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2020.10.29

「ビジネスで必要な読解力」がない人の根本原因|名文を読んで学ぶだけでは限界がある


書き手が何を言いたかったのかを明確にする必要がある(写真:studio-sonic/PIXTA)

書き手が何を言いたかったのかを明確にする必要がある(写真:studio-sonic/PIXTA)

コロナ禍でリモートワークが普及し、対人のコミュニケーションが激減した一方、メールやウェブ会議など、文章やオンラインによるやりとりの重要性が高まっている。相手の顔が見えづらい状況でこそ、これまで以上に必要となるのが「読解力」だ。
あらゆる文章を速く正確に読み解くにはどうすればよいのか。そのコツを解説した樋口裕一氏の新刊『すばやく鍛える読解力』(幻冬舎新書)より一部を紹介する。

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「下手な文章」のパターンを知る

私たちは日々たくさんの文章を目にする。本、新聞、ネット上の記事、SNSの投稿、知人からの手紙、ビジネスメール、会社内の報告書、子どもの作文などなど。だが、世の中にあふれる文章のすべてがわかりやすいわけではない。なかには、下手な文章、わかりにくい文章がたくさんある。

部下の報告書が意味不明であったり、肝心なことが書かれていなかったり、何を言いたいのかわからなかったりして、頭を抱えているビジネスパーソンは大勢いるのではないだろうか。

現実の生活で必要なのは、名文を読解することではなく、実は下手な文章を読解することだといえるだろう。むしろ、下手な文章を読み解き、何が言いたかったのかを明確にすることのほうが大事なのだ。

下手な文章は、うまく伝わるように書かれていないことが多いので、補足しながら読み取る必要がある。実際に読み取るために大事なのは、下手な文章のパターンを知っておくことだ。

以下、下手な文章の典型的なパターンを示すことにする。そして、そのような文章はどこに欠点があるのか、それを正確に読むにはどのように補足して考えればよいのか、そこに表れる書き手の意識の流れはどのようなものなのかを考えてみよう。

●悪い例1(具体例がだらだらと続く文章)

S社を訪問しましたが、無人の受付口にタブレットが設置されており、そこで行き先をタッチすると担当者が応答するようなシステムでした。
担当のSさんと専用のブースで二人で商談しました。Sさんはタブレットを手にして、打ち合わせ内容を打ち込んでおられました。
タブレットに打ち込んだ内容はほかの担当にも共有されていたかもしれません。30分ほど打ち合わせをした後、電車で帰社しました。
途中、遅い昼食をとりましたが、私が会社に到着したところ、先方から前向きに考えたいという返事がすでに届いていました。

この文章を読んで、多くの人が「何を言いたいのだろう?」と首をかしげるに違いない。

なぜそうなるのか。ここには具体的な事柄が続くばかりで、抽象化がなされていないからだ。抽象化した事柄が入らなければ、いわゆる「オチのない話」になってしまう。この文章はまさにその典型だ。

意識的に抽象化してみる

このような文章の場合、読み手としては、書き手が抽象化を怠っていることをしっかりと認識し、意識的に抽象化してみる。その場合、具体的な内容を手掛かりにして、書き手は何を言いたくて具体的な事柄を示しているのかを類推するわけだ。

そうすると、「無人の受付口にタブレット」「行き先をタッチすると担当者が応答するようなシステム」「Sさんはタブレットを手にして、打ち合わせ内容を打ち込んで」「タブレットに打ち込んだ内容はほかの担当にも共有」「返事がすでに届いていました」というように、訪問先のIT環境と手際の良さに注目していることに気づくはずだ。

要するに、この文章が言おうとしているのは、どうやら、「S社を訪問しましたが、大変機能的に動いている会社だという印象を受けました」ということのようだ。書き手は、そのことを最初か最後に示すべきなのだが、文章を書き慣れていないためにそれを怠っているのだろう。

意識的にこのような書き方をしたのではなく、このような書き方しかできない人は、抽象化の苦手な人である場合が多い。理論的にものを考えずに、その場その場で相手に対応しようとするのだろう。このような文章から、その点を読み取る必要がある。

●悪い例2(反対している意見がすり替わっている文章)

小学校低学年のうちから学校で正式に英語を指導するべきだという意見があるが、その通りだと思う。それに反対している人がいるなど信じられない。
これから日本語だけでは世界に太刀打ちできない。英語の力をつけることが大事だ。それなのに、ほとんどの日本人は中学・高校と6年間英語を勉強するが、少しも話せるようにならない。
今では、小学校5年生から英語の勉強が始まるようだが、それでも話せるようになるとは思えない。話せるようにするには、英語の勉強をしっかりすることが大事だ。

