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2021.03.12

「雑談で笑いを取れない人」が知らない基本原則|日常の出来事を「おもしろい話」にするポイント


同じ体験でも話し方次第で相手の反応が変わるようです(写真:tkc-taka / PIXTA)

同じ体験でも話し方次第で相手の反応が変わるようです(写真:tkc-taka / PIXTA)

あなたが話しても誰も笑わないのに、別の誰かが似たような話をすると大受けする。その光景を見て嫉妬したり「なぜあいつばかりが?」と首をひねったり――。こんな経験をしたことはないでしょうか。おもしろい話し方ができる人とできない人にはどのような違いがあるのか、即興力養成講師で放送作家の渡辺龍太氏の『おもしろい話「すぐできる」コツ』より一部抜粋・再編集してお届けします。

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おもしろい話は「感情と行動」をセットで

自分に起きた出来事をそのまま相手に話したのに、それがおもしろい話として伝わらない人もいます。その理由は、「出来事の中における自分の感情を語っているつもりで、実は行動のみを語っていること」にあります。

「自分の感情をありのままに相手に伝えられる人」は、実はそれほど多くありません。多くの人がやりがちな「落とし穴」は、「行動ばかり説明して、感情を語らない」状態になってしまっていることです。

読者の多くも、テレビやYouTubeなどの「動画」を楽しんでいると思います。この動画というのは、「映像」と「音」という2つの要素からできています。映像もしくは音のみで情報を得ることは可能ですが、「動画」よりも情報量が劣るのは、言うまでもありません。

同じように人間の活動も、必ず2つの要素からできています。それは、「感情」と「行動」です。この感情と行動はセットで語らなければ、相手に伝わらないのです。

具体例をあげましょう。朝、目覚めたばかりのとき、仕事に行かなくてはと思いながらも、実際は横になっているというような瞬間もあると思います。これは「仕事が嫌だ」という感情と、「動き出さない」という行動が合わさった状態です。

逆に、ボケーッと何も考えないで歩いているという瞬間は、「何も感じていない」という感情と、「歩いている」という行動が合わさった状態です。

このように人間の活動というのは、「感情」と「行動」が必ずセットになっています。どちらかが欠けるということはありません。

しかし、実は世の中の多くの人は、自分について説明する時、感情を語らずに「行動」のみを語る傾向があります。するとその話を聞いている側は、「話し手の感情を勝手に補正して」聞くことになります。

ところがこの補正というのがやっかいで、何に基づいて補正するかと言うと、それは聞き手の「先入観」です。つまり、先入観に基づいて「多分こうなんだろうな」という推測をしながら話を聞くので、聞き手の中に「意外性を感じる部分」が生まれづらいのです。

すると結局、「異常なことが、あたかも普通に行われている」状況にはなりづらく、おもしろい話が成立しづらくなってしまうんです。つまり、当たり障りのない、ありきたりな会話になりがちなのです。

このことがわかっているかどうかは、おもしろい話をする上でかなり重要です。「自分のことを話しているのにあまりウケない」という人は、自分の感情ではなく、行動をベースに語ってしまっているのです。

「行動だけ」を語ると、なぜつまらないのか?

というわけで、どのように聞き手が、話し手の感情を補正しているのか、一連のプロセスを詳しく見ていきましょう。

【例:あるメガネ男子の日常】

〇話し手の見た目・雰囲気(注:人物の先入観を持ってから本文を読んでください)
・身長180センチぐらいの有名私立大学に通う礼儀正しいメガネ男子
・中肉中背で清潔感があり、スポーツよりも勉強が得意そうな雰囲気
・ややテンションは低めで、リアクションは控えめ
・しかし、話し出せば無口なわけでもなく、声も大きくハッキリ話す

Q:昨日、一番印象に残ったエピソードを手短に話してもらえますか?

