の位置はここ(イラスト:おおしま/PIXTA)
咳き込んだときの応急処置として、ツボ押しがあります。
「定喘(ていぜん)」はその名のとおり、咳にとても効果の高いツボの1つです。
首を前に倒して頭を左右に降ったときに動かない背骨と動く背骨を見つけます。この2つの背骨の間のくぼみから、外側に親指幅1本分のところにあります。
定喘から肩甲骨にかけて、漢方でいうところの肺に関わるツボが多いエリアです。押すだけではなく、カイロなどで温めてもよいでしょう。
咳を止めたいときによい食材
最後に、咳を止めたいときに食べるとよい、身近な食材をいくつか紹介しましょう。
・生姜
生姜は胃を温め、咳を出にくくします。生姜湯やジンジャーティーなど、飲み物として摂る場合、できれば生の生姜をすりおろしたり、薄くスライスしたりしたものに熱湯を注いだほうがいいです。難しければチューブ入りの生姜でも代替できます。飲みにくい場合は、黒砂糖などを少し入れるといいでしょう。
・ハチミツ
はちみつが咳や喉の炎症を鎮めることは有名ですが、ポイントがあります。非加熱はちみつでないと効果を期待できないとされています。
細菌が繁殖するのを抑え、粘膜を保護してくれます。同じ理由で、非加熱ハチミツは加熱せず食べることが大切です。熱湯に入れたり加熱する調理で使ったりすると、せっかくの成分が台無しになります。温める場合も40℃以下を保つように気をつけます。
・大根
大根もまた殺菌、炎症を抑える作用が強いです。ハチミツと組み合わせることにより相乗効果を期待できます。
大根を1センチ角ぐらいのサイコロ状に切ってタッパーなどに並べ、ひたひたになるまではちみつを加えます。冷蔵庫で1日ほどおくと、大根の汁とはちみつが混ぜ合わさります。
この汁をゆっくりスプーン1さじぐらい飲みます。喉の粘膜を保護して炎症を抑えてくれます。
・カフェイン(コーヒー、紅茶、緑茶など)
カフェインの化学式の構造は、咳止めに使われるテオフィリンという薬に似ています。テオフィリンは気管支拡張薬で、ぜんそくの症状を緩和してくれます。
カフェインの摂りすぎはNGですが、適量を飲むぶんにはとても効果的な場合があります。いつもより少し濃い目に入れたコーヒー、紅茶、緑茶などカフェイン入りの飲み物を一杯飲んでみてください。
紅茶であれば生姜やレモンを加えるとさらによいでしょう。
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提供元:知っておくと便利「つらい咳」を止めるツボと食材│東洋経済オンライン