この文章は、「小学校低学年から正式に英語を指導するべきだ」と主張し、初めに「それに反対している人がいるなど信じられない」と書いている。したがって、この人は、「小学校低学年から英語を勉強する必要はない」という意見に反対しているはずだ。

ところが、この後、単に「英語が大事」という話になってしまう。つまり、「英語は大事ではない」という人に反対しているかのような文章になっている。途中で論敵を見失ってしまって、別のことを語っているわけだ。的外れな議論をしているといってもよいだろう。

このような文章を読み取る際、「何に反対しているのか」を意識していれば、そのずれにすぐに気づく。そして、この文章のある種のごまかしに乗らずに済む。

書き手のずれを認識する

このような文章を書くのは、2つの場合が考えられる。1つは、一貫して論理を明確にできず、的外れに思考するタイプの人が書いてしまう場合だ。もう1つは、きちんとした思考力を持っている人が、論をすり替えたりごまかしたりしようとしている場合だ。

もちろん、反対する点を取り違えずに書いていれば、

「小学校のころには英語よりも、日本語の力をつけることのほうが大事だ。小学校では、日常生活の基本を教えるべきだ」

「小さいころに外国語を教えると、母語があやふやになり、日本の価値観が育たなくなる恐れがある」

「小学校で正式科目にしても、教えられる先生が少なく、むしろ良くない発音が身についてしまう」

などの反対意見を理解したうえで、

「小さいころから外国語を身につけるほうが、言葉に対して敏感になる」

「小さいころから耳で英語を覚えてこそ、使えるようになる」

といった論を展開する必要がある。

優秀な読み手であれば、本来どのようなことを書くべきだったかを想定しつつ、この書き手のずれを認識し、どのような理由で、どのような能力によってそのようになったのかを理解するのが望ましい。

●悪い例3(主語が不明瞭な文章)

毎日が苦しい。生きるのさえもつらくなる。周囲の人と同じ仕事をしている。それなのに派遣社員というだけで、給与は正社員の3分の2に満たない。それでは暮らせない。
ひろ子さん(32歳)の毎日はその繰り返しだ。一度、腹を決めて職場の上司に願い出たことがある。だが、派遣会社と交渉してくれの一言で終わった。気持ちはわかるが、うちも余裕がないので我慢してくれと言う。もちろん、派遣会社は派遣先の個別の状況については親身になって話を聞いてくれない。
記者がひろ子さんに接触したのは、それからひと月ほどしてからだった。真面目そうな態度と疲れのにじんだ表情が印象的だった。もうこれ以上は耐えられない。社会に訴える必要がある。それが記者に連絡をとった動機だった。

このタイプの文章を書くのはほとんどがプロだろう。それなりに工夫が凝らされている。だから、個人的なエッセイでこのような文体で書くのはよいだろう。

だが、正確に伝えるという意味では、このような文章は失格だ。ビジネス文書にこのような文体を用いるべきではない。

誰の気持ちなのかがわからない

この文体の特徴は、書き手がほかの人の心の中に入り込んで、その気持ちを書いていることだ。

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修辞学では「自由間接話法」と呼ばれ、書き手が自由に登場人物の心の中に入ったり、出たりする表現法だ。20世紀の文学作品では多用されてきた。

しかも、主語をぼかす形で書いているので、それが誰の気持ちなのかがよくわからない。書いている本人としては文学的なつもりだろうが、曖昧でぼんやりした、わかりにくい文章になる。情緒に流され、主客が明確でなく、論理的に文章を展開していない。

このような文章を読むときは、主語は誰なのか、どこからどこまでがその人の言葉なのかを整理しながら読む必要がある。

そうして補足しながら読むと、以下のようになるだろう。

●補足修正例

派遣会社に登録して働くひろ子さん(32歳)は、毎日の生活に苦しさを感じている。勤め先で周囲の人と同じ仕事をしているのに、派遣社員というだけで給与は正社員の3分の2に満たないという。
生活に不安を覚えて、一度、腹を決めて職場の上司に願い出たことがあるが、「派遣会社と交渉してほしい」と言われただけだったという。もちろん、派遣会社は派遣先の個別の状況については親身になって話を聞いてくれない。ひろ子さんは、社会に訴える必要があると考え、新聞社に連絡をとった。
それからひと月ほどして、私が接触した。ひろ子さんの真面目そうな態度と疲れのにじんだ表情が印象的だと私は思った。

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