「今、足の小指が少し痛くてジンジンしてるんですよ。何でかって言うと、昨日の終電間際、まあまあ混んでいる電車に乗ったんです。僕の後に乗ってきた人がギャルっぽい女の人で、電車に乗ってからもずっとペラペラ通話してて。

それで、電車って発車する時、ちょっと揺れたりするじゃないですか。だからスマホで話してるギャルが、その時見事にバランスを崩して、こっちに倒れてきたんですよ。それで、厚底サンダルみたいな靴のヒールで、僕の足の小指が踏まれたんです。

それが本当に、机の角にぶつけた時みたいに、痛かったんですよね。でも、すぐにそのギャルは僕に『すみません!』と謝ってくれました。だから、痛かったですけど、相手は女の人だし『大丈夫ですよ』と言っておきました。言うほど、ひどい話ってわけじゃないですけどね」

改めて、気づいたでしょうか? このメガネ男子は、一切、自分の感情がどういう状態であったかを、自らの口では語ってくれていませんでした。

ですがおそらく、多くの人がこのメガネ男子の感情を補正しながら読んでいたはずです。そのため、中にはこのメガネ男子の不幸話に感情移入し、実は、行動しか述べられていないということが実感できなかった人もいると思います。

では、どのように聞き手は、話し手の感情を補正しているのでしょうか? 補正の根拠としているのは、話を聞いた時に湧いてきた聞き手自身の感情と、あらかじめ聞き手が抱いている話し手への先入観の2つです。例えば、次の会話の傍線部が、この話を聞きながら私が抱いていた感情です。

【例:あるメガネ男子の日常(+それを聞いている時に湧いてきた私の感情)】

「今、足の小指が少し痛くてジンジンしてるんですよ。
→(痛そうでかわいそう!)

何でかって言うと、昨日の終電間際、まあまあ混んでいる電車に乗ったんです。僕の後に乗ってきた人がギャルっぽい女の人で、電車に乗ってからもずっとペラペラ通話してて。
→(こんな背の高い男子でも、電車でトラブルに会うのか。世の中物騒だな。しかも迷惑ギャルに捕まったのか。災難だな……)

それで、電車って発車するとき、ちょっと揺れたりするじゃないですか。だからスマホで話してるギャルが、その時見事にバランスを崩して、こっちに倒れてきたんですよ。それで、厚底サンダルみたいな靴のヒールで、僕の足の小指が踏まれたんです。
→(ふーん、やっぱりね。そういう迷惑な人、腹立つなー! しかもよりにもよって、そんな靴で小指を踏まれるって、痛そう!)

それが本当に、机の角にぶつけた時みたいに、痛かったんですよね。
→(あの痛みは、本当に後を引くんだよな~! かわいそう!)

でも、すぐにそのギャルは僕に『すみません!』と謝ってくれました。だから、痛かったですけど、相手は女の人だし『大丈夫ですよ』と言っておきました。
→(ギャルも少しは常識あるんだね。でも、謝られても痛いもんは痛いよな~。だど、こっちが折れるしかないよな。ストレス溜まりそう、その気持ちわかるよ!)

言うほど、ひどい話ってわけじゃないですけどね」
→(いや、ひどい話だよ! そこまで恐縮することないよ!)

行動のみを語ると聞き手に起こること

いかがでしょうか。理解はできていますが、特段、おもしろく感じる部分はないと思います。むしろ、「かわいそう」とか「怒り」のような感情が前面に出てきています。

相手が自分の感情を推測してくれるなら、勝手におもしろく伝わることもあるのでは? 実は、そんなに甘くはないんです。そのカギは、相手の「先入観」にありました。

さて、本題に入りましょう。なぜこの話がそれほどおもしろくないのか。それは、私がこの「行動しか述べられていない会話」を、メガネ男子への先入観および自分に湧いてくる勝手な感情だけで理解した結果、「ただ単にネガティブなだけの会話」になってしまったからです。

「真面目そう」「気が弱いわけじゃないけどおとなしい」「騒ぎを大きくするのは嫌いそう」といった、私のメガネ男子に対する先入観に沿ったありきたりな解釈になってしまうのです。

つまり、話し手が自分の感情のあり方まで他人に委ねてしまうと、「異常なことが、あたかも普通に行われている状態」=「ズレたカツラ理論」=おもしろい話は生まれないのです。だから、行動のみを語るのはダメなのです。

改めて、私が補正して解釈したメガネ男子の感情部分を見てください。すべてがネガティブな感じです。「真面目な男子がギャルのせいで嫌な思いをした話」という先入観から、メガネ男子の感情を勝手に決めつけているのです。

メガネ男子の「本当の感情」はこうだった!

