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2023.02.08

【血圧】仕事ストレスで上昇「隠れ高血圧」の危険|冬の寒い時期も要注意、正しい測り方も伝授


健康診断では見つかりにくい、隠れ高血圧とは?(写真: Mai /PIXTA)

健康診断では見つかりにくい、隠れ高血圧とは?(写真: Mai /PIXTA)

国内で約4300万人がかかっているといわれる高血圧。心筋梗塞や狭心症、脳梗塞といった命にかかわる病の原因になるだけでなく、最近では認知症の発症リスクを高める要因としても問題視されている。「自分はまだ若いから」といって安心してもいられない。とくに若い年代で多いのは、健康診断では見つかりにくい“隠れ高血圧”だという。なぜ隠れ高血圧が起こるのか。その原因や対策について、自治医科大学循環器内科学部門教授の苅尾七臣医師に聞いた。

高血圧は高齢者に多い病気と思われているが、実は30代男性の6人に1人、40代男性の4人に1人が高血圧と診断されている(平成30年国民健康・栄養調査報告)。

「健康診断などで、“ちょっと血圧が高め”と言われたことのある30代や40代が、突然、脳梗塞や脳出血、心筋梗塞を起こして、救急車で搬送されるというケースは決してめずらしくありません」と苅尾医師。さらにやっかいなのは、この年代で多いのは「健康診断などでは見つけにくい隠れ高血圧。我々は“仮面高血圧”と呼んでいます」と言う。

30~50代の血圧問題に触れる前に、血圧や高血圧とは何か、なぜ高いと問題なのか、改めておさらいしておきたい。

血圧とは血液が血管壁を円周状にギュッと押す力のことをいう。その力が基準より強くなった状態が高血圧だ。

血液の量が増えれば圧は高くなるし、血管が細くなったり、弾力性が失われたりしても圧は高くなる。高齢になるほど血圧が高くなるのは、ゴムホースが経年劣化で硬くなるのと同じで、血管が加齢現象で硬くなることが原因の1つだ。

脳梗塞や心筋梗塞の原因にもなる

圧が高くなればなるほど血管にかかる負荷が大きくなるため、循環器疾患のリスクが高まる。血管の内側にプラークができていれば、それが破れるリスクも出てくる。

脳の血管が破れれば脳出血となり、破れたプラークが血栓を形成して血管を詰まらせれば脳梗塞や心筋梗塞となる。

日本高血圧学会による高血圧の診断基準は次の通りである。

<高血圧の診断基準>

(1)医療機関で血圧を測定したときの値:上140mmHg、下90mmHg以上
(2)自宅で血圧を測定したときの値:上135mmHg、下85mmHg以上

30~50代は血圧の数値をどう読み解けばいいのか。苅尾医師はこう解説する。

「まず、上の血圧は収縮期血圧といって、心臓が血液を送り出したときの値になります。主に血管の硬さに関係していて、加齢と共に上がっていきます。一方、下の血圧は拡張期血圧といって、心臓が血液を溜めているときの値になります。こちらは心拍数などが関係していて、55歳ぐらいをピークに下がっていきます」

とくに下の血圧が高くなっている人は要注意。自律神経の1つである交感神経が亢進(こうしん)している傾向があり、仮面高血圧の大きな理由であるストレス性の高血圧に陥っている可能性があるそうだ。

血圧と交感神経の関係について後で述べるが、「とにかく50代半ばぐらいまでは、とくに下の血圧が高くないか気を付けていたほうがいい」(苅尾医師)という。

では、30~50代が気を付けなければいけない“やや高血圧”や、“仮面高血圧”はなぜ起こるのか。そして、なぜ注意しなければいけないのだろうか。

そのカギとなるのが、日内変動と自律神経の2つだ。

冬の寒い時期は血圧が高くなりやすい

心臓は安静時で1分間に60~70回、1日に10万回ぐらい拍動する。その都度、血圧は変わるわけだが、1日で見てみると、正常な状態であれば睡眠中の血圧がもっとも低く、明け方になると上がり始め、日中に高くなる。そして夕方から夜にかけて徐々に低くなっていく。

このように血圧はいつも一定ではなく、日内変動がある。

ちなみに、季節ごとでも血圧変動がある。寒い冬は血管が収縮するため、夏よりも全体的に10mmHgぐらい高くなりやすい。さらに冬はとくに、急激な温度変化(暖かい部屋から寒い部屋へ移動するなど)で血圧が上下し、循環器疾患が起こるヒートショックにも注意しなければならない。

そして、「実は、この日内変動で注意したいのが、ある時間帯だけ血圧が高くなる仮面高血圧なのです」と苅尾医師。

仮面高血圧には大きく「早朝高血圧」「昼間(職場)高血圧」「夜間高血圧」がある。30~50代に多いのが、2番目の昼間(職場)高血圧だ。

「要するに、職場で強いストレスを感じて血圧が上がるタイプで、とくに喫煙者や肥満の人に多く見られます。仕事が終わってストレスから解放されると血圧が下がるので、病院や家庭での血圧測定では見つけられず、高血圧と診断されにくいのが特徴です」

