2020.08.03
「職場内クラスター」発生を防ぐ合理的方策| 専門家委員会のメンバーによる警鐘と提言
「職場内クラスター」を発生させないためには?(写真:takasuu/iStock)
今年の3~5月にかけての新型コロナウイルスの流行においては、緊急事態宣言という大きなカードを切ることにはなりましたが、多くの企業や個人の努力により、国内での感染者数を一旦は抑え込むことに成功しました。しかし、今は再び感染者が増えている状況にあります。
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最近さかんに報道されているように、接待を伴う飲食、懇親会、パーティーなど、いわゆる3密+α(飲酒や食事、声を出す場所)が、(見える範囲での)感染の中心となっています。
また、東京での大きなイベントの開催におけるクラスターの発生は、地方にも波及しており、体制が脆弱な場所ではさまざまな影響を受けているのではないかと大変危惧しています。すなわち、家庭内、医療機関、高齢者施設において感染が徐々に広がりつつあるのではないかということです。
私は、この感染症との付き合いは長期にわたると考えています。『企業のための新型コロナウイルス対策マニュアル』でご紹介した対策をベースに、今、われわれが心がけるべきことを提言いたします。
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「職場内クラスター」を発生させないために
企業においては、職場内での集団感染(クラスター)の発生を予防したいと強く思われていることでしょう。企業における感染対策では、従業員が「特定の多数」と接するのか、「不特定の多数」と接するのかで大きく変わります。
多くの職場は「特定できる多数の人」と接する環境にあると思われます。そういうところで最も留意するべきことは、「体調の悪い人には出勤を控えさせる」ということです。これは本当に徹底しなくてはいけません。このご時世に、発熱や咳があったのに出勤させて、その後感染が広がったとなると、企業のイメージにも大きな影響を与えます。
「体調の悪い人」とは、具体的には、「(1)発熱、(2)咳、(3)喉の痛み、(4)下痢」といった症状がある人のことを指します。これらは、ウイルスを排出している可能性が高い症状だからです。こうした症状がある人は、ぜひ休んでいただきたい。ここに頭痛や倦怠感などが入ると他の病気の可能性もあるかもしれないので難しいところですが、上記4つの症状がある人は最低限休ませるように徹底するべきです。
また、嗅覚・味覚障害は新型コロナウイルスの感染では1割程度に出るとされています。この症状は「感染している可能性が高いサイン」だと言われていますので、症状があれば休んだほうがいいでしょう。
前日にこれらの症状があって、朝起きたら回復していたとしても、最低24時間以上、できれば48時間は症状が再び出ないかを確実に確認する必要があります。熱が上がったり下がったりすることがよくあるようです。
これまでにクラスターが発生した職場というのは、発熱などの症状があるにもかかわらず出勤する人がいた、というケースを始め、コールセンターのように多くの人が声を出していた、集まって朝礼などをやっていた、休憩室が狭くて人が密になっていた、懇親会を行ったという環境にあったようです。ですから、こうしたところをしっかりと対策をしていくだけでも職場内クラスター発生の予防ができます。
また、空気中に飛沫よりも小さな粒子がしばらく浮遊して、それを吸い込むことによる感染形式があり、話題となっています。これは「エアロゾル感染」「マイクロ飛沫感染」と暫定的に呼んでいるものです。「飛沫感染」と「空気感染」の中間くらいのイメージです。
これは換気をすることで感染リスクを抑えられるのですが、オフィスビルは窓が開かないことも多く、設備導入などの費用もかかってしまいます。大声を出すような職場でマスクをしないような人がいれば窓を開ける換気も必要ですが、通常は機械換気を用いることで十分だと考えています(もちろんメンテナンスなどはされていることが前提ですが)。
さらに注意してほしいのは、地域での感染状況です。過去1週間に感染者がまったく出ていない地域と、東京などのように一定数出ている地域では、かぜ症状のある人の処置も含め、さまざまな対応法が変わってきます。感染がみられる地域では、体調不良がある人は必ず休むように、何度でも徹底することが大切です。
これまでも多くの企業のガイドラインを見てきましたが、大きな会社だと、東京で作った基準をそのほかの地域に転用しているため、全体的に地方で、特に感染者が少ないところではやや厳しくなっているようにも思います。職場の消毒などは、行うとなると非常に大変です。実際に流行がみられる地域では対策を強めるというような、その地域の状況に合わせた対応の仕方が望ましいと思います。
従業員に対する検査について
今、社会経済活動を維持するために、企業でPCR検査や抗原検査をどんどん実施していくべきなのではないかと考える人がたくさんおられるようです。無症状の従業員にも検査をしろと言っている人は、自分が陰性だと思っているのかもしれませんが、陽性の場合、指定感染症ですから入院になってしまいます。
入院しないまでも、一定期間、ホテル療養や自宅療養になります。ですから、現実問題として従業員全員に「検査をしろ」とは言えないのです。
PCR検査をしてウイルス量を見れば、たくさんウイルスを持っている人とそうでない人がわかります。そこで入院すべきかどうかを線引きすることも検討されています。しかし、無症状ですから、これからウイルス量が増えて発症するのか、それともすでに発症して治りつつあるのかわかりません。ですので、やはり今は入院ということになっています。
こうしたことからも、検査はあくまで個人の自由意志によって行われるものであり、結果自体も(企業がお金を出した検査だとしても)、あくまで個人のものであることに注意が必要です。同意なく企業が結果を取得した場合には、個人情報保護の観点から問題になりえますので注意が必要です。
「出社の可否」は症状の有無で判断を
検査で陰性だったとしても、採取した検体にウイルスが付着していなかったという以上の証明にはならず、持続的な陰性証明にはなりません。精度の低さもあり、流行していない時期に検査をすれば、間違った結果が出る可能性も高くなります。私は、検査結果で出社の可否を判断するよりも、症状の有無を確認して、症状がある場合は休む。地域の流行があるときには、感染対策を徹底するということのほうが合理的ではないかと考えます。
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すでに感染したかどうかを確認する「抗体検査」も企業活動に取り入れる動きがあります。しかし、こちらも精度に課題がありますし、抗体が確認されたからといって、その後再び感染しないということは確かめられていません。今の段階では、特段の意義を見出せませんので、私としてはおすすめしていません。
最後に、ウイルスをしっかり除去する、衛生的手洗い手順を用意したので、ご活用いただければと思います。
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なお、この原稿は2020年7月16日にまとめました。
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提供元:「職場内クラスター」発生を防ぐ合理的方策|東洋経済オンライン