2023.11.08
薬剤師が解説「食欲を抑える」養生法・ツボ・漢方薬|「蓄える季節」にこそ試したい東洋医学の知恵
秋は食べ物がおいしい季節。つい食べすぎてしまいますが、そんなときの対策をご紹介(写真:msv/PIXTA)
日本の秋は湿気もなく、一年中で最もすがすがしくさわやかな季節です。実りの季節でもあり、「食欲の秋」ともいわれます。
秋は食べ物を体に蓄える季節
東洋思想では、秋を支配する気は「収(しゅう)」で、収穫したものを体に蓄えておくイメージです。食べ物の少なくなる冬に備えて、実りの秋によく食べて体に蓄えておくのは、動物本来の本能からきています。
また、秋には「燥(そう)」の気を受けて、人の体も乾燥します。過度な乾燥はよくありませんが、程よく乾燥することによって、胃腸の働きが良くなり食欲が増します。
今年の夏は暑かったので、水分補給をしすぎた結果として胃腸が弱っていた方も、秋になって胃腸も元気を取り戻したことで、食欲が湧きやすくなったのではないでしょうか。
1年を通してみると、春夏は活動的に動き回るので少しやせ、秋冬はあまり動かなくなるので少し太ります。体重が増えたことを気にされる方もいるでしょうが、心身のどこにも不調を感じることがなく、日常生活を送れていれば、それがその人のベストな体型です。
ただし、前述したように秋は食欲が増すのが自然ですが、栄養のため込みすぎは秋バテの原因にもなります。体調を崩すことにもなりかねませんので、注意が必要です。
10月下旬から立冬(11月7日)までは、「秋の土用」の時期にあたります。季節の変わり目である土用は体調を崩しやすいのですが、特に秋の土用は「陽」の夏から「陰」の秋に大きく変化するため、それに対応する体は想像以上にエネルギーを消費しています。
特に今年は夏が暑くて長く、秋が急にやってきたため、体への負担は大きかったといえます。
秋の土用は「腎(じん)」が弱りがちです。 食べすぎによって消化不良を起こすと腎が弱り、滞った老廃物が再吸収されて、太ったりむくんだりしやすいです。
太るだけではなく、たまった老廃物のせいで、「いつも疲れている」といった秋バテにつながりやすくもなります。腎はまた冷えに弱いので、体を冷やすとブヨブヨとした感じの太り方をしたり、腰痛などをはじめとする「腎虚(じんきょ)」の症状にもつながったります。実際、このところギックリ腰や坐骨神経痛で来院する患者さんが急増しています。
食欲の爆発を抑えるポイント
では、秋の食欲を適切な状態にコントロールするには、どうすればいいのでしょうか?
それは「食べたい」という気持ちを無理に抑えるよりも、適度な食欲に収まるように生活習慣を見直すことが大切です。そこで、食欲を安定させるためにすぐ実行できることをいくつか紹介させていただきます。
●十分な睡眠をとる
秋の夜長で、夜更かしをしがちな方も多いのではないでしょうか。
睡眠不足になると、食欲を抑えるホルモンバランスが乱れ、必要以上に「食べたい」と感じるようになり、たくさん食べないと満足できない状態になります。食欲を安定させるためには、朝、目覚ましなしで自然に目覚めるくらいの睡眠時間を確保できるといいでしょう。
また、睡眠をしっかりとって夜の「陰」の気を十分に取り込むことで、体の潤いが保たれます。 潤いが不足すると体が乾燥して胃が活動的になり、異常な食欲を生む結果になります。
良質な睡眠は食欲のコントロールだけでなく、体調が整い、風邪をはじめとする感染症にもかかりにくくなります。
●温かいもの、体を潤すものを食べる
秋の土用は胃腸を温める食材を摂り、体の内部を整えます。
旬のさつまいもや里芋、山芋、ごぼう、れんこん、きのこ、ブロッコリー、カリフラワーなどを積極的に摂りましょう。サンマやイワシ、サバなどの魚もおいしい季節です。こうした魚は良質の脂を含み、腹持ちもいいため、おすすめです。
ゴマやもち米、うるち米、ハチミツ、乳製品など、体を潤すものを組み合わせると、胃が適度に潤い、唾液の分泌が促されます。大根おろしは優れた消化薬ですので、食事と一緒に大さじ2〜3杯食べるのがおすすめです。脂の乗った魚や肉を食べるときにはつけるといいでしょう。
主食は、雑穀を混ぜた米がおすすめです。もちろん食べすぎはよくありませんが、米はパンや麺に比べて咀嚼できる食材です。自律神経の安定に欠かせないホルモンのセロトニンの材料になるトリプトファンのほか、マグネシウム、ビタミンB6、糖質を含みます。
食べすぎた翌日や、胃が疲れていると感じたときは主食をお粥にしてみましょう。
新米や果物は食べ方に注意
