2022.10.09
年金月5万円の71歳「今が一番幸せ」5つの理由|食費を月1万円にしたらみるみる「若がえった」
月5万円の年金で生活する紫苑さんは、やりくりするために、生活上でさまざまな創意工夫をしている。例えば新しい洋服が買えなかったとしても、帽子ひとつでオシャレ度はぐっとアップする(写真:林ひろし)
テレビを見ればあれもこれも値上げ値上げなうえ、以前取り沙汰された「老後資金2000万円問題」など、老後が不安になるニュースばかり。そんな中、年金わずか月5万円で暮らすひとりシニア紫苑さんの節約生活が話題を集めています。
紫苑さんはシングルマザー、2人の子どもたちが独立してから貯金をはたいて都内に築40年の小さな中古住宅を購入しました。フリーランスだったため、年金は国民年金月5万円。年金通知書をいくら眺めても年金が増えるわけではない、と知恵と工夫を総動員して、ゲーム感覚で節約生活を楽しむことに。
「今が一番幸せ」と言い切る紫苑さんの衣食住と考え方を紹介した新著『71歳、年金月5万円、あるもので工夫する楽しい節約生活』より一部抜粋・編集してご紹介します。
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あまりの不安で夜眠れないこともあった
私が節約ブログを書きはじめたのはコロナ禍のなか、69歳のときです。お金について考えるのが苦手というか、この年になるまでお金とちゃんと向き合った経験はほとんどありませんでした。逃げていたのだと思います。
母子家庭で2人の子どもを育てていた上、フリーランスの仕事で収入は安定していません。そのためつねに漠然とした不安を持ちながら長い間暮らしてきたように思います。
一般的に子どもが育つまでには1000万円とも2000万円とも言われていた時代です。2人の子を育てあげるまでにはどのくらいかかるのか、それを考えるだけで気が遠くなります。老後資金「2000万円」にしても同じです。そんな数字を考えていたら意気消沈するばかり、前に進む気力もなくなります。
そんなことで、数字には目をつぶって生きてきた、というかそのようにしてやって行くしかなかったのです。あまりの不安で夜眠れないこともありましたが、息も絶え絶え、どうにかやっていました。
そこにコロナ。外に出ることさえ危ないという事態になりました。仕事もなくなり、どうしよう。改めて年金振り込み通知書を穴のあくほど見つめてみましたが、何度見ても金額が変わらないのが悲しい。さて、どうする? 人生で初めてお金に向き合う生活の始まりです。69歳。あまりに遅い目覚めでした。
洋服は捨てずにリメイクして自分好みに。生地を足してロング丈に(写真:林ひろし)
食費月1万円生活を始めてみたら、いいことだらけ
外に出られない、1人での食事を始めるにあたり、いくつか決めたことがありました。それは、次の3点です。
(1)1人でも3食ちゃんと食べる。
(2)食費は月に1万円前後とする。
(3)安く、美味しく、かつ栄養のあるメニューを考える
1人でもちゃんと食べる、は、家族がいないと料理をする気力がわかない、作る気がしないという人が多いのを知り、これは避けたいと思ったのです。これから70代、80代を過ごすためには健康は大きな課題です。
1人で病気、あるいは1人になって毎日身体がいうことをきいてくれなくなるのはツラいなあと。ちゃんとした食生活は健康の基本です。そんなことから、とにかく3食ちゃんと食べることを自分に課したのです。
始めてみると、この生活は私には快適でした。好きなものを好きなように食べることができます。加えて量も質も、自分好みにできます。今では安い食材を工夫して食べることは習慣になりました。そのお陰で身体まで丈夫、元気になりました。
もっとよかったのは、お金の心配、不安がなくなったことです。元気になったのは、この不安がなくなったのが大きな原因かもしれません。
“完全自炊”で食費は月1万円以下。折敷をしいて(写真:林ひろし)
お金を遣わない生活は多くのメリットをもたらしてくれましたが、ここでそのうちの5項目をご紹介します。
