2020.10.27
報告書がイマイチな人はメモのコツを知らない|表現力ではなく「素材」をどう見つけるかだ
人間は忘れる生き物。その文章を誰に読ませたいかを考えて、素材となるメモを残しておこう(写真:metamorworks/PIXTA)
文章を書く仕事でフリーランスになって26年になるが、私の社会人のキャリアのスタートは、アパレルメーカーの営業職だった。当時は文章を書くことが苦手で、まさか将来、自分が書くことで生きていくことになるとは、まったく想像もしていなかった。
営業経験はわずか1年半だったが、静岡や山梨のショップを担当し、お店巡りをしていた。出張が多く、会社に出るのは金曜だけという週もあり、ここで求められたのが、営業日報だった。これに苦戦した。何を書いていいのか、わからなかったのである。
「営業の仕事は好きだが、帰社してから営業日報を書くのが苦痛だ」という声はよく耳にする。今はリモートワークの拡大で、上司が目の前にいる機会が減り、自宅でどんな仕事をしたのか、毎日のように日報にして報告しなければならなくなった人も増えたはずだ。
上司にすれば、部下がどんなふうに仕事をしているのかが見えない。だから、これまで外回りの営業は日報が求められてきたわけだが、これが他の職種にも広がってきているのである。
文章を書くにもメモは重要な役割を果たす
私自身がなぜ、営業日報が苦手だったか。書く仕事をするようになって振り返ってみると、その理由がよくわかる。営業中、何をしていたのかについて、まったくメモを取っていなかったからだ。それなのに会社に戻ってから、日報を書こうとしていた。これでは、書けないはずである。拙著『メモ活』でも詳しく解説しているが、文章を書くにもメモは重要な役割を果たすのである。
営業日報の場合も、営業を終えて会社に戻り、「今日は何をしていたんだっけかな?」と振り返っても、そうそう思い出せない。「わずか数時間前のことなのに……」という経験は、多くの人にあるのではないか。
忘れてはいけないのは、「そもそも人間は忘れる生き物」だということだ。メモを取っていないと忘れてしまう。だから、「書くことがない」という事態に陥る。営業日報でも業務日報でも、必要なことは、その都度メモを取っておくことなのだ。
「朝から1日、どんなことをしていたか」
「お客さまとどんな会話を交わしたか」
「どんなふうに仕事を進めたのか」
「どんな成果物があり、どんな課題をつかんだか」
「次にどんなアクションを起こすか」
営業でもリモートワークでも、朝からこういうことをちゃんとメモしておく。面倒に思えるかもしれないが、これをやっていないと、いざ日報を書く段階になって、困るのだ。頭をひねって思い出さねばならなくなるからである。
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そうはいっても何を書いていいかわからない、という人は「日報は誰が読むのか」という「読み手」に頭を巡らせるとイメージがしやすい。
日報を読むのは、多くの場合で上司だ。つまり、上司が知りたいに違いない、と思えることをメモしておけばいい。上司に1日を報告するなら、何をするか。その日の仕事について知りたいであろうことをメモしておく。営業なら、訪問先、商談の内容、進捗状況、課題、解決法、起こしたアクションなどだろう。
文章は素材=事実、数字、エピソードでできている
そして日報といっても、つらつらと文章を書かなければいけないわけではない。必要なのは、上司が状況を理解できること。そのための「素材」があればいい。重要なのは日報の文章ではなく、「素材」=「事実」「数字」「エピソード(コメント)」なのである。
実は、私が苦手だった文章が書けるようになったのは、文章が「素材」からできている、ということに気づいたからだ。とりわけビジネス文書なら、求められているのは文章力や表現ではない。実は中身そのものなのである。それをこそ、読み手は知りたいのだ。それを書けばいいのである。
むしろ、表現などしないほうがいい。例えば、典型的なのが形容詞だ。気の利いた形容詞を見つけようと文章に悩む人がいるが、むしろ逆である。
私の書くキャリアのスタートは、リクルートでの採用広告のコピーライターだったが、新人が必ずやってしまうコピーがあった。「当社はいい会社です」である。
いい会社という形容をしようと、「立派な」「素敵な」などと頭を巡らせるわけだが、実はこれではまったく伝わらない。そんなことより、「この5年、社員は1人も辞めていない」「10年間、右肩上がりに成長している」「社長が誕生日にプレゼントをくれる」「社員のAさんは3年で課長に昇進した」と書いたほうが、よほど伝わる。
これこそが、「素材」=「事実」「数字」「エピソード(コメント)」である。「素材」がただ並んでいるだけでも、読み手は十分に理解できるのである。
だから日報であれば、上司が求めてくるであろう「素材」をメモしておく。お客さまを訪問したら、アポイントを終えたすぐあとに、簡単でかまわないので、「事実」「数字」「エピソード(コメント)」をメモする。
