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2022.08.02

医者でさえ「7割が生活習慣病」に陥る科学的理由|「糖」は脳にとって特別で中毒性が非常に高い


医者でも生活習慣病の人が多いのはなぜなのでしょうか(写真:sunabesyou/PIXTA)

医者でも生活習慣病の人が多いのはなぜなのでしょうか(写真:sunabesyou/PIXTA)

日本人の健康寿命(健康上の問題で日常生活が制限されることなく自立した生活を送れる期間)は男性72.68歳、女性75.38歳(厚生労働省調べ、2019年の値)。平均寿命までの10年前後は健康上の問題を抱えることになります。

そのギャップ期間を短くするにはどうしたらいいのでしょうか。新著『健康寿命を延ばす「選択」 “見える化”すれば、“合理的に”選べる』を上梓した聖路加国際病院・心血管センターの循環器内科医である浅野拓氏は、ポイントの1つとして、「合理的な選択」を心がけることを説きます。

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食事は「生きるため」より「快楽のため」に

健康寿命を延ばすにはどのような生活習慣を選択するかが重要ですが、ポイントの1つは、いかに自分の体に合った食べものを選択するか、です。

今日のランチは何を食べましたか? 最近行った外食では何を選びましたか? どんな理由で選びましたか?

「おいしそうだったから」「食べたかったから」ではないでしょうか。

現代に生きる私たちにとって、食事は「生きるため」というより「快楽のため」という意味合いが大きくなっています。テレビでも雑誌でもインターネットでも、あるいは人々の会話の中でも、「どこどこの○○がおいしい」といった話題は尽きません。それだけ人々の関心が高いのでしょう。

でも、食事に対してそうした付加価値をつけたのは、ごく最近のことです。第二次世界大戦直後までは生きるための食事が主流だったので、余裕がでてきたのは、ここ50~60年のこと。快楽のための食事は、500万年ともいわれる人類の歴史を考えると、まだ0.001%ほどしか経験していない食事のあり方なのです。

私たちの体は、その新しい食のあり方に全然準備ができていません。ホルモンの分泌にしても、空腹で下がった血糖値を上げるホルモンは複数用意されている一方で、食べすぎて上がった血糖値を直接下げるホルモンは「インスリン」の1種類だけ。飽食の時代に体が追いついていないのです。

だからこそ、私たちは自分たちの体に合った「食べもの」を選択しなければいけません。おいしい食が身の回りにたくさんある時代だからこそ、選ぶことが大事です。

生活習慣に関しては先延ばしする心理が働きがち

食べ物に限らず、健康な人生を送るには「合理的な選択」をしていく必要があります。私たちは大の大人で、仕事などでは合理的に物事を選択しているはずなのに、こと生活習慣に関しては「運動は今度でいいや」「ダイエットは明日からにして、今日は自由に食べよう」などと先延ばしにする心理が働きがちです。

誰もが生活習慣病になりたくないと思っていて、健康に良いことと良くないことが頭ではわかっているはずなのに、好きなものを好きなだけ食べたり、タバコを吸い続けていたり、お酒を飲みすぎたりする人は少なくありません。

診察室で患者さんと話していても、よく不思議に思うのです。企業の社長など、バリバリ働いていて、かなりリテラシーの高い人であっても、「今はまだ大丈夫」「来るべきときがきたら、ちゃんとする」などとおっしゃって、すでに血圧や血糖値、コレステロール値といった数字が上がっていても、何も行動を変えようとしない人がけっこうおられます。

はたしてその「まだ大丈夫」という選択は、仕事で行っているような合理的な判断に基づいたものなのか……。

こうしたことは医者にも当てはまります。むしろ医者のほうが、質(たち)が悪いかもしれません。

私たちがいかに合理的に「食」を選べていないか、ということが垣間見られる報告があります。健康のエキスパートといえば、医者ですよね。ところが、その医者でさえ、不合理な行動を選択しているのです。

岐阜県保険医協会の報告では、2008年から2017年の間に同協会を死亡退会した医者の平均死亡年齢は70.8歳だったそうです。今の日本人全体の平均寿命を考えると、明らかに低いですよね。しかも、年代別で見ると、60代で死亡した人が3割強で最も多かったそうです。これは岐阜県での報告ですが、他の県でも同じようなことが報告されています。

どうして、健康のエキスパートで知識をもっているはずの医者が短命になりやすいのでしょうか。その背景には過労やストレス、うつ(開業医の4人に1人がうつ状態という調査結果もある)などいろいろありますが、じつは医者の7割が糖尿病や高血圧、脂質異常症などの何らかの生活習慣病を抱えているとの報告もあります。

医者の不養生とよく言うように、他の人よりもリスクをわかっているはずなのに、自分の生活習慣は顧みない人が多いのでしょう。誰よりも、生活習慣病の怖さも対策もわかっているはずなのに、自分の体は守れていないわけです。

都合の悪い情報に直面すると「正常性バイアス」が働く

どうして頭ではわかっていても、いい生活習慣を選択することは難しいのでしょうか。私は、行動経済学の本を読んでいて、その「なぜ」が理解できました。人間というのは、そもそも不合理な行動を選択してしまう生き物のようです。

