2023.03.22
「ジム通いが続かない人」がとるべき3つの戦略|退屈でしんどいことにも「やる気」を出す方法
退屈で苦しいジム通いも、3つの戦略によってモチベーションのわく活動に変えることができます(写真:kou/PIXTA)
ダイエットや禁煙、外国語学習、ジム通いなど、私たちは何かの目標を達成しようとして、ついつい途中で挫折してしまう。
しかし、シカゴ大学ブース・スクール・オブ・ビジネスの心理学者で、モチベーションサイエンスの第一人者のアイエレット・フィッシュバック氏によると、誰でも簡単な方法で自らの「やる気」を自由自在にコントロールし、望む成果を得られるという。
今回、2月に刊行されたフィッシュバック氏の著書『科学的に証明された 自分を動かす方法』より、一部抜粋・編集のうえ、お届けする。
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「ポケモンGO」でウォーキング好きに
先日、知人との会話の中で、彼女の娘オリヴィアの話を聞いた。
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オリヴィアは29歳、自閉症スペクトラムで、糖尿病を患っている。アメリカ西部の小さな田舎町に住んでおり、最近は日課として近所で2マイル(約3キロ)ほど散歩しているのだという。
ほんの2、3年前までは、ウォーキングなどまったくしていなかった。歩きたいという気持ちがなかったのだ。車に乗せてくれる人がいないときは、仕方なく近所の食料品店やレストランに歩いていくものの、そうでなければ歩くなんて退屈だし、家にいるほうがいいと思っていた。
その後、オリヴィアに転機が訪れた。「ポケモンGO」をダウンロードしたのだ。
1990年代後半に幼少期を過ごしたオリヴィアは、ポケモンの大ファンだ。そのため2016年に「ポケモンGO」のアプリがリリースされたときには大喜びで飛びつき、久しぶりにポケモンたちの世界に復帰することにした。
このアプリは、インストールしたスマホのGPS機能と時計機能を使ってユーザーのいる場所と時間を検知し、ポケモンのキャラクターを身の回りに「出現」させる。そのキャラクターをアプリでつかまえに行くというゲームだ。
アプリをダウンロードした直後から、オリヴィアは2マイルの散歩を始めた。ポケモンたちをつかまえるのに一番適したルートが、ちょうど2マイルだったからだ。
ゲームは彼女に家を出て歩く理由を与えた――オリヴィアにとって、これは10歳の頃から夢見ていた、ポケモンたちとの大冒険なのだ。
オリヴィアだけではない。「ポケモンGO」で運動のモチベーションがわいたという話は、ほかにも数多く耳にしている。それどころか、私が8歳の息子と一緒に近所のウォーキングを始めたのも、「ポケモンGO」が理由だ。
かなり広く流行していて、研究者による推定では、人気が絶頂となった2016年の夏にはアメリカ全体で1440億歩のウォーキングが行われていたらしい。あまりにも成功したため、「ポケモンGO」のせいで周囲をよく見ない迷惑な歩行者が増えたという批判も出たほどだ。
「ポケモンGO」がほかの運動アプリよりも強く運動を動機づけた理由は、人の内発的モチベーションをかきたてるという点にある。「ポケモンGO」はウォーキングをゲームに変えた。
戦略(1)ご褒美を用意する
退屈な活動や難しい活動を、より内発的モチベーションのわく活動に変える方法は、3種類ある。
1つは、モチベーションサイエンスの研究者が「メイク・イット・ファン(楽しくする)・ストラテジー」と名付けた戦略だ。
当該の活動と、即座に得られるご褒美(つまり小目標)とを、意図的に結びつける。インセンティブがあるおかげで、すぐに満足したいという気持ちが満たされるので、それまで退屈に思えた活動が面白いものになり、その活動をすること自体が目的になる。
たとえば私とケイトリン・ウーリーの実験で、高校生に数学の宿題をしながら音楽を聴いたり、スナック菓子を食べたり、カラフルなペンを使ったりすることを推奨したところ(一部の教師にはいやがられたが)、そのほうが長く勉強をしていたことがわかった。
音楽、味、視覚的楽しさという、即座の恩恵をもたらす勉強は、彼らにとって楽しかったのだ。
「ポケモンGO」でも、ポケモンたちをつかまえることが、即座のインセンティブになっている。
人はこの法則を利用して、誘惑と目標をひとまとめにすることで、楽しさを演出することが多い。
