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2022.11.10

和田秀樹「要介護になる人・なりにくい人の差」|受験勉強でもシニアライフでも根性論はいらない


ポイントは「意欲」にあるようです(写真:kotoru/ PIXTA)

ポイントは「意欲」にあるようです(写真:kotoru/ PIXTA)

「人生100年時代」といわれる中、シニア世代に入ってからも前向きに人生を楽しむには何が重要なのでしょうか。高齢者専門の精神科医として6000人以上の患者を診てきた和田秀樹さんの著書『80代から認知症はフツー ボケを明るく生きる』から一部抜粋してお届けします。

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要介護にならない効果的な方法

高齢者が弱っていく典型的なパターンがあります。「フレイルサイクル」です。年を重ねると、誰でも気力や体力が衰えるものです。このときに、外出の機会を減らしてしまうと、社会的な交流が減ったり活動量が低下したりします。

すると、エネルギーの消費量が少なくなり、食欲が低下したり食べる量が減ったりしてしまいます。こうなると栄養が不足ぎみになり、筋力や筋肉量も減る「サルコペニア」という状態になりやすくなるのです。基礎代謝の量も減り、身体機能や認知機能が低下し、ますます行動する意欲が減っていき、さらにエネルギーの消費量が減って食欲がなくなっていきます。

このような悪循環を、医療や介護の分野では「フレイルサイクル」と呼びます。高齢者は、急に健康な状態から要介護状態になるのではありません。このフレイル(虚弱さ)を循環的に増していくことで、だんだんと要介護の状態に陥っていくのです。

では、要介護の状態にならず、なるべく健康に近い状態を保つにはどうすればいいのでしょうか。有効な予防法の一つは、このフレイルサイクルに入らないようにすることです。あるいは、入ったとしてもこのサイクルから抜け出すことです。

どうすればそれが可能になるのか。私は「意欲」が最も大事だと思っています。意欲がなければ、行動したいとは思えません。少しでも何かをしたいと思ったら、その意欲を大事にして、すぐに行動に移すという習慣のようなものがとても大切なのです。行動すれば自然と外出する機会も増え、社会的な交流や活動量も増えます。フレイルサイクルを回避できるのです。

この意欲から行動を生み出しやすくするためにも、私は楽に動ける方法を積極的に取り入れるべきだと考えます。行動が楽なら、「やってみよう」「動いてみよう」と思えるものです。

話はテーマから少しそれますが、これからAI時代になるのは間違いなく、社会的な議論はいろいろありますが、使い方によっては私たちの行動をとても楽にしてくれるものになるでしょう。

例えば、無人の自動運転の車が普及すれば、オンラインで配車を依頼すれば、短時間かつ安価に人を目的地に運んでくれるようになるはずです。乗車しただけで、そのときの気分や体調に合わせて最適な料理を供してくれるレストランに連れていってもらえるかもしれません。あるいは、最適な交流ができるサロンのような場にも送り届けてくれるかもしれません。

すべてAIが人間の行動を支配するようで怖い気もしますが、どんな技術もメリットとデメリットがあるものです。要は使い方が重要なのです。AIを活用して行動する負担が10分の1になるならば、私は積極的に利用すればいいと思います。フレイルサイクルに入らないために利用できるのであれば、それは積極的に使うべきでしょう。

ここで伝えたい一番のポイントは、意欲を大事にしながら、あらゆる手段を使って行動のハードルを下げることの重要性です。言い換えると、ハードルを下げる工夫や努力をすることが、少しの意欲でも行動に結びつきやすくする最大のポイントになるのです。

健康寿命を延ばす一番効果的な方法

シニアライフに精神論は不要です。もっというと、私は人生に精神論はいらないと思っています。これまでに私は多くの本を書いてきました。最初に社会的に話題になったのは『受験は要領』という本です。1980年代の後半に書いたものです。大学入試をいかに楽に突破するかという内容で、例えば特異なセンスが求められる数学については、「苦手なら答え(解法パターン)を覚えればいい」というようなことを書いて物議を醸してしまいました。

これについては「役立った」と評価される一方で、「この考え方は間違っている」と強く批判されることもありました。私は、この批判に対して反論したかったのですが、なかなか説明できる機会を得られませんでした。

当時、この本で私が一番伝えたかったメッセージは、そのころに見られた教育における精神論(根性論)のおかしさについてでした。苦労をしなければ学力は伸びないと考える風潮に対して「それは間違っている」と訴えたかったのです。テーマから少しそれてしまうのですが、間接的に関連するので少しおつき合いいただければと思います。

