2023.08.05
「3時間睡眠で元気」憧れる人へ教えたい残念な真実|さまざまな研究から見た「睡眠時間と健康」の関係
「理想の睡眠時間」とは、どのくらいなのでしょうか?(写真:takeuchi masato/PIXTA)
「人生100年時代」といわれる中で、重要になるのが「健康寿命(健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる時間)」です。では、健康寿命を延ばすためにはどうすればいいのでしょうか。今回は「睡眠」と「ストレスの軽減法」について、新著『その選択が健康寿命を決める』を上梓した医師の森勇磨氏が解説します。
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睡眠が6時間以下だと体に悪影響
食事や運動と同じく、日常生活の中で健康を維持するために必要なものに「睡眠」があげられます。「何時間、寝ればいいのか」ということは多くの人が持つ疑問でしょう。
さまざまな研究の結果「睡眠が6時間以下だと体に悪影響を及ぼす」ことがわかっています。慢性的な睡眠不足がうつ病やメンタルの不調を引き起こすリスクとなることは想像できるのではないでしょうか。メンタル以外でも「睡眠時間が6時間未満の人は高血圧や糖尿病のリスクが上がる」「がんや心筋梗塞の死亡リスクが高まる」というデータがあります。
逆に8時間以上の長い睡眠は寿命を縮めるというデータもありますが、睡眠時間が長いことが原因で寿命が短くなる、という因果関係が証明されているわけではありません。長時間睡眠が健康に与える影響については、まだハッキリとはわかっていませんが、睡眠不足よりはたっぷり寝たほうがまだ体によさそうです。
これらを踏まえたうえで「理想の睡眠時間」を導き出すと「7時間」ということになるでしょう。
また、最近はショートスリーパー、ロングスリーパーという言葉がポピュラーになっています。定義としては6時間未満の睡眠時間で健康を維持できる人をショートスリーパー、9時間以上の睡眠を必要とする人をロングスリーパーと呼びます。
ショートスリーパーの中には毎日3時間程度の睡眠でも元気に活動できる人もいるようです。睡眠時間が短いほうが日中の活動時間が増えるのは当然ですから、生産性を上げるためにショートスリーパーを目指そうとする人もいるかもしれません。
睡眠時間を努力で変えることはほぼできない
結論から言えば、必要とする睡眠時間は遺伝子によるものなので、努力で変えることはほぼできません。また、ショートスリーパーの遺伝子を持ち、毎日短時間の睡眠でも問題ないという人も、後々まで支障がないかどうかはまだわからないのが現状です。無理に睡眠時間を短縮することはおすすめできません。
布団に入る前、「気持ちよく酔って寝たい」と寝る前にお酒を飲む人もいるかもしれません。ですが、アルコールは睡眠の質を下げることもありますから、寝しなのお酒はなるべく控えましょう。どうしても飲みたい人は1杯までにとどめたいものです。
スマホを寝る前にいじることも眠りにくくなる原因になります。睡眠を誘うホルモン「メラトニン」の分泌が減るためです。どうしてもスマホが気になってしまう人は、寝床近くにスマホを置かない、別室で充電する、など工夫してみるといいでしょう。
たっぷり寝ているのにもかかわらず日中の眠気が取れない人は「睡眠時無呼吸症候群」の可能性があります。
眠っている間に呼吸が止まり、無意識下で苦しがって眠りが妨げられている状態です。いびきが激しい人に多い症状で、家族に「いびきの後、息が止まっていたよ」と指摘されることもしばしばです。あまりに眠気がひどく、寝ても疲れが取れない場合は、まずは呼吸器内科に相談してください。
「いびき外来」では寝ているときの呼吸をチェックできます。
ストレスを感じたときの対処法
「ストレスが万病のもと」というのは本当です。ストレスが原因となる病気のひとつに「うつ病」があげられますが、それ以外にも過度なストレスは体の不調を引き起こすことがあります。
代表的な病気が「過敏性腸症候群」。緊張や不快感をきっかけに、腹痛と下痢を起こす病気です。似たような原理で、「機能性ディスペプシア」と言って胸やけや吐き気、嘔吐を起こすこともあります。
一度はよくなっても、ストレスを感じると再発しやすいため、完治させるにはストレスのもとから離れることが唯一の治療法と言えます。
天災に見舞われてしまった、近しい人が亡くなったといった大事件によるストレスは、時間が解決してくれる「時間薬」が効くことが多いです。仕事上の人間関係や配偶者、親族との関係などによる継続的なストレスは、転職や離別、引っ越しなど思いきって環境を変えることで軽減することもあります。
ただ、これらのストレス源には複雑な背景があることが多く、簡単に状況を変えることが難しい人も多いでしょう。
いまの状態から動きづらい人は、友人に話を聞いてもらう、思いのたけを日記に書き記す、心療内科やストレス外来のカウンセリングに行くなど、少しでも気持ちをラクにできる方法を見つけるのもいいかもしれません。親御さんの介護に悩んでいるなら、自治体の福祉課などでも相談に乗ってくれると思います。
とはいえ、誰もがすぐに行動できるわけではありません。1つのストレスが去っても、次のストレスがやってくることも多いものです。
われわれが生きている以上、外部からのストレスを受けずに過ごすことはできません。むしろ、完全にストレスをなくすと、達成感や幸福感が満たされず、逆にストレスになると言われています。
厳密に言えば、暑さや寒さもストレスの一種です。暑さというストレスがあるから、涼しくなったときに幸せを感じることができるのです。ですから、どうしても避けられないストレスは無理になくそうとせず、上手に付き合っていくほうが健康的でしょう。
米国では医療行為として使われるマインドフルネス
最近、心身の健康状態を向上させる方法として「マインドフルネス」が注目されています。瞑想の一種ですが、スピリチュアルやオカルトとは関係ありません。医学的な研究が進められ、うつの再発予防、血圧の安定、腰痛緩和などに対する効果が発表されています。ストレスの緩和効果も確認され、すでにアメリカでは医療行為として使われている方法です。
普段は意識しない部分に集中することがマインドフルネスの概念で、呼吸に意識を向けることがもっともポピュラーです。
【マインドフルネスの方法】
(1)楽な姿勢で座る
(2)目を閉じて呼吸に集中し「吸う」「吐く」だけに気持ちを向ける
(3)途中で「楽しい」「悲しい」「体がかゆい」といった雑念が起きたら止める
(4)再び呼吸に集中することを繰り返す
1日に5~10分行うことが理想ですが、時間よりも毎日続けることがポイントです。
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週に1回、10分行うより、1回雑念が起きた段階で止めても毎日行うほうが、効果が出るのです。家の中はもちろん、電車の中でもできますから、毎日の習慣に組み込んでください。家族がいて落ち着ける場所がないなら、お風呂やトイレでも大丈夫です。
普段意識しない部分では歩くことに集中する方法もあります。例えばじっと座っているのが苦手なら、歩くときに「右足」「左足」と動作にだけ意識を向けるのです。ただ、外では人にぶつかるなど危険なこともありますから、家の中で行うほうがベターです。
ヨガもマインドフルネス同様、体の部位と呼吸に集中するためストレス緩和に効果があると言われています。何か体を動かす趣味や習い事を考えているなら、ヨガを選択肢に入れてもいいかもしれません。
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提供元:「3時間睡眠で元気」憧れる人へ教えたい残念な真実|東洋経済オンライン