2019.04.04
社会人力を一段上げる「通勤電車のしごと術」│行き帰りを有効に使わないのはもったいない
通勤時間の有効活用で社会人生活の充実度が違ってくる (写真:EKAKI/PIXTA)
新入社員として、異動になって、あるいは転職して――。4月から新しい職場に通い始めた若手社員の方は多いだろう。
業界や職種や勤務地はもちろんそれぞれ違うはず。ただし、多くの皆さんに共通していることが1つだけありそうだ。それは「朝、通勤電車や通勤バスに乗る必要がある」ことだ。
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もちろん「俺は自動車通勤だ」「私は自転車通勤派よ」、果ては「リモートワークですが何か?」という方もいるだろう。しかし都心部で会社勤めをしているならば、ほとんどが通勤ラッシュの時間帯を中心に電車で通っているはずだ。
一方で、慣れない新しい職場。「時間がいくらあっても足りない」と感じる方も多いはずだ。しかも「仕事は効率的にスピーディに終わらせ、残業しないで帰れ」が、今や社会の合言葉だ。
通勤時間をムダにしない
そこで「通勤電車の有効活用」である。
「通勤時間なんて、たいした時間じゃないだろ」と侮るなかれ。総務省統計局の「社会生活基本調査」(平成28年実施・最新版)によると、日本人の1日の平均通勤・通学時間は1時間19分。仮に電車・バス通勤だったとして1年間分(土日祝日や年末年始を除く平日)の通勤日数を計算すると、250日程度になる。250日×1時間19分で計算すると、約330時間にも及ぶ。
およそ14日分に相当するのだ。これをどう過ごすかで仕事の達成度も人生の充実度も変わりそうな気がしてくる。
そこで『通勤どこでも仕事術』著者で、ビジネス書作家の美崎栄一郎さんに取材。さらに通勤電車を有効活用している先輩ビジネスパーソンのコメントも加えて、「通勤電車のしごと術」を紹介していく。ぜひ通勤途中に読んでいただきたい。
あの野村克也監督は現役時代、「試合を1日3回」したという。
まずは試合する直前のロッカールームで、対戦チームの一人ひとりを頭に思い浮かべながらどんな配球をするかイメージトレーニング(1試合目)。イメトレをもとに実際の試合に臨む(2試合目)。そして試合後、家に帰ってからひとり試合を振り返って反省し、次に活かした(3試合目)というわけだ。そうした入念なイメトレの結果、配球の精度は高まった。万が一の不測の事態にも冷静に対処できた、というわけだ。
ノムさんを、まねたい。
朝、通勤電車に乗ったと同時に、脳のスイッチを「イメトレ」モードに切り替える。今日1日やることのスケジュールを、頭の中で確認しながら、シミュレーションしておくわけだ(1試合目)。
『今日は朝から、昨日言われていた資料をすべてそろえておこう。何か足りないものはないかな』『U社への見積もりも昼までには終わらせたいな。あそこの価格はどうするか』『午後の課のミーティングは、何を意見するのがいいのだろう』……といった具合だ。
今日の仕事を通勤途中にイメージする
こうして事前にイメトレをしておけば、会社のデスクに座った直後、すぐさま仕事にとりかかれる(2試合目)。席に着いてから「さて、何をやるんだっけ」などと始める人に比べ、鮮やかなスタートダッシュが決められる。
さらに帰りの電車の中で、今日の仕事の振り返り(3試合目)をすれば、小さなPDCAを回すことになるから、仕事の精度も上がってくるに違いない。先輩ビジネスパーソンからも、
「とくに会議がある日は、事前にどんな議論をどのように進めるか、朝の通勤電車で考えておくことが多い」(商社勤務・46歳)
「朝の電車内ではあえてPCやスマホは見ない。むしろモニターから離れて考えると、しっかりとフルにアタマを使える気がして、自分には合っている」(IT・39歳)
という声があった。加えて、美崎さんは「朝のラッシュの時間帯に電車に乗らざるをえない人には、とくにイメトレがおすすめ」と推す。
「とくに東京の通勤ラッシュは尋常じゃない込み具合。スマホを取り出してのぞくのも大変ですからね。どんな状況でもアタマの中だけで完結するシミュレーションのような作業をするのがベストですよ」(美崎さん)
朝は混雑でスマホや雑誌を広げるのは難しくとも、帰宅時ははるかにまし。SNSやネットニュースのチェック、あるいは読書などのインプットは、帰りの通勤電車で行うのがベターなようだ。
「仕事が終わった後で、脳が少しリラックスした状態のほうが情報は入ってきやすいと感じています。オンからオフに向かう切り替えの意味でも朝の通勤時とは違う作業をするほうがいい」(美崎さん)
美崎さんを、まねたい。
ちなみに美崎さんが通勤電車内で活用するインプットツールはiPad mini。幅広い情報はツイッターなどのSNSで信頼度の高いニュースサイトやメディア系のアカウントをフォローしてチェック。また、深掘りしたい内容や、気分転換の小説などは電子書籍で読んでいるという。さらにオススメのインプット法が、「Google アラート」だ。