注意したいのは、新米です。モチモチした新米は美味しくて食べすぎてしまいがちです。新米は粘りがあるため、胃腸に負担をかける性質があると、古代の薬草の辞典ともいえる『本草綱目』に記載があります。
1〜2年前に収穫した古い米、あるいはモチモチしない品種のもの(ササニシキなど)が理想です。タイ米やバスマティライスもよいでしょう。
果物は、水分が豊富で潤す働きがあるように思えますが、それ以上に冷やす作用が強いので、摂りすぎには注意が必要です。冷蔵庫から出してすぐに食べず、室温に置いてから少量ずつ食べるのがよいでしょう。
また、夜は「陰」の時間帯で冷やす作用が強まりますから、果物は日中に食べるのが理想です。
●よく噛んで食べる
よく噛むことにより、胃の負担が減ります。
また、咀嚼をすると 脳の満腹中枢が刺激され、食べすぎる前に満腹感を得られます。また、唾液にはBDNF(脳由来神経栄養因子)という物質が含まれていて、よく噛むとセロトニンが分泌され、心を安定させる作用もあります。
ゆっくりと噛んで味わい、口の中の食べ物がペースト状になってから飲み込むのがおすすめです。目安は1口30回(できれば50回)以上。噛むたびに数えるのはたいへんですから、はじめの1口だけ回数を数えて、あとはそのイメージで噛んでいくといいかもしれません。
柔らかすぎる食品は噛まずに飲み込めてしまうので、できればしっかり噛める食品を選びましょう。パンや麺類はあまり噛まずに飲み込めてしまうので、常食せず、たまに食べる程度にしておきましょう。
●グルメ番組を見ない
秋は多くの食材が収穫の時期を迎え、美味しそうな食べ物からの視覚的刺激が増えます。
食欲は脳で作られますから、ただでさえ食欲旺盛になる秋にグルメ番組を見るのは火に油を注ぐようなもの。食べたい気持ちにさらに拍車がかかり、食欲が暴発しやすくなります。
同じ理由で、コンビニエンスストアやスーパーの食品売り場に行きすぎるのも要注意です。購買意欲をそそるようなディスプレイを見て、買うつもりのなかった菓子類など買ってしまわないよう、そのようなコーナーには足を踏み入れないくらいの気持ちが必要かもしれません。
●ストレスをためない
過剰なストレスは、自律神経の交感神経を優位にさせます。交感神経が優位だと胃腸の働きが抑えられる反面、エネルギーの消費量が増えるため摂食欲求が高まります。そうすると、「たいしてお腹は空いていないのに食べたい」という状況が起こりやすくなります。
また、脳は長期間ストレスにさらされると情報伝達機能が低下して、「食べないほうがいいとわかっていても食べてしまう」「十分に食べたのにもっと食べたい」といった状況が起こりやすくなります。
ストレスはため込みすぎず、こまめに解消しましょう。ストレス解消や自分へのご褒美は、食べ物以外にする習慣にするといいですね。好きな香りの入浴剤やハーブティー、好きな場所への散歩などがおすすめです。
食欲を抑えるツボ2つ
●ツボ
それでも湧いてきてしまう食欲を抑えたいときは、「胃腸点」のツボ押しが効果的。ゆっくりと押しもむとよいでしょう。胸やけや腹部膨満感があるときにも有効です。
暴飲暴食による便秘が気になるときは、胃腸の働きを高め、腸の蠕動(ぜんどう)運動を活発にする「足三里」を刺激しましょう。こちらはお灸もおすすめです。
食欲を抑えるツボ2つ。左が「胃腸点」右が「足三里」(イラスト左:にしやひさ/イラスト右:ナミッコ/PIXTA)
食欲が乱れているときはお腹が冷えていることも多いので、カイロや湯たんぽ、温かいペットボトルでおへそ中心に温めるのも効果的です。
●食べすぎを抑える漢方薬
食べすぎ防止には、漢方薬もおすすめです。
胃の働きが活発になりすぎると、すぐにお腹が空いてしまったり、過食になったりします。これは胃熱(胃に熱がこもった状態)なので「黄連解毒湯(おうれんげどくとう)」などの胃熱を取る処方を使います。
ストレスが原因の食べすぎには、柴胡(さいこ)剤が効くことがあります。柴胡はストレスが原因の過剰な胃腸の働きを抑え、自律神経やホルモンバランスを整えて、ストレスによる過食を軽減する効果があります。
柴胡剤には「大柴胡湯(だいさいことう)」「柴胡桂枝湯(さいこけいしとう)」「加味逍遙散(かみしょうようさん)」などがありますので、漢方に詳しい医師や薬剤師に相談して、選んでもらうといいでしょう。
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提供元:薬剤師が解説「食欲を抑える」養生法・ツボ・漢方薬|東洋経済オンライン