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2024.01.25

ヒトの「不死」細胞はすでに存在している驚愕事実|ただし、皆が思い描く不老不死の実現は難しい


「永遠の命」を手にいれられるのはフィクションの世界だけのようです(写真:hirost / PIXTA)

「永遠の命」を手にいれられるのはフィクションの世界だけのようです(写真:hirost / PIXTA)

「永遠の命を実現する技術など、この世にはない」というのが一般的な考え方でしょう。しかし、永遠の命をどのように定義するかによっては、すでに実現されている技術もあるのだとか。

それは一体どのような技術なのか。永遠の命、不老不死は実現可能なのか?分子生物学者の黒田裕樹さんが解説します。

※本稿は『希望の分子生物学: 私たちの「生命観」を書き換える』から一部抜粋・再構成したものです。

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不老不死にあこがれてきた人類

不老不死の願いは、時代や文化、性別や年齢を問わず、多くの人々が抱くものです。この願いを叶えるヒントがバイオ技術には隠されているかもしれません。

最近日本で人気を博したアニメ『鬼滅の刃』では、鬼になることで不老不死になれるという設定になっていました。ただし、鬼になると、直射日光を避ける必要がある、一般的な食事を楽しめないなどの制約がつきます。とはいえ、満身創痍でまさに死の淵にある時であれば、それらの条件を受け入れる人も一定数いることでしょう。

また、『ハリー・ポッター』シリーズでは、主要な悪役ヴォルデモートが永遠の命を求め、「ホーキュクス」という古代の闇の魔法を使う決意をします。それは、すなわちハリー・ポッターに関する大きな秘密にもなります。つまり、不老不死への追求とその困難さが、シリーズの重要なテーマとして描かれているわけです。

バイオを志す大学の新入生と話をすることも多々ありますが、その中には「いつかバイオの力で不老不死を実現したい」と希望する学生もよく見かけます。はたして、ヴォルデモートが興味の矛先をホーキュクスから変えてくれそうなものがバイオによって実現するでしょうか。

もし、永遠の命の定義が「自分自身のゲノム配列を持つ細胞が永久に生き残れること」であったとすれば、それはすでに実現しています。例えば、HeLa細胞(※1)は、1951年に取り出されたヒトのがん細胞に由来しており、これまで何十年にもわたって世界中の研究室で繁殖し続けているからです。

しかし、不老不死への渇望は自分自身のゲノム配列を持つ細胞が永久に生き残るだけで満たされるものではありません。少なくとも自分自身が持つ精神世界が永遠に維持され、刺激を受け入れることができ(インプット)、それに対して適切な反応をすることができること(アウトプット)が含まれるでしょう。

つまり、脳を中心とした中枢神経系と、それに対するインプットとアウトプットが正常に機能している状況を永遠に維持する必要性があります。それを考えただけでも不老不死の実現は極めて困難であると言わざるをえません。

(※1)ヒーラ細胞と発音する。Henrietta Lacksという女性患者の子宮頸部腫瘍から採取された生検標本をもとに樹立された培養細胞株。ヒトにおいて初めて株化に成功した例となる。この細胞株を用いて、子宮頸がんの原因ウイルスが解明され、2008年のノーベル生理学・医学賞の対象となっている。翌2009年の同賞はテロメアに関する研究が対象になり、その研究の中でもHeLa細胞が活用されている。輝かしい功績を持つ細胞であるが、本人に知らされることなく採取・樹立された背景があり、個人情報の保護やインフォームド・コンセントの観点から、大きな問題に発展したこともある。

損傷が蓄積されていく神経細胞

時間とともに、私たちの細胞は適切に機能したり分裂したりする能力を失います。このプロセスは「セネセンス」(※2)と呼ばれます。それは脳細胞にも当てはまります。時間の経過とともに、紫外線、放射線、化学物質、通常の代謝プロセスで発生する活性酸素などから私たちのDNAは損傷を受けます。

(※2)細胞が一定の回数分裂すると、その細胞の分裂能力が失われ、増殖が停止する現象を指す。この状態の細胞は死んでいるわけではなく、一定の活動を続けている。セネセンスを経た細胞は、分泌物の変化や形態の変化など、様々な特徴を持つ。最終的には炎症反応の促進や組織の再生の妨げとなるなど、様々な負の影響を及ぼすようになる。

修復メカニズムは存在しますが、すべての場合において治せるものではなく、時間の経過とともに損傷は蓄積されていきます。一度失われた神経細胞は再生することが難しく、特にヒトの大脳皮質などの領域では新しい神経細胞がほとんど生まれないため、損傷や老化による神経細胞の損失は永続的なものとなります。

