2023.06.20
高湿度・寒暖差が原因「梅雨バテ」治す食材&ツボ|疲労原因、五臓六腑の「肝」を休める養生法
この時期の体調不良に「梅エキス」を。効能や作り方を解説します(写真:naoki/PIXTA)
梅雨に入り高湿度、寒暖差の大きな日が続いています。そんななかで体調を崩す「梅雨バテ」の方が増えています。
体には体温や体内の水分量などを一定に保とうとする働きがあります。寒暖差が大きくても、体内の環境は一定に保たなくては生命を維持できません。そのために体は想像以上にさまざまな準備をしています。
漢方医学では、寒暖差など大きな環境の変化に対応するためにまず働くのは、五臓(肝、心、脾、肺、腎)のうちの「肝」であると考えます。
漢方でいう肝は、いわゆる肝臓だけではありません。五臓全体の働きが調和できるように監督し、寒暖差などの環境の変化を察知して対応するための最前線で働くのが、肝です。
キレるのは「肝」が疲れている証拠
また、肝には疲労を回復させる働きがあり、ストレスへの対処、感情のコントロールなども行っています。肝がしっかり働かなくなると、感情のコントロールができず、キレやすくなったり、うつ傾向になって何もしたくなくなったりします。
肝の働きを助けるために最も必要なのは休息と適切な栄養です。
肝は、新学期や就職などで新しい環境に対応するためにも働いていました。それだけで十分疲弊しているのですが、そこにきて最近の大きな気候変動に対応しなければならず、かなり無理を強いられています。
そのようなときにいつもと同じように仕事をこなそうとしたり、いつもより無理をして頑張ったりしてしまうと、どんどん肝は働かなくなっていきます。
繰り返しますが、肝を休めるためには十分な休息が必要です。そのために、まずは睡眠時間を十分に確保してほしいと思います。
漢方医学では就寝時間・起床時間は年中同じではなく、日の出に合わせるのが基本で、日が昇る前に起きるのが理想です。現在は朝の5時にはうっすらと明るくなっていますから、10時ごろに就寝して5時ぐらいに起きるのが理想ということになります。
また、医学古典の『黄帝内経(こうていだいけい)』には、「体を横たえれば、血が肝に帰る休息ができる」と書かれています。肝を休めるには横たわってゆっくりするのがいいのです。
ただし夕食後にソファでうたた寝をしてしまうのはよくありません。中途半端な時間に眠ってしまうと、夜の睡眠の質が落ちるからです。どうしても夕食後に眠くなってしまう方は家事などをして、うたた寝をしてしまわないように気をつけましょう。
入浴はぬるめの湯に入るようにし、出たらスマホやテレビなどを見ず、ゆっくりと過ごします。1時間ほどして少し体温が下がる頃に就寝するのがベストです。
まだ体が暑さに慣れていないこの時期の寒暖差では、脱水や熱中症にも要注意です。
肌寒い日の翌日に、同じような服装で外出して汗をかいている方を多く見かけます。特に冷えに弱い女性は普段から厚着をしがちなのですが、そのような方が急にやってくる真夏日に熱中症を発症してしまうのです。筆者の治療院にやってきた60代の女性もその1人です。
彼女は治療のためにベッドに横たわっていると、まもなく気分の悪さを訴え始めました。その日は35度を超える日でしたが、前日が寒かったせいでしょうか、半袖でも暑いくらいの気温にもかかわらず、長袖の上着を着ていらっしゃいました。
全身にジットリと汗をかいていたので、慌てて経口補水液を飲んでもらったところ、しばらくして回復されました。
この女性もそうでしたが、脱水や熱中症になっているときは意外と暑さを感じず、自覚症状がないまま倒れてしまうこともあります。特に高齢になってくると暑さを感じる感覚が鈍くなり、体に熱がこもっていることに気づかないまま症状が進んでしまうので、注意が必要です。
梅雨バテを吹き飛ばす「梅肉エキス」
肝の働きを助ける食材もあります。
なかでも適度な酸味を摂るとよく、寒暖差疲労の回復にピッタリな梅を使った民間薬を紹介したいと思います。
