2021.09.09
私たちはなぜ眠る?日本人に足りない眠りの効能|質の高い睡眠は究極のアンチエイジングである
ストレスと不安を緩和させ、心の健康を手に入れるための睡眠とは? (写真:EKAKI/PIXTA)
母親のアルツハイマー闘病生活をきっかけに健康や脳のはたらきについて学び、ニューヨークタイムズ・ベストセラーとなった『Genius foods』(未邦訳)の著者であるマックス・ルガヴェア氏が、このたび健康的な生活を送るための実践的なガイドブックとして『ジーニアス・ライフ』を上梓した。
食生活のみならず、エクササイズや自然との関わりなど生活全般についてまとめられた本書から、今回は高まるストレスと不安を緩和させ、心の健康を手に入れるための睡眠について、一部を抜粋してお届けする。
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睡眠不足で一気に加齢する脳
「ジーニアス・ライフ」にとって、からだにいい食生活を送り、太陽の光を浴びることと同じくらい重要なのは、質の高い眠りだ。
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睡眠は血圧と血糖値を下げ、ホルモンを調節し、代謝を促し、からだを強くしてくれる。究極のアンチエイジングであり、とりわけ脳を若々しく保ってくれる。注意力を高め、情報を受け取り、保存する力も向上する。
睡眠不足になると、その反対のことが起きてしまう。睡眠時間が慢性的に4時間未満の人は、認知能力の脳年齢が一気に8歳も進んでしまうという。
慢性的な睡眠不足は、からだのあらゆるシステムに影響を及ぼす。そして、その一部は代謝機能の低下が原因で起きる。
●睡眠時間が減ると血糖値が高くなる
動物実験でも人間の臨床試験でも、睡眠時間が減ると、インスリン感受性が低下する。つまり、からだがより多くのインスリンを生成し、血糖値が高いままの状態が続くのだ。
アメリカ内分泌学会が発表したある研究によると、睡眠時間がたったひと晩、8.5時間から4時間に減っただけで、“一夜にして”代謝性肥満が生じるという。
これは、体重が9~14キロ増えた時の影響に相当するようだ。肝臓で糖と脂肪の産生が増えて、血糖の効率的なコントロールができなくなってしまうのだ。高血糖はやがて血管を傷つけ、脳を含む全身の器官に酸素を運ぶ血管の働きを阻害する。
睡眠はまた、脳を毎晩、脳脊髄液に浸すことで冴えた頭脳を維持する。睡眠中は、脳脊髄液が脳内に滲み出し、有害な老廃物を押し流してくれる。
この老廃物には、アルツハイマー病患者の脳に見られる異常タンパク質(アミロイドβとタウタンパク質)も含まれる。たったひと晩でも睡眠時間が短いと、脳脊髄液中のアミロイドβは30%、タウタンパク質は50%も濃度が高くなってしまうという。
これらの濃度が高いと、そのふたつが蓄積して凝集し、アルツハイマー病の特徴であるプラークと「もつれ」を形成しやすくなってしまう。
睡眠とうつ病の関係
最近では、長引くうつ病の原因は睡眠障害にあると結論づける研究結果も増えてきた。睡眠とうつ病との関係は、つまるところ、脳の奥深くに位置する扁桃体に行き着くのかもしれない。
過敏な扁桃体は、ごくささいな出来事でも大きなストレス要因と捉える。多くのうつ病患者の扁桃体は活発だ。驚くべきことに、たったひと晩睡眠不足だっただけで、扁桃体が約60%も反応しやすくなると主張する人もいる。睡眠不足のときにイライラしやすい理由もここにある。
睡眠が足りているときには、前頭前皮質の“理性の声”が扁桃体の働きを抑制する。幸せを感じやすくなり、ストレスに強くなる。
カリフォルニア大学教授のマシュー・ウォーカーは、睡眠負債(毎日の睡眠不足の積み重なり)が社交生活に及ぼす影響について研究している。