もし学力というものが、頭に知識と思考パターンを身につければ得られるものであるならば、合理的かつ効率的にすればいいのではないかというのが、当時の私の考えでした。これは、スポーツなどの競技の成績は根性だけではよくならないというのと同じ考えです。それは現代人ならよくわかると思いますが、かつては「スポ根」という言葉があるぐらい、スポーツの能力は根性で高まると思われていました。学力も同じだと考えられていたのです。

ところが今でも受験生も教師もこう考えている人が多いのです。スポーツの世界ではとっくに根性論が廃されているのに、勉強の世界ではいまだに根性論が幅を利かせています。学力(ペーパーテスト学力)は根性だけでは上がりません。当時は今以上に私が提案した合理的な考え方が過剰に反応されてしまいました。いずれにせよ、時間が過ぎ去り、スポーツの世界では根性論で語る人はほとんどいなくなりました。

目標やターゲットが明確にあるのであれば、一番楽な方法で達成すればいいのです。高齢者の生活も同じだと私は思います。根性論は不要です。少しでも楽な方法があれば、それを活用すればいいのです。楽することに罪悪感を覚える必要は一切ありません。「おっくうだから外出はやめよう、食事も簡単にすませよう」となってしまうほうが問題です。

「面倒だ」「おっくうだ」と思いそうになったら、楽にできる方法はないかと考える習慣を身につけましょう。そして、少しでも「やりたい」と思ったことは実行するのです。もちろん介護を含め、人の手も上手に借りることです。それができることが、多く残った幸せな高齢期を呼び込むと私は確信しています。

老いを生きることは障害物競走

私は、老いを生きるということは障害物競走にどこか似ていると思っています。年をとっていくと、さまざまな困難がハードルのように現れます。トイレが近くなったり、もの忘れが多くなったり、体力が落ちたり、膝が痛くなったり、とにかく何をするにしてもおっくうに感じさせるものが次々と生じます。

そのような身体的あるいは精神的、あるいは認知的なハードルが年を重ねるたびにいくつも立ち現れます。しかし、こんなハードルにひるむ必要はありません。華麗に飛び越えるというようなことを考えずに、上手に乗り越えればいいのです。乗り越えさえすればいいと思えば何歳になってもできるし、たとえ認知症になってもできます。

あらゆる手段を用いたり、あるいは自分の生きる姿勢を変えたり、素直に人に手助けを求めたりすることで、実に多くのハードルは乗り越えられるのです。

オムツなど便利な道具を一つ使えば、老化のハードルを軽く一つ乗り越えられます。それだけで自由に生きることができるのです。多くの高齢者に接していると、老化に対してうまく対応している人もいれば、そうでない人もいらっしゃいます。いろいろな人がいて、さまざまなケースがあるのですが、老化のハードルを意欲的に乗り越えて自分の人生を楽しみながらますます充実させていく人もいます。

あくまで私の経験ですが、そのような人は要介護の状態に陥りにくく、健康寿命が長い傾向にあります。仮に要介護になったとしても人の力を借りながら、楽しそうに毎日を過ごしています。表情も明るく、家族や友人たちとの関係も良好の場合が多いです。

その一方で、老いの不安にとりつかれてしまう人もいます。老いてできなくなってしまったことを嘆き、家族に対する不満ばかりが口をつき、やがて体力も気力も落ちていくのです。助言や支援をしても、このような人は心がかたくななことが多く、なかなか変わってくれません。このような人は老け込むのが早いと感じています。

積極的に老化のハードルを乗り越える

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私はこれから老人の仲間入りをしますが、できれば前者のような老人、つまり積極的に老化のハードルを乗り越えて、自由に意欲的に前向きに生きたいと思っています。

今まで、たくさんの患者さんから、生きることについて数え切れないほど多くのことを教えていただきました。その中からこれはいいなと思うことをこれから一つひとつハードルを乗り越えながら実践したいと思っています。

たとえ認知症という壁にぶち当たっても、上手に認知症とつき合いながら生きようと思っています。認知症でもできることを探しながら自分が自分である限り、より自由に、より積極的に、より意欲的に生きたいと思っています。なぜなら、最後まで自分の人生を楽しみたいからです。

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提供元:和田秀樹「要介護になる人・なりにくい人の差」|東洋経済オンライン

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