言うまでもなく、GoogleアラートはGoogleのサービスの1つ。自分の興味のある情報に関わるキーワードを事前に登録しておけば、Web上でそのキーワードを含むサイトがアップされたときに、メールやRSSフィードに通知される仕組みだ。
例えば「インバウンド」「訪日外国人観光客」「SDGs」など、仕事に関連してつねに最新情報を押さえておきたいキーワードを登録しておく。そうすれば、GoogleニュースのサイトやGoogle検索の上位に上がった信頼性の高いサイトの情報が、自動的に届けられるわけだ。
「Googleアラートのいいところは『配信時間』を設定できること。例えば帰宅時間、『毎日18時』と設定する。すると、ちょうど帰宅の電車内をルーチンのようにインプットの時間にすることができます。ムダに『その都度』などと設定すると、つねにアラート通知が届いて、気が散ってしまう。本来すべき仕事が遅れたら本末転倒ですよね」(美崎さん)
情報過多の今の時代、むしろインプットの内容を精査して、絞ることが大切なようだ。
電車の中を「着想」の場にする
中国の古典『帰田録』には「三上」といって、「文章を考えるのに最適なのは、馬上・枕上(ちんじょう)・厠上(しじょう)なり」という言葉がある。馬上とは馬に乗っているとき、枕上とは寝床に入っているとき、そして厠上とはトイレ(厠)に入っているとき、ということだ。
ウマくまねたい。
馬に乗っているとき(移動中)にいいアイデアが出やすいのは、小気味よいリズムによって心身がリラックスすると同時に、移動することで自動的に景色が変わる影響も大きいといわれる。視覚を通して、新鮮な情報が自ずと入ってくることで、脳が刺激されるのかもしれない。
「企画を考えるときは、机上でじっと……というよりも、通勤電車や会社まで歩いているときなどの移動中が多い。資料などを読むのはオフィスでも、アイデアを考えるのは電車内というのがクセになっています」(IT・33歳)という声もあった。
電車内でアイデアを練るとき、ちょっとした思考法を試してみるのも良さそうだ。
美崎さんが実践しているのは「カラーバス」だ。事前に、例えば「赤」などの“色”をひとつ決めておきながら、通勤電車やバスに乗る。そして車窓から目に入ってきたポストや看板やスカーフなどの「赤いモノ」を意識して見つけていくわけだ。すると、普段は漫然と見ていた景色から意外な発見がまず見つかる。「あのビルのカベ、赤だったのか」とか「そういえばレストランの看板は赤系が多いな」といった具合だ。
「ポイントは、そうやって赤い色を目で追いながら、もうひとつ課題を設定しておくこと。例えば僕の場合は『次の書籍のテーマをどうするか』と設定しておく。すると、赤色で目についた、これまでなら見逃していた情報と、本のテーマとをむりやり組み合わせていくと、普通に生活していたら気づかないユニークなアイデアにたどり着くことがある。イノベーティブなアイデアって、たいてい何かと何かの組み合わせですからね」(美崎さん)
釣りのことを考える、勉強する、寝る…どれも正解
ほかにも、通勤電車内で先輩たちが実施しているスマート仕事術「ライフハック」にはこんなものがある。
「通勤時は気分をアゲるために、AK-69 など自分を鼓舞してくれるようなメッセージ性の高い音楽を聴いている。社に着いたときは、勝手にバッターボックスに立つメジャーリーガーのイメージになって、気合いが入ります(笑)」(32歳・広告)
「仕事とは直接関係ないけれど、投資情報や英会話のメルマガをスマホでチェックして、投資や英語のカンが鈍らないようにしています」(45歳・サービス)
「なるべく座って寝る。目をつむる。少しでも仕事で使うライフを充電する貴重な場になっています」(42歳・販売)
「『次はどこをどう攻めようか』『あのあたりは狙い目だな』と電車内で考えている。いや、営業戦略とかじゃなくて、週末に行く釣りのこと(笑)。そのほうが仕事のやる気も出るので」(30歳・IT)
実のところ、バラバラだし、仕事に関係ないことをしている人も多かった。もっとも、美崎さんは「それが正解。すべて正解です」と言う。
「大切なのは、通勤時間も仕事の時間も、趣味の時間も、家でリラックスしている時間も、すべて“自分の時間だ”と意識して大事に使うことです。自分の時間だから、何をしてもいいけれど、人生の時間は限られている。誰かに振り回されたり、ただ漫然と過ごしたりするのではなく、『自分は何をしたいか』と考えて大切に使うことこそが大事だと思います」(美崎さん)
早速今日から意識して、アイデアを練るなり、チョコっと寝るなり、を実践してみよう。
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提供元:社会人力を一段上げる「通勤電車のしごと術」│東洋経済オンライン