ウォーカーによれば、睡眠不足が蓄積すると人づきあいを避けるようになるという。それだけではない。引きこもりのような効果を生み、人づきあいを避けたがっているというシグナルを周囲の人間に送ってしまい、周囲があなたとのつきあいを躊躇してしまうのだ。
社交生活を円滑にするためにアルコールに頼る人は多いが、まずはその前に、睡眠の質を改善しよう。
それでは、睡眠時間はどのくらい必要だろうか。一般的に、成人の場合は7~8時間、10代であれば9~10時間が望ましい。
睡眠の長さは重要だ。なぜなら私たちは、入眠後の時間帯によってふたつの異なる睡眠状態を体験するからだ。入眠直後には深いノンレム睡眠が訪れて、大脳が休息する。その後に訪れる浅い眠りのレム睡眠では、記憶を定着させ、思考を整理する。
ぐっすり眠って、朝は自然に目覚めよう。目覚まし時計が必要な人は、目覚ましアプリを使ってみよう。眠りが浅くなるタイミングで起こしてくれるため、気持ちよく朝が迎えられる。
睡眠の質について言えば、大切なのは午前中に明るい光を浴びることだ。太陽の光が望ましいが、照度が充分にあれば人工的な照明でも効果がある。明るい光を浴びれば、睡眠ホルモンのメラトニンが1日の早い時間に産生されるだけでなく、夜、眠りにつきやすくなる。
寝室は涼しくして約18度を保ち、暗くすること。目覚まし時計の表示などの、どんな小さな光でもまぶたを通して入ってくるため、睡眠の質が低下して、翌日の認知機能が妨げられてしまうからだ。遮光カーテンやアイマスクを試してみるのもいいだろう。
私がおすすめするよく眠るコツ
ぐっすりと眠るための秘訣を整理しよう。
▼毎日同じ時間にベッドに入ろう。
しっかり眠るためには、毎晩、同じ時間にベッドに入ることだ。就寝時間を守ろう。眠る時間を遅らせると逆効果になって、からだが警戒態勢のままになり、不眠症につながるかもしれない。
▼エクササイズをしよう。
定期的なエクササイズは睡眠の質を向上させる。屋外のエクササイズなら太陽の光を浴びることになり、相乗効果が期待できそうだ。エクササイズの習慣がない人も、夜にエクササイズをするだけで、ぐっすり眠れるかもしれない(ただし、就寝の2時間前までには終わらせよう)。
▼就寝前に入浴するかシャワーを浴びる。
入浴やシャワー後に深部体温が下がると、からだが眠る準備をはじめる。
▼ベッドは就寝と性行為だけに使おう。
目が覚めたらすぐにベッドから出て、夜までベッドに入らない。ベッドのなかで食べたり、仕事をしたりしてはいけない!
▼アルコールを避ける。
アルコールを飲めば早く眠りにつけるが、レム睡眠の時間が減ってしまう。飲んだときには酔いをさましてから寝よう。
▼就寝2~3時間前になったら、ブルーライトカット眼鏡をかける。
スマートフォンやラップトップ、テレビの画面が発するブルーライトは眠りを妨げ、翌朝のあなたを“光の二日酔い”にする。
食事にも眠るコツがある
▼カフェイン禁止時間を決めよう。
午後4時を過ぎたらカフェインの摂取を控えよう。遺伝子によってカフェインの代謝速度が遅い人は、禁止時間をもっと早めに設定したほうがいいだろう。
▼オメガ3系脂肪酸や食物繊維をたっぷりとる。
炎症は睡眠の質に影響を与えるため、オメガ3系脂肪酸(サーモン、サバ、ニシンなどの冷水性海水魚に含有量が多い)や、食物繊維をたくさん摂取すると、ぐっすり眠れて元気が回復する。
▼就寝2~3時間前には食べない。
夜遅い時間に食事をした翌朝、ひどい気分だったことはないだろうか。私には経験がある。夜食が睡眠の質を妨げてしまうからだ。
(構成 笹幸恵)
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提供元:私たちはなぜ眠る?日本人に足りない眠りの効能|東洋経済オンライン