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2020.11.19

築地本願寺「インスタ映え」カフェ大行列の理由|知恵を絞って誕生させた「18品の朝ごはん」


大行列ができる「18品の朝ごはん」はなぜ18品なのか?(写真提供:プロントコーポレーション)

大行列ができる「18品の朝ごはん」はなぜ18品なのか?(写真提供:プロントコーポレーション)

400年の伝統がある築地本願寺が今、リブランディング、ビジネスモデルの大変革に取り組んでいる。「衰退産業」の中にあって、生き残りをかけてどのように変わりつつあるのか。
一例を挙げれば、インスタ映えする「18品の朝ごはん」が評判のカフェは、女子大生からシニアまで行列ができる大人気となっている。元ビジネスマンから2015年に築地本願寺のトップに就任、数々の斬新な施策でテレビ番組「カンブリア宮殿」などでも注目され、このほど『築地本願寺の経営学 ビジネスマン僧侶にまなぶ常識を超えるマーケティング』を上梓した安永雄彦氏が仏教界の常識を超えるマーケティングについて解説する。

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「顧客創造」の3つのステップ

2012年から築地本願寺の改革プロジェクトに関わるようになり、2015年に宗務長になった私は、築地本願寺を「開かれた寺にしよう」と考えました。

『築地本願寺の経営学 ビジネスマン僧侶にまなぶ常識を超えるマーケティング』

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参拝者数が減り続け、経常収支の赤字も続いている状況で、まず取り組むべきことは「顧客創造」でした。

顧客創造、すなわち「首都圏の門信徒を拡充する」といっても、「新たに寺院をつくって檀家になってもらう」という従来のやり方は容易なことではありません。

そこで私は、人と寺院の「新しいつながり」を提案しようと思いました。私の考える「顧客創造の3つのステップ」は以下のとおりです。

(ステップ1)「開かれた寺」になり一般の人たちと「ご縁」をつくる

(ステップ2)「人生のコンシェルジュ」になって「ご縁」をつなげる

(ステップ3)「ご縁」がつながった人たちに門信徒になっていただく

ステップ1として、築地本願寺が開かれたお寺になり、広く一般の人たちに「足を運んでみよう」と思ってもらう。そうすれば今までお寺に関心がなかった人ともご縁をつくり、お寺を身近な存在だと感じてもらうことができます。

ご縁ができたらステップ2です。「お墓についてわからないことがある」「家族が重い病気になって、余命宣告を受けたので誰かに相談したい」というとき、「あのお寺なら相談しやすそうだ。話しに行こう」となれば、関係が深まっていきます。つくったご縁をつなげるということです。

その関係が継続したら、ステップ3です。「せっかくなら浄土真宗の教えを学びたい」「うちのお墓と葬儀や法要は、築地本願寺にお願いしようか」という気持ちが芽生えた人たちに、門信徒になっていただく。

こうして誕生した「顧客」――つまり「新しい門信徒」は、昔ながらの信仰心に厚い浄土真宗の門徒さんたちとはタイプが違うでしょう。

長年の門徒さんには、敬虔な信仰心を持ち、定期的なお寺へのご懇志(お布施)を欠かさず、報恩講(ほうおんこう)、永代経、盆・彼岸という節目ごとに必ずお寺にお参りをし、京都の本山にも年に1回は行くという方が大勢います。新しくご縁をつくる方々は、おそらくそういう従来の信仰行動をする人たちではありません。

でも、私はそれでいいと思っていました。なぜなら新しい顧客(新しいタイプの門信徒)こそ、これからの時代の普通の人々、お寺を支えてくださるボリューム層顧客だからです。

インスタ映えする「18品の朝ごはん」

3つのステップを実現するにあたって、まず具体化したのは、新たな複合施設、インフォメーションセンターをつくることでした。インフォメーションセンターが寛ぎと安らぎの空間になるには、心惹かれる楽しみもあってしかるべきです。総合案内や総合相談窓口があるだけでは、いくら開放感あふれる建物であっても、お寺と縁もゆかりもない人は足を運んでくれません。

誰もが気軽に立ち寄れる「築地本願寺カフェTsumugi」(写真提供:プロントコーポレーション)

誰もが気軽に立ち寄れる「築地本願寺カフェTsumugi」(写真提供:プロントコーポレーション)

そこでつくったのが「築地本願寺カフェTsumugi」。「『寺と』カフェ」というコンセプトで、法要やお参りにいらっしゃる方のみならず、「誰もが気軽に立ち寄れる場所」を目指しました。

入り口には築地本願寺のロゴがあしらわれたTsumugiの表示。店内からは大きなガラス越しに本堂を眺めることができ、ゆったりと安心のひとときを過ごせるように設計されています。

カフェは空間も大切ですが、メニューも重要です。和定食やパスタ、抹茶やほうじ茶を使ったお寺らしいスイーツなどを吟味してそろえましたが、何か、看板になるものがほしい……。

そこでカフェ運営会社プロントコーポレーションの商品開発担当者とお寺とで知恵を絞って誕生させたのが、「18品の朝ごはん」でした。最も大事な経典『仏説無量寿経(ぶっせつむりょうじゅきょう』の中で築地本願寺の御本尊・阿弥陀如来は修行時代、人々を救うために「四十八の誓願」を立てたと言われています。

