2021.08.13
「姿勢が悪い人」が知らない呼吸という根本問題|「姿勢」と「呼吸」の切っても切れない関係
姿勢をよくするためには何をすればいいのでしょうか(写真:YAMATO/PIXTA)
ねこ背や反り腰など、肩こりや腰痛といった不調を招く「悪い姿勢」をやめるには、どうしたらよいのか。リハビリを支援する理学療法士であり、アレクサンダー・テクニーク国際認定教師でもある大橋しん氏は「呼吸の自然な“ゆらぎ”に委ねれば、姿勢は勝手によくなっていく」と言います。『魔法のフレーズをとなえるだけで姿勢がよくなるすごい本』を上梓した大橋氏が解説します。
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呼吸を味方につければ自然と姿勢はよくなる
最終兵器とも言える「とっておき」の魔法のフレーズをご紹介しましょう。呼吸を味方につけるのです。「いったい、どうして呼吸が姿勢に関係してくるの?」と、不思議に思っている方もいらっしゃるかもしれませんが、実は大いに関係ありなのです。
繰り返される「吸う」「吐く」のリズムは、速くなったり荒くなったりすることもありますが、基本的には寄せては返す「さざ波」のように、穏やかに安定したペースでゆらぎ続けていきます。この止まることのないゆらぎが、日々私たちの体を動かし、私たちの生命活動を支えている原動力です。
実は、呼吸のゆらぎに姿勢や動作を合わせていると、私たちの身体機能はかなり引き上げられます。力を入れずとも姿勢が安定するようになり、動作も流れるように美しく、力強くなっていくのです。
たとえば、テニスのサーブ。まず、ボールを上にトスして、ラケットを頭の上に大きく振り上げる動きに合わせて、息を吸います。次に、少しだけ早く息を吐き始めて、その息に乗せていくようにラケットを振り下ろしていきます。
(イラスト:『魔法のフレーズをとなえるだけで姿勢がよくなるすごい本』より)
この方法だと、腕力があまりない方でも、驚くほど力強いサーブを打つことができます。テニスをやっている方は、ぜひ一度試してみてくださいね。
「呼吸」と「姿勢」は、ほとんど一体のようなもの。切っても切れない関係にあります。なぜかというと、どちらも使う筋肉がほぼ同じだからです。いわゆる呼吸筋は、肋間筋、僧帽筋、脊柱起立筋、腹斜筋、腹直筋、横隔膜など「呼吸に関わっている筋肉」の総称ですが、姿勢を維持する働きも兼務しています。
つまり、姿勢のゆらぎも、呼吸のゆらぎも、結局は同じものなのです。しかし実際には、ほとんどの現代人は、呼吸と姿勢がちぐはぐになっています。「呼吸」と「姿勢」がまったく別物だと考えられてしまい、1つのゆらぎとして連動・統合されていないのです。もし緊張などで呼吸が浅くなっていれば、姿勢にゆらぎも起こりにくくなります。
反対に、「気をつけ」のような姿勢で力を入れていては、呼吸もおさえつけられて、ゆらぎは起こりません。別々だと思っていた「呼吸」「姿勢」が実は1つのものだったと気づいたとき、ゆらぎは完成します。
深くてゆっくりした呼吸のゆらぎに導かれて、姿勢もゆらいでいる。姿勢のしなやかなゆらぎの中で、深くてゆっくりした呼吸ができている。これが「美しい」「疲れにくい」「動きやすい」姿勢に最も近い、理想の状態です。
「魔法のフレーズ」で起こる体の変化
では、魔法のフレーズを紹介しましょう。
【魔法のフレーズ】
吐く息で体がゆるみ、吸う息で背骨が立ち上がっていきます。
(そのまま数回、呼吸しましょう)
(イラスト:『魔法のフレーズをとなえるだけで姿勢がよくなるすごい本』より
このフレーズは、となえながら数回呼吸をしてみてください。体が前後にゆらいでいくのを感じましょう。
吐く息で体の力が抜けて、吸う息で姿勢が自然と伸びていく感じがしませんか? 私は、人間の呼吸には「姿勢維持装置」の働きがあると考えています。
(イラスト:『魔法のフレーズをとなえるだけで姿勢がよくなるすごい本』より
私たちは呼吸をしながら、無意識のうちに姿勢を微妙に修正しています。吐く息で筋肉が「ふんわり」とゆるんでいき、吸う息で背骨が「しっかり」と立って、伸び上がっている。これは決して気のせいではありません。
呼吸には「姿勢維持装置」としての働きがあるにもかかわらず、姿勢が崩れてしまうのはなぜなのでしょうか。それは、呼吸のゆらぎに身を任せることができていないからです。逆に言えば、呼吸のゆらぎに身を任せてさえいれば、基本的にねこ背になることはありません。
姿勢をよくするために「頑張らない」
魔法のフレーズで体を「ふんわり」させると、姿勢が「しっかり」してくる。そのような順番でお伝えしてきましたが、この魔法のフレーズは、1つで「ふんわり」と「しっかり」の両方を実現できる、万能薬のようなフレーズです。
この魔法のフレーズだけで姿勢をメンテナンスしていくことも十分に可能でしょう。そういう意味で、この魔法のフレーズは「とっておき」なのです。
「魔法のフレーズをとなえるときの、コツは何ですか?」
これは、患者さんによく聞かれる質問です。私はいつもこう答えます。
「頑張らないことです!」
そう言うと、みなさんちょっと戸惑った表情をします。だって、姿勢をよくしたいと思って、その努力をするつもりで私のところに来ているわけですから。
頑張りというのは、体を緊張させるアプローチです。無意識の心身の緊張があなたの姿勢を崩してしまっているのに、頑張ってしまったら逆効果になります。
それよりは、静かにボソッとつぶやくくらいの気持ちでとなえるほうが効果的です。やる気ゼロでも大丈夫ですので、ぜひ気楽な気持ちでのぞんでください。
そのほうが、体がよけいなことをしませんので、フレーズがもたらすイメージを素直に受け取ることができます。結果として、上手に力を抜いて、骨で立つことができるのです。
「頑張らない」を別の言葉で言うと、「よけいなことをしない」ということ。そもそも、私の専門であるアレクサンダー・テクニークは、「しようとしていないのに、無意識にしてしまっていることをやめていく」というアプローチです。
体を緊張させやすいシーンで力を抜く
魔法のフレーズは、みなさんに次のような「新しい選択肢」を提供します。
・姿勢をよくしたいときほど、力を抜いていく
・不安やプレッシャーを感じたときほど、力を抜いていく
その結果として、「美しい」「疲れにくい」「動きやすい」という理想的な姿勢を手に入れられるだけでなく、いままで以上に不安やプレッシャーに強くなれるのです。また、健康や美についてのうれしい副産物もあります。
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先ほどの2つは、ふだんみなさんがやっていることの「逆」だと思いますが、魔法のフレーズを活用していくためにはとても大切な方針です。つねに頭の片隅に置いておいてほしいと思います。
体を緊張させやすいシーンで、超一流のアスリートや俳優のように、逆に力を抜いていく。これができるようになると、人生の質が、生きやすさが変わってきます。
もちろん、「姿勢をよくしたいとき」「不安やプレッシャーを感じたとき」に限らず、常日頃からなるべく力を抜いていくことも大切です。これを機に、「頑張ることをやめる」という視点をみなさんに身につけていただけたら、著者としてこれ以上うれしいことはありません。
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提供元:「姿勢が悪い人」が知らない呼吸という根本問題|東洋経済オンライン