2022.09.01
リーダーなら身に付けたい「トラブル対処」のコツ|感情を理性でコントロールし、表に出さない
リーダーの腕の見せどころ、トラブル報告の対応について考えます(写真:polkadot/PIXTA)
組織で何年か働いていると、いつの間にか仕事を教える立場になり、会社によっては役職がつきます。「私はそんな器じゃないんです」「人を取りまとめるのが苦手で……リーダーとか役職が嫌なんです」。
キャリア・人材コンサルタントをしていると、そんなコメントをよく耳にします。コロナ禍でリモートワークになると、チーム社員全体の仕事も見えづらく、「どうやってリーダーシップを発揮したらいいのかわからない」「何か言ったらハラスメントになってしまうのでは……」といった悩みもあるようです。
これらはすべて発想の転換で解決できる、一種の誤解にもとづくコメントだと私は思います。なぜならリーダーとは役割にすぎず、また、リーダーシップはどんな仕事にも求められるものですから。本来もっとパフォーマンスを出せる人や組織なのに、誤解のためにもったいない状況におちいっている可能性があります。
カリスマ性も威厳も才能もいらない、普通の方がリーダーになるためのテクニックをお伝えします(『99%の人がしていない たった1%のリーダーのコツ』より抜粋し、3回にわたって紹介。今回は3回目。1回目はリーダーに必要なのは「指示ではなく依頼」の意味、2回目は周りに慕われるリーダーがしている評価の伝え方です)。
『99%の人がしていない たった1%のリーダーのコツ』 クリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします
リーダーに必要なのは「指示ではなく依頼」の意味 ※外部サイトに遷移します
周りに慕われるリーダーがしている評価の伝え方 ※外部サイトに遷移します
感情的にならない
リーダーのスキルにおいて、感情のコントロールは最大テーマの1つです。
たとえトラブルのときでも、人前で声を荒らげることによるメリットは何もありません。イライラした雰囲気を表面に表すことも避けなければなりません。
リーダーが感情をあらわにすると、まず、周りにいる人は萎縮したり、あなたの顔色ばかりうかがいはじめます。そして時がたつと反感を覚えるようになります。
元気がいいメンバーであれば萎縮せず言い返すかもしれませんが、その場合は感情のぶつけ合いになるでしょう。
冷静な議論が行われないと、結論は正しいものにはなりません。こうなるとおのずと成果も上がらず、メンバーは面従腹背をはじめます。
さらには「あの人は感情的な人だ」というレッテルを貼られ、あなた自身のリーダーシップの欠如とみなされます。威厳を保つために感情的になるという人もいるかもしれませんが、これ、大間違いです。威厳がある人がたまにやると様になるかもしれませんが、そういう人ですら繰り返すとその威厳も地に堕ちます。
威厳がない人ほど、感情的に声を荒らげる傾向があるため、「ナントカの遠吠え」という扱いを受けてしまいます。
「冷静な頭で、激高しているところを演じる」ことが可能であればやってみていただければと思いますが、私は私生活で子どもたちに協力してもらい(?)何度も試してみましたが、やはり行動と感情は双方向で影響を与え合います。
演じていると思ってもだんだん気分が盛り上がって、まさに「怒り心頭に発する」状態になり、冷静さを失ってしまいます。そして目的を達成できません。
目的達成のためには、感情を理性でコントロールし、表に出さないようにするのです。
トラブル報告にはまず感謝を伝える
メンバーがトラブルの一報をもってあなたのところに駆け込んできたら、まず「ありがとう」と言うようにしてください。これがあなたが現場の状況を察知するための、第1の手段です。
この手の報告は不愉快なことが普通ですし、なかには報告者本人の失敗や怠惰であったりすることもありますが、決してその場で責めてはいけません。
本人は現場で何とか問題を解決しようとしたけれど、なんともならないから報告、連絡、相談にきています。強く責められる自分を想像すると、なんとかぎりぎりまで踏ん張ろうとしてしまう。でもそうなると手遅れになるから報告にきているのです。
「相談をもちかけることについては、あのリーダーは責めない」とわかると、メンバーはあなたに相談しやすくなります。当然、相談の内容自体は、ありがたいものではないはずです。にもかかわらず、なぜ「ありがとう」と言うかというと、情報をもってきてくれたことへの感謝であり、その場で爆発してしまわないよう、自制のための「ありがとう」でもあるのです。