梅雨は文字通り、梅の実が旬を迎えます。この時期、筆者は梅仕事をするのが恒例の行事になっています。毎日、味見をしているおかげでしょうか、この時期はいつも以上に体調がいいように感じます。
梅には疲労回復、胃腸の働きをよくするなど、多くの薬効があるとされています。
梅干しや梅ジュースにもこうした薬効がありますが、その数十倍も効果があるともいわれる「梅肉エキス」をご存じでしょうか? 青梅の果汁を煮詰めた、コールタールのような真っ黒な見かけの、ものすごく酸っぱい梅のエキスです。
約1キロの梅から、30グラム程度しか作れません。筆者は子どもの頃に梅肉エキスとハチミツをあわせて水で薄めた飲み物をよく飲んだので、親しみがありますが、知らない方も多いようです。
梅肉エキスは、日本で開発された民間薬として、江戸時代の医師、衣関順庵(きぬどめじゅんあん)の『諸国古伝書秘方』に記載があり、「伝染病やかぜなどに、青梅をたくさん擦って、絞り汁を天日に干し、練り薬のようにする」と、当時の製法が記されています。細菌性の下痢や食中毒、下痢、便秘、消化不良などの治療薬としても用いられていたようです。
現在では、1999年に農林水産省食品総合研究所の研究員が、毛細血管の血流を改善する成分としてムメフラールを発表しました。ムメフラールは時間をかけてゆっくり梅を加熱し、濃縮していく過程で生成することがわかりました。
梅のクエン酸も、疲労回復にいい成分です。
梅肉エキスには、このムメフラールやクエン酸をはじめとする梅の有効成分が凝縮されています。梅干しよりも強力な殺菌作用があり、整腸作用にも優れた梅肉エキスは、昔から体調がすぐれないときの万能薬として、重宝されてきたのです。
寝ても疲れが取れない日々が続いているときに、寝る前に摂るといいでしょう。ただし、歯についたままだと酸で歯が溶けるおそれがありますので、摂った後は最後は歯みがきやうがいをするなどしてください。
民間薬「梅肉エキス」の作り方
梅肉エキスは自然食品店やネットなどでも購入できますが、自分でも作ることができますので、ぜひトライしてみてください。
梅は青梅を使い、黄色っぽく熟した梅では作れません。梅は金属を腐食させますので、ホーローや陶製の鍋を使うようにしてください。
■梅肉エキスの作り方
1.青梅をきれいに洗い、キッチンペーパーでしっかり水気を取る
2.半分に切って種を取り除き、実を擦りおろす。またはフードプロセッサーで細かくする。
3.手ぬぐいなどに入れて汁を絞る
4.絞った汁を鍋に入れて、弱火で焦げつかないように煮詰める。色が黒くなり糸を引くような状態になったら完成
以下は、梅肉エキスの具体的な使い方になります。
■腹痛、下痢、便秘なら「梅肉エキスを飲む」
強力な殺菌作用がある梅肉エキスは、昔から食あたりや赤痢、コレラなどの伝染病予防に使われてきました。 腹痛や下痢には、エキスを少量なめるだけで効果があるといわれています。
腸の働きを整えるので、便秘にも有効です。直接なめるのが苦手な場合は、お湯で割って飲んでもOKです。
■喉の痛みなら「梅肉エキスのお湯割りでうがい」
かぜなどで喉が痛いときは、ぬるま湯で5~10倍に薄めた梅肉エキスでうがいします。強力な殺菌効果が働き、効果抜群です。
「梅雨バテ」に有効な2つのツボ
最後に、急な変化に対応する肝の働きを助けるツボを紹介します。
■太衝(たいしょう)
肝の経絡のなかでも重要な働きがあるツボです。精神的ストレスを感じたり、足が冷えたりするときにもよいツボです。気持ちよく感じる強さでゆっくり5回くらい押してください。
■十宣(じゅっせん)
手指の先端にあるので、この名がついています。楊枝の反対側など、先端が少し尖ったもので刺激する、あるいは親指と人差し指でつまんで押します。親指から人差し指、中指と、小指まで刺激をしていきます。
(イラスト:おおしま/PIXTA)
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