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2021.10.06

肉食ダイエットに励む人が見落す不都合な真実|食べすぎも食べなさすぎも健康に害をおよぼす


赤身肉を食べるダイエットで注意すべきこととは?(写真:kouta/PIXTA)

赤身肉を食べるダイエットで注意すべきこととは?(写真:kouta/PIXTA)

タンパク質が豊富で体にいいというイメージから、ダイエットでも食される「赤身肉」。ですが、赤身肉の過剰摂取は「がん」や「心筋梗塞」リスクの増加につながることも。赤身肉の適切な摂り方を、医師で医療ジャーナリストの松村むつみ氏による新書『「エビデンス」の落とし穴』より一部抜粋・再構成してお届けします。

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「赤身肉はタンパク質がたくさん含まれ、体にいい」というイメージを持っている方がいるかもしれません。赤身肉を使ったダイエットも流行しました。

ところで、ここでみなさんがイメージする「赤身肉」とは、どういう肉でしょうか? 脂身の少ない赤身の部分ではないでしょうか?

最近よく「赤身肉は体にいい」「いいや、(大腸)がんのリスクになる」という議論が交わされることがありますが、議論を正確に理解するには、まずは「赤身肉とは何か」ということを正確に知っておきましょう。

「赤身肉」の定義とは

では、「赤身肉」(red meat)というのは、正確にはどんな肉のことでしょうか? よくある誤解は、焼き肉などで、霜降りではない肉を「赤身」と呼ぶことがあるので、そのような肉の部位のことだと思っている人も多いようですが、ここで言う「赤身肉」とは、そのような部位を指すわけではありません。

赤身肉とは、牛や豚、羊などの、調理前に赤みがかった獣肉のことを指します。鉄分を多く含むのが特徴です。

一方、白肉(white meat)とは、鶏肉やうさぎなど、白っぽい肉を指します。豚肉は、伝統的には白肉に分類されることもありましたが、栄養学上は赤身肉に分類されるようです。

red meatは、日本語では、「赤身肉」とも「赤肉」とも訳されます。どちらが正しいというわけではないですが、以下では、誤解を避けるために、「赤肉」の言葉を使うことにします。

赤肉や加工肉(ソーセージ、ハム、ベーコンなど)を食べすぎるとがんになる、というニュースがときどき流れてきます。がんになると聞くと怖くなってしまいますよね。実際のところはどうなのでしょうか?

IARC(国際がん研究機関)は、発がん性物質を5段階に分類しています。IARCとは、WHOの中の、がんに特化した専門的な機関です。これまでの研究の知見を結集、統合して、がんの原因特定や発がん抑制の研究を行っている機関です。

IARC(国際がん研究機関)による 発がんリスク評価(図表:『「エビデンス」の落とし穴』(青春出版社)より)

IARC(国際がん研究機関)による 発がんリスク評価(図表:『「エビデンス」の落とし穴』(青春出版社)より)

赤肉は、これまでの研究で、大腸がんなどに関して、おもに欧米で、リスクの上昇が指摘されてきました(※1)。

ただし、これまでの研究では、赤肉を食べると発がんリスクは上昇するが、その上昇は1.2倍程度という研究結果もあり、それほど顕著ではないとしています。そのためIARCは、赤肉に関しては、がんのリスクを「グループ2A」に位置づけています(ちなみに加工肉はよりリスクが高い「グループ1」です)(※2)。

日本人においても、赤肉での大腸がんリスクは示唆されています(※3)。国立がん研究センター予防研究グループが行った、いくつかの研究を統合した解析では、男性では、牛肉の摂取が多いグループで、少ないグループの1.3倍強くらい結腸がんのリスクが高く、女性では、牛肉の摂取が多いグループは、少ないグループと比較して1.2倍の結腸がんリスクと結論づけられています。

また、女性では、加工肉のリスクや、豚肉を週3回以上食べる人での上昇も示唆されています。しかし、この研究では、「具体的にどれくらいの量を食べればいいのか」に関しては結果が出ていません。

赤肉は「週500g以内」に控えたほうがいい

リスクを考えるときは、「発がんするかどうか」に関してだけではなく、「実際に、どの程度リスクが上昇するか」を考える必要があります。

世界がん研究基金(WCRF)と米国がん研究協会(AICR)は、その報告書で、赤肉は調理後の重量で週500g以内、加工肉はできるだけ控えるように、と勧告しています(※4)。

しかし、欧米に比べて、日本人は赤肉や加工肉の消費は少なく、世界でも肉を食べないほうの国です。2013年の国民健康・栄養調査によると、日本人の赤肉・加工肉の摂取量は一日あたり63g(うち、赤肉は50g、加工肉は13g)で、多くの日本人が週500gを下回っています。食べすぎなければそれほどリスクを気にしなくてもいいかもしれません。

ダイエット目的で、赤肉をたくさん食べることを勧める本やネット記事などがあります。日本人は赤肉の消費量が少ないので、それほど心配いらないとはいえ、たくさん食べると発がんの可能性もありますし、また、心臓病のリスクにもなることがわかっています。ほどほどな量にとどめておくのがいいでしょう。

赤肉が、がんのリスクになることは、欧米での多くの研究でエビデンスが示されており、信頼性は高いと言えます。

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しかし、前述のように、日本人においては、赤肉や加工肉の摂取量が欧米と比べると少ないので、それほど大きなリスクとは言えません。食べすぎなければ、大きな問題にはならないと言えます。

しかし、毎日のように大量に食べている人は、週500g以下に抑えるようにしたほうがいいでしょう。また、日本人で一生のうちに大腸がんになるのは12人に1人ですが、「がんのリスクが1.2倍程度上がる」とするとき、生涯で大腸がんになる確率が12人のうち1.2人になる程度です(そもそも、12人に1人というのは、赤肉だけでなく、あらゆるリスクの人を含んだ計算であり、ざっくりした数字だと思ってください)。この数字を見ると、「それほど変わらない」と思う人もいるのではないでしょうか。

「ゼロか百か」に陥ってはならない

また、その一方で、「赤肉はまったく健康に問題がない」という論文に関しては、エビデンスの信頼性は低いと言えるでしょう。

逆に、発がんや心臓病が怖いからまったく食べない、という選択をすると、人によってはビタミンやタンパク質が欠乏してしまう可能性もあるので、「ゼロか百か」という極端な選択に走ることなく、バランスのよい食生活をしたほうがいいでしょう。

(※1)Chao A et al. Meat Consumption and Risk of Colorectal Cancer.JAMA. 2005;293(2):172-182.
(※2)IARC Monographs Volume 114: Evaluation of consumption of red meat and processed meat, 2015
(※3)Islam Z et al. Meat subtypes and colorectal cancer risk: A pooled analysis of 6 cohort studies in Japan.Cancer Sci. 2019; 110(11): 3603–3614.
(※4)Recommendations and public health and policy implications, WCRF and AICR ,2018

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提供元:肉食ダイエットに励む人が見落す不都合な真実|東洋経済オンライン

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