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2020.09.03

テレワーク中の指導がついパワハラになる理由|会社への不平不満が生まれる職場のカラクリ


「社員のため」の施策が逆に不平不満を生み、社員の満足度を下げてしまうことがある(写真:metamorworks/PIXTA)

「社員のため」の施策が逆に不平不満を生み、社員の満足度を下げてしまうことがある(写真:metamorworks/PIXTA)

新型コロナウイルスの影響により、テレワークや時差出勤といったさまざまな施策が講じられる中、「目先の利益よりも社員の心身の安全を優先する」といったスタンスを示そうとする企業も増えてきました。しかし、会社側の思惑とは裏腹に、これら「社員のため」の施策がかえって不平不満を生み、社員満足度を下げてしまうこともあると言います。
社員のためを思って導入した施策が、なぜ空振りに終わるのか? MBA・経営コンサルタント・産業医として組織の問題に取り組む上村紀夫氏の著書『「辞める人・ぶら下がる人・潰れる人」さて、どうする?』を一部抜粋し、再構成のうえお届けします。

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「会社に何を求めるか」は刻々と変化していく

「仕事の量や時間は、これぐらいがちょうどいい」「職場環境は静かで集中できるほうがいい」「雑談が多くて和気あいあいとした職場環境がいい」社員が仕事をするうえで会社に求めるもの、働く理由、大切にしたいことなどの価値観を「労働価値」と言います。

労働価値はつねに変化していきます。スピードが速く、いつ何が起きるかわからない現代において、日本社会のみならず世界を視野に入れたときには、とくに意識が必要です。会社側は注意深く現状を把握していかなければ、間違った施策の選択につながりかねません。労働価値の変化の仕方には、マクロシフトとミクロシフトの2種類があります。

●マクロシフト:社会情勢によって起こる大きな労働価値の変化

●ミクロシフト:個人の局所的要因による労働価値の変化

マクロシフトは、社会情勢による大きな労働価値の変化です。労働人口減少、産業シフト、外国人労働者、働き方改革、AIやRPAなどが要因となります。会社側の要因として、日本型家族的経営の減少、在宅勤務導入などもあるでしょう。そのほかバブル、リーマンショック、就職氷河期など、時代の変化が影響してきます。

加えて、生活スタイル要因として核家族化、少子化といった日常の変化があります。現在は新型コロナウイルスの流行、それがもたらしたさまざまな社会情勢・働き方・生活様式等の変化がマクロシフトを起こしていると言えます。

ミクロシフトは、個人の局所的要因による労働価値の変化です。例えば、その人のキャリア段階によって労働価値も変わります。新入社員のうちは「成長」や「学習できる機会」を重視していたが、ある程度仕事が回せるようになってくると「成果」や「給与」などへの欲求が高まる。さらにマネジャーになると、自分の成長や報酬への欲求は一段落し、「育成」「働きやすい環境」を重視するようになる……といった変化は比較的多く見られます。

労働価値は、本人の健康状態、身体的・精神的コンディション、生活環境によっても変化していきます。結婚・出産・育児・介護などにより、仕事とプライベートの重要比率に変化が生じ、それまで「成長」を求めていた社員が「働きやすい環境」を求めるようになる、などが顕著な例です。

このように、同じ人でも、状況の変化によって労働価値が大きくシフトしていくことがあります。その人自体が変わっているのではなく、状況によって大切にしたいもの、求めるものが自然に変わっていくのです。

だからこそ、会社側が社員の価値観を簡単に決めつけ、施策を行うことは危険です。人それぞれ労働価値が異なり、しかも変化するという前提を把握せず、施策ばかりを追いかけると空振りするというのはこういった理由があります。

細かすぎる指導がパワハラになることも

では、マクロシフト・ミクロシフトによっていつの間にか拡大していた、社員が求めるものと会社が与えられるレベルの“差”を埋めるには、どうすればいいのでしょうか?このギャップによって発生してしまった不平不満といったマイナス感情への解決策について、テレワーク下でのよくあるケーススタディーを用いて考えてみましょう。

ケーススタディー

限度を超えるとただの窮屈―マイクロマネジメントによるマイナス感情の蓄積― 企画職・Bさん(27歳女性)

2カ月前に企画部に異動。自分で考えて働ける“自主性”があるタイプ、Bにとって企画職ははじめての経験。部下の仕事を細かく見ている、ということで社内でも評判の上司Zの下で働くことになった。

Zは評判どおりで、部下からの報告をしっかりと聞いたうえで具体的な指示を出してくれるため、やるべきことが明確になり、Bは働きやすくなったと感じていた。が、コロナウイルスの影響でテレワークが始まると、Zの指示がさらに細かくなっていった。