そして、その中で浄土真宗がいちばん大切にしているのが第十八願。簡単な言葉で表すなら、「本当に安心できる世界(つまり浄土) に、命あるものすべてを平等に生まれさせたい」という意味合い。これこそ阿弥陀如来の根本の願いであるとして、第十八願を「本願」と呼んでいます。

本願に因んで18品と決まってから、18品を何にするか試食会をして検討したり、「ご飯とおかゆを選べるようにしよう」という意見が出たり、「定価はどうしよう」と相談したり……。

価格設定は慎重に行いました。「朝食に1800円は高すぎる」と私は反対しましたが、2017年の11月にTsumugiが1800円の朝食を出すようになると、後からオープンしたホテルのカフェの朝食もみんな1800円にそろえてきました。いつの間にか値段がこなれ、築地界隈のちょっと高い小じゃれた朝食の標準価格になったようです。市場は生き物だということを、改めて感じました。

18品の朝ごはんは、「インスタ映えする」という予想外の反応があり、女子大生からシニアまで女性が行列するほどの大人気となりました。ランチはビジネスマンもやってきますし、午後のお茶を飲みながらノートパソコンを開いて仕事をしている人の姿もあります。

まさにご縁がなかった方々とのご縁が食事を介してできていきました。

インフォメーションセンターには、カフェのほかに、しゃれた仏具や雑貨を900アイテムそろえたオフィシャルショップ、仏教の入門書、専門書、経典や精進料理のレシピ本などを販売するブックセンターが併設されています。開かれたお寺のイメージの中で仏教にも親しんでいただき楽しんでいただこうという工夫です。

総合相談窓口には係員だけでなく僧侶も常駐しています。「自分が死んだら誰がお墓の面倒を見てくれるのか」「お葬式はどうしよう」「いなかのお寺にあるお墓を東京に移したいが?」といった都会に住む誰もが抱える悩みを、気軽に相談していただける拠点となっています。

お寺にも「デザイナー」が必要

築地本願寺は、築地のランドマークとしてもっと注目されていいはずです。歴史ある個性的な建築物はインパクトがあり、一度見たら忘れられるものではありません。

しかしそれは「見えれば」の話。プロジェクト始動前は、正門右手の築地4丁目の交差点からすら本堂の外観がよく見えませんでした。

こうして木々が建物を覆い隠し、せっかくの本堂が見えなくなり、そればかりか「入りにくい」「いや、用がないのに入ったらダメだろう」という閉鎖的なイメージも与えていました。

「木々を伐採して、広々とした開放感のある境内に変える。外からも見えるようにする。そして誰もが訪れたくなるようなインフォメーションセンターをつくろう!」

築地本願寺では、インフォメーションセンターだけでなく、境内には誰もが安心して入れてお参りしやすい「合同墓(ごうどうぼ)」の建設も予定していました。まずは見える外観から一気に変えるのです。

そうと決まれば行動あるのみですが、私は建築会社などに直接働きかける前に、デザイナーを探すことにしました。

心の拠り所という宗教の大切な役割は、目に見えないし、感じるしかない。そこで私はプロジェクト始動にあたって、トータルイメージをきちんとつくり上げてくれるデザイナー、クリエーティブ・ディレクターが不可欠だと考えたのです。

「木々は造園会社に伐ってもらおう」「インフォメーションセンターはいい設計士に頼めばいい」。こんな具合に個別にやっていたら、出来上がったときのイメージはばらばらになってしまいます。

インフォメーションセンター内には「お寺の本屋さん(ブックセンター)」も併設(写真提供:築地本願寺)

インフォメーションセンター内には「お寺の本屋さん(ブックセンター)」も併設(写真提供:築地本願寺)

総合的にすべてを見渡す人がいて、その指揮官のもとで「新たな築地本願寺のイメージ」をつくり上げなければ、築地本願寺の再構築――リブランディングは成功しないでしょう。

そこでお願いしたのが、現代美術作家でデザイナーの中山ダイスケさん。何人もの候補者にお会いしましたが、「私自身、お寺や宗教に興味があります」と言ってくださいました。

実績やデザインやアートディレクションの能力はもちろんのこと、私たち僧侶の考え方やセンスをくみ取り、理解する力が抜群なのです。

“カメラ女子”にも入ってみたいと思わせる場所

木々がなくなり、朗々と開けた境内は、明るい空間に生まれ変わりました。2017年11月に落成したインフォメーションセンター、合同墓のある礼拝堂はまるで現代美術館のようなのに、異形ともいっていいインド様式の本堂と不思議にマッチしています。また、境内からは有料駐車場をなくし、創建当時のデザインの石模様と芝生の文様を再現しました。

築地本願寺は私たちの思惑どおり「入ってみたいと思わせる、入りやすい場所」に変わりました。外国人観光客や一眼レフをぶら下げた“カメラ女子”など、今まで見かけなかった人の姿が見られるようになったのです。

銀座や築地でのショッピングのついでに、カフェに立ち寄る、写真を撮るために境内に入ってみるという方々が築地本願寺に親しみを持っていただくことで「ご縁をつくる」。

そのご縁をつなげる、ご縁がつながった方々との関係をさらに深めることに、私たちは日々取り組んでいます。

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提供元:築地本願寺「インスタ映え」カフェ大行列の理由|東洋経済オンライン

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