(1) 安く美味しく身体にいい食生活で若がえった
身体にいい食材は安い。その理由は旬ものしか買わないからです。スーパーに行くとまず安い野菜(わが家の近くのスーパーでは100円前後のもの)を探します。ごぼう、小松菜、大根、キノコ類など、身体にいい食材ばかりです。あとは定番のたまねぎ、じゃがいも、もやしなど。
それらをシンプルに料理することで、簡単に美味しい料理が楽しめます。
キノコは胃腸に優しく、ごぼうは腸活にいい、こういった知識も少しずつ増やしていきました。その結果、長年の過敏性大腸炎がいつのまにか治っていました。毎朝の快腸生活は身体全体を元気にしてくれます。なにより気持ちいい朝の習慣です。
年金5万円で暮らせるという安心感
(4) お金への不安がなくなった
食を決めることで、それほどお金を遣うことなくやっていけるメドがたちました。年金内で生活できるとわかった。これは大きい成果でした。
食生活だけではなく、ほかの部分も見直し、年金の範囲内で暮らせるというか、暮らすしかないという生活ですが、コロナ禍の中、何か月か試した結果、それで暮らせるとわかったときには安心することができました。
(3) お金の遣いどころがはっきりしてきた
メリハリのある遣い方ができるようになりました。プチプラ生活を続けるなかで、片付けやリメイク、DIYを始めるようになりました。あまりに多くのモノがあると、生活が煩雑になるからです。
リメイクはもちろん、ファッション代を浮かせるためです。リメイクについては、着物に夢中になっていたときから興味を持ち始めました。夢中になり始めたばかりの頃は知識がなく、サイズが合わない、フリマで買ったもののまったく色や材質が違うといったことが頻繁にあり、でも捨てるには忍びなく、ほかのモノに変身させ始めたのです。
それまではブランド物も欲しいなあと物欲のカタマリでしたが、今では買うより作るほうが楽しい生活です。買うは一瞬の喜びですが、作るのはそのプロセスも楽しく、出来上がったモノも世界に一つしかない。それに「この着物やシャツを、こうしようと」とひらめいたときには、脳が若がえったような気がします。
リサイクルショップで買ったユニクロのワンピースに刺し子の襟を付けて(写真:林ひろし)
節約するときは「数字」から入らない
(4)節約は無理したり、我慢したりしなくても楽しくできるとわかった
「節約」という言葉が嫌いでした。実際に「節約生活」は苦手でした。今も苦手です。私はとにかく数字に弱く、数字を前にすると頭がくらくらしてくるのです。大きい数字は心理的に負担に感じ、小さい数字は不安が襲ってくる。お金に向き合うと平静ではいられないのです。だから、なるべくお金というものからは逃げたい、避けたいという気持ちになっていました。
ですから1万円食費、プチプラ生活を始めたときも食費を減らそう、生活費を切り詰めようと「数字」から入ったわけではなく、「安く美味しい食材は何だろう」と「とにかくお金は遣わない」というこの2点だけから始めました。
日々の生活のなかで、「今日は何を食べよう」「どんなふうにすれば美味しくできるかな」と毎食の食事作りに集中していたのです。味付けも食材も自分の好み、値段が安い上に美味しい食生活はストレスフリーの生活です。そのせいか、ストレス買いもなく、ストレス食もなくなりました。
スイーツは大好きでしたから、最初はベッドに入っても夜中にスイーツの夢を見て、突然目が覚めたこともありました。それも少しずつ収まり、今ではあまりに甘いものを口にすると逆に気分が悪くなるほどになっています。
節約は無理しなくてもできるとわかるようになると、もう一歩進んで楽しむようになりました。自分で工夫することが楽しみになってきたのです
お金がないことが「苦境」「辛いこと」だとしたら、節約はそれを乗り切るための方法の1つです。そしてそれを楽に実行するにはズボラなくらいのほうが楽しい。あまりに細かい節約は息が詰まるようで、私にはストレスになり、すぐに止めていたと思います。