ここに1つ加えたいのが、駆け込んできた人に対して「解決策を考えてからもってこい!」という対応をしてはならないということです。なぜなら現場で解決策を考えているうちに、解決できないところまで状況が進んでしまうことがあるからです。
とはいえ、解決策は現場にあるのもまた真実。まずは一報を「ありがとう」と受け取り、その時点で可能な情報収集をしたあと、「この方向で解決策を考えてもらえますか?」と、次のステップに向けた作業依頼をするのがいいと思います。
リーダーはクライアントや他チームとのトラブル交渉のときは、必ずチームの前面に立ち、「最終ラインは自分が守る」という意識をもつことが大切です。
たとえ専門性が高すぎて、すべての内容に精通していなかったとしても、また、それが前任者の残した負の遺産であったとしても同じです。
そしてこのときメンバーには、仕事を部分的に任せるとか、支援を受けることはあったとしても、逃げているように見えることは絶対に避けなければなりません。
私自身も他チームとの交渉になったときは、情報収集や資料作成などの作業をメンバーに任せることはありますが、代わりに自分は、チーム外からの非難や追及など、メンバーの作業を妨げるものを吸収することに全力を注ぎます。
飛んでくる矢をしっかりと受けていれば、どんなトラブルのときも、精神面も含めて助けてくれるメンバーは必ずいます。
前任者時代に発生した問題を引き継いで、それを長期間かけて解決までもっていったリーダーを何人か見てきましたが、その人たちに共通していたのが、「絶対に愚痴を言わないこと」そして「自分のこととして受け止めていたこと」でした。
実際には、自分が原因をつくったわけではないにもかかわらず、非難を一身に受け続けるのです。思うところは多いはずですが、愚痴を言わない。それを見た周りのメンバーは、背景がわかっているだけに、苦しいけれど支えようという思いをもつのです。
しかし、ときには矢面に立ちながら、どうしても解決に至らず責任をとってポジションを譲らざるをえないこともあるかもしれません。その場合は前任者としてできるだけ準備をしたあと、後任に引き継ぐようにしてください。残念ですがこれもリーダーがとるべき責任のとり方の1つです。
ときには政治的にも振る舞う
チームの仕事を進めるとき、他部署や既得権が絡んでいるやり方を変える必要があると、社内であっても利害が対立することがあります。これを解決するのが「政治」です。
このときかかる外圧によっては、今までメンバーががんばってつくり上げてきたことが無になりかねないことがあります。こんなときもリーダーの出番です。こうしたトラブルを切り抜け、場合によっては政治をうまく利用することも、リーダーに求められるスキルです。
くだらないと思われますが、残念ながらこれはどんな組織でも同じです。
このようなときはまず、リーダーが態度を決めます。
次に、メンバーに対して状況の説明と、それに対するチームの態度を説明します。
もし、外圧に屈せざるを得ない場合は、その理由をメンバーが納得のいく形で説明します。逆に対抗措置をとるのであれば、チームに協力を依頼して、具体策を示します。
社内で政治的対立があるとき、リーダーは対立する外部からの批判を浴びますが、外圧に屈せざるを得ない場合は、チーム内部からの批判も浴びます。これはリーダーシップの危機です。 ここではメンバーの納得を得るために、論理と感情を駆使して説明することが求められます。
このときどちらの態度をとるにしても、「仮想敵」をもつと、チームが一つになりやすくなります。仮想敵はもちろん「問題」や「課題」それ自体であり、特定の人物や組織ではありませんので行き過ぎは禁物です。
「仮想敵」に勝ったとき、チームは一段高いレベルで団結していることでしょう 。
リーダーは間違わないほうがいいですが、リーダーも人間ですから、もちろん間違うことはあります。
このミスがチームにとって致命的なものでなければ、そのときはメンバーの力を借りて修正すればいいだけの話。むしろこのとき「自分は間違っていない」と主張し続けるほうが、傷は大きくなります(たとえその主張が論理的であっても、です)。
修正が必要なときは、まず自分が間違った判断をしたことを素直に認めることです。
これもリーダーにとっては古くて新しいテーマで、中国古典の『論語』にも私の知る限りで、4カ所にこれと同じ主張が説かれています。
間違いを認めることはなぜ重要か
では、なぜ間違いを認めることが重要なのでしょうか。