感じたことの報告も加えておいたほうがいい、と考えたなら「お客さまはこんな印象だった」「こうしたほうがいいと感じた」などの感想もメモしておく。そうすることで、営業活動で何が起きているかについて、上司の理解はより深まる。
リモートワークであれば、区切りのいいところで、進捗をメモしておく。何をしていたか。どんな課題に向き合っていたか。どんな成果を生み出せたのか。「事実」「数字」「エピソード(コメント)」を意識する。
実は最初から日報を書かなければいけないと認識していれば、メモに意識が向かうようになる。上司に報告するための「素材」へのアンテナが、自然に立つようになる。そしてメモさえあれば、あとで日報を書くことに苦しむことはない。
「素材」に目を向け、メモをしっかり書いておけば、実は長い文章にも困らない。それなりのボリュームのレポート提出を求められると憂鬱になるという声もよく耳にするが、2000文字、3000文字のレポートも怖くない。
出張レポートが憂鬱になるのは、取っておくべき「素材」のメモを取っていないからである。日報と同じように、会社に戻ってからあれこれと思い出そうとしても、そうそうできるものではない。人間は忘れる生き物。現地でしっかりメモを取っておくことが大切になるのだ。
書く「目的」と「読み手」を確認しておこう
では、何をメモするのか。まずは出張レポートの「目的」、そして「読み手」を確認しておきたい。レポートといっても、さまざまな「目的」がある。例えば、部内の情報共有。あるいは上司の現状把握。社長視察の事前レポート。役員会議で使用する報告書。取引先に提出する資料などなど。
「読み手」も、同僚、上司、役員、社長、取引先など、さまざまに考えられる。役員が読むのに、同僚が読むものだと勘違いして出張レポートを書いたら、困ったことになってしまいかねない。
「目的」と「読み手」をしっかり確認しておけば、必要な「素材」に意識が向かう。どんなことを「素材」として集め、メモしてこないといけないか、イメージできるようになる。
例えば、「目的」が出張先の取引先の状況把握、「読み手」は上司だったとする。端的にいえば、上司である課長に出張先の現状報告をする、ということ。
となれば、まずは課長が何を知りたいのか、確認する必要がある。「目的」をしっかり確認したうえで、ウェブサイトなどで、相手先の情報を調べておき、取引先の何をチェックしておかなければいけないのか、事前にリストを作っておく。
長い文章を書く際の「素材」を集める方法のひとつに、現地でのヒアリングがある。私は企業の訪問レポートなどを雑誌やウェブの仕事で書くこともあるが、まさにやっているのが、これだ。取材やインタビューによって、「素材」を獲得し、それを基に文章を作っていくのである。
資料やパンフレットなどもあるが、誰でも手に入る資料やパンフレットを基に書いていたのでは、わざわざ出張した意味がない。そこで、現地で聞いた話を「素材」にするのである。
ここでも必ずやらないといけないのが、メモを取ることだ。これが、会社に戻ってからレポートを書くときの文章の「素材」になる。
「見たこと」もメモして「読み手」に追体験を
もうひとつ、大事な「素材」になるのが、「見たこと」だ。「聞いたこと」だけでなく、「見たこと」もしっかりメモしておくことで、出張レポートに大いに生きる。
出張のレポートで書き手が目指したいのは、「読み手」が出張を追体験できることだと私は考えている。書き手が「おお、すごい」と思ったことを、どれだけ「読み手」にも思わせられるか。まさに、形容詞を使わずに「素材」で示したいのだ。
このとき「見たこと」が活用できる。実際、出張先を訪れたら、たくさんのものを見る。職場の雰囲気を象徴するものは何か。どのくらいの人が働いているか。平均年齢はどのくらいか。会議室や応接室には何が置かれているか。案内してくれた人はどんな印象だったか。担当者はいくつくらいか。好印象が持てたか……。
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元気な会社には、象徴的なシーンがあるものだ。すぐに立ち上がって全員が挨拶をしてくれた。電話が次々に鳴り響いていた。オフィスのあちこちで社員同士が楽しく語り合っていた……。
出張に行けば、いろんなものを見る。しかし、それは知らない間に忘れ去られてしまう。だから、「見たこと」のメモを取るのである。できる限りたくさんメモをしておく。
「見たこと」をそのまま「素材」としてレポートに盛り込めば、臨場感をグッと高めることができる。「文章が書ける」と思われている人は、実はこういうことをやっているのである。表現力などではない。「素材」を見つけ、メモしてくる力のほうが、よほど重要なのだ。
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提供元:報告書がイマイチな人はメモのコツを知らない|東洋経済オンライン