Bは次第に業務や報告内容を細かく決められることが精神的圧迫になり、働きづらさを自覚するようになった。それが半年ほど続き、仕事のやる気が低下。気持ちの落ち込みも自覚するようになり、「干渉が行きすぎている。これはパワハラじゃないか?」と思うようになった。

ケースの解説

業務指示をしっかりとできる上司は素晴らしいのですが、その指導・監督が細かすぎることをマイクロマネジメントと言います。このスタイルのマネジメントが必ずしもダメだというわけではありません。「業務指示が明確で動きやすい」とプラスに評価されることもあります。

しかしマイクロマネジメントは、時間の経過に伴って、多くの部下にとって悪い影響も与えていくようになります。つねに上司の目を意識し、「何を言われるのか」とビクビクしながら仕事を進めていくような状態がストレスとなります。

次第に、「自分の意見は関係なく、言われたことを忠実にやらなくてはいけない」と感じ、自身の考えを持たず、機械のように業務をこなさなくてはいけない状況に陥ります。中にはこの段階でメンタルダウンになることもあります。

こうして「働きづらさ」が増していくと、「あの上司は嫌いだ」と公言するなど、上司との人間関係は悪化し、中にはマイクロマネジメントをされていることについて「パワハラを受けている」と言う社員すら出てきます。結果、やる気の低下や離職が起こります。

「マネジメントの3要素」から考えるパワハラ防止対策

ケースの対策

このケースでの対策を考える際には「マネジメントの3要素」の理解が重要となります。マネジメントに関する理論はこれまでたくさん発表されていますが、私はマネジメントを3つの要素に分けることをおすすめしています。

(1)業務管理:目標設定や業務計画・業務指示・進捗管理などが入ります。多くの人が考える「マネジメント」のほとんどがここに含まれていると想定されます。マイクロマネジメントはこの業務管理における1つの型となります。

(2)評価:部下の評価を行い、それを伝えることもマネジメントの1つです。

(3)精神的サポート:このところ注目されているのが精神的サポートです。メンタルヘルスに関するラインケアはもちろんのこと、キャリアサポートや、昨今多くの会社で取り入れられている「1on1(ワン・オン・ワン)ミーティング」も含まれます。

会社側の対策

業務管理の1つの型であるマイクロマネジメント。これによるマイナス感情の蓄積を回避するためには、①業務管理の型を変えるか、③精神的サポートを増やすか、2つの方法があることがわかります。

後者では、精神的サポートについての実践的な管理職教育や1on1ミーティングの導入を検討していくことになります。1on1ミーティングは、上司と部下が1対1で面談し、表面的ではない信頼関係を築くことで、失敗も含め自然体の自分を見せられる「心理的安全性」を部下に与え、成長を促すことを目的として行います。

これをマイクロマネジメントが起こっている現場だけに使うのではなく、全社的に活用することで、自発的に考えて動く社員がたくさんいる「活気ある組織」に近づきます。

管理職側 の対策

マネジメントにおいて最も大切に思ってもらいたいこと、それは「部下の感情に関心を持つこと」です。管理職の方は、部下の業務と精神状態の両面をサポートする役割を自身が持っていることを再認識し、1on1ミーティングなどで部下との関係構築に臨んでみてください。

環境・労働価値の変化に伴う部下の感情を考慮した際に、マイクロマネジメントが適切なマネジメント方法ではないと感じた場合には、マネジメント方法の見直しが必要となります。

「働きやすさ」を手にする相談の4視点

本人側の対策

本人側からも、マイクロマネジメントの状況下であっても何かできることがあるはずです。例えば、報連相の強化、特に「相談」を強化していくことを意識することをおすすめします。

報連相では、結果の報告や進捗状況の連絡も重要ですが、最も大切なのは「相談」です。自分で考えることを放棄せず、業務の改善を提案・相談するよう心掛けていけば、一方的に指示を受けるだけではなく、自身も業務の推進に積極的に関与できるチャンスが生まれることがあります。なお、相談の際には必ず次の4つを、それぞれ明確に分けて伝えることが大切です。

●何が起きているか(事実の報告)

●どうしてそうなっているのか(自分なりの分析)

●自分はこうしようと思う(対応法の提案)

●今してほしいことを伝え、意見を聞く(何をしてほしいのかを伝える)

自力で何ができるのか、その探求を放棄してしまうと、「働きがい」や「働きやすさ」を手に入れられる可能性は一気に下がってしまいますし、その逆もしかりです。

『「辞める人・ぶら下がる人・潰れる人」さて、どうする?』

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テレワークの推進といった、社員のための「働き方改革」に着手しても、社員の労働価値と離れた施策を講じてしまうことで、空振りどころか逆効果になるという事態が往々にして起こっています。会社と社員との心のギャップを広げないために、労働価値にはマクロシフト・ミクロシフトが起こることを前提に施策を考えていきましょう。

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提供元:テレワーク中の指導がついパワハラになる理由|東洋経済オンライン

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