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2022.07.14

「パワハラ」が発生する職場の共通点と防止策|指導は感情的にならない、問題行動や内容に焦点


上記のような行動をしていませんか? (画像:こんざい/PIXTA)

上記のような行動をしていませんか? (画像:こんざい/PIXTA)

労働施策総合推進法(以下「パワハラ防止法」とする)が改正され、企業にパワハラ防止措置の義務化が課せられています。大企業は2020年6月から義務化されていますが、2022年4月1日からは、中小企業も含めたすべての会社に義務づけられるようになりました。

企業のパワハラ防止措置が完全義務化

厚生労働省が発表した2020年度までの過去10年間の全国の労働局に寄せられた労働トラブル(会社と労働者との間のトラブル)に関する相談内容の内訳は以下のとおりです。

労働局に寄せられた労働トラブルに関する相談の中でも、いじめ・嫌がらせ(パワハラ)の相談件数は飛び抜けて高いことがわかります。

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「パワハラ」とは「パワーハラスメント」の略ですが、テレビや雑誌にもよく取り上げられることもあり、多くの方が「パワハラとは職場での上司からのいじめ・嫌がらせのこと」という認識はあるものの、どこまでが指導の範囲でどこからがパワハラに該当するのかということを十分に理解している方は少ないのではないでしょうか? そこでパワハラの定義について解説したいと思います。

パワハラ防止法におけるパワハラの定義は、「職場において行われる、(1)優越的な関係を背景とした言動であって、(2)業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、(3)労働者の就業環境が害されるものであり、(1)から(3)までの3つの要素を全て満たすもの」をいいます。

つまり、「会社内で、上司が部下(厳密にいうと、必ずしも上司から部下に限るものではありません)に対し、仕事上の注意や指導の範囲を超えたひどい言動により、部下が会社で働きづらくなること」をいいます。

なお「優越的な関係」としては、上司から部下に対するものが代表例ですが、例えば部下の能力が業務に欠かせないものであり上司がその部下に逆らえない場合などは部下から上司に対するものや同僚から同僚に対するものもパワハラに該当する可能性があります。

さらに、パワハラとなる具体的な行動を、以下の6つの類型に分類しています。

(1)身体的な攻撃(暴行・傷害)

・殴打、足蹴りを行う等

(2)精神的な攻撃(脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言)

・人格を否定するような言動を行う
・業務の遂行に関する必要以上に長時間にわたる厳しい叱責を繰り返し行う
・他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責を繰り返し行う等

(3)人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)

・自身の意に沿わない労働者に対して、仕事を外し、長期間にわたり、別室に隔離したり、自宅研修させたりする等

(4)過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制・仕事の妨害)

・新卒採用者に対し、必要な教育を行わないまま到底対応できないレベルの業績目標を課し、達成できなかったことに対し厳しく叱責する等
・労働者に業務とは関係のない私的な雑用の処理を強制的に行わせる等

(5)過小な要求(業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)

・管理職である労働者を退職させるため、誰でも遂行可能な業務を行わせる等
・気にいらない労働者に対して嫌がらせのために仕事を与えない等

(6)個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)

・労働者の性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報について、当該労働者の了解を得ずに他の労働者に暴露する等

コミュニケーションが少ない職場は要注意

パワハラが発生する職場の共通点というのもあります。「令和2年度 厚生労働省委託事業 職場のハラスメントに関する実態調査報告書」によると、パワハラが発生する職場には、次のような共通点が見られると報告されています。

・上司と部下のコミュニケーションが少ない又はない

・ハラスメント防止規定が制定されていない

・失敗が許されない又は失敗への許容度が低い

・従業員間に冗談、おどかし、からかいが日常的に見られる

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パワハラ認定される可能性が高い6類型を説明しましたが、その中でパワハラととらえられる指導は以下ものになります。

(1)身体的暴力

(2)大声で罵倒する、机を叩くなどの威嚇的な行為

(3)大勢の前で注意する(内容による)

(4)長時間立たせるなど身体的苦痛を与える

(5)不適切な言葉、表現(身体的に危険を感じさせるような発言、雇用を脅かすような発言、人格を傷つけるような発言)

(出所)厚生労働省 あかるい職場応援団 「動画で学ぶハラスメント パワハラにならない叱り方 - アウト!レベル」

「動画で学ぶハラスメント パワハラにならない叱り方 - アウト!レベル」 ※外部サイトに遷移します

「身体的暴力」については、もはやパワハラというよりも暴行・傷害などの刑事事件として処罰される可能性があります。また、「不適切な言葉、表現」については、「できなかったら殴るから」「これぐらいのことができないのなら辞めてもらうしかないね」「ばか。能無し」といった表現もパワハラとなる可能性があります。

上司が注意・指導する際のポイント

上司から部下に注意・指導する際に熱が入りすぎてパワハラとなるケースがよく見られます。では、パワハラにならない指導を行うにはどうすればよいのでしょうか? ポイントは以下の通りとなります。

(1)問題となる具体的な行動や内容に焦点を絞る

(2)感情的にならない

(3)人格や性格を否定しない

(4)どのように改善すべきかを伝える

(5)部下にどのように伝わったか確認する

つまり、上司が部下に注意・指導する際は「感情的にならず、淡々と問題点に絞って指摘し、どのように改善したらいいか説明すること」が重要です。

「そんなことでは部下が言うこと聞くわけないだろう!」と思われる方もいるかもしれませんが、今までのように感情的に人格や性格を否定するような言動での注意・指導は労働局からの指導や訴訟に発展する可能性があり、会社の信用にも影響する場合があります。

淡々と注意や指導をしても改善されない場合は、就業規則に基づく懲戒処分(始末書を提出させる、出勤停止、諭旨解雇等)や人事評価に基づく降給、降格処分などを実施するようにしましょう。

