2020.10.13
運動嫌いな人に知ってほしい「習慣」にするコツ|やせたり体型維持のために始めるのは間違い
運動嫌いを克服し、習慣にするにはどうしたらいいのだろうか(写真:Pangaea/PIXTA)
ランニングでも散歩でもダンスでも、週3回体を動かすことを6週間続ければ運動嫌いでも習慣になる──。定期的な運動の効用は健康増進にとどまらず、うつ病を抑制したり、レジリエンスを鍛えたりと、人生の満足度を高めるという。『スタンフォード式人生を変える運動の科学』を書いた心理学者のケリー・マクゴニガル氏に聞いた。
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「運動嫌い」になる理由
──普段どれくらい体を動かしているのですか。
コロナ前はスタンフォード大学まで1日2回歩いて通っていたので、それだけで数時間。さらに数時間エクササイズを教えていました。今は、運動時間はだいぶ減って、1日2回、計2時間程度です。
これが標準というわけではありません。私の場合、運動が日々の喜びであり、精神を安定させてくれます。本を読むのも好きで毎日数時間読んでいて、どちらも生活の一部として定着しています。
──時間の捻出が大変そうです。
運動は睡眠と同じように必要なもので、テレビを余計に1時間見るくらいなら運動するし、運動を前提に1日の予定が成り立っています。もちろん、誰もがそうすべきだとは思いません。ただ3~4分の曲に合わせてヨガをしたり、踊ったりならできるでしょう?
運動をするのであれば、いつもより1時間早起きをしてするほうがその後の活動にポジティブな影響を与えることが科学的にも実証されています。1時間となると面倒くささが先立つけれど、活動と活動の間に3分でもいいから体を動かすようにするといいでしょう。
──運動が嫌い、苦手という人は少なくありません。
嫌いになる理由はいくつかあります。1つは運動がダイエットや体形維持と結び付いている場合。「やらないとやせない」といった考えに支配されていると、運動で自由さや楽しさを感じたり、自己表現をしたりしにくくなります。
体育の授業がトラウマになっていることもある。男子なのに運動が苦手だとバカにされたとか、運動のテストで不合格だったとかいう体験が、運動には向いていないという発想につながってしまう。
自分に合った運動に巡り合っていない可能性もある。今回、多くの人に取材しましたが、運動嫌いだったのに60代で始めたウォーキングが楽しくて仕方ないという人や、中年になってボートこぎにはまったという女性もいました。
体を動かすことにまったく喜びを感じないという人はいないと思います。運動とはいえなくても、自然を感じられる場所で散歩するのが好き、音楽がかかると体が自然と動くという人は多いのでは。
一定時間費やすと「楽しい」と感じるように
──やっと始めても三日坊主ということも。
脳に特定の体の動きを「好き」だと認識させるには、平均で6週間ほど続ける必要があります。最初は続けるのがつらいランニングも、しばらくすると多くのランナーが「楽しい」と感じる。ランニングに一定の時間を投資したことを脳が認識し、ランニング経験に対する認識が変わるからです。
──続けるにはコミットメント(意欲)が必要ですか。
「人生の目標」的でなくていいが、より活力を得たい、不安に対処する力をつけたいなど、「その運動を通じて何を得たいのか」という一定のゴールは必要でしょう。
運動によってどんな感情を得たいかも重要。私は先頃、ボディーコンバットというボクシングなどさまざまな格闘技を組み合わせた運動を教える資格を取りました。今の自分は心を落ち着けるより、強くパワフルであるという気分を得たいのだと思います。
Kelly McGonigal/米スタンフォード大学で博士号(健康心理学)取得。健康心理学者としてスタンフォード大学で講師を務めるほか、心理学や神経科学などの知見を用いて心身の健康や人間関係向上などに役立つ戦略提案をしている。ダンスやヨガの指導者でもある。(撮影:梅谷秀司)
ランニングなら「5キロメートル走れるようになる」、ヨガなら「頭で立てるようになる」など、マイルストーンになるような目標もあったほうがいい。「1日20分、週3回運動をする」のはゴールではなく、ゴールへたどり着くための戦略にすぎません。
──運動でどんな「Joy(喜び)」を感じるかが継続のカギとも。
喜びの意味は1つではないし、幸福感や恍惚(こうこつ)感、興奮を覚える必要もない。力強さや我慢強さ、集中力の向上、精神的な落ち着きなど喜びの感じ方もいろいろあります。
──ダンスなど人と一緒の動きをすれば連帯感が生まれるということですが、これは企業などで活用できそうですね。
実際、世界各国でさまざまな例があります。私も大企業の研修に招かれてフラッシュモブなどのダンスを教えることがあるけれど、重要なのは「やらされる」のではなく、自ら選択して参加すること。そういう参加者が集まれば、連帯感はより強まります。
どういうエクササイズを選ぶかによって、チーム内に生まれる感情も異なります。「アドベンチャーレース」のようにチームで障害などを乗り越える研修は、困難な課題にともに立ち向かうという参加者間の感情を醸成し、連帯感を強める効果がある。
ちなみに、医療従事者に最も効果があるのはダンス。人の不幸や痛みに向き合うことも多いので、喜びという感情が必要だからです。医師や看護師向けにダンスの研修を行うと、仕事やお互いへのコミットメントが高まるのがわかる。
音楽好きは運動好きなのか
──音楽が運動にもたらす効果も語られています。音楽好きの人は、実は運動も好き、ということですか。
そう質問されるのは初めてだけれど……例えば、エモーショナル・ロックなど悲しみたいがために音楽を聞く人もいるので、すべての人がそうとは言えませんが、音楽はドラムにしても、歌にしても、ほかの楽器にしても体を動かす要素があることを考えると、その仮定は間違っていないと言えます。
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自分の好きな音楽を聞いたときについ体が動いてしまう、好きなアーティストが音楽に合わせて踊っているのを見て自分を重ね合わせる、踊るまでしなくてもウォーキングするときに音楽を聞いているという人は少なくないのでは。最近私が読んだ研究によると、好きな音楽に合わせて体を動かすと、その曲をより好きになる効果があるようです。
──うつ病や薬物依存など強いストレスを経験した人は、100キロメートル走、24時間走といったウルトラマラソンのような極度にきつい運動を好む傾向があるのですね。
正直、私自身エクストリームスポーツの激しさに気押され、本書のおいてこの章を書くのがいちばん大変でした。
1つわかったのは、耐久レースや極度に激しいスポーツは、ストレスやつらい経験と自分との関係性を変える役割を果たす可能性があるということ。この件を研究して、今ではスポーツにおける激しい動きは、体を動かすことによるすべてのメリットを増進させると信じるようになりました。極度のストレスや困難を経験した人の脳が、それに見合う水準の経験を感じるには激しさが必要なのです。
取材では、不可能だと思われることを成し遂げて人生の困難に対する見方が変わった、という話も多くの人から聞きました。ウルトラマラソンでは、慣れ親しんだ環境から自らを隔絶し、ひたすら不安と向き合わないといけない。参加者の中には、ウルトラマラソンの戦略を人生でも活用しているという人が多くいました。
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提供元:運動嫌いな人に知ってほしい「習慣」にするコツ|東洋経済オンライン