ちなみに、行動経済学とは、これまでの経済学に心理学の要素を取り入れたもので、人々の不合理な行動が経済にどのような影響を与えるのかを追究する学問です。

例えば、予期しない事態が起こったときに、自分に都合の悪い情報を無視したり、過小評価したりして「自分は大丈夫だろう」「まだ大丈夫だろう」などと判断してしまうことを、「正常性バイアス」と呼びます。

バイアスとは、思い込みや情報の偏りなどによる認知の歪みのこと。自分に都合の悪い情報に直面すると、誰しも、大なり小なり正常性バイアスが働くようにできているようです。

医者をはじめ、合理的な選択は何かということはわかっていても、行動に移せないのはなぜかというと、前述の行動経済学が解き明かすような心理的な側面からだけではなく、じつは脳の「報酬系」というシステムが邪魔をしています。

報酬系は、薬物依存やアルコール依存、ニコチン(タバコ)依存といった依存症にもかかわっている神経回路です。

麻薬や覚せい剤といった薬物、アルコール、タバコなどの快楽を感じる物質が入ってくると、脳内でドーパミンという神経伝達物質が次々と分泌されて、脳の側坐核という部分が刺激されて高揚感が高まるとともに、前頭前野では「またこの快感が欲しい!」という衝動的な気持ちが強められるのです。このように、快楽物質とも呼ばれるドーパミンを分泌する脳内の神経回路が報酬系なのです。

つまり、薬物やお酒、タバコといった刺激によって脳の報酬系が活性化されて、ドーパミンがどんどん出ると、脳が心地よさを感じて「もっと、もっと!」とさらに欲しがってしまうわけです。

糖質や脂肪の多い食事は脳の報酬系を刺激しやすい

同じようなことが、食事でも起こります。とくに、ごはんやパン、めん類といった主食や甘いものなどの「糖質」や、「脂肪」の多い食事は、脳の報酬系を刺激しやすい。そのため、中毒性(依存性)があることが証明されています。

甘いものや脂肪(動物性の脂肪)の多いものはおいしいですよね。レストランのメニューにあれば、つい食べたくなってしまいます。そして、食べはじめると止まらなくなることも。その先の健康ということを考えると合理的な選択ではありませんが、それは、私たちの脳がうっかり喜んでしまっているからなのです。

ラットを用いたある実験では、砂糖(スクロース)を与え続けると、日に日にラットの食べる量が増えていくことがわかっています。ブレーキが利かないわけです。「やめられない、止まらない」という状態ですね。どうして止まらないのかと言えば、脳が飽きないからです。

脳内の報酬系が刺激されると、快感や興奮につながるドーパミンという脳内ホルモンが出るわけですが、ラットに普通のエサであるペレット(各栄養素がバランスよく入っているようなもの)を与えたときにもドーパミンは出ます。「やったー、ごはんがきた!」と、脳が喜ぶのです。

ただし、普通のエサの場合、毎日同じものを食べているうちに飽きてきて、ドーパミンの量は明らかに減っていきます。脳にとってハッピーではなくなり、「もういいや」という感じになるのです。

ところが、砂糖の場合は、ずっと変わらず脳の報酬系を刺激し続けます。3週間経っても脳が砂糖に飽きることはなく、ハッピーなまま、ドーパミンが出続けます。だから、砂糖を食べる量は日に日に増えていくのです。それだけ糖質というのは脳にとって特別で、中毒性が非常に高いものです。

出所:『健康寿命を延ばす「選択」』

出所:『健康寿命を延ばす「選択」』

(外部配信先では図や画像を全部閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください)

糖質や脂肪をつい食べ過ぎるのは生理的な現象

私たちも物心がついたときから今まで、朝・昼・晩と1日3回ごはんを食べますよね。それでも飽きません。これが3食ブロッコリーだったらどうでしょう? すぐに飽きてしまいそうです。こうしたことに疑問を感じたことさえないのではないでしょうか。

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『健康寿命を延ばす「選択」 “見える化”すれば、“合理的に”選べる』(KADOKAWA) クリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします

糖というのは食べ続けても、いつ食べても脳がハッピーを感じるようにできているのです。同じような結果が、肉類や乳製品といった動物性の脂肪に関しても出ています。糖質や脂肪をつい食べすぎてしまう、よくないとわかってはいてもやめられないのは、科学的な根拠があるのです。ある意味、生理的な現象なのです。

糖質や脂肪の多い“おいしい食事”は脳を味方につけてしまうほどの強敵なので、食べすぎないようにするには、「これを食べすぎたらどうなるのか」「こういう食事を毎日選んでいたらどうなるのか」をしっかりと理解して、生理的な欲望を、合理的に、理性で抑制するしかありません。

このときに、健康に対する知識のある医者でも合理的に理性で抑制できていないことを考えると、プラスアルファのちょっとした工夫が必要です。それは、私は「見える化」だと思っています。

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提供元:医者でさえ「7割が生活習慣病」に陥る科学的理由|東洋経済オンライン

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