この昼間(職場)高血圧について、苅尾医師らが以前、24時間のウエアラブル血圧計を用いて血圧とストレスの関係を調べたことがある。すると、ストレスと感じるたびに血圧は上がり、最大で15mmHgぐらい跳ね上がることもあったという。

また朝の出社時間より昼、昼より夕方の退社時間のほうが血圧は高くなっていることもわかった。苅尾医師は「夕方に上がるのは仕事が終わらず、ストレスが蓄積しているからではないか」と分析する。

職場でも血圧を測る習慣を

一時的な高血圧だからといって、意外と侮れないのが仮面高血圧だ。

「仮面高血圧はつねに血圧が高い人と同程度か、それ以上に脳や心臓、腎臓にダメージを与えやすく、循環器疾患のリスクが高いのです。また、血圧が正常な人の約2倍、循環器疾患を起こしやすいことも明らかになっています」と苅尾医師は警鐘を鳴らし、できれば職場でも血圧を測る習慣をつけ、仕事中の血圧の状態をチェックしておいたほうがいいと語る。

参考までに、正しい血圧の測り方を紹介しておく。なかには低い値が出るまで測り続ける人がいるようだが、1度につき測定は原則2回までとされている。

正しい血圧の測り方(上腕にカフを巻くタイプ)

・背もたれつきの椅子にすわって、リラックスする
・足は組まない
・上腕にカフを巻く。カフは心臓と同じ高さにする
・原則としてカフを巻くのは利き手と反対側
・1~2分安静にしてから測定し、1度で2回まで測定する

仮面高血圧が問題なのは、本人に自覚がないという点だ。

仮面高血圧の場合、本人に自覚がないまま高血圧によって体に負担がかかり続けるので、ある日突然、循環器疾患で倒れるといったことが起こりやすい。

さらに、苅尾医師によると、メンタル的なストレスと、フィジカル的なストレスとは分けて考えたほうがいいそうだ。メンタルにきているからといって血圧が上がるとは限らず、逆にメンタルに問題がなくても体に大きな負荷がかかっていることもある。

そもそも、なぜストレスがあると血圧が上がるのかというと、そこには自律神経が関係している。自律神経とは体のさまざまな機能を調整する中枢神経のことで、アクティブモードになっているときに活性化する交感神経と、リラックスモードになっているときに活性化している副交感神経がある。

ストレスを受けると体は生体反応として、交感神経を活性化させる。交感神経が優位になるとカテコールアミンやアドレナリンなどが分泌されて、心拍数を増やしたり末梢血管を収縮させたりする。そのため全身を流れる血流の量が増える一方で、血液が通る道である血管が縮むため、血圧が上がる。逆に、交感神経を静めて、副交感神経を優位にさせることで血圧が下がる。

応急処置として「深呼吸」がお勧め

そこで苅尾医師が応急処置として勧めるのが、深呼吸だ。5秒かけてゆっくり鼻から息を吸い、10秒かけてゆっくりと口から吐き出す。この際、大きく肺を膨らませることを意識するのがポイントとなる。

深呼吸が血圧を下げることは、科学的にもわかっている。

「肺には伸展受容体があり、肺の膨らみを検出すると交感神経を抑制する反射が起こって、副交感神経が優位となり、血圧が下がるのです」(苅尾医師)

もう1つは、首回しだ。首の付け根にある動脈を優しくなでるのでもいい。首にある動脈には血圧のセンサーが埋め込まれていて、ここを優しく刺激すると上がりすぎた血圧が下がって、適正な血圧に戻るそうだ。

「もちろん、これらの対策は一時的なものでしかありません。血圧が上がるようなストレスがかかる業務や職場であれば、仕事内容を見直すとか、環境を変えるといった取り組みが大事です」(苅尾医師)

また、血圧は基本的には症状がわかりにくいサイレントキラーだが、仮面高血圧では体にいくつかのサインが出る場合があるので、そのサインを見落とさないことも大事だ。

その1つは「心拍が上がってドキドキするという現象」、もう1つは「手足が冷たくなるという現象」だ。

数値が高い場合は循環器の専門医に

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そういうときこそ血圧を測ったほうがよく、数値が高かったら、循環器を専門とする医師に診てもらったほうがいいそうだ。

後編は血圧が高めの人、仮面高血圧になっている人が取り組みたいセルフケアを紹介する。

(取材・文/山内リカ)

この記事の続き:【血圧】平気でしょうゆをかける人を襲う大問題 ※外部サイトに遷移します

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自治医科大学附属病院循環器センター・センター長
自治医科大学循環器内科学部門教授
苅尾七臣医師

1987年、自治医科大学卒。兵庫県北淡町国民健康保険北淡診療所内科、自治医科大学循環器内科、コーネル大学医学部循環器センター・ロックフェラー大学などを経て、2009年に自治医科大学内科学講座循環器内科学部門教授、2018年に自治医科大学附属病院循環器センター・センター長。『日本高血圧学会・高血圧治療ガイドライン2019(JSH2019)』などのガイドラインの作成に関わる。近著に『運動を頑張らなくても血圧がみるみる下がる食べ方大全』がある。

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提供元:【血圧】仕事ストレスで上昇「隠れ高血圧」の危険|東洋経済オンライン

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