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2021.01.22

感染症との闘いを生きる上で押さえたい大原則|人間の好奇心を揺さぶる「はじめて」を学ぶ


今に通じる現代医学の「はじめて」を知っておいて損はありません(写真:monzenmachi/iStock)

今に通じる現代医学の「はじめて」を知っておいて損はありません(写真:monzenmachi/iStock)

さまざまな物事についての「はじめて」について関心を持つ人は、決して少なくないだろう。「人類が初めて火を使ったのはいつなのか」というような根源的なことだけではなく、「人類がはじめてソックスを履いたのはいつか?」とか、「世界ではじめてディスコができたのはいつなのか?」なども含め。

言ってみれば「はじめて」は、なにかと人間の好奇心をくすぐるわけである。とはいえ、気になった「はじめて」の事例を調べることは決して楽ではない。まずに“基準”のようなものを設けない限り、その作業は果てしないものになってしまうからだ。

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『なんでも「はじめて」大全: 人類と発明の物語』(西田美緒子 訳、東洋経済新報社)の著者、スチュワート・ロス氏も、そこが気にかかっていたようだ。

そこで本書を執筆するに際しては、なにを取り上げるかについて2つの基準を設けている。

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歴史的偉業をきちんと取り上げている

1つ目の基準として、ある「種類」の最初のものを選ぶーーたとえば最初の洗濯機については、最初の電気洗濯機も含めて記載するが、電気洗濯機のうちの数多くの異なるタイプ、たとえば全自動や二層式などは取り上げない。これで、次のような2つ目の基準がはっきりするはずだ。私の判断により、一般的な読者――たとえば洗濯機マニアではない読者――が関心をもつと思われる「はじめて」だけを選んでいる。(「序」より)

いわば必要以上に深掘りせず、それでいて間口は広くしているということだ。そのため、ここで扱われている事柄は非常に幅広い。ロス氏は「私の知る限りでは歴史的偉業をきちんと取り上げている唯一の本である」と自画自賛しているが、とはいえそれは決して的外れではない。

つまり「歴史的偉業をきちんと取り上げる」以上、西欧の近代的な道具類を中心に据えるのではなく、エジプト、中国、中東で花開いた古代文明の遠い祖先が持っていた発明の才にも目を向けようと意識しているのである。

そうしてみると、産業化以降の発明品だとばかり思っていたものの多くが(たとえばエアコン)、実際は何千年も前に作られたものや大昔の人々の創作を再発明したり改良したりしたものにすぎないとわかり、驚かされるばかりだ。(「序」より)
ロス氏がそのことに驚かされるのだから、われわれ読者がさらに驚かされることになるのはむしろ当然。だから本書は、さまざまな驚きに満ちている。

テーマも「生活」から「平和と戦争」まで多彩だが、今回は新型コロナの問題にもつながっていくであろう「健康と医療」に注目してみたい。まずは、現代医学のはじまりの指標になったという3つの「はじめて」をご紹介しておこう。

(1)「近代解剖学の父」と呼ばれるフレミング・アンドレアス・ベサリウス(1514-64年)が、『ファブリカ』(人体の構造について)を出版したこと(1543年)。ベサリウスははじめて、体の骨組みとしての骨格の図を描き、筋肉の位置と機能も図示した。
(2)英国の政治家フランシス・ベーコン(1561-1626年)が、経験的な「科学的手法」として知られるようになったものを、はじめて明確に記述したこと。知識と理論は、既知の真実に基づくのではなく、明白に立証可能で絶えず再評価できる事実に基づくべきであるという教えだ。
(3)オランダ人アントニ・ファン・レーウェンフック(1632-1723年)が、自ら設計・製作した顕微鏡を用いて、細菌、精子、赤血球、その他の微小生命体の隠された世界を明らかにしたこと。(92〜93ページより)

以下では「薬」カテゴリのなかから、いくつかのトピックスをピックアップする。なお、ロス氏によればそれらの「はじめて」も、この3つの柱に支えられて成り立っているといっても過言ではないそうだ。

細菌との戦い

十分に考えられることではあるが、不潔な状態と感染とのつながりが発見されるまでには、やはり多くの時間が費やされたようだ。“正しい理解”に近づいたのは、古代および中世の何人かの医師が「病気は(悪い空気ではなく)目に見えない「種子」によって運ばれるものだとしたときのこと。だが、彼らはその推論を立証するだけの科学的知識を持ち合わせていなかった。

細菌論として知られる考えは、ドイツのイエズス会司祭であるアタナシウス・キルヒャーが17世紀半ばに書いた、ローマの疫病犠牲者に関する著述によって登場し、さらに上記のアントニ・ファン・レーウェンフックによる細菌の発見で大きく前進した。

イタリアのローディ出身のアゴスティーノ・バッシーが、病気は微生物によって運ばれることを証明したあと(1813年)、ハンガリーの産科医イグナーツ・ゼメルヴァイス(1818-65年)は、死体の解剖を実施した産科医は女性の出産に立ち会う前に石鹸と塩素で手を消毒するべきだと主張した。(98ページより)

ちなみに細菌理論が正しいことをはじめて立証した医師だったにもかかわらず、ゼメルヴァイスの業績はほぼ無視された。それどころか、精神病院に収容されて敗血症で世を去っているというのだから残酷な話だ。