何らかの幹細胞を入れたからといって、失われた神経ネットワークの一部を元通りにすることはほぼ不可能です。つまり、脳の機能の永遠の維持は極めて困難なものと言えるでしょう。

脳は不老不死の実現を難しくさせる最大の要因

脳は極めて複雑な神経細胞ネットワークの集合体であり、セネセンスを考慮すれば中枢神経系はいつしか衰退の一途をたどらざるをえません。それは体全体の制御、恒常性の調節にも支障をきたします。そういったところに問題が生じれば、脳も酸素や栄養素を十分に受け取れなくなります。

その負のスパイラルは生物個体としての死につながるでしょう。脳は不老不死の実現を難しくさせる最大の要因の一つと言えますが、それぞれの臓器・組織においても似たことが言えます。

30兆を超える細胞から成り立つ、様々な臓器や組織が協調しながら成り立っている人体において、何か一つの問題が生じると連鎖的に他の箇所にも影響が及ぶことは避けられません。以上は私たちの細胞における問題点ですが、ほかの問題点として免疫系の老化が挙げられます。

特に免疫系の総司令官的な働きをするヘルパーT細胞の成熟には「胸腺」という臓器が欠かせません。しかし、胸腺は思春期頃をピークにして、徐々に脂肪組織に置き換えられて萎縮していきます。

そのため、成人を過ぎてからは年々、免疫応答の質と量は劣化の道をたどります。これも、何らかの臓器・組織の疾患につながる要素となり、死を近づけるものになるでしょう。

生物である限り、受け入れるしかない老化と死

そもそも、なぜ老化と死があるのでしょうか。その大きな理由の一つは老化と死があることが生物種としての利点となることです。ここで「始原生殖細胞」という特別な細胞を意識することが重要になります。

始原生殖細胞とは、精子や卵になるために特別枠のような形で体の中にキープされる細胞のことです。精子と卵が受精してできた受精卵が何度かの分裂を繰り返した発生のごく初期の時点で始原生殖細胞はつくられます。

その後の体は「始原生殖細胞」と「始原生殖細胞以外の領域」に識別されると言えるでしょう。
私たちが、若さを保ちたい、死にたくない、と考えている精神世界は、物理的には「始原生殖細胞以外の領域」にあたります。

特定の生物種が存続していくためには、始原生殖細胞を介した次世代への遺伝子の受け渡しが必要であり、受け渡しを完了した「始原生殖細胞以外の領域」は、始原生殖細胞の観点からはいつしか邪魔な存在になります。

進化の歴史の中では、特定の生物種において、寿命が延びる傾向のある変異が生じたこともきっとあることでしょう。

しかし、始原生殖細胞にとって利点のない「始原生殖細胞以外の領域」の寿命延長は、その生物種の生存競争においてマイナスに働き、絶滅につながってきたと思われます。

今のそれぞれの生物種の持つ平均的な寿命は、そうした進化の歴史の中で最もバランスのよい形として実現されてきたものと言えるでしょう。生物である限り、やはり死は受け入れるしかないものだと思います。

「食事」「睡眠」「ストレス」の管理が重要

近年、レスベラトロール、コエンザイムQ10、オメガ3脂肪酸、NMN(ニコチンアミドモノヌクレオチド)、さらにアストラガルス(オウギ)という植物に含まれる成分などに、老化を遅らせ、健康寿命を延ばす効果があるとして、サプリメントという形で売り出されています。

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『希望の分子生物学: 私たちの「生命観」を書き換える』(NHK出版新書 ) クリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします

確かに、それらはこれまでに実験的に報告された寿命などに関わる分子機構に影響を与える要素はあると思います。

ただし、先に述べましたように、老化は様々な要素が複合的に作用しながら進むものです。

特定の分子レベルのシナリオを強制的に変更したからといって、生物個体全体の老化をストップ/スローダウンさせることまでが実現するとは思えません。

また、特定の化学物質を過剰に摂取した場合の安全性についても、不安視される要素はあります。

やはり、適度なカロリー量の栄養バランスのとれた食事、良質かつ十分な睡眠、そしてストレスを少なくすることなどが、普段の生活の中で、生物個体の本体のメンテナンスのために最も重視すべき選択肢ではないでしょうか。

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提供元:ヒトの「不死」細胞はすでに存在している驚愕事実|東洋経済オンライン

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