テレビを見ながら運動したり、音楽を聴きながら勉強したりするのは、「テンプテーション・バンドリング(誘惑の抱き合わせ)」とも言われる戦略だ。目標に向けて努力している最中に限定して誘惑を許すならば、この戦略はとりわけ効果が高い。
たとえば仕事のメールを片付けているあいだだけ、チョコレートを1個食べてよいことにすると、チョコレートという誘惑物が、目標達成に向けた内発的モチベーションを高めてくれる。
ただし、褒美は即座に得られるものでなければならない。1週間の仕事が終わったタイミングでチョコレートを5個食べてよいことにしたとしても、1週間のモチベーションを上げる効果はないだろう。
戦略(2)プロセス自体を面白いものにする
モチベーションサイエンスが考える2つめの戦略は、ご褒美だけでなくプロセス自体を面白いものにすること。目標を決め、そこに至るための道を考えるときに、道そのものをその場で楽しめるようにするのだ。
運動の回数を増やしたいなら、面白そうな運動を探してみる。ジムでもくもくとフィットネスバイクを漕ぐのではなく、飽きさせないアップビートの音楽でフィットネスバイクを漕ぐクラスに入ってみるのはどうだろう。
ニューヨークにあるフィットネスバイク専門ジム(スピンジム)では、メタル音楽ファンのための「デス・サイクル」というクラスがある。デスメタルが大音量で鳴り響くなか、インストラクターの指示にあわせてペダルを漕ぐのだ。こうした戦略は効果が高い。
私とケイトリン・ウーリーの調査でも、ジムで「この運動が好きだから」という理由でウェイトリフティングを選ぶ人は、コストパフォーマンスで運動を選ぶ人よりも、トレーニングの回数が50%ほど多くなることがわかった。
もちろん、運動を選ぶ際には最終的に自分の目標を満たす内容を選ぶべきだ。痩せるのが目的というときに、負荷の低いヨガクラスは、おそらくたいして効果は出ない。しかし、目標達成につながる活動が複数あるなら、そのなかで一番面白いものを選んでみるとよいだろう。
戦略(3)既知の楽しさに集中する
3つめの戦略は、既知の楽しさに集中することだ。活動をすることで将来的に得られるであろう、今はまだ見ぬ恩恵ではなく、すぐにやってくる既知の恩恵に気持ちが集中していると、より内発的な動機づけがされて、持続的に追求できる可能性が高い。
たとえばニンジンをたくさん食べるのが目的なら、手軽で健康的な食材であるとか、視力改善の効果が期待できるという説よりも、ニンジンの既知の魅力――噛み応えがある、甘い、素朴な風味――を納得しながら食べるほうが、実際に多くを食べる。
私とウーリーによる実験では、まったく同じ2種類のミニキャロットを用意し、被験者に選ばせた。片方のグループの被験者には、おいしそうなほうを選んでください、と求めた。もう片方のグループには、健康によさそうなほうを選んでください、と求めた。すると、おいしいほうだと思って選んだ被験者は、袋の中のニンジンを50%多く食べた。
選択をする時点で見知っているポジティブな体験――既知の利点――に心が向いているだけで、目標に向けて努力を続ける後押しになるのだ。ただし、勘違いしてはいけない。まだ12歳ならいざ知らず、人生がいつでもパーティではないことはあなたも知っているはずだ。
やることなすこと、すべて内発的モチベーションがわくものにすることはできない。私は初めて妊娠したとき、出産はうるわしい体験に違いないと期待していた。誰もが美しい奇跡のことばかり語るからだ。しかし、出産とは長い長い苦痛の末にようやく迎える感動的なフィナーレなのだということを、たちまち思い知らされたのだった。
さいわいなことに、出産という仕事をするにあたっては、内発的モチベーションは必須ではない。苦しいけれど比較的短時間の経験を通り抜けるときには、内発的モチベーションを高めることなど心配する暇もなく、とにかく乗り切ることしか考えられないからだ。
「嫌いな仕事」を続ける理由
また、内発的モチベーションのおかげで能力が高まることもある一方で、最低限の活動しかするもんか、という腹積もりがあるときは、必ずしもその効果は必要ではない。
私は経営学を教える立場として、これまでさまざまな人から、「嫌いな仕事に耐えて続けているんです」という話を聞いてきた。「賃金奴隷」のような気がする、と彼らは言うのだった。
だが、よりよい転職先が見つからない限り、たいていは仕事をやめようとしない。多くの場合は失業への不安のほうが強いので、同じ職場に通い続ける動機があるのだ。全力投球はせず、退職もしないのである。
(翻訳:上原裕美子)
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