2023.11.30
座りっぱなしに注意!「床ずれ」は誰にでも起こる|初期症状は、痛みをともなう皮膚の赤みや腫れ
褥瘡は、長時間同じ姿勢をとることで、皮膚が圧迫されれば誰にでも起こるものです(写真:とりがらし/PIXTA)
近年、医療や介護の現場で、褥瘡(じょくそう)の予防が重要視されています。褥瘡は、一般的には「床ずれ」とも言われ、その名のとおりベッドや布団の上で1日中寝たきりの生活をしているような高齢者にできるもの、というイメージがまず浮かぶかもしれません。
しかし褥瘡は、長時間同じ姿勢をとることで、皮膚が圧迫されれば誰にでも起こるものです。身の回りのことが自分でできるような方が、何となく背中や腰が痛いけれど歳のせいだと放置していたら褥瘡が進んでしまっていたケースもあります。
今回は、高齢者のひとり暮らしや、自宅での介護が増えている今、ご自身の日常的な皮膚のケアのために、また家族の健康トラブルにいち早く気がつくために、褥瘡を見つけるポイントやその予防・治療についてお伝えしたいと思います。
褥瘡ができやすい人の特徴は?
褥瘡は、自分の体重で圧迫されている場所の血流が悪くなることが原因で起こります。圧迫されやすい部分は骨が突き出ている場所、すなわち体の表面を触ったときに、皮膚の下に硬い骨を感じる場所です。例えば仰向けなら後頭部、肩甲骨、仙骨部(おしりの中央で骨が出ているところ)、かかとにできやすく、横向きなら肩や肘、太ももの付け根、くるぶしにできやすいと言えます。
褥瘡ができやすい方の特徴は大きく2つに分けられ、1つは運動機能が落ちている方です。本来であれば、同じ姿勢をとり続けていると身体は痛みやしびれを覚えるため、寝ているときに無意識に寝返りを打ったり、座っているときに居住まいを直したりしています。
しかし加齢やけがによってこれらの動きがじゅうぶんできずに、皮膚が圧迫され続けると褥瘡が生じてしまいます。寝たきりや車椅子での生活に至らなくても、運動量が落ちて座っている時間が長い方や、関節を痛めて寝返りがうまくできない方も注意が必要です。なお、糖尿病による神経障害で身体の不快感がわかりにくくなっている方も褥瘡のリスクが高いといえます。
もう1つは、皮膚が弱くなっていて圧迫の影響を受けやすい方です。原因としては、抗がん剤やステロイドを長く使っている、加齢でものが食べられなかったり過剰なダイエットをしたりすることで栄養状態が悪いことがあげられます。また介護現場では汗や排泄物で皮膚がふやけることが原因の場合も多く、こまめな清拭や入浴が大切といえます。
初期ならば自宅で対処できるので、早期発見が大切
褥瘡の初期の症状は、痛みをともなう皮膚の赤みや腫れ、水ぶくれです。これを放置していると面積と深さがどんどん広がって、えぐれたような傷になります。血流が悪い状態がさらに続けば、その部分の組織が壊死してしまい皮膚が黒くなります。壊死した場所は身体のバリアともいえる皮膚が破綻しているわけですから非常に感染しやすく、敗血症など命に関わる感染症につながりたいへん危険な状態です。
治療は初期の状態であれば保湿剤や軟膏を使って自宅で対処することができますが、症状が進むと壊死した組織を切除する(デブリードマン)、感染症治療のために抗菌薬を投与するといった医療機関での治療が必要となります。褥瘡は医療技術や塗り薬などの発達で比較的きれいに治るようになってきていますが、治癒するまでに数カ月から数年かかることも珍しくありません。そのため、早期発見のためにも、家族が皮膚の痛みや違和感を訴えたら一緒にその部分がダメージを受けていないか確認するようにしましょう。
明らかな傷がなく、皮膚が赤いだけの場合は一見、褥瘡かどうかがわかりづらいですが、実はその部分を数秒間、指で押すことで簡単に判断することができます。押したときに赤みが消えなければ、すでにその部分の血管が圧迫によって破れて赤血球が漏れ出していると考えられ、褥瘡の初期状態といえます。
反対に、押すと赤みが消えて白っぽくなる場合は反応性充血とよばれ、圧迫によって一時的に血管が広くなった状態です。日常的な例で言えば、腕を枕にして机に突っ伏して昼寝をしてしまった後に、額や腕が赤くなってしまった状態と同様です。しかしこの反応性充血も、赤みが出るような状況を放置すれば褥瘡につながるため早めのケアが大切となります。
一番重要なのは、こまめに身体を動かす事
では、褥瘡のケアはどのようなことに気をつければ良いのでしょうか。一番重要なのはやはりこまめに身体を動かす事であり、寝たきりであっても2時間に1回は体の向きを変えること(体位変換)が勧められています。褥瘡予防の柔らかいマットレスを使って圧迫を軽減することもでき、これは介護保険で安くレンタルすることができます。睡眠や栄養を摂ることで免疫力を高めることも予防に有効です。
傷ができてしまった場合はまず皮膚科やかかりつけの内科に相談しましょう。自宅での治療が可能であれば、感染症を恐れて消毒をしすぎると傷を治す細胞までいなくなってしまうため、シャワーで洗浄して傷口をきれいに保つことが治癒への近道です。入浴ができる場合は、傷口はぬるめのシャワーで洗い流し、石鹸やボディソープは低刺激性のものを傷のまわりにだけ使うようにして、直接傷口につかないようにしましょう。
湯船に浸かる場合は傷口を薬局などで購入できるドレッシング材(皮膚用の被覆材)で覆います。洗った後は清潔な乾いた布で押さえるように水分をしっかり取り、素手が傷口に触れないようにヘラなどで軟膏を塗ってからガーゼやドレッシング材を当てます。なお、寝たきりの場合はペットボトルにぬるま湯を入れて流しても構いません。ただし、傷の状態によってケアが異なる場合もあるため、事前に医師や各種介護サービスの担当者に指導を受けるようにしましょう。
褥瘡は早ければ1日で初期の傷ができると言われています。そのためすべてを予防することは難しいですが、ご自身や家族の皮膚チェックを習慣にすることで早めに対処することができます。健康な皮膚を保つためにも、ぜひこの機会に生活や介護を見直していただけたらと思います。
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提供元:座りっぱなしに注意!「床ずれ」は誰にでも起こる|東洋経済オンライン