このように書くと、「これからは部下に対して注意・指導もできないのか」と思われるかもしれませんが、それは違います。皆が働きやすい会社にするためには問題行動を取る社員に対して注意をし、若手社員を育てるためには指導は欠かせません。

ただし、その注意や指導する際に「あほ、ぼけ、かす。こんな小学生でもできることができないのか?もう辞めてまえ!」と机をバンバン叩いて長時間くどくどと大声で怒鳴るのではなく、「君のここが問題だからこのように直しなさい」と感情的にならず簡潔に注意・指導すればいいのです。

パワハラを意識しすぎて部下への注意・指導を躊躇するのではなく、正しい注意・指導する方法を身に付けてください。

ここまで、パワハラにならない注意・指導方法について説明してきましたが、ここからは企業に義務付けられたパワハラ防止措置について説明します。

具体的には以下の取り組みが義務付けられます。

(1) 事前に実施しなければいけない取り組み

a 具体的なパワハラの内容及びパワハラを行ってはいけない旨の周知
b パワハラを行った者に対し懲戒処分をする旨の周知
c パワハラ相談窓口を設置・周知
d パワハラ相談窓口の担当者は適切に相談対応する旨の周知
e パワハラ相談をした者のプライバシーを保護する旨の周知
f パワハラ相談をしたことをもって相談者に対し不利益な取り扱いをしない旨の周知

(2) 労働者から相談を受けた場合の取り組み

g 相談者・行為者・第三者から事実関係を迅速かつ正確に確認する
h gの結果、パワハラがあった場合は被害者の保護を図ること
i gの結果、パワハラがあった場合は加害者に対し就業規則に基づいた懲戒処分等を行うこと
j パワハラの再発防止に向けた取り組み(セミナーや研修等)を行うこと

「事前に実施しなければいけない取り組み」についてはa~fの内容をチラシ等に記載し、労働者が目にする掲示板などに貼れば大丈夫です。ただし、bについては就業規則の懲戒規定に「パワハラがあった場合は○○○○の懲戒処分を行う」等の記載を盛り込む必要があります。

各労働局のホームページに社内啓発用のチラシが掲出されているので、それを入手するのもよいでしょう。

「労働者から相談を受けた場合の取り組み」については、相談担当者が相談者に対し「気のせいだろう」と門前払いする例が散見されますが、それでは「相談者・行為者・第三者から事実関係を迅速かつ正確に確認」したことにはならず、労働局から指導を受ける可能性があります。

まずは相談者から話を聞き、その後行為者とされる者や周りの労働者への確認が必要となります。それらの確認を行った結果、会社として「パワハラはなかった」と判断することも可能です。ただ、その後、労働者が訴訟を提起した場合、会社は改めてパワハラがなかったことを証明する必要が生じるため、パワハラがなかった根拠等は証拠も含めて押さえておく必要があるでしょう。

相談を受けた際の具体的な対応

パワハラ相談を受けた場合はその対応方法が重要となります。パワハラ相談時の具体的な対応方法は以下のとおりとなります。

(1) プライバシーが確保できる部屋を用意する
(2)メールや電話よりも面談
(3)相談者の秘密を守れるように連絡方法や部屋の場所に注意する
(4)実際の相談時には、「プライバシーを守ること」「相談をしたことによる不利益取り扱いを受けないことを」相談者に告げる
(5)相談内容を記録用紙に記録することを相談者に告げる
(6)相談には複数名で対応し、相談者と同性の担当者を配置することが望ましい
(7)相談者の話をゆっくり、最後まで傾聴する(時間をかけて傾聴することにより、相談者が話を聞いてもらえたという納得感を得やすい)
(8)相談対応者は中立的な立場で相談を受けること(「その程度のことはよくあることだ」「あなたにも問題があったのではないか」という言葉を相談者に言うことは厳禁 → そのことに対して相談者から「会社に相談しても対応してもらえない」等の新たなトラブルに発展する可能性があるため)
(9)相談者からの聞き取りを行う(相手は誰か、いつ、どこで、どのようなことをされたのか、業務中か業務外か、過去にも同様のことがあったか?あれば回数や頻度は?、周囲で知っている人はいるか? また同様の対応を受けている人はいるか? 本人の望む解決方法は何か?、相談者に今後の加害者への確認や第三者への確認する旨伝える
(10)行為者からの聞き取りを行う(相談者からの聞き取り内容のうち事実確認を行う)
(11)第三者からも聞き取りを行う
(12)結果が出たら相談者に迅速に伝える

(出所)厚生労働省 あかるい職場応援団 「動画 企業のパワハラ相談対応者の具体的な対応の例」

「動画 企業のパワハラ相談対応者の具体的な対応の例」 ※外部サイトに遷移します

パワハラ相談では、相談者はパワハラを受け精神的に落ち込んでいる場合も多いため丁寧な対応を心がけてください。

欧米では仕事ができないことよりも「パワハラを行った」場合のほうが重い懲戒処分を受ける(場合によっては1回で解雇されることもある)と聞いたことがあります。部下のことを思って注意・指導しているつもりでも声を荒らげ、人格を否定するような指導は社会からパワハラと受け取られ、処分を受ける可能性があります。私の記事をお読みいただき、今一度ご自身の注意・指導方法を振り返っていただき、上司・部下ともに働きやすい職場になることを願っております。

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【あわせて読みたい】※外部サイトに遷移します

若者が次々辞める会社は「休ませ方」を知らない

パワハラの境界線、今さら聞けない基本中の基本

今の若者に上の世代が絶対取ってはいけない言動

提供元:「パワハラ」が発生する職場の共通点と防止策|東洋経済オンライン

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