メンバーは自尊心が先に立つ人よりも、正直な人についていきたいと感じるからです。さらには体面を保つためにミスを認めずあれこれ言い訳することは、その後の修正を遅れさせます。ミスを認めなければそこにとどまりますが、認めることで次へのステップがはじまるわけです。
ただし、一度ミスを認めて謝罪したあとは、むやみに何度も謝罪し続けないことです。
「さっきはごめんな」「本当に悪いと思っている」などと連呼することは、あなたを「いい人」にすることはあっても、「ついていきたいリーダー」にする効果はありません。
メンバーに「申し訳ない」という気持ちがあるのはわかりますが、やるべき修正の作業に集中し、その作業を完了させたあと、協力してくれたメンバーにお礼とともに伝えるときまで、謝罪の言葉はとっておきましょう。
法律や常識など、客観的に考えて自分たちの非が明らかなトラブルの場合、リーダーはチームを代表して謝罪する必要があります。
でも、交渉や商談において、主張の違いが原因のトラブルのときは、たとえクライアントからの苦情であっても、リーダーは安易に謝ってはいけません。
あなたはリーダーです。 リーダーの言葉はチームを代表するものです。メンバーが、相手と交渉して一生懸命トラブルを解決しようとしているなか、リーダーが相手側に立つような発言をしてはならないのです。
たとえば、以下の通りです。
交渉相手「これ、高いよ。もうちょっとなんとかならないの?」
メンバー「いえ、必ずしもそうではありません。今回、付加価値として……」
リーダー「申し訳ございません。早速再見積もりしてまいります」
となったら、メンバーは立つ瀬がありません。「どっちの味方なんですか」ということになります。
苦情に対しても、
交渉相手「あなたのチームの××さん、おかしいよ。まったく対応してくれない」
リーダー「本人も考えがあってのことだと思います。確認して連絡させます」
と切り返し、安易な謝罪は入れないようにすることです。もちろん、個別に本人と会話して、確認します。
もし、交渉相手の気がおさまらない状況にまでいたっている場合は、事前に「演じるからな」と申し合わせ、謝罪に行って相手を落ち着かせるなどの措置をとれば、メンバーを売らずにその場を収めることも可能です。
録画されていると思って話す
コロナ禍を経て、オンライン会議が日常的になりました。
会議以外のやりとりも、職場での気軽な雑談が減ったぶん、Slackなどのオープンなチャットによる会話が増加しています。そして、それは、日々の打ち合わせのやりとりや、ちょっとした会話の内容も映像や文書などで履歴が残りやすい、ということでもあります。
特別の意図はなく、ソフトウェアに機能として備わっているからと、気軽な気持ちで会話を録画、録音、文字起こしするということは当たり前のように行われています。何かあったときのために普段から情報収集は抜かりなく、という姿勢なのでしょう。
これに対する是非自体は、ここでは問題にしません。
ただ、リーダーはこのあたりに配慮しつつ、うまく対処する必要があります。昨今、「ハラスメント」という言葉が世に広がり、それまで泣き寝入りしていた人が声を上げやすくなりました。多くの問題が明るみに出て解決に向かいはじめたという意義があります。
先日も、権威あるビジネス雑誌が「パワハラ大国ニッポン」という特集を組んでいました。それによると、この社会的な努力を悪用した「ハラハラ」(なんでも「ハラスメント」だと言い立てるハラスメント)なるものもあるようです。
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意見の相違や好き嫌いを「ハラスメント」として訴える風潮のことです。
訴えられた以上は会社としてはコストをかけて調査するしかありません。しかし示された大量の文書や映像、音声履歴をいくら調査しても、適切な指導や議論しか出てこなかった、という話をよく聞きます。結果、調査のための各種コストがムダになったわけです。
チームをモチベートし、メンバーを育成し、目標を達成する使命を負っているリーダーとしては、余計なことに時間をとられる暇はありません。
もちろん、メンバーを信じつつも、すべてのコミュニケーションにおいて、万が一にも足をすくわれることのないよう、むしろ常に録画されているつもりで話をするように心がけましょう。
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提供元:リーダーなら身に付けたい「トラブル対処」のコツ|東洋経済オンライン