2022.09.30
「面白い人」だけが知る誰もが使える笑いの法則|立場によって「笑いのネタ」を変えるべき理由
面白いことを見つけて人一倍よく笑い、笑いの構造を理解してトレーニングすれば、誰でも「面白い人」になれます(写真:mits/PIXTA)
日本の企業はなによりも「真面目」であることを大切にする。ところが、それとは対照的に、アップルやピクサー、グーグルのような企業は、なによりも「ユーモア」を大切にすることで、大きく成長している。スタンフォード大学ビジネススクール教授のジェニファー・アーカー氏と、同校講師でエグゼクティブ・コーチのナオミ・バグドナス氏によれば、ユーモアにあふれる職場は心理的安全性をもたらし、信頼関係を築き、社員のやる気を高め、創造性を育むという。今回、日本語版が9月に刊行された『ユーモアは最強の武器である:スタンフォード大学ビジネススクール人気講義』について、『「ウケる」は最強のビジネススキルである。』の著者の中北朋宏氏に話を聞いた。3回にわたってお届けする(第1回はこちら)。
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第1回はこちら ※外部サイトに遷移します
笑わせるためには、よく笑え
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『ユーモアは最強の武器である:スタンフォード大学ビジネススクール人気講義』には、プロのコメディアンのテクニックが解説されていますが、「ミスディレクション」「緊張と緩和」「予想と出来事の不調和」などのテクニックは、日本でもアメリカでもまったく同じです。
笑いは、コミュニケーションです。受信と発信という2つの切り口があり、人の話をどう聞くか、どう面白いことを言うかの2つがそろわなければ笑いは起きません。
重要なことは、本書に書かれているような、陽気な場づくりです。普段、社内でまったく笑わない、苦虫を噛み潰したような怖い顔の「苦虫おじさん」が、急に面白そうなことを言っても、笑いづらいですよね。つまり、「いつもよく笑っている人」「冗談が通じる人」という前提が必要なのです。
実際、面白い人ほど、誰かの言っていることでよく笑います。お笑い番組を見ていると、松本人志さんや、有吉弘行さんは、人一倍よく笑っています。人の面白さに気が付く、面白がる才能があるということだと思いますね。
「面白くなる」ということは、信頼関係を構築するということでもあります。ですから、自分がなにか面白いことを言おうとする前に、誰かの面白いところを見つけて、楽しく笑ってあげるということが大切です。
職場でよく笑い、自己開示をして、関係構築をしてから、笑いのスキルを身に付けていくほうがいいでしょう。
「最近、面白くなる練習をしているんだ」ということを、そのまま言ってしまうのもいいですね。その発言自体が面白いですし、周囲の人に対する自己開示になります。
笑いの基本構造を知ろう
発信していくにあたっては、笑いの構造を理解しているとやりやすくなります。
緊張した場面から緩和させると、ギャップによって笑いが起きるという「緊張と緩和」が笑いの構造の根本なのですが、プロはこれを「フリ・オチ」と呼びます。
「フリ」とは、いわゆる共通認識のことです。例えば、お坊さんが登場すると、大体どんなことを言う人かという共通認識が「フリ」としてみんなの中に浮かびますよね。
ところがそのお坊さんが、「メリークリスマス!」と、みんなが思っていたのと違うセリフをミスディレクション的に言うと、笑いが起きやすくなるというわけです。
トークの構造を知ることも重要です。例えば、『すべらない話』などは、最初に「つかみ」があり、「フリ」によって共通認識を持たせたあと、真逆のことを言って落とし、すべった時のために、もう1つの「オチ」を用意しておくという2段構造になっています。
笑いの手法も覚えておくといいですね。いろいろありますが、すべては使いこなせないと思うので、本書でも解説されている「コールバック」、つまりお笑い芸人の世界で言う「天丼」がいいと思います。
「天丼」とは、面白いことがあったら、それを何度か繰り返して笑いを起こすというものです。
笑いは、雪だるま式に大きくなっていきます。最初からドカンと大爆笑になるのではなく、「クス」という小さな笑いから始まります。
プレゼンで、いきなり渾身のボケをして、すべって傷ついて、真っ赤になってしまうおじさんがいますが、振りかぶりすぎだと思うんですよね(苦笑)。
プレゼン開始から15秒以内に「つかみ」として、「クス」をとっていくようにすると、その場にいるみなさんの心をつかむことができて、この人の話を聞きたいなとなるのです。
ですから、いきなり大きな笑いをとろうとするのではなく、「クス」をどうとるかを考えるといいですね。「本気でボケてませんよ、笑ってくれる方だけどうぞ」というスタンスでいれば、気負わずにやれるとも思います。
センスや才能の問題もありますから、勉強してテレビで活躍している芸人のように面白くなれるかというと別ですが、筋トレのようにトレーニングを積み重ねることで、職場で「面白い」と認知されるレベルになることは十分可能です。
「自虐と毒舌」成立する人、しない人
1つ重要なところは、笑いのなかでも、「自虐ネタ」や「毒舌」は、機能しない場面があるということです。
自虐が唯一機能するのは、自分が上の立場で、相手が自然と萎縮してしまうケースだけです。「あなたのような方が、そんなことを言ってくれるんだ」と受け取ってもらえるからです。
反対に、若手が自虐をすると、本当にダメな人間に見えてしまったりします。この構造はちゃんと理解しておきたいところですね。
また、毒舌も難しくなってきています。かつては、女性に対して「ブス」と言って笑いをとることがありましたが、性差別の問題や、多様性を認めようという世の中の風潮もあり、コンプライアンスが厳しくなって、今では不可能です。
そんな中で、毒舌が唯一許されているのは、マイノリティという立場の人ですね。例えば、マツコ・デラックスさんが、なぜ毒舌で成立するのか。それは、彼がセクシャルマイノリティだからです。
実際にはとても社会的地位の高い方ですが、一般の人々からは低く見えているので、何を言っても、上に対して噛みついている下剋上に映る。だから、成立しているのです。
僕も、毒舌が許されるタイプです。見た目はカッコよくもないですし、身長も163センチしかありませんから、下の者が上に噛みついている感じに自然と認識されますよね。もし喧嘩になったらどうせ小さくて弱いだろうから、ボコボコにしたらいいだけと相手も思っていると思います。つまり、誰かに噛みついてもいい立場として認識されることが多いです。
でも、木村拓哉さんが毒舌だったら、「なんだコイツは?」という感覚になり、見ていられませんよね。
毒舌の「パチンコ玉」理論
そのような構造があるわけですが、実は今は、マツコさんも毒舌が減っています。タレントとして立場が上になって、毒舌が下剋上に見えなくなってきたのです。
立場によってユーモアは使うべきものが変わりるわけです。そして、自分の立場や影響力は、知らぬ間に変わってしまうので注意したほうがいいですね。
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以前は毒舌で通用していたけど、立場が上になったのに部下のことを毒舌でいじっていると、パワハラになってしまいます。
弊社では、これを「パチンコ玉理論」と呼んでいます。隣の人からパチンコ玉を投げられても痛くありませんが、ビルの上から落とされると、当たった人は死んでしまうかもしれません。
同様に、社内の同期から「バカだな」と言われてもどうもありませんが、急に社長から「バカだな」と言われたら、それがいくら冗談でも、本当にバカなんじゃないかということになってしまう。
ですから、ビルの上層階にいる立場の人こそ、毒舌ではなく、意図的に自虐を使うことが大事だと僕は思っています。
(構成:泉美木蘭)
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提供元:「面白い人」だけが知る誰もが使える笑いの法則|東洋経済オンライン