お金のことはひとまず棚に上げ、目の前の美味しいモノ、面白いことにだけに集中する方法は私には合っていました。
(5) 将来=死への不安もなくなった
プチプラ生活を始める前は「死への不安や怖れ」がとても大きかったのを覚えています。「死ぬ瞬間」「人は死んだらどうなるのか」といった本を読むことが多かったものです。1つの不安材料は、きちんと見つめない限りほかの不安をも呼ぶのかもしれません。いわゆる「漠然とした不安」がいつもつきまとっていたように思います。
中古の一軒家を購入するまでは賃貸でしたから、毎月家賃が出ていきました。それにまだ生命保険にも入っていたので(のちに解約)、そのお金も月に2万円も払い続けていました。家を購入していなかったので貯金はあったのですが、それは徐々に減っていきます。貯金はあっても減っていくのは心細いものです。
「孤独死は嫌」死にも見栄を張っていた
そんな「不安」をごまかすためか、着物をはじめ、いろんなものをよく買っていました。不安でストレスが起きる→モノや食べ物でごまかそうとする→お金が出ていく、食べ過ぎなどで体調を崩す→ますます不安になる、というまさに悪循環の日々です。
家族ともあまりうまくいかない、不安は募る……。不安まみれの生活のなかで「どんなふうに死ぬんだろう」とよく考えたものです。「どうせ死ぬんだから」と「どんなふうに死ぬんだろう」の間で揺れ動いていました。現実の不安をちゃんと見るのが嫌で、そんな生活を続けていくことの怖さが飛躍して死へと繋がっていったのかもしれません。
無意識のうちにストレスになっていたのか、当時は週に3日もジムに通っていたにもかかわらず、体調が崩れることがよくありました。
死への不安が今はまったくないというとウソになります。でもプチプラ生活で体調がよくなり、これでやっていくとの覚悟ができたせいか、見栄を張るどころではないと気づいたせいか、ふっと肩の力が抜けて楽になりました。
死への不安のなかには、なぜか「見栄」もあったのですね。どんな見栄かというと「孤独死」だったり、「お墓」だったり、「みじめ」に死にたくないといったことでしょうか。死においても見栄を張る、とはどんだけ小物なんだと情けなくなりますが。
70歳を前にして人並みに「終活」なるものを始めました。せめて死んだあとには、家のなかにモノをあまりの残さず、自分が倒れた時に誰かが家に入ってきても、あまり汚い場所は見せたくないなど、「外」や「子どもたち」に向けての気持ちが大きかったものです。その一環として始めたプチプラ生活は、いつのまにか「生活」、つまり生きるための活動になっていました。
不安がなくなり、きちんとした食生活で、身体は若い時以上に元気になり、後ろ向きの気持ちから前向きに変わっていったのです。もちろん、年は取っていきます。年齢的にはより死に近づいているのですが、なぜか、死は前より遠のいていった気がします。
それが錯覚だとしても、それはそれでいいのではないでしょうか。不安も錯覚ならお金のあるなしも錯覚の1つ。同じ錯覚なら、元気という思い込みのほうが何倍もいいに決まっているのですから。
絞り入り生地に燕帯。少し汚れがあったため格安で購入(写真:林ひろし)
節約生活で身体が、心が、人生が変わっていった
この本は、69歳というぎりぎりの年齢、多くの人が終活をする年になってようやく、終活どころか、「生活」のためにあれこれやった(やらざるを得なかった)私のささやかな工夫の記録です。でも、その工夫はこれまでにない健康な身体と心をもたらしてくれ、新しい世界を開いてくれることになりました。
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まさに身体が、心が、人生が変わったのです。本のなかの工夫や考え方が、少ない年金で暮らしている人だけではなく、これから厳しくなっていく年金世代の方にも少しでも役に立つことを祈っています。
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