しかし、結果的にこれらの成果には、フランス人のルイ・パスツール(1822-95年)による低温殺菌法の確立、また「近代的な外科手術の父」と呼ばれるスコットランド人ジョセフ・リスターの業績が続くことになった。リスターは、1870年代に手術室の無菌状態を強く主張したはじめての外科医だそうだ。

アレクサンダー・フレミング(のちに卿の称号を得た)が偶然の成り行きで1928年にペニシリンを発見した物語(英国)は有名で、あらためて説明するまでもないだろう。だがそれより2000年も前に、中国、エジプト、セルビアなどの古代文明がすでにカビの生えた(つまり、抗生物質の原始的な形態を含んだ)パンがもつ治癒力を偶然に発見していたことは、ほとんど知られていない。(102ページより)
だがフレミングの「はじめて」には、疑問の余地もあるという。1870年にはイギリスのジョン・スコット・バードン=サンダーソン卿が、細菌の成長をカビがどう抑制するかに注目しており、1890年代にはドイツの科学者ルドルフ・エメリッヒとオスカー・ロウが、はじめての抗生物質であるピオチアナーゼを生み出したのだ。

さらにオックスフォード大学の科学者ハワード・フローリーとエルンスト・チェーン(イギリス)が、カビから有効な薬品であるペニシリンを抽出したのは、1939年になってから。

ペニシリンは1941年にイギリスではじめて患者に用いられ、はじめての広域抗生物質であるオーレオマイシンは1945年にアメリカで発見された。「スーパー耐性菌」の抗生物質耐性に関してはじめて警鐘が鳴らされたのは1954年だったというが、既知のスーパー耐性菌を殺せるとされる抗生物質が開発されたのは、2018年になってからだという。

予防接種

天然痘に一度かかると、二度とかかる者はいないことに気づいたギリシャの歴史家トゥキディデス(紀元前460年頃-400年頃)は、おそらく、現在では予防接種と呼ばれている現象――感染症に一度かかると免疫系が刺激され、より毒性の強い感染に抵抗する力が生まれることーーをはじめて報告した人物だ。(130ページより)

人痘摂取(故意に天然痘に感染させる方法での天然痘に対する予防接種)が10世紀に中国ではじめて試されたという不確かな話もあるものの、より信頼性の高い証拠によれば、予防接種は同じ中国で1549年にはじめて実施された。その慣行が中国からインド、トルコへと伝わり、さらにヨーロッパを経て、18世紀末には南北アメリカへ伝わっているのだそうだ。

だが、本当の意味での予防接種がはじまったのは1797年。イギリスの医学者エドワード・ジェンナーが、症状が軽くてすむ牛痘に故意に感染することによって、死に至る危険を持つ天然痘にかからなくなることを発表したのだ。

19世紀になると、ルイ・パスツールが予防接種という語(vaccination)を生み出し(1891年)、炭痘病(1881年に実例で証明)と狂犬病(1885年)のワクチンを開発。その後は多数のワクチンが次々と生まれ、コレラ(1892年)、チフス(1896年)、結核(BCG、1921年)、髄膜炎(1978年)、MMRV四種混合ワクチン(麻疹、おたふく風邪、風疹、水痘、2005年)などが開発されているという。

現在では、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症は1910年ごろにサルから人間に感染したと考えられており、1959年には(現在の)コンゴ民主共和国において、人間のHIV感染の症例がはじめて報告されている。

1982年にはAIDS(後天性免疫不全症候群)という用語がはじめて使用されたが、それはこの病気が伝染病であると宣言されたときだった(まもなくパンデミック宣言が行われた)。さらにその翌年にはフランスの科学者たちが原因ウイルスを発見。1986年には国際社会がHIVという用語に同意することとなった。

そして1997年にはアメリカで、抗レトロウイルス薬による効果的な(ただし高価な)治療が開始されることに。エボラ出血熱(EVD)は1978年にアフリカで発見され、2014年にアフリカ大陸外での感染(スペイン)がはじめて発見された。

こうした記述からは、人類がさまざまな感染症と闘ってきたことがわかる。さて、いま私たちを悩ませている新型コロナウイルスのワクチンは、果たしていつ誕生するのだろうか?

「学び」と「楽しみ」を両立

たとえばこのように、本書ではあらゆる事柄についての「はじめて」を知ることができる。また大きなポイントは、必ずしも冒頭から順に、隅から隅まで細かく読み通す必要はないということだ。興味のあるところだけ拾い読みするだけでも、十分に楽しめるのである。

そう、これは「学ぶ」ためでもあると同時に「楽しむ」ための本でもあるのだ。読んでみて、私はそう感じた。

ロス氏もまた、そうした読まれ方を想定しているようだ。「はじめてのはじまり」「生活」「健康と医療」「移動」「科学と工学」「平和と戦争」「文化とスポーツ」という7つの部を、それぞれいくつかのトピックに分け、さらにトピックをいくつかのテーマに分けているのも、そうした読み方に配慮しているからだ。

考えようによっては、現時点でまったく関心が持てなかった項目が、1年後には興味の対象となることも十分に考えられる。だからこそ読み終えたあとも書棚の、なるべく引き出しやすいところに並べておきたいと感じている。

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提供元:感染症との闘いを生きる上で押さえたい大原則|東洋経済オンライン

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