私はこの話をしてもらった後、メガネ男子にその時の感情がどうだったのかを、逐一聞き出してみました。すると、当初私が考えていたよりも、はるかに幅広い感情の変化があったことがわかりました。

私が勝手にメガネ男子の感情を決めつけて、感情補正をしながら聞いていた時のものと比較しながら読んでみてください。

【例:あるメガネ男子の日常(+話しながら思い出している本人の感情)】

「今、足の小指が少し痛くてジンジンしてるんですよ。
→(昨日のことを話すならこれかなという深い意味のない感じ)

何でかって言うと、昨日の終電間際、まあまあ混んでいる電車に乗ったんです。
→(ギリギリ間に合ってよかったという嬉しい気持ち)

僕の後に乗ってきた人がギャルっぽい女の人で、電車に乗ってからもずっとペラペラ通話してて。
→(「美人が隣に来た!」とテンションが上がった感じ)

それで、電車って発車する時、ちょっと揺れたりするじゃないですか。だからスマホで話してるギャルが、その時見事にバランスを崩して、こっちに倒れてきたんですよ。
→(このままギャルとぶつかると密着してしまいそうというドキドキ感)

それで、厚底サンダルみたいな靴のヒールで、僕の足の小指が踏まれたんです。
→(密着じゃなく、こんなオチになってしまったのかというガッカリ感)

それが本当に、机の角にぶつけた時みたいに、痛かったんですよね。
→(予想外の痛みの強さへの驚き)

でも、すぐにそのギャルは僕に『すみません!』と謝ってくれました。
→(ギャルの笑顔が素敵なので、許すどころか怒りもわかない感じ)

だから、痛かったですけど、相手は女の人だし『大丈夫ですよ』と言っておきました。
→(美人な女性と会話した嬉しさ)

言うほど、ひどい話ってわけじゃないですけどね」
→(足が痛い云々は大きな問題ではなく、一言でギャルとの会話が終わってしまったガッカリ感のほうが強いんだけど……という感情)」

メガネ男子が抱いていたリアルな感情を、まったく予想していなかった人が多かったんじゃないでしょうか。人によっては、「そんな感情を抱いていたの?」と驚くどころか、思わず「おいメガネ男子! 足を踏まれただけで、何ずっとときめいてるんだよ(笑)!」とツッコミを入れてやりたいと思った人もいるのではないでしょうか。それこそ、「ズレたカツラ理論」が成立している証拠です。

とくに注目してほしいのが、「ポジティブな感情を持った瞬間」の多さです。この話の中では、ポジティブだったりネガティブだったり、話し手の感情が揺れ動いていく変化も感じられるので、当初の「そうだろうな」という予測の会話よりも、数段「おもしろく」感じるポイントが増えています。

普通にしているだけで、人は予想を超えている

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まず、今回のように、人間のつねに揺れ動くリアルな感情というのは、他人が表面的に行う推測と決して一致するものではありません。一致するかもしれませんが、一致したところでそれは「そうなんだね」となるだけで、スベるわけでもありません。

ここで描いたようなメガネ男子の感情ほど詳しく描写することは難しくても、自分が「ここはとくに強烈な感情を抱いた」箇所だけでも、感情と行動をセットで丁寧に描写して人に伝えさえすれば、おもしろい話は生まれやすいと言えます。

要するに、行動だけでなく、「その時自分にどんな感情が生まれたか」を自分なりに描写して話すということです。

ここまでやると、独自性も高まり、「それ、どういうことなの?」と他人が興味を抱かざるをえないポイントが生まれます。これこそが、「ズレたカツラ理論」を日常会話の中で成立させるためのポイントなのです。

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